บททั้งหมดของ 初恋と付き合ったら、車椅子の元夫が立ち上がった: บทที่ 341 - บทที่ 350

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第341話

飛行機を降りてすぐ、綾は明里から届いたメッセージをマルスに見せた。「お二人で私をバカにしているのですか?ビアンカさんはとっくにI国を離れているでしょう?健吾が私を信じず、全部隠し事をするなら本人に伝えてください。これでお別れ、好きにすればいいですよ!」そう言い捨てて、綾はスーツケースを引きずりながら歩き出した。お互い話し合ったはずなのに、健吾は何度も自分を裏切った。自分のためという口実で真実を隠し、不安に陥らせたのだ。「健吾様は結婚を強要されているんです!」マルスは焦ってそう叫んだ。すべては愚かな健吾のせいだ。綾は足を止め、振り返るとそのままマルスの車に乗り込んだ。「教えて、一体どうなってるんですか?」マルスは正直に話すしかなかった。「I国で綾さんを尾行していたのは、カタリナ様の部下たちです」綾はすぐにピンときた。「つまり、私を人質にして、健吾に結婚を強要したんですね?」「はい。彼らは綾さんの写真を健吾様に突きつけました。健吾様は承諾するしかなかったのです。ですが、必ず逃げ出します」マルスは胸をなでおろした。事情を理解してくれたようだ。そもそも健吾の隠し事は余計なことだ。綾は賢い女性なのだから、独断専行する必要なんてなかったのだ。「本当に馬鹿なんですから」綾は複雑な気分だった。愛し合う二人が、命まで懸けることになるなんて。「教えてくれていれば、私は素直にカタリナさんに降参したんですよ。健吾と一緒になるために自分の命を捨てる気なんてないですから。私が無事でよかったですね。もし何かあれば、あなたたちが黙っていたせいにしますから」それは半分冗談で、本心でもあった。いくら愛し合っていても、互いの命を賭すことなんてできない。寄り添って生きられないなら、いっそ心に秘めて生きるだけだ。「……」マルスは健吾がなぜ綾を騙していたのか察した。綾のためというより、健吾自身の独りよがりだったのだ。「安心してください。式の当日は来賓が多いので、健吾様が必ず逃げ出す手はずを整えています。どぶの中を這いつくばってでも、綾さんを裏切るようなことはしません」マルスは必死に説得した。綾が健吾を見捨てるのが怖かったのだ。綾は少し考えてから尋ねた。「式はいつですか?」「2日後です」「場所は分
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第342話

どこまでも晴れ渡る青空、海風が心地よい、結婚式にふさわしい日和だ。健吾は、仕立てのいい黒いスーツを着ていた。その凛々しく引き締まった立ち姿は、まさに絵に描いたような青年実業家そのものだ。しかし、その表情は晴れやかな天気とは裏腹に、厳しい冬の寒さのような冷徹な雰囲気を漂わせていた。祝辞を述べようと近寄るゲストもいたが、健吾が発する「誰にも干渉させない」という威圧感の前に、誰も一歩も踏み出せないでいた。カタリナはそんな周囲をよそに、ゲストたちと手慣れた様子で談笑し、最後に健吾の傍らへ足を止めた。「チェッコ、少しは機嫌を直してちょうだい。あの小娘のためだと思えばいいでしょ」綾は2日前、マルスの協力によりA国で忽然と姿を消した。カタリナの配下の者たちを総動員して探したが、何の痕跡も掴めていない。健吾がこの事実を知らない限り、結婚式に影響はないはずだ。本日島に入る者は全てカタリナの手配した船を経由する。たとえ綾がI国に来ていたとしても、この島には近づけない。健吾はカタリナを一瞥し、淡々と口を開いた。「結婚式を終えたら、エステ家への恩義は返したものとする。今後は一切、縁を切らせてもらう」カタリナの表情が少し強張った。怒りと悲しみが入り混じる。「チェッコ、私はあなたの母親よ。あなたを陥れるようなことをするはずがないでしょ?」健吾の未来を案じて命を削ってきたが、その結末は親子関係の決裂となってしまった。だが、いつか健吾もこの親心に気づく時が来るはずだ。健吾はカタリナを無視して、冬馬のもとへ歩を進めた。「父さん、ビアンカの様子は?」「相変わらず食って寝て遊んでいるよ。元気そのものさ」冬馬は健吾の肩を叩いて言った。「お前のおじいさんは東都の女性との縁を望んでいたからな。この縁談には反対していて、出席もしていない。戻ったら顔を見せて安心させてやれ」「来ないのは正解だよ。父さんも、ここにいるべきじゃない」健吾は細い目を閉じ、穏やかな海面を遠く見つめた。綾はまだ飛行訓練を受けている最中かもしれない。彼女は本当にいつも思いつきで突っ走る性格だ。とはいえ、飲み込みは早いから、遊びにも支障はないだろうが。「いい歳をして、色恋を優先しすぎるな。綾さんのような娘は、我が家の嫁としては相応しくない」冬馬の諭す
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第343話

健吾はため息をつくと、ブランデーを口に含んだ。周りに人がいないことを確かめると、声をひそめて尋ねた。「計画は順調か?頼むから、実の息子を裏切るような真似はするなよ」「計画通りだよ。だが……」冬馬は少し言い淀んだ。父親が息子の結婚逃亡に加担するなど、普通ならあり得ないからだ。「『だが』なんて言うな。頼むよ、この通りだ。後でちゃんと親孝行するからさ」健吾は冬馬の言葉を遮り、グラスの酒を一気に飲み干した。冬馬は手で制した。「お断りだね。親子とはいえ、お互い多少の距離感は必要だ。今回みたいな面倒事は、これっきりにしてもらうぞ」健吾の結婚逃亡が成功したら、こっちも離婚の準備を始めるつもりだった。ついに、結婚式が始まる。健吾は牧師の横に立ち、ひどく苛立っていた。この慣れないタキシードを着ているだけで、体がむずむずする。健吾は海を見つめ、なんとか自分を落ち着かせようと努めた。式を取り仕切る牧師が話しかけてきたが、適当に相槌を打つだけでやり過ごした。ゲストたちが席に着き、いよいよ結婚式が始まった。白いウェディングドレスに身を包んだスージーが、父親と腕を組み、白いヴェールをなびかせてゆっくりと健吾の元へ近づいてくる。ゲストたちは息を呑み、スージーの姿から目を離せない様子だった。申し分のないお似合いの二人だと、誰もが思っていたはずだ。スージーは健吾のすぐ側まで歩み寄り、立ち止まった。「チェッコさん、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、スージーさんを愛し、共に添い遂げることを誓いますか?」牧師は慈しむような表情で健吾を見つめ、答えを待っている。その時だった。「ドン!」という凄まじい音と共に彩煙弾が放たれ、式場はまたたく間にカラフルな煙に包まれた。悲鳴を上げたゲストたちが、我先にと外へ逃げ出していく。カタリナが煙の中から飛び出し、低く吐き捨てた。「誰の仕業よ!今すぐ捕まえてちょうだい!」しばらくすると、煙が少しずつ薄くなってきた。カタリナは急いでゲストたちに詫びて回り、再び着席するように促す。「申し訳ありません。スタッフの不手際で、どうかお許しください」ゲストが落ち着くと、カタリナは牧師の方を向き、言った。「式を再開しましょう」牧師はバツが悪そうに辺りを見回した。
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第344話

モーターボートがヘリコプターの真下まで到着し、機体はゆっくりと高度を下げ、ボートのすぐ上で静止した。キャビンが開くと、マルスが顔を出してニカっと笑った。「健吾様、お迎えに上がりました」梯子をよじ登った健吾の視界に、操縦席で舵を取る綾の姿が飛び込んできた。彼は目を細めて、「綾、たいしたもんだ。ヘリまで操って結婚式から奪い出すとはな」と笑った。綾は不機嫌そうに唇を尖らせ、相手にしない。島で一部始終を見ていたカタリナは、遠ざかるヘリを見ながら絶望の表情で目を閉じた。一方の冬馬も何が起きているのか把握できず呆然としている。そもそもヘリを寄越したのは誰だ?崖端洋館の外庭にヘリが着陸し、綾が先頭を切って飛び出した。涼しい顔を装っているが、実はインナーは冷や汗でぐっしょりと濡れている。この2日間、崖端洋館の周囲で飛行訓練はしていたが、ここまで長距離を飛ぶのは初めてで、内心は心臓が口から出そうだった。「綾、言い訳をさせてくれ」健吾が背後に続く中、綾はバスルームのドアを激しく閉め切った。「綾、俺が悪かった」健吾が大声で謝罪しても、綾からの返答はなく、聞こえてくるのはシャワーの音だけだった。彼は苦笑いしながら、バスルームの前の壁に背中を預けて腕を組んだ。ふと、自分のこの格好がやけに浮いて見える気がした。綾に見せても面白くないだろう。着替えに行こうとした瞬間、バスルームのドアがわずかに開いた。綾は半分だけ顔を覗かせ、冷ややかな声で短く言い放った。「バスローブ」先ほどは腹が立ちすぎて、着替えの服を忘れたまま勢いよく飛び込んでしまったのだ。「はいはい、お姫様。少々お待ちを」バスローブを見つけた健吾は、また部屋へ戻って自身のスーツとシャツを脱ぎ捨てた。コンコン。ドアを叩くと、中から綾の白く滑らかな腕がスッと差し出された。「早くして」健吾はバスローブを背後に隠し、空いている方の手で、綾の濡れた手を取り込んだ。「バスローブよ!はやく!」綾の声には明らかな苛立ちが混じっていた。騙されていた腹立たしさと、それでも救いに行かねばならなかった不甲斐なさが、余計にイライラさせた。「仰せのままに」健吾はバスローブを差し出したが、今度は手を離さない。綾が腕を引っ込めようとした瞬間、彼はその
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第345話

健吾は布団の端をそっとめくり、綾が少し頬を赤らめ、すやすやと寝息を立てているのを確認した。「はあ、これまでの俺の説得は水の泡だな」健吾は布団を少し下げ、綾の顔を出してやった。綾はぐっすりと眠っている。最近よほど疲れがたまっていたのだろう。慣れ親しんだ寝顔を見つめていると、凍りつく冬の中にいながらも、体の中を春の風が吹き抜けるような、甘酸っぱい幸福感に包まれた。ぼんやりとしばらく眺めていたが、まだ片付けなければならない事があったのを思い出した。マルスが下の階で待っていた。あまりに待たせすぎて、眠そうにしている。「健吾様、東都へ戻られますか?」「先に荷物をまとめておけ。綾が起きたらすぐに出る」健吾はスマホを開いた。結婚式の直前に冬馬から渡されたものだ。無数の着信にメッセージ。健吾は綾からの着信履歴を見つけた。50件を超えていた。未読メッセージも100件以上ある。その数字を見ただけで、当時の綾がいかに心を痛め、不安を抱えていたかがありありと浮かんだ。綾は口ではぶっきらぼうなことを言っても、根は誰よりも優しい。マルスが心配そうに言った。「カタリナ様に見つかるのも時間の問題かと……」「そう簡単には見つからん。見つかったところで何だというんだ?」健吾は鼻で笑い、綾からのメッセージを一つずつ読んでいく。大半は自分への罵詈雑言だったが、上に遡れば遡るほど、自然と口元が緩んだ。あんなにひどい言葉をぶつけて絶縁する勢いだったくせに、結局は自らヘリを操縦し、命がけで自分を迎えに来たのだ。飛行免許を取ったばかりで、よくそんな遠くまで飛ぼうという無茶を思いついたものだ。ある思いが脳裏をよぎり、胸が締め付けられた。綾が急に飛行機の操縦を習い始めたのは、いつかこんな日が来ることを予期していたからではないか?綾はいつも女性ヒーローの話を好んで読んでいた。まさに今回、綾自身がヒーローになったというわけだ。健吾が動じないのを見て、マルスも急かすのをやめ、その場にどかっと座り込んだ。崖端洋館は健吾の私有地で、エステ家の人間はビアンカ以外、誰も場所を知らない。「健吾様、私は2日間、不眠不休で綾さんの飛行訓練につきあったんですよ。せめて何か報酬をくださいよ」健吾は眉をひそめた。「綾は夜も練習していたのか?
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第346話

健吾が身を乗り出し、綾の肩に顎をのせて頬に触れた。「目がいいんだね。あんな遠くからよくわかったな」「離れて!」綾は健吾の頭を押し返して、冷ややかな視線を向けた。「さあ、行こう。俺たちが帰るべき東都へ」健吾は穏やかな眼差しで、綾の髪を撫でた。「私はこれからピラミッドを見に行くから、一人で帰りなさい」綾は拗ねているわけではない。ただ、今は東都に戻るつもりがなかった。健吾は懇願した。「頼む、一度だけ付き合ってくれ。ビアンカの様子を見てからなら、どこへだって付いていくから」綾は見上げて問う。「あと4年も約束があるでしょ?何のために付いてくるの?」「バカだな、あと4年も待たせるはずがないだろう?」健吾は隣に腰を下ろし、頭を綾の肩に寄せた。「母さんがスージーとの結婚を迫った時、全て悟ったんだ。エステ家が俺の君に対する愛を認めないなら、あんな場所いらない。青木家が同じことを言うなら、青木家ごと切り捨てる」健吾は家がなければ何もできないような男ではない。冬馬とビアンカ以外、心残りはなかった。綾は驚いて顔を背けた。「健吾、私のためだなんて……そんなことをしてはダメよ」綾も同じだった。健吾のせいで全てを捨てる気はないし、彼にもそうしてほしいとは思っていない。そんな重すぎる愛は、むしろ良くない結果を招くだけだ。「お前のためじゃない。俺自身のためだよ」健吾は自分の瞳と同じ色の海を見つめ、思いを馳せた。綾は微笑んだ。「分かったわ。一緒に行く」機内で、綾は達也にメッセージを送り、湊の近況を尋ねた。達也は隠さずに言った。湊の容態は芳しくなく、回復の見込みはほとんどないのだと。それを読んで、綾は深く沈んだ気持ちのまま座席にもたれかかった。健吾は悲しそうな綾の顔を見て、静かに声をかけた。「中野のことか?」「勘違いしないで。愛しているわけじゃない。ただ……一緒に過ごした10年以上の日々を思うと、湊は説明ができないほど大事な人だったの。親愛なる身内としてね」綾は弁解した。誤解させたくないけれど、嘘をつくつもりもなかった。健吾は綾の肩を抱き寄せた。「会いに行こう」綾は不思議そうに問う。「焼きもちを焼かないの?」「妬けるさ。でも事の重要性はわかっている。あいつが俺に電話をくれなかったら、あの結
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第347話

綾が振り返らずに歩き去るのを見て、健吾の胸に切ない酸っぱさが広がった。ここで待てと言われても、綾は結局自分を連れて行こうとはしなかった。健吾はソファに腰を下ろし、適当なリハビリ関連の本を手に取ってみたものの、内容は一つも頭に入ってこなかった。庭園に出た綾は、木の下にいる湊をすぐに目に留めた。特製の車椅子に座った湊は、いつも通りの蒼白い顔をしていて、以前よりさらに痩せこけ、黒い部屋着に身を包んでいた。そばにはアンナがいて、湊に本を読み聞かせている。あたりを見回すと、そこにいるのは老人ばかりだった。綾は手の甲で涙を拭い、無理やり笑顔を作って湊のもとへ歩み寄った。「湊」呼びかけても、湊はすぐには気づかなかったのか、一瞬きょとんとしてから、ようやくこちらを振り返った。「綾?」「近くを通りかかったから、顔を見に来たわ」綾はアンナと軽く挨拶を交わした。アンナは微笑み、綾が座ると黙ってその場を離れた。「湊、調子はどう?」「ああ、上々さ。毎日日向ぼっこをして、アンナの本を聴く。社長時代よりずっと気楽でいいよ」湊は笑って言った。その視線は綾の顔に向けられている。彼女は少し痩せたようだ。「どうして急に戻ってきたんだい?」湊は綾のインスタをいつも追っていて、彼女が海外旅行中なのは知っていた。「健吾の付き添いで実家に帰ってきたの。明後日にはまた旅立つつもりよ」綾は健吾との関係を隠すことなく、ありのままを伝えた。湊はそれ以上、踏み込んだ質問はしなかった。目覚めたとき、もう先が長くないことは悟っていたし、意識がはっきりしているうちに健吾へ連絡を取ったのだった。あの時から、すべてを手放そうと心に決めていた。今も心に切なさはあるけれど、それ以上に心は晴れやかな気分だった。二人はしばらく話し込んだが、過去の話はできるだけ避けていた。綾が一番心配していたのは湊の体調で、ピラミッドや太平洋の客船から戻った時に、また彼の容態に関する悪い知らせを聞くのではないかと怯えていたのだ。湊はその不安を察し、笑った。「もし年に一度会いに来る約束をしてくれるなら、百歳まで生きる努力をしてみるよ」「約束するわ。長生きしてくれるなら、何回だって会いに来るから」綾は湊の手を握った。心は複雑で重かった。かつて
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第348話

東都に着くと、青木家から電話があった。健吾に綾を連れて夕食に来いと言うのだ。その報せを聞いた綾は、緊張で落ち着きを失っていた。「私には無理よ。ご挨拶なんて初めてだし、やっぱり行くのやめようかな?」「いずれ避けては通れない道だ。それに、お前は綺麗で優秀な科学者じゃないか?お前に会えるなんて、うちの祖父と父も光栄に思うはずだ」健吾は優しくなだめ、綾を高級ブティックへ連れて行き、服を選ばせた。「言われてみればそうね!財力は違っても、中身なら負けてないわ」自分を鼓舞して自信を取り戻した綾だった。「大人しく見られたくないから」と、綾は少しクールな黒を基調とした服を選んだ。「ほら、すぐそうやって強気になる」健吾は笑って綾を冷やかし、代金をスマートに支払った。夜になり、二人は青木家の本邸へ向かった。綾が丁寧に応対すると、相手は健吾の父親と祖父、それにビアンカだけだったので少し肩の荷が下りた。「こんにちは、ビアンカさん」「うちへようこそ」ビアンカは、冬馬から教わった通りの丁寧な言葉遣いで返した。「さあ座ってくれ。家族しかいないから堅苦しい挨拶は不要だ」冬馬の勧め通りに綾は着席し、祖父の青木彰人(あおき あきと)が主賓席に座った。彰人は気難しそうに表情を硬くしていたが、表向きは礼儀正しく振る舞っていた。食事中、綾は冬馬と親しく話を交わした。事前のイメージとは違って、冬馬はとてもユーモアがあり、気さくな人だった。会話は弾み、冬馬は綾がこれまで手掛けた製品について興味深く質問してきた。「もし綾さんが望むなら、うちで専用の実験棟を建てさせてもいい」いかにも富豪らしい申し出だったが、まるでプラモデルを建てるような軽々しさで言うので驚いた。すると彰人が突然、険を帯びた。「女なら家に入って家庭を大事にするものだ。外で働くなんて……」健吾は彰人の皿にサラダを取り分けながら言い返した。「おじいさん。俺の研究能力じゃ綾には敵わないから、綾がキャリアを積むなら俺が家事育児をやりますよ。まあ、綾が生む気があればの話ですけどな」「これいらん。歯に挟まる」彰人の言葉を聞き、すぐさま使用人がその料理を皿から下げた。「歯に挟まったなら、ゆっくり取っていればいいでしょう?無理に話さなくていいですよ」健
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第349話

「健吾と綾さんが一緒になること、俺たちも反対はしていない。婚約について、そちらはご家族で話し合う予定はあるのか?」当初は反対していた冬馬だったが、健吾の猛烈な抵抗にあい、仕方なく一度会ってみることだけは承諾していた。だが今夜、直接話をしてみて、反対するのはやめた。綾は、健吾の心を完全に掴んでいる。これ以上反対すれば、カタリナがそうだったように、この息子までも失ってしまうと悟ったのだ。冷静に見て、綾は家柄こそ青木家とは釣り合わないが、健吾の伴侶として何の欠点もない。たとえ青木家のような一族に科学者は不要だとしても、研究者としての綾の才能は、群を抜いているのだから。「少し急ではありませんか?」綾は少し迷っていた。まだ伝えていない、大切な話が残っているからだ。何があろうと、まだ心構えができるまでは決定を下したくなかった。冬馬は綾の不安を察したのか、優しく微笑んだ。「安心してくれ。俺たちは二人の生活に干渉しないし、そもそも干渉などできないだろう?」綾も、健吾も、二人とも非常に意志が強い。本人たちが望まなければ、どんな大物でも二人の意思を変えることはできないと分かっていた。「綾」健吾が綾の腕をゆらりと揺らした。潤んだ瞳で期待に満ちた視線を向けてくる。あまりにも情けない息子の姿に、冬馬は思わず視線をそらした。そして、少しの間考え、綾は頷いた。「分かりました。日取りを決めましょう。ゆっくり相談させてください」こっちの身内については、後藤家の両親を頼るしかなかった。「実家のご家族がいらっしゃらなくても構わん。この件については俺が責任を持ってまとめるよ。けっして寂しい思いはさせないから」冬馬は綾の複雑な事情を知っていたので、無理強いはしたくなかった。「いえ、来てくれると思います」綾自身ですべてを整えることもできるが、けじめはしっかりつけたかった。東都の自宅にはしばらく戻っておらず、掃除もできていなかったため、綾は一旦ホテルに滞在していた。健吾が強引に送り届けてくれたが、ホテル前で綾は「帰って」と彼を追い払おうとする。「帰りなさい。あなたのおじいさんやお父さんとゆっくり過ごして」「いや、部屋まで送る」健吾は綾の同意も待たず、荷物を奪うようにして中へ歩いていく。綾が背後からついてい
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第350話

健吾と綾の縁談は、予想外なほどスムーズに進んだ。健吾がI国で逃げ回っていた一件を聞いた青木家の面々は、誰も二人の結婚に異論を唱える勇気はなかった。彼らは、健吾が青木家を切り捨てかねない強さを持っていることを知っていた。反対すれば、一族唯一の後継者を失うことになるからだ。綾が健吾の親族と会ってから3日後、冬馬と後藤家の両親はすでに婚約についての話し合いを進めていた。身寄りのない綾は、自分で決めて、婚約披露宴や結婚式を省略することにした。代わりに旅行を兼ねた挙式を考えていた。だが、健吾は不服そうだった。「ゲストのリストだって作ったんだ。せめて、それくらい協力してくれないか?」綾が健吾の手から受け取ったリストには、明里、雅也のほか、湊や颯太らの名もあった。「たったこれだけの人数じゃ、結婚式とはいかないでしょ?入籍を済ませてから、このメンバーでささやかに集まるだけでいい。もっとも、湊は確実に来られないでしょうけどね」それでも健吾は機嫌が直らなかった。「ウェディングフォトくらいは撮るべきだ。インスタにも上げないといけないからな」「それなら旅行中に、遊びながら撮ればいいわ」眉をひそめる健吾の姿を見て、綾は顔を寄せて、つま先立ちで軽くキスをした。「健吾、私は二人の結婚をとても大切に思っているわ。長い人生、何もこの数日で焦る必要なんてないでしょ。式を挙げたくない理由は二つあるの。ここ半年の間、いろんなことがありすぎて疲れたのも一つ。もう一つは……身内が誰も来ない結婚式を見るのが、ただ辛いだけなの」6年という長い時間を経たダメージがあまりに大きく、健吾の中では今も不安定さが残っている。綾はその彼の気持ちもよくわかっていた。「すまない、そこまで考えが及ばなかった。これからは俺が、お前の家族になってやる」健吾は綾を胸に抱き寄せ、そのまま離そうとしなかった。やっと、本当にやっと一緒になれたんだ。入籍を決めた翌日、健吾は迷うことなく綾を役所の窓口へ連れて行った。綾は来年の春、縁起の良い日を待って届け出ようと思っていたが、健吾はまるで彼女がどこかへ逃げ出すのを恐れているかのように、一刻の猶予も認めなかった。その夜、二人は友人たちを招いてお祝いの席を設けた。綾側の友人は、明里や雅也、颯太に元研究所の同僚たちが数人。健
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