賢治の言葉で、絵里は鼻の奥がつんとし、目元がじわりと潤む。彼女は賢治を見つめ、まっすぐな瞳で言い切った。「私、和也との婚約期間中、その誓いに背くようなことは一度もしていないです。和也がこの縁談を軽んじるのなら、仕方ありません。我が水原家が藤原家とのご縁を望んでいる今、裕也も私も独身だし、結婚に問題はありませんわ」裕也は伏し目がちに彼女を見下ろした。漆黒の瞳に浮かぶのは、甘やかな慈しみ。だが次の瞬間、彼が一同へ視線を走らせると、その温度は消えた。「絵里に求婚したのは俺だ。両家のお爺さんも了承している。まだ文句があるのか」鋭く、強く、容赦のない声。そこまで言われて、誰が口を挟めるというのか。「なんだ、誤解だったのか。そうなると、和也のほうが不義理だな」「裕也は落ち着いてるし、絵里ともお似合いだ。いいじゃないか」「みんな賛成だ。裕也、いつ公表する?盛大に式を挙げよう」「そうそう。藤原家も久々に賑やかになる。派手にやらなきゃな」好き勝手に言葉が飛び交う。雪枝と和也がどれだけ腹の中で煮えくり返っていても、表には出せない。「三日後、俺の誕生日パーティーに婚約を公表する。その場で、絵里との結婚を皆さんに見届けてもらいたい」と裕也は落ち着き払って告げた。賢治が頷く。「日取りは吉日を慎重に選べ。格式高い式にするんだ。藤原家が絵里を迎えられた幸運を、誰の目にも明らかなようにな」その言葉は、絵里に十分すぎるほどの面子と安心感を与えた。洋二がすぐさま応じる。「分かった、すぐに日取りを選ばせる。必ず盛大に」「ありがとう」「ありがとう」絵里と裕也の声が、ほとんど同時に重なった。絵里は顔を上げ、裕也に微笑む。守られている温かさが、胸いっぱいに広がっていた。さっきまでの嘲るような顔は消え、祝福の言葉が口々に寄せられた。雪枝は顔色が悪くなり、今にもその場に崩れ落ちそうだった。和也の動揺は、それ以上だった。血の気の引いた顔。糸の切れた人形のように、身体から力が抜けている。裕也の隣で、明るく艶やかに笑う絵里を見た瞬間、胸の奥が刃物でえぐられたように痛んだ。天が落ちたみたいだった。終わった。全部、終わった。その夜、絵里はたくさんの贈り物を受け取った。冷たかった雪枝のことなど、もはや気
Read more