暁の視線は、静かに客席を見渡した。心愛の姿はない。底知れぬその瞳の奥に、誰にも気づかれぬほど微かで淡い失望の色がよぎる。彼は一度、そしてもう一度、会場の端から端まで目を走らせた。だが、見慣れたあの姿はどこにも見当たらない。――彼女はいない。暁の眉が、ほんのわずかに動いた。やがて視線を戻すと、司会者から差し出されたマイクを受け取る。スピーカーを通して会場全体に響き渡ったその声は、低く、しかし抗いがたい力を帯びていた。「今夜はお集まりいただき、感謝します」……タクシーが古い路地の入口で急ブレーキをかけた。心愛は車が完全に止まるのも待たず、ドアを押し開けて飛び出した。代金は乱暴に運転手の手へ押し付ける。目の前に広がる光景に、全身の血が一気に頭へとのぼった。見慣れた大きな槐の木の下には、数台の黄色いショベルカーが並んでいる。高く掲げられた重機の腕――その暗い穴のようなバケットは、今まさに灰色の二階建ての古民家を狙っていた。青い作業服にヘルメット姿の男たちが建物を取り囲み、手にはバールや鉄槌を握りしめている。その表情は一様に冷淡で、無機質だった。頬に肉のついた、煙草をくわえた工事長が腰に手を当て、怒鳴り散らす。「さっさと動け!日が暮れる前に、こんなボロ屋は更地にしちまうんだ!」「やめて!」心愛は悲鳴に近い声を上げ、放たれた矢のように駆け出した。作業員の群れに飛び込み、両腕を広げて、その華奢な体で斑模様の古びた木製の扉の前に立ちはだかる。予期せぬ乱入者に、その場の全員が呆然とした。煙草をくわえた工事長が振り返り、イブニングドレスに身を包み震える女の姿を認めると、目を細めて吸殻を吐き捨てた。苛立ちを隠そうともせず、ゆっくりと歩み寄る。「てめえ、どこのどいつだ?死にてえのか。ここが取り壊し現場だって分かってんのかよ」「ここは私の家よ!」心愛は顔を上げ、真正面から睨みつけた。瞳には怒りの炎が燃え盛っている。「私はまだ合意書にサインなんてしてない!どんな権利があって、私の家を壊そうっていうの!」「お前の家だと?」工事長は滑稽な話でも聞いたかのように鼻で笑い、心愛を頭の先からつま先まで値踏みする。その視線は軽薄で、露骨な侮蔑に満ちていた。「お嬢ちゃん、邪魔しねえ
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