All Chapters of 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~: Chapter 381 - Chapter 384

384 Chapters

第381話

雪枝はぎょっとして声を荒らげた。「……私を脅すの?私はあなたの母親よ」「母親?」裕也は唇を歪め、鼻で笑った。「母さんのやってきたことは、俺が息子だって前提で考えた形跡がない。俺と絵里の結婚を公にさせないために、裏で何をしたか?まさか、俺が言ってやらないと分からないのか」低い声。怒りを押し殺している。それでも全身から立ちのぼる気配は、ぞっとするほど凄みがあった。雪枝は真っ青になり、身体がふらつく。知っていたのか。そういえば前にS市で、彼は自分の目論見を見事に叩き潰していた。そこまで思い至った雪枝は、取り繕うのをやめた。冷笑を幾つも転がす。「人を責めるなら郁江を責めなさいよ。郁江は、あなたと絵里を絶対に幸せにしない……それでも絵里と別れないなら……」雪枝は両手を机に突き、にたりと歪んだ笑みを浮かべた。「絵里に死んでほしい、ってことよ」「安心しろ。絵里は死なせない」裕也は冷然と言い捨てる。「それより、あの可愛い息子の心配でもしてろ」雪枝は怒りで目を真っ赤にし、ここでは通じないと悟ると、吐き捨てるように部屋を出ていった。裕也は苛立ち、ネクタイを乱暴に緩める。そして健を呼びつけた。「警察に資料を持っていけ……あいつらを出すな」健は目を見開き、思わず固まった。動かない彼に、裕也の冷たい視線が刺さる。「辞めたいのか?」「い、いえっ。すぐ行きます!」健は慌てて出ていく。雪枝様がさっき怒鳴り込んできたのは……やっぱり和也様の件か。社長、容赦なさすぎだろ…………絵里が眠れたのは四時間にも満たなかった。午後四時過ぎに起き、梨乃と一緒に病院へ向かう。治夫のそばには吉田が付き添っていた。絵里を見るなり、吉田は沈んだ顔で言う。「治夫様は……まだ、お目覚めになりません」吉田は何十年も治夫に仕えてきた。情が深い分、胸の痛みも大きいのだろう。「じいちゃんは、絶対に目を覚ますよ。だから、心配しないで」絵里はそう口にしながら、同じ言葉を自分にも言い聞かせた。吉田は彼女のやつれた頬を見て、深くため息をつくと、そっと病室を出ていった。梨乃は、いつも穏やかな治夫がベッドに横たわる姿を見て、胸が締めつけられる。いつ目を覚ますかも分からないなんて、考え
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第382話

「お爺さんとご飯、ずいぶん久しぶりだね。目を覚ましたらさ、これからは私、もっとちょくちょくお茶に付き合う……いい?」「……」その光景を見つめながら、絵里は胸のつかえがほんの少しだけ下りるのを感じていた。自分にはまだ、じいちゃんがいる。梨乃がいる。あの人は結局、ただの通りすがりにすぎなかったのだ。そう割り切るしかない。人生とは、一本の列車の旅みたいなもの。途中の駅で立ち止まりながら、誰かが乗ってきて、誰かが降りていく。二人が帰ったのは、すっかり日が暮れてからだった。帰宅するなり梨乃がデリバリーを頼み、二人がシャワーを済ませて少しもしないうちに、チャイムが鳴った。絵里は肌触りのいい大きめのTシャツを着て、髪をざっくりまとめてクリップで留めている。気負いがなくて、清潔感のある姿。湯上がりの石けんの香りがふわりと漂い、彼女自身まで透きとおるみたいにさっぱりして、甘い。梨乃は隣に座ると、首を傾けて絵里の肩にこてんと寄りかかり、腰に腕を回した。「絵里がそばにいてくれるだけで、私、すっごく幸せ」吐息が首筋をくすぐって、絵里はくすっと笑いながら梨乃の頭を軽く押しのけた。「はいはい、お芝居はそこまで。ほら、冷めちゃうよ」梨乃は狙いを容赦なく見抜かれて、むっとした顔を作りつつ、テーブルに並べた容器のふたを次々に開けていく。頼んだ品数は多い。どれも学生の頃、二人でよく食べていたものだった。もともと絵里はこういうのを好んで食べるタイプじゃなかったのに、梨乃に付き合っているうちに、いつの間にか自分も好んで食べるようになっていた。二人は食べながら、取りとめもない話をした。ふいに梨乃が、急に背筋を伸ばして言う。「私ね、これからもずっと絵里のそばにいたい……友だちって、最高。友情万歳」絵里の胸がきゅっとして、頷いた。「うん。友情万歳」梨乃の前では、裏切られる心配をしなくていい。感情を押し殺す必要もない。泣きたいときは泣いて、笑いたいときは笑えばいい。梨乃が目をくるりと動かす。「……でも、なんか足りない」絵里は眉を上げた。「お酒?」梨乃はぱんっと手を叩いた。「正解!やっぱり私のこと、一番わかってるのは絵里だ」床に崩していた体勢を戻して立ち上がると、梨乃はキッチンへ駆けていって冷
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第383話

「でも……私、つらい……もう死んじゃいそう……」絵里は声を殺して泣いていた。しゃくり上げる喉は擦れて、途切れ途切れの嗚咽が言葉になる。「……何も悪いことしてないのに……なんでみんな、あんなふうにするの……なんで……?」胸の奥が、生きたまま引き裂かれたみたいだった。さっきまでの痺れが引いていく。代わりに痛みが牙を剥き、獣みたいに絵里を食い荒らす。梨乃は胸が潰れそうだった。同時に怖い。絵里が、もう踏ん張れなくなるのが。「あいつらに見る目がないだけだよ。でも、それは絵里のせいじゃない……」梨乃は必死に宥める。言葉を繋ぎ、絵里を現実に引き戻すみたいに。「私たち、どうやって知り合ったか覚えてる?うちが貧乏だって馬鹿にされて、いじめられて……挙げ句、あいつらチンピラ呼んで、私を壊そうとした」息を吸って、涙をこぼしながら続ける。「そのとき助けてくれたの、絵里だよ。あんなに細いのに、迷いもしないで。私だけじゃない……いじめられてた子のことも、ちゃんと助けてた」梨乃は絵里の肩を抱く腕に力を込めた。「絵里は……私の中では、太陽みたいな人だよ。ほんとに、いい子なんだ。すごく、すっごく……」言えば言うほど、絵里が受けてきた理不尽が蘇って、梨乃の目から涙が止まらない。絵里は梨乃にしがみつき、長い、長い時間泣いた。やがてアルコールが回り、泣き疲れた身体が梨乃にもたれ、そのまま重く眠りに落ちた。その夜、梨乃は眠れなかった。ベランダに出て、煙草を吸い続ける。一本、また一本。灰皿がいっぱいになっても、火を消す気になれない。眠れないのは、梨乃だけじゃない。裕也は苛立ちを抱えたまま、隆を飲みに誘った。だが隆は切り捨てる。「絵里にちゃんと説明しないなら、もう俺を飲みに誘うな」「……どう説明しろというんだ」裕也がこれほどまでにやりきれない口調になったのは、初めてだった。隆とて、分かってはいる。先日、病院で事情を聞かされて以来、裕也の辛い立場は痛いほど理解していた。それでも、どうしても釈然としない。「お前さ、絵里のことナメすぎなんだよ……もしかしたら、もう大人になってて、お前が思うほど脆くないかもしれないだろ」「もういい。飲みたくないならそれでいい」裕也は苛立ったまま通話を切った。これ以上、言い合う気にもな
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第384話

絵里はほどなく本社に駆けつけた。丈裕がエレベーターホールで待っていて、彼女の姿を見つけるなり、すぐさま恭しく歩み寄る。エレベーターを降りた絵里は、足を止めずに尋ねた。「みんなどこ?」「会議室に揃っております」絵里は短くうなずくと、そのまま足早に会議室へ向かった。扉を押し開ける。視線が真っ先に捉えたのは、上座にどっかり座る従兄の水原武延(みずはら たけのぶ)だった。表面は落ち着いて温厚そうに取り繕っている。だが、目の奥にあるのは傲慢そのもの。絵里の姿を見た瞬間、驚きと侮りがあからさまに浮かんだ。「絵里?どうして来た。会社に何の用だ」重役たちの視線が、一斉に絵里へ集まる。絵里はまっすぐ武延の前まで歩み寄った。「ここで何をしているの?」眉目は涼やかで、ぱっと見は刺々しくない。それでも、その視線だけは退かせない鋭さがあった。武延は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに余裕の笑みを貼り付ける。「爺さんが体調を崩して入院した。こんな大きなグループ、誰も舵を取らないわけにいかないだろ。俺は心配でね」くつ、と喉で笑い、武延は周囲を見渡した。「……だが、ちょうどいい。取締役のみなさんの同意も得た。俺を会長代行に……」「じいちゃんが入院したからって、あなたが仕切る筋合いはないわ」絵里が言葉を遮り、取締役たちを見回した。「じいちゃん治療期間中、私が会社を管理する。じいちゃんが回復するまで」ざわり、と空気が揺れる。この数年、絵里は水原家の令嬢として会社のことに一切口を出さなかった。父が亡くなってからは、治夫の体調も日に日に悪くなり、高額の報酬で代理人を立てるほどだったのだ。その絵里が「自分がやる」と言ったところで、冗談にしか聞こえない。武延は吹き出すように笑い、立ち上がった。絵里より頭ひとつ分、高い。「何も知らないだろ。わざわざ苦労を背負い込むなよ」にこやかで、どこまでも偽善的な笑み。「俺がきちんと爺さんの代わりを務める。回復するまで、な」絵里は、あちらの分家筋とは昔から一切関わりがなかった。かつてグループの覇権を巡り、彼らは治夫と激しく衝突した末に袂を分かち、それ以来、互いに完全に縁を切っていたからだ。そんな連中が、今このタイミングで現れる。悪意がないはずがない。絵里は冷た
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