「達也さん、湊に伝えて。退職したから、しばらく海外で生活する予定だって。湊の体調については、達也さん、どうかよろしくね」そう言って、綾はエレベーターへと歩いていった。1階へ下りると、康弘と加奈子に出くわした。康弘は宏介を抱きかかえ、加奈子の手には薬の袋が提げられている。綾はその場を通り過ぎようと努めたが、加奈子に呼び止められてしまう。「綾さん、あなたと凪との間であったことは、これでもう帳消しってことでいいでしょう?あなたが青木社長と組んで私たち二宮家を陥れたこと、そして海斗の出生の秘密をバラしたこと。凪があなたを車で轢こうとしたのも、結果的に中野社長が身を挺して止めてくれたんですから」綾は無表情で加奈子を見つめ、「言いたいことがあるなら、はっきり言ってください」と冷たく返した。「これで過去のことは水に流してくれませんか?中野社長が、二宮家に報復するようなことはさせないでほしいのです。第一、そんなに恨みがあるなら、凪との個人的ないざこざでしょう。矛先を誤らないでください」加奈子の言い回しを聞き、綾はその裏の意図を察した。つまりは、宏介をトラブルに巻き込むなということだ。綾は二人を軽く一瞥して、「二宮家に興味はないですから」と冷めた言葉を返した。二宮家は薄情な連中だ、なるべく関わらないのが一番だ。その午後、綾は弁護士との面会に向かった。凪による計画的な犯行を、法的に裁いてもらうためだ。凪のもとに法廷への召喚状が届いたのは、彼女がリハビリをしている時だった。足はもう二度と動かないと言われているが、わずかな望みを捨てられずにいた。看護師が「念花グループのエンジニアさんが開発した製品なら、お役に立てるかもしれませんよ」と言った。「死んでもごめんだわ。地面を這ってでも、あの女が作ったものなんて使わない」凪がそう叫んで、両手で体を支え前に動こうとしたが、無残に床へと転がり落ちた。治りきっていない傷口が痛み、顔が歪む。そんな折に、タイミング悪く召喚状が届いたのだ。綾は、「計画的に殺そうとした」として訴えてきた。足が不自由になった時点で全て許されると思っていた凪は、震えを抑えられなかった。いつも大人しさを装っている綾が、いざとなればこれほど非情になるとは。病室へ入ってきた誠は、
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