玖島文人(くしま ふみと)と結婚して数年になるが、私たちには子供ができなかった。医師から「もうあなたの体では産めない」と告げられ、私は泣きながら文人に離婚を切り出した。「私と別れて、別の人を探して。そうすれば、あなたも子供を持てるから」けれど文人は私を抱きしめ、言ってくれた。「葉月、君が産めようと産めまいと、俺が一番愛してるのは君だ」その言葉があったからこそ、私は彼に一生ついていこうと心に誓ったのだ。しかし数ヶ月後、私は彼のスマホの中に一通のメッセージを見つけてしまった。【文人、今日あの子の誕生日なの。こっちに来られる?】雷に打たれたかのような衝撃だ。――あの子?文人に子供なんているはずがない。まさか、彼が私に言った言葉は、すべて嘘だったのだろうか。そのメッセージを見つめる私の心は、激しくかき乱された。一瞬、手が震えてスマホを支えきれず、床に落としてしまった。「葉月、どうしたんだ?」文人が髪を拭きながら浴室から出てきた。彼は眉をひそめ、床に落ちたスマホに目を向けた。「誰かから連絡か?」私は無理やり笑みを作った。「ええ、誰かからメッセージが届いてたわよ」文人は腰をかがめてスマホを拾い上げたが、途端に顔色を変えた。「……中を見たのか?」「いいえ」私は彼をじっと見つめ、何も知らないふりをして聞き返した。「誰からの連絡だったの?」文人はスマホの画面を消した。「取引先だ。葉月、急用ができたから出かけてくる。夕食は先に済ませておいてくれ」服を着替え、慌ただしく家を出ていく文人の背中を見送った。 涙がこぼれ落ちた。今日は私の昇進祝いで、文人が家で一緒にお祝いしようと言ってくれていた。それにもかかわらず、彼は相手からの一通のメッセージで、あっさりと外へ引きずり出されてしまったのだ。「君は子供が産めなくても気にしない」「君さえそばにいてくれればそれでいい」そう言っていた彼の言葉の一つ一つが、すべて偽りだったと、今になってようやく気づかされた。文人が去って間もなく、私も彼の後を追って家を出た。ガレージから車を出して追いかけるつもりだったが、結局その必要はない。彼は住宅街から一歩も出ていなかった。文人が向かったのは、家の向かいにある一軒の邸宅だ。私は目を見
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