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第232話

Author: おミカン
裕也は微かに眉をひそめた。

「全部ってわけじゃない」

彼が言葉を濁すと、隆はもどかしそうに舌打ちを連発した。

「おいおい、そこで切るなよ。一体どういうことなんだ?」

裕也は彼を横目で睨みつける。

「お前には関係ない」

「お前ってやつは……」

隆がすっかり白けた顔で言い返そうとした矢先、会議室の方からざわめきが聞こえてきた。

「あなたたちは全員出なさい。この子と話があるの」

雪枝が会議室に足を踏み入れ、険しい顔でそう命じた。

ほどなくして、人々は次々と会議室から退出していく。

彼女の顔に泥を塗るような真似ができる者など、一人もいなかった。

「おや、お母さんのお出ましだね」

隆が驚いたように声を上げ、裕也の方を振り返る。

裕也の瞳には、冷ややかな色が宿っていた。

「見ればわかる」

会議室内。

絵里は突然現れた雪枝を見て立ち上がり、淡々とした視線を向けた。

「おばさん、わざわざ私に会いに?」

その態度は、雪枝の目には挑発としか映らない。彼女は足早に絵里の前に詰め寄り、怒りに満ちた目で睨みつけた。

「寧々をあんな目に遭わせたのは、あなたなの?

あなた、
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Comments (2)
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中村 由美
いっその事寧々が男達に金で絵里を襲わせた『強姦殺人』教唆の罪で逮捕させたら良かったのに⋯。
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ウサコッツ
このババアと和也と寧々一緒に 北極とかに追放して欲しいわ 悪事ばかり働いて 自分たち悪くないとか 本来ならやってる事犯罪だし こいつら消えないと 2人とも幸せになれない
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