جميع فصول : الفصل -الفصل 80

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37. いやなヤツは、常にいやなヤツでいてくれよ。 Life is not a Fairy Tale.

最近幸せだな〜。アイちゃんと話せるし、アイちゃんのおかげで|イジリ《いじめ》もなくなったし!いや~こんなに学園生活が楽しくなるなんてな〜!まぁ謎に|陽炎陽炎《ようえんかげろう》様や|春日春日《かすがはるひ》に|威嚇《いかく》されることはあるけど……多分あの2人|も《・》アイちゃんのことが好きなんだろうな。 ……分かってる。不知火陽炎連合の|陽炎陽炎《ようえんかげろう》がきっとアイちゃんとはお似合いで、僕なんかはただのクラスメイトだってこと。アイちゃんは誰にでもやさしいからこんな僕にも声をかけてくれるけど。……でも、ほんとうにそれでいいのか……?わからない……。 ん……なんだ……?|人間体《アニマ》用トイレの方から声がする……。|人間体《アニマ》だってバレるからほとんど誰も使わないのに。何か、言い争ってる?……僕には関係ない、関係ない、けど。もし|人間体《アニマ》が僕みたいに虐められているなら、|獣神体《アニムス》の自分が助けないと……!じゃなきゃ|獣神体《アニムス》失格だ! ――……え? 「アイちゃん……?何をしているの……?」 ◇◆◇ 座り込む|人間体《アニマ》であろう男子生徒、辺りには彼の私物であろう物が散乱している。いや、そんなことはどうでもよくて、俺が知りたいのはそんなことじゃなくて。 「アイちゃん……なんでその人を|心《ヘルツ》てで拘束しているの?|人間体《アニマ》が|獣神体《アニムス》の|心《ヘルツ》なんかに耐えられるわけ、ないじゃないか。」 アイちゃんはとても驚いた顔で僕を見ていたが、決して拘束を解こうとはしなかった。そして、いつもの天使のような微笑みで、こう、言ったのだ。 「あら……見つかっちゃいましたね。御機嫌よう、クレくん。今、この不届きな|人間体《アニマ》をわたくしの懲罰室へ連行するところです。 ……通して、頂けますか?」 その黒い姿には聞き覚えがあった。……|人間体《アニマ》潰しだ。ちがう、
last updateآخر تحديث : 2026-02-23
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38. 人間失格 ‐ 第一の手記 Human Lost

アイはクレジェンテとの|諍《いさか》いに、心を痛めてはいたものの、はるひの家に泊まって以来初めてのお友達とのお泊まり会である、林間学校に胸を高鳴らせていた。アルタークと仲良くああだこうだと言いながら準備を楽しんでいた。もしかしたら、お友達と準備をしている時間こそが、本番より楽しいのかもしれないと、アイは思った。 ◇◆◇ 「アルちゃんアルちゃん!楽しみだね!」 「うん!アイちゃん様と初めてのお泊りだもん!」 医務室で友情を確かめあった日から、2人とも時には、砕けた口調で話すことがあった。 「でも場所がなぁ〜。もちろんここは辺境国だし、いつでも国境を接してる蛮族を警戒しないといけないから、そんなに遠くに行けないのはわかってた!ええわかっていましたともっ!……でもなぁ〜ただの山と川って!|地獄《パンドラ》の|独逸《ドイツ》かよ!」 「まぁまぁ、アルちゃん。蛮族の脅威から離れた所とはいえ、この国の中で安全な場所は、宗主国であるファンタジア王国と隣接している、東の端ぐらいしかありませんし、マンソンジュ士官学校はその性質上、蛮族との国境の近く、西の端にありますから、安全な所となると限られるのでしょう。」 「アイちゃん様……急にミルヒシュトラーセみ、出してくるじゃん……。」 「え゙っ、そんなの出てました?」 「うんうん、ミルヒシュトラーセみが深くて味わい深かったよ〜?」 「嬉しいような、ちょっとイヤなような……。……わたくしはミルヒシュトラーセ家が好きなんでしょうか?嫌いなんでしょうか?」 「急にぶっこむね?!いや、一市民としては、国が乱れるのは困るから、アイちゃん様にはミルヒシュトラーセ家を好きでいてもらいたいけれども……。アイちゃん様の|身《・》|の《・》|安《・》|全《・》の為にもね……。」 「そう、ですよね……。わたくしがこんなでは、ミルヒシュトラーセ家が内紛を起こしてるとも取られかねないです
last updateآخر تحديث : 2026-02-24
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39. 人間失格 ‐ 第二の手記 No Longer Human  

「彼らの|ほ《・》|ん《・》|と《・》|う《・》|の《・》|子《・》|ど《・》|も《・》|た《・》|ち《・》は、|皆《・》|彼《・》|ら《・》|に《・》|似《・》|て《・》、ほんとうにやさしい人々でした……。完璧な家族にあとから不純物として生まれてきたわたくしなんぞに、ほんとうにやさしくしてくださいました。彼らほどやさしい人間を、わたくしは知りません。 まず、彼らの1番目の子である、ゲアーターおにいさま。……わたくし自身も彼らをおにいさま、おねえさまと呼ぶことが、わたくしなんぞには過ぎたことだと、彼らを侮辱することだと、そう、わかっているのですが……|未《いま》だに意地汚くそう呼んでしまうのです。お話がそれましたね……。 ◇◆◇ ゲアーターおにいさまは|い《・》|つ《・》|も《・》|わ《・》|た《・》|く《・》|し《・》|と《・》|い《・》|て《・》|下《・》|さ《・》|い《・》|ま《・》|す《・》。そのことになんどこころを救われたかわかりません。わたくしが、世界に、人間に、自分の罪の影におびえていると、いつもわたくしのそばに来て、それを笑い飛ばしてくださるのです。おにいさまの背中に背負われていると、その肩越しに夕日を見ると、なんだかすべてのものから守られているような気がするのです。 ……だから足を|挫《くじ》いてもいないのに、疲れたと|嘯《うそぶ》いて、あのおおきな背中に抱きついてしまうのでした。こちらに背中を向けて|屈《かが》み込み、『しょうがないヤツだなぁ……』と言いながらも、わたくしが身体を預けるのを待っていてくださる、そのやさしさがしあわせなのでした。勢いよく抱きついて、あの背中に全身を預けるのが、しあわせなのです。 ◇◆◇ エゴおねえさま……エゴペーおねえさまは、|い《・》|つ《・》|で《・》|も《・》|わ《・》|た《・》|く《・》|し《・》|に《・》|あ《・》|た《・》|え《・》|て《・》|下《・》|さ《・》|い《・》|ま《・》|す《・》。ご自身も重い持病を|患《わずら》っておられるのに、いつもわたくしのことをしん
last updateآخر تحديث : 2026-02-25
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40.親に殴られて育った子供は、自分の大切な人を殴るようになる。 You become the man you hate the most.

「|春日春日《かすがはるひ》って……アイちゃんがこわがっている……あの?……そうか……元平民だから“平民王子様”……だもんね……。」 「ええ、そうです。わたくしは彼を彼女と呼びますが、それはわたくしと出会ったときのはるひは、まだわたくしよりもちいさな、女の子だったからです……。これは世間に|憚《はばか》る遠慮というよりも、そのほうがわたくしにとって自然だからです……。」 「そう、なんだ。今の2人からは想像もできないや……。」 アイがすこし微笑む、それは温度をもたない氷の微笑だったが。 「そうでしょうね……あの子の身体は随分と大きくなってしまって、そのこころも、わたくしにはもうわかりません。いえ、ほんとうは……ほんとうはね……一度だって理解し合えていたことがなかったんです。」 アルタークからは|俯《うつむ》いて長い髪の陰に隠れた親友の表情は分からない。 「アイちゃん……。」 ◇◆◇ 「出会ってすぐにわたくしたちは友達になりました。“すこし話して笑いあったらもう友達だ”というような子どもの……浅はかな考えでした。わたくしとはるひでは、立場も|境遇《きょうぐう》も、何もかも違ったのに……それでも友達になれると、子どもだったわたくしたちは|勘《・》|違《・》|い《・》をしてしまったのです。」 そこでアルターク何か言いたげな顔になったが、俯いて自らの世界を|狭《せば》めているアイには気がつけなかった。 「……わたくしは知らず知らずのうちに、無神経なことを言って、お金に困っていた家の子であった、彼女のこころを傷つけていたのです。ほんとうにお優しい、わたくしが出会ったなかで誰よりも愛情深く、陽だまりのような尊さをもった彼女のお母様さえ、わたくしは知らず知らずのうちに|侮辱《ぶじょく》していました。そのことに気が付きもしていなかったのです……愚かで思い上がっていたわたくしは。 あるときはるひがその心を、その|心《ヘルツ》をぶち|撒《ま》けまし
last updateآخر تحديث : 2026-02-26
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41.神は教会のなかではなく、農民の手と土の間に。 Gitanjali

――意を得たり、とばかりにアルタークが語り始める。 ◇◆◇ 「まずねまずねっ!あ゙あ゙〜言い゙たい゙ことがあ゙り゙過ぎで〜!どれから言おうか!?何から伝えようか!?迷う……!!」 「そ……そんなに……。」 「まずね……そうだね、たぶんアイちゃんが今のアイちゃんになったのには、生まれとか環境とか色々あると思う。だから、そんなに|自己卑下《じこひげ》しないで、アイちゃんにはもっと価値があるよって言っても、付け焼き刃だとおもう。だってどんな性格になるかは、生まれとか育った環境でほとんど決まると思うから。」 それに、と少し哀しい目をして、人生の真理を見つめたような眼でアルタークが続ける。 「それに、それにね。たぶん|小《・》|さ《・》|い《・》|こ《・》|ろ《・》|に《・》|親《・》|に《・》|1《・》|回《・》|言《・》|わ《・》|れ《・》|た《・》|言《・》|葉《・》のほうが、|大《・》|き《・》|く《・》|な《・》|っ《・》|て《・》|友《・》|達《・》|に《・》|1《・》|0《・》|0《・》|回《・》|言《・》|わ《・》|れ《・》|た《・》|言《・》|葉《・》よりも、|人《・》|生《・》|に《・》|ほ《・》|ん《・》|と《・》|う《・》|に《・》|お《・》|お《・》|き《・》|な《・》|重《・》|み《・》|を《・》|持《・》|つ《・》と思うんだ……。」 「分かります……自分自身を支えられるようになる前に加えられた重みは、自立したあとに|課《か》せられた重さとは違う意味を持ちますから……。」 それこそがアイが自分に自信を持てない理由だった。学校に入ってお友だちに何度『かわいいよ、綺麗だね』と言われても、ちいさな頃からおかあさまに『オマエは醜い、汚れている』と言われて育ったから……決して自分をうつくしいなどとは思えないのだった。|年輪《ねんりん》の内側に挟み込まれた言葉は、|幹《みき》の外からの言葉では決して打ち消せないのだ。 「そうだよね……|親《・》|の《・》|言《・》|葉《・》|っ《・
last updateآخر تحديث : 2026-02-27
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42.私は私が好き、だって貴女が私を好きなんだもの。 I like me, because you like me.

「まずね、かわいすぎた。天使かと思ったからね。|驚嘆《びっくり》したんだから!都会の子ってみんな天使なのかってね!?全然違ったけどね!嫌なヤツ多いし!あっうそうそみんないいひとです。これもウソだな。とにかく!かわいすぎて声かけちゃった!だから私は悪くない!全部アイちゃんが悪い!謝って!!純真な田舎者をたぶらかしてっ!」 「ご……ごめんなさい……?」 あまりの勢いにのまれてつい謝ってしまうアイ。 「それにアイちゃんはさっき全部が全部私のおかげみたいに言ったけどさ、話しかけたのは私だけどさ……ごほんっ!あ゙〜、あ〜、ん゙ん゙、よし…… 『その、わたくしと……おともだち、になってください……ませんか?きゅるんっ!』 ……て先に言ってくれたのはアイちゃんぢゃん!じゃんじゃんじゃん!……似てた?」 「いえ、まったく。2度と軽々しくテキトーにモノマネしないで下さい。」 |蔑《さげす》むように冷たい目と声で告げるアイ。 「えっ……あ、アイちゃん……?アイたそ……?」 「ふふっ!冗談ですよっ!」 「よしっ!……セーフっ!……でもね、それだけじゃないんだ。もちろん、最初のきっかけはそうだったけど。お友だちになって、話して、一緒に過ごして。あぁ、この娘はほんとうにいい子何だなぁ……って。そう思ったの。」 「……わたくしはいい子なんかじゃ――」 「――黙って!!いい子なの!分かった!?貴女の親友が言ってんだから!|自《・》|分《・》|よ《・》|り《・》|私《・》|の《・》|言《・》|葉《・》|を《・》|信《・》|用《・》|し《・》|て《・》!わかった!?返事はぁ!?」 「は……はいぃ……。」 「よし!こうでもしないとアイちゃんには伝わんないって分かってるからね!もうなりふり構わないよ!親に言われてそうなったんだったら、100回じゃ
last updateآخر تحديث : 2026-02-28
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43. 子供がこどもでいられる日常 Daily Life embraces the child.

「アルちゃんなんか知りませんっ!」 「アイちゃん様〜よしよし〜。ねっ!機嫌直してよ〜!もうアノの夜のことからかったりしないからさ〜!」 珍しく怒っているアイを見て、教室は騒然となる。というか、アイは|怒《・》|る《・》|と《・》|い《・》|う《・》|機《・》|能《・》|を《・》|ほ《・》|と《・》|ん《・》|ど《・》|喪《・》|失《・》|し《・》|て《・》|し《・》|ま《・》|っ《・》|て《・》|い《・》|る《・》ので、これはただのじゃれ合いだった。と言っても、怒った素振りを見せても相手に見捨てられることがないと確信が持てることがないので、怒ったふりをするのも、極めて特異なことで、アルタークをそれほど信頼している|証《あかし》だった。 だからアルタークは、仲良くなって少しずつ、アイが自分に対して、仔猫がじゃれつくように、いじわるな言動をしたり、ふくれてみたり、怒ったような素振りを見せてくれるようになったのは、密かに嬉しかった。甘えられているような気がして|尊《とうと》かったのだ。 「頬を膨らましてるアイちゃんもかわいいよ〜!」 「ふんっ!知らないもん!アルちゃんのアドバイス通り、はるひくんと話してきます!それではッ!」 教室を足早に出ていくアイ。 「ア゙……ア゙イ゙ちゃ゙〜ん゙。……。……?」 怒って出ていったはずのアイが、無言でトコトコと俯きながら、アルタークの方へ戻って来る。 「……アイちゃん様……?」 そして、アルタークの服の|裾《すそ》をギュッと握り、|俯《うつむ》いて目を合わせようとしないまま黙り込む。アルタークは幼子にするように、膝を突き両手を握って目線を合わせる。 「どうしたの……?」 「さっきのは……。ホンキで起こってるわけじゃなくて、アルちゃんにかまってほしくて……。だから、きらいに……ならないで……。」 アルタークは自分の心臓がキューン!となる音
last updateآخر تحديث : 2026-03-01
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44. 性別と聖別 Sex and Separation

はるひは後ろ手に空き教室の扉を閉め、アイを逃さないように、扉と彼の間に陣取る。いつもの行動だった。 |両性具有者《セラフィタ》となってから、アイもはるひも普段は女性体で過ごすことが多かった。これは、両方の性の姿を見せるのは、親しい間柄に限るという暗黙の了解があるからだ。アイはそんなことは気にせず、気ままに男性体でも学校に通っているが。 しかし、はるひとアイが二人で会うときには、はるひはアイを男性体でいさせたがった。アイは|両性具有者《セラフィタ》としては珍しいタイプで、アニマ・アニマなこともあり、両性ともとても女性的な見た目をしていた。(はるひは逆に、両方とも男性的だった。) 違うのは女性体のアイの大きく発達した|乳房《にゅうぼう》と、体つきぐらいのものだ。それを意識するたびにアイは思うのだ。やっぱり自分は|身《・》|体《・》|だ《・》|っ《・》|て《・》|エ《・》|レ《・》|ク《・》|ト《・》|ラ《・》|様《・》|に《・》|似《・》|て《・》|い《・》|な《・》|い《・》、きっと似てしまったのは、“産みの親”の――。 それなのにはるひが第一の性別なんかに|拘《こだわ》る理由がアイには分からなかったが、はるひはあの日のアイの面影を見ていたのかもしれない。男女性|偏重《へんちょう》主義者をいちばん嫌っていたのは、|両性具有者《セラフィタ》になるまでは、春日家の一人娘が息子だったらと、やっかみを言われて育ったはるひのはずなのに。 ◇◆◇ 「それで?話って何かな?アイくん。それも2人きりでなんてさぁ?……かげろうのヤツの顔……|愉快《ゆかい》だったなぁ。カンチガイ騎士道振りかざしてるからあぁなるんだよ……ね?アイくん。」 はるひは心底楽しそうに言った。その態度はアイの発言で180度|覆《くつがえ》ることになる。 「はるひちゃん……お願いがあるんです。」 「何々?水臭いなぁ……わざわざそんなに|畏《かしこ》まっちゃってさぁ。私達|番《つがい》でしょ?それに今は気分がいいからさ、何でも聞いてあげるよ。」
last updateآخر تحديث : 2026-03-02
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45. 夏の昼の悪夢 A Midsummer Day’s Nightmare

《アァ……アイくんアイくん……!……|あ《・》|い《・》|し《・》|て《・》|あ《・》|げ《・》|る《・》からねぇ……!ハァハァ……!》 アイは天井を眺めながら、昔のことを思い出していた。夏の匂いが彼をどこかへ運んでいた。過去に逃避していたのだ。ただ哀しいかな、彼を待ち受けていたのは、やさしく抱擁してくれる思い出などではなかった。 ――それは、子どもの頃なくした|玩具《おもちゃ》がしあわせな|追憶《ついおく》と共に、ソファの隙間から出てくるように、思い出された。 ――しかしそれは、|鈍《にぶ》い痛みをもたらす、こころの奥底に隠していた、腐りきって悪臭を放つ、想い出だった。 夏の匂いがした。 ◇◆◇ ――それは蒸し暑い夏の日だった。|蝉時雨《せみしぐれ》が降っていた。 あるよく晴れた昼下がり、あいを視界に入れるのすら嫌うおかあさまが、あいに会いに来てくれた。本当にうれしくて、外から射す光をその背で遮るようにドアの前に立ち、決してあいの部屋の薄暗闇のなかには足を踏み入れようとしない、その足もとに駆けていった。そのまま足に抱きついてしまった。さっきまで親指をしゃぶっていたその手で。 「おかあさまっ!」 前にそうした時に、顔を蹴り飛ばされたことを思い出して、あわてて離れる。しかし、怒鳴り声も暴力も飛んでこない。不思議に思ったあいがおかあさまの方を見上げると、逆光で顔が見えない。 「あっ……たいへんもうしわけありません……えれくとらさま……。」 覚えたばかり言葉で、まだ舌っ足らずな口で、謝るがおかあさまは気にもとめていないようだった。そして|顎《あご》で外をさして、ただついてこいとそう言った。あいはお気に入りの毛布をいそいで取りに戻って、それを抱きしめながらついていった。 あいは不思議でずっと首を傾げていた。そもそもおかあさまが部屋に会いに来てくれること
last updateآخر تحديث : 2026-03-03
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46. ああ!月よ!お前もこの感情を奪うのか。 Son is a Bitch

「何してんだ!テメェ!!」 知らない女の人に、怒りの言葉を浴びせたおかあさまは、あいを守るために近寄って抱擁を―― 「おかあさま!おかあ――」 ――世界が揺れた。なにが起こったか分からなかった。炎天下の|陽炎《かげろう》の立ち昇る地面の味がした。手に小石が食い込んで痛かった。夏の匂いがした。いつものようにおかあさまに、顔をなぐられたのだ。なんで?ねぇなんで?おかあさま?なんであいを? 「テメェ!なにしてやがる!!失礼のないようにっつっただろうがっ!!」 そのまま胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。とっても苦しかったけど。もっといたいかった。さきっきの言葉はあいをたすけるために言ったんじゃなくて、あいをどなっていたんだ。あいが、あいが、逃げないように。 「ちょっと顔は殴らないでよ!|疵《きず》がつくでしょ!」 あいを|庇《かば》ったのはおかあさまじゃなくて、さっきの女の人だった。 「せっかくこんなにソックリに着飾ってるのに!……ね〜?サクラちゃん?ね〜!」 顔をのぞき込んで笑いかけられるが、ほしいのはおかあさまの笑ったかおだった。そんなのみたことないけど。 「アイ……テメェ……二度と逃げ出したり抵抗したりすんじゃあねぇぞ……!アァ!?わかってんのかボケが。……ほらよ、持っていけ。」 おかあさまの手で、女の人にひきわたされる。おかあさまはまもってくれなかった。おかあさまがきめたことだったんだ。おかあさまが。おかあさま……。 |屠殺《とさつ》場にひきずられる家畜のように、小屋まで連れ戻される。たすけておかあさまたすけて、おかあさまおかあさまおかあさまー!こころのなかでおかあさまを呼んでいるとあんしんなきもちになれるとおもった。そうはならなかったけど。でもだいすきなおかあさまのことをかんがえて、オバケがどこかに行くのをまっていようとおもった。 またベッドの上でよくわから
last updateآخر تحديث : 2026-03-04
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