綾は荷造りを終えて寝室から出てきた。リビングには、思わず笑みがこぼれるような、どこか間の抜けた光景が広がっていた。健吾が壮真を相手に積木をしている。二人の頭が、すぐ近くで寄り添い合っていた。一方で、湊は瑞希と一緒に座り、瑞希が積木を拾い上げては湊に手渡している。4人がそれぞれの世界で遊んでおり、妙な均衡を保っているようだった。心の中で溜息をつきつつも、綾は気持ちを切り替え、湊に声をかける。そして、夕飯を多めに作るよう、幸子に頼んだ。湊は答えた。「俺の分はいらないよ。済ませてきたから。ただ近くに来たから寄っただけなんだ」湊は綾が隅に置いていたスーツケースに視線を向けた。「どこか遠くへ行くのか?」と尋ねる。「うん。明日から西区へ出張なの」と、綾は特に隠すこともなく答えた。湊は深く納得したように頷き、持ってきたおもちゃを指さした。「これ、海斗がこの子たちに持っていけって」綾が一瞬ぽかんとしてから、海斗が誰だか思い出した。凪の事件以降、海斗は親戚の家に預けられていた。その後、彼のことについて詳しく耳にすることはなかった。時間が経った今でも、その名前を聞いて思い浮かぶのは、あの横柄で甘やかされた小太りな子供の顔だ。「海斗くん、中野家に引き取られたの?」綾はそう聞いた。「ああ」と湊は頷いた。「兄さんの子供だからな。兄さんが出所してすぐに連れ帰ったよ。背も伸びたし、性格もずいぶんと落ち着いて大人しくなった」それを聞き、綾は心から「それは良かったわ」と微笑んだ。海斗だってただの子供だ。親がしでかしたことで、彼を責めるわけにはいかない。まして自分自身が母親になった今、子供に対してはどうしても気持ちが優しくなってしまう。湊は少し黙った後、ふと言った。「出張中、この子たちを中野家で預かろうか?山下さんたちも一緒に来ればいい。家も広いし、使用人も多い」「駄目」「駄目だ」綾と健吾の言葉が、ほぼ同時に重なった。綾は健吾を一瞥してから湊の方を向き、真剣な口調で言った。「湊、壮真と瑞希は家から出さない。私がいない間、見ず知らずの人が関わることは望んでいないの」湊は慌てて言い訳をした。「お前が出張に行くから、家の中に山下さんたちだけでは心配だと思ったんだよ。他の意味はない」健吾がそのタイミングで言葉を挟んだ。
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