로그인その親戚から言われたひどい言葉のせいで、10歳だった綾は、ドレスやティアラを見せびらかすことをやめ、部屋の隅でじっとするようになった。大人の何気ない一言が、少女の心をひどく傷つけたのだ。そのせいで、せっかくの誕生日会も、彼女にとっては辛いだけの思い出になってしまった。その日以来、彼女は自分の感情を誰にも見せないよう、心を閉ざした。だから、たとえテストで1位の成績をとっても、A組のクラスメートや紀之へのあてつけで、すこしだけ調子に乗ってみせるくらいのことしかできなかった。一方、弘幸は気まずい空気に気づき、とりなそうと声をかけた。「綾ちゃん、席を俺の前に変えたらどうだ?」綾は制服の端をギュッと握り締める。返事をしようとすると、健吾が遮るように言った。「彼女は、そんなことで先生を煩わせるようなことはしない」綾は肩を落とし、弘幸の方を見て小さく微笑んだ。「ありがとう。でも、今の席で大丈夫だよ」弘幸は面白くなさそうに健吾を横目で見て、もう一度綾を誘った。「近くに新しい本屋ができたんだ。放課後、一緒に行かない?」参考書が欲しかった綾は、頷いた。「うん、いいね」弘幸は机に手をつき、距離を詰めながら聞いた。「じゃあ、今週末はどうだ?」でも綾は、「週末はいつも友達と会う約束をしているから」と言った。「友達ってこの前、一緒に映画に行ってたキレイな子?彼女はどこの学校なんだ?」「彼女は国際高校だよ」「俺も今度、一緒に遊んでもいい?」だが、綾は明里が弘幸を苦手に思っていることを思い出し、申し訳なさそうに言った。「ごめんね。彼女、ちょっと人見知りで」片や、二人のやり取りがうるさかったのか、健吾は不機嫌そうに口を挟んだ。「そんなのラインで話したらどうだ?」そう言われ、綾は唇を引き結び、俯いて教科書を開いた。弘幸は肩をすくめ、自分の席に戻るとスマホを取り出した。【青木っていつも偉そうにしてるから、気にすんなよ。次は二人で遊びに行こうぜ、あいつ抜きで】しかし、綾のスマホは常にマナーモードで、学校ではあまり見ていないため、そのメッセージには気づかなかった。それに彼女も、健吾のさっきの態度に腹は立てていなかった。弘幸と自分がお喋りしてて、少し騒がしかったのも事実だから。昼休み、綾は列に並ぶのが面倒で、教室で勉強をし
すると、紀之は顔を強張らせて尋ねた。「国際クラスへの編入だって?」「はい、家族が決めてくれたことですので。校長先生もご存じのはずです。では、失礼します」綾は淡々と微笑んで、クラスメートが驚きに目を見開く中、潔く教室を後にした。振り返ることはなかった。もう二度と、彼らとは関わりたくなかったから。そこで、ちょうど通りがかった国際クラスの担任が、廊下で綾を見つけると笑顔で足を止めた。「学年1位さん、ようこそ我がクラスへ」綾は少しはにかんで、「はい、先生、こちらこそ」と答えた。「さあ、こっちへおいで」教壇に立った国際クラスの担任が声を張り上げる。「みんな、紹介するよ。単元テストで学年1位をとった中野さんだ。今日からこのクラスの仲間になる。拍手で迎えてやってくれ!」拍手の湧き上がる中、綾は深々とお辞儀をした。体を起こすと、無意識に健吾の方を向いた。国際クラスの担任は健吾の前の空席を指差した。「あそこの席に座るといい。前に座っていた生徒がちょうど留学に行ったから」そう言われ、綾は思わずドキッとして、「はい、先生」と答えた。そして、彼女が健吾の前の席まで歩いていくと、彼と軽く目が合ったので会釈をして着席した。授業が始まるのに合わせて、教科書と文房具を几帳面に並べた。1限目のチャイムが鳴り、健吾がふと顔を上げると、前には姿勢よく座る少女の姿があった。ポニーテールを背に垂らし、ノートを取る姿はとても真剣だった。国際クラスは大学進学を見越した独自の授業が中心で、大学入学共通テストのためだけに必死に知識を詰め込むような雰囲気ではなかった。幅広い学びが得られる環境に、綾は安堵した。休み時間になると、弘幸が綾の机に駆け寄って椅子を引いた。「すごいよな!綾ちゃん、クラスを変えるって決めたら本当にすぐ変えるんだな」そう言われ、綾は微笑んで答えた。「ここの方が落ち着けそうだし」「大歓迎だよ!」と弘幸が手を差し出す。「国際クラスを代表して、正式に歓迎の挨拶をさせてくれ」綾は少し戸惑いながらも、素早く相手の手を握り返した。弘幸は嬉しそうに手をこすり合わせて興奮した様子で言った。「お前は1位、青木は2位だろ?これで『お坊ちゃまクラス』なんて呼ばせないぞ」綾が後ろを振り返ると、健吾が一人でタブレットを見てい
「湊がもう片づけてくれた。でもあの時、私に反発する勇気をくれてありがとう」健吾は綾の顔をちらりと見てから、思わずこう尋ねた。「一体、彼らとなにがあったんだ?」綾を見ていると、とても自分から争いを起こすようなタイプには見えなかったからだ。綾は指先をぎゅっと絡め、白くなるまで強く握りしめていた。少し沈黙してから、彼女はぽつりと語りだした。「いじめられたのは凛から。彼女の家に半年居候してたんだけど、その間に叔父さんが亡くなって……凛は私のせいで叔父さんを死なせたって決めつけたんだ」自分の子供の頃の話を誰かに話すなんて、綾にとって稀なことだった。まして、それほど親しくない相手にはなおさらだ。たとえ何が真実か分かっていても、肉親から憎まれ傷つけられた過去を口にするのは、やはり辛いものだ。でもなぜか、健吾の前だと、その痛みも予想外に淡々と言うことができた。多分、今日の雨はあまりにも激しく、車窓を隔てて、窮屈な車内の小さな空間に囲まれたからだろう。あるいは、ただ静かに自分の話を聞いてくれる健吾の姿が、重くのしかかっていた辛い出来事の痛みを少し和らげてくれたのかもしれない。それを言い終えると、車内には再び雨の音だけが残された。ふと綾は窓ガラスに映る彼の姿をこっそり見上げた。そこに浮かぶ彼の輪郭は、穏やかで、どこか頼もしさを感じさせた。やがて健吾は冷たく笑い捨てた。「その凛ってやつも、ずいぶんと思い過ごしたものだな。そもそもお前にそんな力があるんなら、あんな風に人からいじめられて縮こまったりしてないだろ」そう言われ、綾は意地を張るように言った。「ただ、あんな人たちといちいち争うのが面倒だっただけ。学業に差し支えるし」健吾が低く笑うと、マイバッハはタイミングよく停まった。おかげで綾の気まずさもいくらか和らいだ。「じゃあこれで。送ってくれてありがとう」綾がドアを開けて降りようとすると、健吾に呼び止められ、傘を差し出された。「これを持ってけ」「ありがとう」走ればすぐだと断ろうと思ったが、「いらない」なんて言ったらまた健吾に茶化されそうだったので、素直に受け取った。それから、帰宅後、彼女は熱いシャワーを浴びてから健吾にメッセージを送る。【傘をありがとう。月曜に返す】すぐに健吾は返信してきた。【好きにすれば
「別に、どっちでもいい」健吾は気だるげな調子でそう言うと、スマホに目を落とした。明里は綾を脇へ引っ張ると、小声で囁いた。「実際いい人じゃない?さっき言ったみたいに冷たくもないし、綾、今のうちにアタックしなきゃ!」綾は呆れてため息をつく。恋愛のことしか頭にない明里に、少し疲れてしまう。その時、後藤家の車が近づいてくる。胡桃が窓を開けると、雨が車内に吹き込んだ。「綾ちゃん、乗って。送っていくわよ」綾は頭上で両手を合わせ、軽く会釈して断った。「ありがとうございます。でも、この人の車に便乗する約束をしているんです、通り道だそうで」胡桃は綾の背後に立つ健吾に目をやり、明里と同じような含みのある笑みを浮かべた。「あら、そうなのね。それなら家に着いたら明里にメッセージしてね。それじゃ、私たちは先に失礼するわ」「はい、ありがとうございます」綾は健吾の横へ戻り、服についた雨粒をパッパッと払った。見慣れた黒のマイバッハが雨音を立てながら、二人の前で静かに止まる。乗り込むと、健吾はティッシュを一枚差し出してくれた。「ありがとう」綾は濡れた箇所を丁寧に拭きながら、気まずい沈黙の中で静かに座る。窓の外では、雨が容赦なく車体に打ちつけていた。午後4時過ぎだというのに、外は黄昏時のように薄暗い。車内の灯りも少なく、外から差し込む街灯の明かりが時折ぼんやりと過ぎ去っていくだけだった。綾は視線を泳がせ、そっと隣の健吾を盗み見る。彼はうつむき加減で端末を読み耽っており、スクリーンの青白い光がその整った横顔を浮かび上がらせていた。青く深い瞳に、長い睫毛が落とす小さな陰影。本を読んでいるだけなのに、なぜこれほど気品が漂うのだろう、と綾は思った。心臓が変に高鳴り、綾は慌てて視線を逸らした。その気配を感じ取ったのか、健吾が突然こちらを向く。すると、真っ直ぐな視線が綾の視線と重なった。「どうかしたか?」ぎくりとして、耳が熱くなるのを感じる。綾は少し体勢を整え、慎重に切り出した。「その……青木くんはI国のハーフで、ずっとI国で過ごしてたんでしょ?なんで急に東都に来ることにしたの?」言ってしまってから、少し踏み込みすぎたかと焦る。綾は慌てて言い添えた。「話したくなければ、今の質問は聞き流して」だが健吾は、穏やかに答え
そう言って、綾は健吾の真似をして冷めた表情を作ってみせた。「ねえ見て、こんな感じ。いつも冷たい顔をしてるの。馬鹿にしたような笑い方をする時以外はね」明里はそれを聞いて吹き出した。「あはは!面白い人だね。それってわざとクールを装ってるの?中二病じゃないの?」「もう、そういう性格なの。本当に淡白っていうか……」綾は笑顔を強張らせ、目の前から歩いてくる健吾に気づいて固まった。明里は心当たりがあるのか目を泳がせ、気まずそうに苦笑いした。「あら、すごい偶然ね」綾はぎこちなく話を合わせ、健吾に言った。「そうよね。あなたも泳ぎに来たの?」健吾は綾を一瞥し、冷たく言い放った。「クールを装う中二病って、フェンシングの方が好きなんだよ」彼は足を止めることなく、隣のフェンシング館へ歩いていった。綾は頭を抱え、地団駄を踏みながら無言で叫んだ。「明里!全部聞かれてた、どうしよう!」明里は綾を慰めた。「大丈夫、大丈夫。だってクラスが違うし」綾は泣き出しそうになりながら言った。「月曜日から国際クラスへクラス変更することになってるんだよ」高校では健吾と弘幸しか顔見知りがいなかったのに、これじゃ最初から気まずいじゃないか?何より、他人の陰口を叩くような人だと思われたくなかった。明里は首を傾げた。「なんで?A組って良くないの?」綾は適当にごまかした。「湊が勝手に決めたのよ」自分がひどい目に遭っていたことは湊にしか話していなかった。わざわざ事を荒立てる必要はない。明里のような短気な性格の人が知ったら、間違いなく凛を問い詰めに行ってしまうだろう。明里は綾を哀れな目で見た。「平気だよ。普通、冷たい人って、根に持つタイプではないし」「そうだといいんだけど……」二人で2時間ほど泳いだ後、プールの外へ出ると雨が降っていた。明里がスマホを取り出す。「お母さんに電話して迎えに来てもらおうよ」綾はそれを止めた。「タクシーで帰るから大丈夫だよ。余計な迷惑かけたくないし」「タクシーとか、変な匂いがすることもあるじゃない?タバコや汗の匂い、耐えられないでしょ?」綾は重ねて言った。「じゃあ、私だけタクシーで帰るよ。明里のお母さんを煩わせたくないし」胡桃はいつも親切にしてくれるが、それでもあまり気を使わせたくなかった。この
休み時間、綾は水筒の水を飲みながら、視界の隅で凛たちの様子をうかがった。凛たちは時折、こちらを鋭く睨みつけていたが、もう直接的な嫌がらせはしてこなかった。昼休み、綾は食堂でいつも通り、弘幸と健吾の二人と席を共にした。綾は二人を驚かせてやろうと思い、自分が国際クラスへ異動することは内緒にしていた。弘幸が牛乳を綾の脇に置き、言った。「勉強、大変だろ。飲めよ」綾は牛乳を押し返して答えた。「ありがとう。でも、大丈夫」綾は健吾を見上げて、にっこり笑った。「抵抗するって大事ね」実際は湊が解決してくれたけれど、自分の抵抗があったからこそ、湊はこの問題を知ることになったのだ。箸を握る健吾の手が止まった。表情は読めない。綾は健吾のクールな態度に慣れていた。この人は、わざわざ嫌味を言わないだけ、マシなのだ。弘幸は二人の顔を交互に見て、首を傾げた。「二人、何の話してるの?よく分かんないんだけど」綾は笑った。「何でもない。もう気にしないで」弘幸はまた健吾の方を見たが、健吾は取り合おうともしなかった。ここ数日、健吾は冷たくてよそよそしい。昼食を共にする以外、会話もほとんど交わさない。それでも弘幸は深く考えていなかった。健吾はもともと誰にでも親しく接するような性格ではなかったからだ。国際クラスへ移るまでの最後の1週間、綾は勉強に打ち込み、単元テストに備えた。紀之はますます綾を敵視し、あからさまな言動こそ控えるものの、陰口を叩いたり無理難題を押し付けたりした。紀之の言動を見る限り、湊が紀之本人を飛び越して校長へ直訴したのが気に入らないらしい。そんなこと、綾にはどうでもよかった。残り数日の辛抱なのだから。単元テストの前日、紀之が教室内で声を荒げた。「実力だけで合格した気になって、教師を敬わず、同級生をいじめるような真似をするやつがいる」紀之は一度言葉を切り、数秒間だけじっと綾を睨みつけた。凛が真っ先に嘲笑し、周りの生徒もひそひそと囁き始めた。綾は背筋を伸ばし、腹立たしさはありつつも、心は平穏を保とうとした。紀之は咳払いをしてから付け加えた。「単元テストで満足な点数をとれなければ、ただじゃおかないからな!」綾は目を伏せ、紀之の嫌味を聞き流しながら、知識の暗記に没頭した。湊が過酷な環境に気づいてくれ