「馬鹿」裕也は低く笑い、漆黒の瞳に甘い光を浮かべた。「そういうところは変わってないな。相変わらず、どんくさい」「……」絵里は意味が分からず、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。だが、この感覚は妙に、恋人同士のような甘い匂いがする。甘くて、どこか心地よい。和也と付き合っていた五年間よりも、ずっと甘やかで幸せだった。もしあの時、自分を救ってくれたのが裕也なら、結末は違っていただろうか。ふと、そんなことを考えてしまう。二人はもっと早く結ばれていたのではないだろうか。……ショートドラマの打ち上げ当日、絵里はプロデューサーの呼び出しで会社へ足を運んでいた。主な目的は、次回の撮影に向けた打ち合わせである。会議中、プロデューサーのパソコンにトラブルが発生した。技術スタッフが様子を見に来たものの、短時間での復旧は難しく、再開まで三時間はかかるとのことだった。絵里はこの後、梨乃と買い物に行く約束をしていた。ついでに裕也への誕生日プレゼントを選ぶつもりだったのだ。さらにその日は、二人が結婚を公に発表する日でもある。だからこそ、いつもより少しだけ気合いが入っていた。これ以上待たされるのを嫌った絵里は、自ら名乗り出た。「私にやらせてください。何とかできるかもしれません」その言葉を聞いて、覚が何かを思い出したように手を打つ。「そうだそうだ、水原さんはこういうのも得意なんですよ。この前現場でデータが飛んだ時も、あっという間に復元してくれたんですから」同席していたスタッフの中にも、当時の様子を目撃していた者がおり、次々と相槌を打った。プロデューサーは半信半疑の目を向ける。「本当ですか?」絵里は控えめに口角を上げた。「試してみます」技術スタッフは心配そうに口を挟んだ。「遊びじゃないんですよ。下手に弄ってデータが完全に消えてしまったら、私にもどうしようもありませんからね」「もし何かあれば、私が責任を取ります」時間を無駄にしたくない絵里は、きっぱりと言い切った。プロデューサーは少し迷ったが、最悪の場合は企画書を作り直せばいいと割り切った。「分かりました、じゃあお願いします」絵里は立ち上がり、プロデューサーの席へ向かった。腰を下ろし、画面へ視線を向けた瞬間、彼女の雰囲気が一変した。十
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