ただ、目の前にいる律だけは違う。彼はいつだって最優先で駆けつけ、決して祖母の手を放そうとはしない。その痛ましいほどの献身を知っているからこそ、医師も言葉を尽くしたのだ。「ありがとうございます、先生」予断を許さないとはいえ、一命を取り留めた事実に紫音は心から安堵の声を漏らした。「私にお礼など不要ですよ。志津様とは古い付き合いですし、あんなに苦しまれる姿を見るのは私だって辛い。……いいですか、ご家族としてどうか責任を持っていただきたい。これ以上、絶対に志津様にショックを与えないように。次同じことが起きれば、どんな名医でも救えませんよ」医師は厳しい口調で念を押した。付き添いの親族がいながら、少しもまとまりのない拝島家の異様な空気に、思わず苦言を呈さずにはいられなかった。「律!どこからこんなヤブ医者を連れてきた!おいあんた、うちの家庭の事情に口を挟む筋合いはないだろう!だいたい母さんがいつ急変してもおかしくないだと?ふざけるな!」正人が突然怒鳴り声を上げ、医師に向かって見当違いな怒りをぶちまけた。「上層部に訴えてやる!こんな三流病院、こっちから願い下げだ。今すぐ別の病院に移す!母さんの病気が良くならないのは、腕の悪いあんたのせいじゃないか!」正人は狂ったように喚き散らし、自分たちの非を完全に棚に上げて、理不尽極まりない責任転嫁を始めた。「正人さん!」そのあまりにも醜悪な態度に、紫音はたまらず声を荒らげた。「志津様の状態が悪化したことと、こちらの先生は関係ありません!ずっと責任を持って全力で診てくださっている方に、なんて言い草ですか!」紫音は怒りで声を震わせながら、正人を真っ直ぐに睨みつけた。「志津様が何度も倒れられているのに、あなた方は一度でも心からお体を心配したことがおありですか!?生死の境を彷徨っているというのに、頭の中にあるのは会社のことばかり……お金や利権以外、何とも思っていないんでしょう!血の繋がった家族に対する情すらないんですか!?志津様がこんな状態になってしまったのは、あなた方が心労をかけ続けたからです!少しでも志津様を安心させてさしあげようとは考えられないんですか!」あまりの身勝手さに、紫音の堪忍袋の緒は完全に切れていた。志津が身を粉にして拝島家を守ってきた日々を思うと、そんな母親を金づるとしか見ていない親族たちに激し
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