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第3話

作者: サヨ
チャリティー晩餐会の会場。

そこでは、克樹は来幸に優しく寄り添う振りをしていた。

彼女が寒そうに肩をすくめれば、自らのジャケットを脱いで優しく掛け、酒が飲めないと言えば、代わりにグラスを空ける。

彼女が気に入った宝石があれば、金に糸目をつけずに競り落とし、その場で贈ってみせた。

時乃は二人の背後に控え、その光景をただじっと見つめていた。あの傲慢不遜な男が、来幸を掌中の珠のように慈しみ、大切に扱っている。

これが……克樹が誰かを愛する時の姿なのだ。

では、自分は?

いつでも捨てられるただのナイフ。

使い潰されて死んだとしても、克樹は眉一つ動かさないだろう。

招待客たちの羨望の声が、さざ波のように耳に届く。

「梶本社長があんなに女性に尽くすなんて、初めて見たわ。こりゃ岡山さんが奥様におさまるのも時間の問題ね」

「ああ。以前は隣にいるあの護衛がお気に入りなのかと噂されていたが、勘違いだったようだ」

「あんな女が梶本社長に釣り合うわけないだろう?やっぱり岡山さんのような、守ってあげたくなる女性がお似合いだよな」

時乃は無表情でその言葉を聞き流していた。何の感情も湧いてこない。

克樹の心に自分の居場所がないことなど、もう痛いほど理解していたからだ。

だが、この場で輝良に遭遇することは予想外だった。

時乃は隙を見て彼に近づき、低い声で詰め寄った。

「兄はどこですか?」

輝良はグラスの赤ワインを飲み干すと、獲物をなぶるような視線を向け、鼻で笑った。

「こんな華やかな場所に、あいつが来られるわけないだろう?犬小屋の中で大人しく待ってるさ」

心臓が早鐘を打つ時乃は、目元が熱くなるのを堪え、震える声を必死に抑え込む。

「どうすれば……兄を解放してくれますか?」

輝良は時乃を頭からつま先までねっとりと品定めし、耳元に顔を寄せた。

「上の客室で、俺と一回やろう……どうだ?」

時乃は一瞬の迷いもなく答えた。

「分かりました」

兄を救えるなら、死ぬことだって厭わない。

……

ホテルの客室。

輝良の顔には、歪んだ興奮が張り付いていた。彼は時乃の服をめくり上げると、鞭を振り上げ、彼女の生傷めがけて容赦なく打ち据えた。

時乃の体は痙攣したが、苦痛の呻き声を喉の奥で押し殺した。

輝良は苦痛に歪む彼女の顔を鑑賞し、カメラを構えてシャッターを切る。

「いいぞ時乃ちゃん。お前みたいな強情な女が俺に甚振られて、そんな無様な姿を晒すなんて……たまらなくゾクゾクするぜ」

輝良が得意げに言い放った、その時だ。

ドアが激しい音を立てて蹴破られた。

現れた克樹は輝良を一蹴りで吹き飛ばすと、眉間に凄まじい殺気をたぎらせて仁王立ちになった。

「誰の許可を得て、その女に触れた?」

輝良は慌てて這い上がり、彼の足元に跪いて首を振った。

「梶本さん、違うんです、誤解です!これは彼女が自分から望んで……」

克樹の瞳が暗く沈む。時乃の前に歩み寄ると、顎を強く掴んで無理やり上を向かせた。

「こいつの言っていることは、本当か?」

克樹の背後で、輝良が首を掻っ切る仕草をし、陰湿な笑みで脅しているのが見えた。

時乃は一度目を閉じ、覚悟を決めて歯を食いしばる。

「……はい。兄が彼の手元にいますので……」

心のどこかに、僅かな希望があった。ここまで酷い仕打ちを受けている自分を見れば、克樹が情けをかけ、兄を救ってくれるかもしれないと。

しかし、克樹は長い間彼女を見つめた後、冷たく鼻で笑っただけだった。

「あいつのためなら、本当に何でもするんだな。

本当に浅ましい女だ……

来幸がお前の護衛不足のせいで、さっき会場で転んでしまったぞ。さて、どう罰してやろうか?」

克樹は彼女を引きずって屋敷に連れ帰ると、浴室に突き飛ばした。服を剥ぎ取り、バスタブに放り込む。そしてシャワーの温度を最高に上げて、熱湯を全身に浴びせかけた。

「輝良に触れられたんだろう?穢らわしい。よく洗って落とせ」

熱湯が傷だらけの体に降り注ぎ、瞬く間に皮膚が赤く爛れていく。だが時乃はその場に立ち尽くし、眉一つ動かさなかった。

体の痛みなど、引き裂かれた心の痛みに比べれば、何の意味もなかった。

彼女の無反応さに苛立ったのか、克樹はようやくシャワーを投げ捨て、低く、どこか狂気を含んだ声で囁いた。

「お前は俺だけのものだ……」

服を着て浴室を出た頃には、克樹はいつもの無関心な様子に戻っていた。

「来幸が足を捻挫した。罪滅ぼしにスープを作ってこい」

時乃は何も言わず、黙ってキッチンへと向かった。

出来上がったスープを来幸の部屋に運び、一秒たりとも留まらずに出てきた。しかしその直後、来幸の悲鳴が屋敷に響き渡った。

時乃が足を止める間もなく、克樹が彼女を来幸の前に引きずり戻し、陰鬱な顔で怒鳴りつけた。

「吐け!来幸のスープに何を入れた!」

来幸の顔には無数の赤い発疹が浮かんでいた。時乃は一瞬目を見開いたが、すぐに冷徹な表情に戻り、淡々と告げた。

「何もしておりません」

わかっている。これは来幸の自作自演だ。

だが、克樹にはそれが見えない。彼はスープを一口舐めると、冷ややかに言い放った。

「来幸がアルコールアレルギーだと知っていて、スープに酒を混ぜたのか?」

来幸は彼の胸に飛び込み、顔面蒼白で肩を震わせて泣きじゃくる。

「克樹、この人、わざと私を……っ」

ガシャンッ!

克樹がスープが入った器を払い落とした。煮えたぎる液体が時乃の手に跳ね、瞬時に火傷の水膨れを作る。

だが彼はそれを一瞥しただけで何も言わず、来幸を抱き上げると、大股で部屋を出て行った。

去り際に、ただ一言だけ残して。

「来幸に何かあれば、ただでは済まないと思え」

静まり返った部屋で、時乃は不意に笑い出した。

やがて涙がこぼれ落ちた。

克樹を愛してしまったことが、この人生で最大の後悔だ。

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