賢治は寧々を叱りつけた。「黙れ。誰が来ていいと言った?」その視線は雪枝へと突き刺さり、言外の意味など隠しようもない。周囲ではひそひそ声が途切れず、絵里に向けられる眼差しはとりわけ露骨な蔑みを帯びていた。絵里は動じることなく、和也を見据えて冷たく口角を上げる。「これが、あなたが用意した今夜の茶番なの?」和也は無垢を装って肩をすくめた。「誤解だよ。俺には関係ない。俺がそんなことするわけないだろ」寧々が甲高い声を張り上げる。「今、ちゃんと証人がいるの。絵里が裕也を誘惑したのは事実よ。ただし、裕也と結婚したのは絵里じゃない。誰だって知ってるでしょ。裕也と郁江は両想いだし、ずっとお互いを待ってたのよ。絵里が裕也を誘惑しようとしたのは間違いないけど、ただ無様に失敗しただけよ!」寧々が言葉を終えると、野次を飛ばす者がいた。 「証拠もないのに口先だけで言われてもな。で、証人はどこだ?」寧々は綾子へ視線を送った。合図するように。「わ、私が証明できます……!」綾子が一歩前へ出る。絵里の視線を受けても怯まない。「私、絵里の脚本で撮影された作品の出演者です。前にT市でロケがあったとき、見ました。絵里が裕也さんを誘惑してるところを……裕也さんは止めたのに、絵里は抱きつくみたいに……それで『和也に復讐する』、『寧々にも復讐する』って」「ふざけるな!」治夫が怒りで顔色を青くし、胸を押さえた。「でたらめを言って、絵里を陥れる気か……!」洋二も憤りを隠さず命じる。「そのとおりだ。こんなのは捏造だ。誰か、彼女をつまみ出せ」「絵里の人柄なら信じられる」賢治が絵里を庇い、断言した。「そもそも最初に裏切ったのは和也だ。だから婚約は破談になった。裕也が来れば、絵里が……」雪枝が慌てて寧々に目配せをする。寧々が即座に遮った。「お爺さん!和也が嫌いなのはわかるけど、だからって彼の気持ちも考えず、外の人の肩を持つなんて……綾子は絵里と同じ現場にいたのよ。見たんだもの。ネットにも写真があるよ。これは動かない事実です」「お、お前……っ、ふざけるのもいい加減にしろ!」治夫は胸の痛みに顔を真っ白にした。絵里が数歩で駆け寄り、低い声で宥める。「じいちゃん、怒らないで。ここは私が対処するから」
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