雪枝はぎょっとして声を荒らげた。「……私を脅すの?私はあなたの母親よ」「母親?」裕也は唇を歪め、鼻で笑った。「母さんのやってきたことは、俺が息子だって前提で考えた形跡がない。俺と絵里の結婚を公にさせないために、裏で何をしたか?まさか、俺が言ってやらないと分からないのか」低い声。怒りを押し殺している。それでも全身から立ちのぼる気配は、ぞっとするほど凄みがあった。雪枝は真っ青になり、身体がふらつく。知っていたのか。そういえば前にS市で、彼は自分の目論見を見事に叩き潰していた。そこまで思い至った雪枝は、取り繕うのをやめた。冷笑を幾つも転がす。「人を責めるなら郁江を責めなさいよ。郁江は、あなたと絵里を絶対に幸せにしない……それでも絵里と別れないなら……」雪枝は両手を机に突き、にたりと歪んだ笑みを浮かべた。「絵里に死んでほしい、ってことよ」「安心しろ。絵里は死なせない」裕也は冷然と言い捨てる。「それより、あの可愛い息子の心配でもしてろ」雪枝は怒りで目を真っ赤にし、ここでは通じないと悟ると、吐き捨てるように部屋を出ていった。裕也は苛立ち、ネクタイを乱暴に緩める。そして健を呼びつけた。「警察に資料を持っていけ……あいつらを出すな」健は目を見開き、思わず固まった。動かない彼に、裕也の冷たい視線が刺さる。「辞めたいのか?」「い、いえっ。すぐ行きます!」健は慌てて出ていく。雪枝様がさっき怒鳴り込んできたのは……やっぱり和也様の件か。社長、容赦なさすぎだろ…………絵里が眠れたのは四時間にも満たなかった。午後四時過ぎに起き、梨乃と一緒に病院へ向かう。治夫のそばには吉田が付き添っていた。絵里を見るなり、吉田は沈んだ顔で言う。「治夫様は……まだ、お目覚めになりません」吉田は何十年も治夫に仕えてきた。情が深い分、胸の痛みも大きいのだろう。「じいちゃんは、絶対に目を覚ますよ。だから、心配しないで」絵里はそう口にしながら、同じ言葉を自分にも言い聞かせた。吉田は彼女のやつれた頬を見て、深くため息をつくと、そっと病室を出ていった。梨乃は、いつも穏やかな治夫がベッドに横たわる姿を見て、胸が締めつけられる。いつ目を覚ますかも分からないなんて、考え
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