結婚生活は順調とは言えなかったけれど、神様は綾に二人の愛らしい子供を授けてくれた。「物事は8分目が丁度いい」という言葉もあるし、これで十分幸せと言えるかもしれない。綾は子供たちのほうを向くと、自然と口角が上がった。かわいい娘と息子。二人がこのまま穏やかに大きくなるまで、しっかり見守っていこう。……翌日は登山の予定があるため、綾たちは早めに眠りについた。次の日の朝、目覚まし時計が鳴る前に綾は目を覚ました。二人の子供は、頬を赤くしてぐっすりと眠っている。綾はベビーシッターに小声で頼みごとをし、下の階に降りると、ちょうど起きてきた明里と鉢合わせた。二人は少し早めの朝食を済ませると、車で出発した。道に詳しい明里が運転を買って出て、綾は助手席に収まった。空はすっきりと晴れ渡り、風も穏やかだ。冷房は切って、窓を大きく開け放つことにした。市街地を抜けると、道沿いに山々が見えてきた。霧に包まれた山肌が、絵のように重なり合って見える。まだ少し遠いのに、綾はすがすがしい空気を肺いっぱいに吸い込んだ気がした。「明里、私たち、将来はここに引っ越して暮らそうよ」と冗談っぽく言ってみる。明里は首を振って、きっぱり拒否した。「少し滞在するならいいけど、ずっとここにいたら退屈よ。デパートもないし、街から出たらすぐに山。お年寄りになったら、私は時代遅れになっちゃうわ。やっぱり東都がいい。すぐ隣にブランドショップがあって、美味しいものも遊び場も全部ある場所。そこで流行に触れ続けていたいのよ」綾は残念そうに肩をすくめる。「そうか、じゃあ年をとったら別々だね」「大丈夫よ。二つの場所に交互に住めばいいわ。退屈もしないし、騒がしすぎることだってないでしょ?」明里は楽天家だ。どんなことでもプラスの側面を見つけることができる。綾はふふっと笑った。この親友はいつだって元気いっぱいだ。たとえ老婆になっても、赤いリップを塗ってハイヒールを履きこなすかっこいい老婆になるに違いない。綾は顎に手を当て、窓枠に肘をついた。窓から入ってくる風に長い髪がなびき、顔の大部分を覆った。髪を払おうとした瞬間、隣の車線を黒い車が通り過ぎた。開いた窓の向こう側に、どこか見覚えのある横顔が映ったような気がした。綾は慌てて前を見ようとした
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