「髪をバッサリ切ったら、気持ちも少しは前を向けるかなって思いまして」口にした瞬間、自分でも苦笑いが浮かびそうになる。ちゃんとした理由なんてない。説明できるほど、自分の気持ちは整理できていなかった。ただ――何かを変えたかった。それだけだった。「……前を向けるって、何かあったの?」低くて落ち着いた声。責めるでもなく、探るでもなく、ただ聞くための声だった。「実は……最近、不幸が続きすぎて。このままだと、ずっと負のループな気がして……」言葉にした途端、喉の奥がきゅっと詰まる。視線が自然と床に落ちた。弱音を吐くつもりなんてなかったのに。「そっか……つらかったんだろうね」その一言で、胸の奥が小さく揺れた。……そのときだった。ふっと、頭に触れる感触。反射的に肩がこわばる。ルカさんの手が、私の頭の上にあった。指先が、ゆっくりと髪を撫でる。――え?声にならない。初対面。美容師と客。距離が近いのは仕事だから分かる。でも、頭を撫でるのは想定外だった。ルカさんは何事もないみたいに撫で続ける。当たり前みたいに。だから、変に意識しているのが私だけみたいで、恥ずかしくなる。顔、赤くなってないかな。いや、絶対なってる。耳まで熱い。そっと顔を上げると、ルカさんの顔がすぐそこにあった。瞬きもせず、じっと見ている。いつの間にか距離が近い。息がかかりそうで、心臓が急にうるさくなる。沈黙が、重たい。耐えきれなくなって、私は口を開いた。「……実は、最近いろいろあって……」自分でも驚くほど、言葉が止まらなかった。溜まっていたものが、一気に流れ出す。ホストに騙されたこと。お金を取られたこと。信じた分だけ、人間不信みたいになったこと。もう一度恋をしようとして、マッチングアプリでまた傷ついたこと。普段なら、絶対に言わない話だった。誰にも打ち明けられなかった話。でも今は、ただ聞いてほしかった。ルカさんは黙って聞いていた。相づちは少ない。遮らない。目を逸らさない。「……お金を、騙し取られたって?」眉が、わずかに動く。「……許せんな」低く、短い声。吐き捨てるみたいで、まるで自分のことのようだった。胸の奥が、じんわり熱くなる。誰かが、自分の代わりに怒ってくれる。それだけで、こんなにも救われるなんて。
Last Updated : 2026-01-26 Read more