Tous les chapitres de : Chapitre 81 - Chapitre 90

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第81話

前から潤が忘年会で本当の自分を明かすことは分かっていて、莉亜には大きく驚いた様子はなく、冷ややかな目でステージ上の男のスピーチを聞いていた。もうすぐ楽しいサプライズの始まりだ。目の前の状況が混乱しているのを見て、潤は急いでその場を収めようと話し始めた。「みなさん、お静かに願います。みなさんが私と莉亜との結婚に疑問を抱いていらっしゃることは分かっています。本日、この場をお借りしてみなさんに説明させてください」彼は深く息を吸い、わざと仕方ないといった様子を作りだして、疲れきった声を出した。「実は、私と莉亜とは契約を交わした事実婚だったのです。ただ、世間のみなさんと家族の前では本当に結婚しているというふりをしていたのです。相馬家と小鳥遊家は私たちが幼い頃に婚約を決めました。しかし、私はずっと彼女のことを実の妹のように見ていたのです。だから、男女の間に生まれるような愛は芽生えなかった。そして家族の要求に応えるために、みなさんを騙し続けていたというわけです。本日、この場でみなさんに深くお詫びいたします。それから、私は自分が所有する株の5パーセントを莉亜に贈り、それを彼女への罪滅ぼしとしました」そう言い終わると、潤は深々と頭を下げた。彼の話がホール内を再び騒然とさせた。「なんだって?つまり、みんなの前で莉亜さんが妻に見えるように愛妻家を演じていたということか?」「それでいつも生田さんと相馬さんが一緒にいるのを見かけてたのね。二人のほうがそういう関係だったんだ」「ああ、だけど確かに理解はできるかな。彼と莉亜さんって小さい頃から一緒に育ってきたんでしょ。もう家族みたいで恋愛感情なんて芽生えるはずないじゃない?」ホールの議論する声がピークに達した時、莉亜がゆっくりと立ち上がって、皮肉交じりに言った。「潤さんって、相馬家の名誉のためなら、どんな手段も選ばないのね。そんな理由まで完璧に用意していただなんて。拍手を送るべきかしら?あなたのその演技が幕が閉じるまで無事演じ切れるように」まさかこの大勢の中、莉亜から自分の面子を潰される羽目になるとは思っておらず、潤は顔を暗くしてすぐに反応し言い返した。「莉亜、君がかなり前に俺のことを好きになったことは分かってるけど、愛は強制するものじゃないだろ?俺たちが事実婚だったとしても、この数年俺たち
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第82話

予想をはるかに超える事態が起きてしまい、潤は急いでパソコンを閉じ、莉亜を引っ張ってステージ裏へとおりた。彼はかなり不機嫌そうに顔を歪めて、喉の奥から絞り出すように声を出した。「莉亜、お前は一体何をやっているんだ?相馬家の名声を地に落とさないと気がすまないっていうのか?お前が要求してきた株は望み通りやっただろう。一体何を考えている?」「私が何を考えているかですって?」滑稽話を聞いたかのように、莉亜は冷ややかに鼻で笑い無表情で彼を見た。「あんたね、二日前に土下座して私に謝ってきたのはあんたでしょ。そして今、私たち二人の関係を白紙にしようとしているのもあんたよ。どうやら、相馬潤という人間を本当に理解できていなかったみたいだわ」生気の宿っていないような彼女のその冷めた目に、潤の心の中には一気に後悔が押し寄せてきた。しかし、それはただ一瞬のことで、潤は自分のほうに分があると、再び勢いづいた。「そうだ、君を騙していたことは認める。それは俺が悪い。だけど、君と一緒になってからのこの数年間、君に対していろいろしてあげてきたはずだ。君が欲しい物は全て捧げてきた。小さい頃から長年共に過ごしてきた情ってものがあるはずだ、それに免じてお互い和解しようじゃないか」あの見慣れているはずの顔がなんだか知らない人のように思えてきて、気分が悪くなる。その嫌悪感に我慢できず、彼女は口を押さえてえずき、なんとか胸の奥に込み上げる感情を抑えて冷ややかに言った。「前から何度もあんたのことを許してやってきたのよ。その腐った性根をどうしても変えようとしなかったあんたに、そんな情なんて残ってるわけないでしょ。潤、相馬家と小鳥遊家の仲を考慮して、私はただ私が得るべき財産を要求しているのと、あんたが勝手に使った私の配当金を返してもらいたいだけ。それ以外に関してはあんたの好きにしなさい」莉亜は携帯を取り出して日付を確認し、今までにないほどの冷徹さを見せた。「数日はちょうど時間があるから、時間を見つけていろいろと手続きに行きましょうよ。それで私たちは完全に赤の他人よ」莉亜のこの態度が潤の逆鱗に触れ、彼はもう湧き上がる怒りを抑えることができなくなり、莉亜のあごを力強く押さえた。「莉亜、人ってのはな、貪欲になってはいけないんだ。俺という存在がなければ、お前の財産は今まで残っていたと
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第83話

潤は少しからかうように目の前にいる莉亜を見ていた。「そうだ?考えてみろ」彼がそう言い終わると、パーンという音が鳴り響いた。莉亜は全力で彼の頬を打ち、冷ややかな顔をしていた。「潤、ほんっとに気持ち悪い!」顔を横にそむけて、潤は痛そうに顔を歪め、だんだんと陰湿な目つきに変わっていった。「莉亜、お前のせいだぞ」彼は片手で彼女の首をつかみ、その手にだんだんと力を込めていった。「どうして聞き分けのない女に変わってしまったんだ、あ?俺はお前に何かひどい真似でもしたのか?どうしてこのような仕打ちを俺にする」首を絞められ息ができない莉亜は顔を真っ赤にして苦しそうに口を開いた。「そ、うま、じゅん、は……放しなさい。そ、外にはまだ大勢いるのよ。もし私に何かあれば、あんた評判は本当にがた落ちよ!」「そうか?ならこの涼ヶ崎で俺ら相馬家に処理できないことがあるか見てやろう!」潤は両目を真っ赤にして彼女を睨みつけていた。彼の手の力がだんだん強くなっていき、莉亜は頭がくらくらし始め、視界がぼやけてきた。この時、よく通る男の声が後ろから響いた。「彼女を放せ!」潤がそれに反応する前に、朔也が早足で近寄り、潤の顔めがけて拳を振り下ろした。そして素早く傍にいる莉亜の身体を支えた。「莉亜、大丈夫か?」束縛から逃れることができた彼女は大きく胸を上下させて荒い息をつき、ゆっくりと呼吸を整えてうなずいた。「大丈夫です」彼女の様子を観察し、怪我をしていないことを確認してから朔也は相手を凍りつかせるほどの冷酷な目つきで傍にいる潤を睨みつけた。そして冷淡な声で言った。「今日からお前は会社に行く必要はない。他の者に継がせる。それから、相馬グループが被った損失の全てをお前一人で責任持て。外にいるあのメディア関係者たちにどう説明するか、今ここでよく考えることだな」そう言うと、朔也はコートを脱いで莉亜の肩に羽織らせ、彼女の手を繋いで潤に背を向けて去っていった。「兄さん、あなたが考えているような事じゃないんだ。さっきは頭に血がのぼって正しい判断ができなくなっただけだ。説明させてくれよ」どうすればいいか分からなくなった彼は急いで朔也に追いつき、どうにかこの場を乗り切ろうと頭の中で計算していた。しかし、潤が後に続いてステージ裏から出てきたところをメディア関係者の一団に
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第84話

気持ちを落ち着かせた後、莉亜はすぐにSNSを開き、自分と潤は関係を断ち切るという内容をアップした。「本日をもちまして、私、小鳥遊莉亜と相馬潤は正式に関係を断つことになりました。近日中にそれに関しての諸々の手続きを終了させます」SNSに投稿し終わると、彼女は携帯を取り出して潤とのチャット画面を開き、文章を打ってメッセージを送った。【三日後に直接会って、決着をつけましょ。別に来なくてもいいわ。だけど、来なかったその時は昔の情なんて本気で考慮してやらないから覚悟しなさい】たった一夜で、莉亜が投稿したSNSの内容は一気に検索ランキングトップになった。それに伴い、相馬家は炎上する事態になってしまった。その事を知った瞬間、薫子はあまりの怒りで卒倒しそうになり、激しくテーブルを叩きつけた。「あのバカ息子、本気で我ら相馬家を潰す気なの?」彼女は全身をわなわなと震わせ、何度も深呼吸をしてなんとか平静を保っていた。そして傍に立っている執事のほうへ目を向けた。「潤に電話をして、すぐに帰ってこいと伝えなさい!」「かしこまりました、奥様」執事は頷き、丁寧にお辞儀をしてからさがった。数分ほどして、彼は再びやって来ると、しどろもどろに話し始めた。「奥様、潤様の携帯に繋がりません」「この裏切り者!いつかかならずこのバカ息子は私を完全に怒らせると思っていたのよ!」そう言うと、薫子は頭に血がのぼり、強烈な眩暈に襲われて危うく意識を失ってしまうところだった。彼女は手でこめかみを押さえ、暫く落ち着いてからやっと調子が戻った。「あの子の性格は本当に父親譲りね!同じ母親から生まれたってのに、朔也は小さい頃から物分かりよくて、逆に可哀想になるくらいだったでしょ?」薫子は力なくため息をついた。「それも私のせい。あの子を甘やかせすぎたわ。それでこんな性格になってしまったのよ」執事は薫子の背中をさすりながら、何か思いついたらしく、ゆっくりと口を開いた。「奥様、今私どもがやらなければならないのは、まず相馬家の名誉を守ることです。損失を最大限に抑えなければなりません」薫子もそのようなことははっきりと分かっている。彼女は思い悩んだ様子で首を横に振った。「母親の私ですら、あの裏切り者と連絡がつかないのよ。彼が出てこようとしないのに、何か方法があるっていうの?」執
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第85話

莉亜は暫く考えてから、容赦なく言い放った。「息子さんの財産全てを私に譲るように言ったら、それも叶えてくれるのですか?」「あんた!」莉亜のその言葉に怒りの限界ギリギリまできた薫子は、執事から送られる視線に、ようやく気持ちを落ち着かせた。「莉亜さん、分かってるわ、今回の件で潤があなたに与えた傷は大きすぎて許してもらえないことくらいね。私があなたの立場なら、一生彼を許すことなんてできないもの。なら、こうしましょう。今日は私のためにうちに食事に来てちょうだい。あなた達二人の問題は、あなたが私を信じられるというのであれば、あなたが満足いく答えをあげるわ。私のことを信じられなくてもいい。今日は軽い気持ちで食事に来て。今後も私のことは実の母親だと思っていていいからね」少しの間考えてから、莉亜は喜んでそれに応えた。「いいでしょう。奥様がそこまでおっしゃるのなら、今日は約束通りに行きます」ちょうど相馬邸には取りに行かなければならないものがある。潤が財産分与の書類にサインしようとしないので、彼女は潤の母親である薫子に代わりにサインしてもらうしかない。それ以上に、莉亜はこの女がまだ何を企んでいるのか興味があった。二時間後、一台の車が相馬邸の前で停まった。莉亜が車から降りた時、すでに玄関先で長時間待機していた執事が彼女を迎えに出て、丁寧に頭を下げた。「莉亜様、奥様はすでにリビングでお待ちです。こちらへどうぞ」執事が莉亜を連れて家に入ってきたのを見ると、薫子は急いで立ち上がり、親しげに莉亜の手をとった。「莉亜さん、やっと来てくれてのね。ずっと待っていたのよ。今日は特別に使用人にあなたの好きな料理を用意させたからね、ささ、座って」彼女がこのように突然自分に優しくしてきたのに莉亜は慣れず、相手にそれを気づかれないようにスッと手を戻して、強気な姿勢を見せた。「奥様、今日はまだ用事があるので、食事は一緒にできないかと思います」そして彼女は自然な動作でソファに腰かけ、薫子を真正面から見つめた。「今日はどのようなご用件でしょうか。奥様、構いませんので直接話してください」その言葉に、薫子は引き続き遠回しなやり方をするのをやめ、単刀直入に言った。「莉亜さん、あなたも知っての通り、今回の件は我が相馬家にかなりの影響を与えたわ。私に免じて、潤にもう一度だけチャ
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第86話

薫子の言葉に莉亜はおかしく思えてきた。当時、莉亜は確かに自分の持つ全ての財産を潤にあげようと考えていた。しかし、何度も続く彼の浮気とそっけない態度に、彼女は完全に失望していった。そして今、莉亜は本来自分のものだった財産を全て取り戻したいだけだ。それなのに、なぜそれが許されない行為であるかのように言われなければならないのか。莉亜は皮肉をこめて言った。「え?奥様、さっき言ったばかりの話を撤回したくなったのですか?」自分自身間違っていると分かっていながらも、薫子はペンを置き、気まずそうな笑みを向けた。「莉亜さん、私もいろいろと経験してきたから、あなたの考えはよく分かるの。あなたが潤名義の全ての財産を管理したいのね。安心して、あなたが彼とこれからも一緒にいてくれると言うなら、その望みは叶えるから。彼のお金は全部あなたに管理してもらうことにするわ」男は、稼いだ金を誰に任せるかによって、心を誰に向けているのか分かるものだ。この時、莉亜はすでに薫子の考えを見破っていて、カバンを持って立ち上がった。「奥様、勘違いなさっているようですが、私が言いたいのは、あの財産全てを私の名義にしたいのであって、私が彼の財産を管理したいわけではありません。もし、それができないようなら、やはり彼との関係を清算することにします」そう言うと、これ以上無駄な話をする気はなく、薫子に背を向けて出ていこうとした。去ろうとする莉亜の背中を見つめ、薫子は無意識に拳を握りしめ、怒りをどうにか抑え込みながら、悔しそうに尋ねた。「今回の件、もう話し合いの余地はないというの?」それを聞き、莉亜は立ち止まったが振り返ることはなかった。「奥様、私としては、相馬家と小鳥遊家にとって、私と潤が赤の他人になるのが一番良い選択だと思います」話し終わると、彼女は大きな歩幅でまっすぐにドアの外へ向かって歩いていった。しかし次の瞬間、薫子の冷たい声が後ろから響いた。「その子を止めなさい」入り口に待機していた二人のボディーガードはその言葉を聞き、すぐに手を伸ばして莉亜の行く手を阻んだ。莉亜は理解できない様子で眉をひそめ、後ろを振り返って訝しそうに薫子を見つめた。「奥様、これは一体どういう意味ですか?」さっきまでの穏やかな態度から一変し、薫子は落ち着いた様子でお茶を口に含み、冷
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第87話

莉亜は小鳥遊家の財産をかなり相続していたが、彼ら相馬家と比べると天と地ほどの差があった。薫子はゆっくりと莉亜の前に来ると、彼女のあごをつかみ、軽蔑するようにじろじろと見つめた。「ただこの顔なら潤とはお似合いね。それも顔だけ釣り合えるってこと」力強く薫子の手を払いのけ、莉亜は皮肉っぽい笑みを浮かべて自分から彼女に近づいた。「あんたがずっと気に食わない女はね、当時潤が命を懸けても結婚したいと言っていた女なのよ。奥様、きっとまだよく理解できていないのでしょうけど、この結婚に執着していたのは、私ではなかったんですよ」その言葉に完全に自制がきかなくなった薫子は怒りで顔を真っ赤にさせた。「あんた、数日神にでも祈ってればいいわ。その時もこのような口の利き方ができるかしらね!」薫子は近くに待機しているボディーガードをギロリと睨みつけ、金切り声をあげた。「そこでぼけっとしてないで、さっさとこの女を連れていきなさい!」ぼさっとしていられず、ボディーガードは恭しく頷いた。「はい、奥様」これと同時刻。朔也は莉亜からプレゼントされたカフスボタンを持ち帰ってから、ずっとそれが入ったボックスを見つめ、視線を外さなかった。彼は指先で優しくカフスボタンを撫で、周りには気づかれないほどの微かな笑みを浮かべた。これは彼が人生で初めてもらった贈り物だ。しかも莉亜が初めて自分にくれた物だ。社長の微かな感情の変化に気づき、隣で仕事の報告を途中までしていた秘書が不思議に思い、探るように尋ねた。「相馬社長、午後会議があるのですが、聞こえていましたか?」我に戻ると、朔也は真顔に戻り、立ち上がった。「午後の会議は明日に変更する。俺はちょっと出かけてくる」その言葉を残し、朔也は大股でオフィスから出ていった。秘書はどうにも状況を呑み込めなかったが、言われた通りにした。部下にそれを伝えると急いで朔也の後に追いついた。会社から出ると、朔也は携帯を取り出して、少しの間だけ迷ってから、莉亜に電話をかけた。しかし、何度かけても、相手は電話が繋がらない状態だった。莉亜に何かあったのだと悟り、彼は顔をこわばらせた。「莉亜さんの居場所を調べろ」「はい、かしこまりました」秘書は恭しく頷いた。秘書は再び戻ってくると、携帯にコピーしてきた監視カメラの映像を朔也の前
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第88話

執事は顔に冷や汗を流し、責任回避のための言い訳を考えていたが、無意識に視線を物置部屋のほうへ向けていた。その瞬間、朔也の目線もその方向へ移動し、その先に鍵がかけられた部屋が見えた。彼の目つきはその中まで全て見えているかのように、何でも見透かしているようだった。執事は自分の動作に全てがばれてしまったことに気づいたが、依然としてしどろもどろにこう言った。「我々は本当に何も……」「言う気はないんだな?いいだろう、お前はクビだ」朔也はそう言いながら、すでに足を物置部屋のほうへ向けていた。その部屋に近寄ると、彼は中から少しの物音を聞き取ったようだ。さっき慌てて帰ってきたので、冷静さにかけていたから、最初はそれを気づいていなかった。そしてさらに部屋の入り口に近寄って行くと、中から聞こえてくる音はだんだんはっきりしてきた。誰かが中で壁を叩いているような……声が出せないからだろうか?この時、莉亜は確かに期待を込めてドアを見つめていた。彼女がここに閉じ込められてもう数時間経過している。最初、ただ彼女はゲストルームに閉じ込められていたが、彼女が中にある物を派手に壊し、抗議の意を示した。そんな莉亜を煩く感じ、潤のところに駆けつけて話し合おうと思っていた薫子は直接執事に言いつけて、ひどいやり方に変えたのだ。莉亜は携帯を没収され、口を塞がれて椅子に縛り上げられ、動くこともできないような状況だった。しかし、彼女は賢かった。最初は彼らの警戒意識がまた高まってしまうのを恐れて何も物音を立てていなかった。暫くじっとしていて、外から音が聞こえてきた……莉亜は朔也が来たのだと判断した。この時、朔也はすでにドアの前に立っていて、微かに震える声で尋ねた。「莉亜さん、中にいるのか?」莉亜も自分がどうやってドアまで行けたのか分からないが、この時力いっぱいにドアを蹴った。本当に朔也が来てくれた……彼が何度も彼女に気づいて助けてくれるうちに、彼女の心には、すでに何かが生まれ始めていた。莉亜は口を塞がれていて声が出せない。内心相手に返事したくて気持ちが焦っていた。ドアが微かに動いた。誰かがドアノブをひねっているようだ。しかし、この時、ある女の声が聞こえてきた。「あら、どうして帰ってきているの?」その瞬間、莉亜は一気に緊
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第89話

薫子は彼に聞かれ、言葉が出せなかった。莉亜は注意深くドアの外の会話を聞いていた。心は真冬のように凍りついていた。彼女は昔から、薫子はあまり賢い女じゃないと分かっていた。ある程度の手段は家族内の事情ではそれなりに通用しているように見えるだろうが、潤の問題となると彼女は浅はかな考えしか思いつかない。薫子はなんとか時間稼ぎをしておいて、その隙に潤を探すつもりだった。それに莉亜に代わりこの状況を収めようと思っていたのだ。しかし、忘年会ですでに対立している二人が、突然意味不明にまた仲直りするような真似をすれば、さらにお茶の間の話題として盛り上がるだろう。薫子はそれを考えただけでも気分が塞ぎ、思わず嗚咽をもらしていた。次の瞬間、ドアの外にいる男の口調が柔らかくなった。「莉亜さん、もしそこにいるなら、ドアから少し離れて」執事はこの時見ていられなくなり、朔也に近づき邪魔しようとしたが、押しのけられてしまった。彼は壁に背中から激しくぶつかり、腰をかがめてまるでエビのように丸まってしまった。薫子はそんな彼を睨みつけた。「なんて役立たずな!」彼女はまたボディーガードを呼んだ。朔也の相手になるわけにはいかないが、少しくらい時間を稼げれば……その時、ドンッという大きな音が鳴り響いた。朔也はあっさりとドアに足蹴りをし、物置部屋のドアが開くのを見ていた。ドアが土煙をあげて激しく倒れ、彼は躊躇することなく中に入っていった。この時、莉亜はまだ椅子に縛られていて、突然差し込んだ光のほうへ視線を向けた。そして逆光に男の姿が見えた……彼の姿を見た瞬間、目に涙が浮かんできた。朔也は一人だが、彼はすでに莉亜の姿を見てしまったので、薫子も誰かに朔也の邪魔をさせることができなかった。朔也は莉亜の傍に駆け寄ると、その高い視界から彼女を一目見下ろすと、まるで雷に打たれたかのようにその場に固まってしまった。自分の今の様子はきっとかなり可哀想な姿に映っているのだろうと、莉亜は分かっていた。彼女は目にいっぱい涙をあふれさせ、瞬きをするたびに涙がぽたぽたと落ちていった。まるで驚いて怯えるウサギのようだ。さっきまで険しい表情をしていた彼は、その瞬間心を痛めたように辛そうな顔をした。彼は優しく相手を気遣った動作で落ち着いて彼女を縛り付ける縄を解いてい
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第90話

暫く考え、莉亜はやはり何か話そうと思った。「今日は、どうもありがとうございました」朔也がこれまでに自分のためにしてくれた諸々のすべてを合わせて、たった一言の「ありがとう」だけでは物足りないことくらい、莉亜は分かっていた。しかし、この男は一度もそれを理由に、彼女に何か無理強いするようなことはなかった。何か要求してくることさえもなしだ。それでたまに莉亜は不思議に思っていた。しかし、今の彼女は後からきた恐ろしさと、安心した喜びで、どう彼に恩返しすればいいのか答えは出せなかった。「もし朔也さんが来てくれなかったら、今日はどうなっていたことか」彼女は一応、万が一に備えてはいたものの、まさか薫子がここまで極端な行動に出るとは思ってもいなかった。今日の事を潤が知っているのかどうか分からず、さらに恐ろしさを感じた。しかし、この母と子は私利私欲に駆られる似たもの同士。恐らく同じような決断をしたことだろう。もし潤があの場にいれば、かなりの確率で「俺は君のため、俺たち二人のためにやってるんだ」と言いながら自ら彼女を縛り上げたはずだ。この時、朔也は突然口を開いた。「もし、今日俺が突然現れなければ、どうするつもりだった?」それは確かに莉亜には分からない問題だった。何か言おうと彼女は口を開き、今日自分が朔也に助けられたことは確かに予想外の出来事だったと意識した。朔也は彼女がその質問に答えられないことが分かり、鼻を鳴らした。「もし俺がいなければ、君は一体いつ解放されていただろうね」朔也の口ぶりに少し違和感を持ち、莉亜は無意識に自分が相馬家になにか悪い影響を与えてしまっただろうか、もしくは、彼がさっき薫子と何か話していた内容に関係しているのだろうかと思った。朔也も相馬家の人間だ。彼がいくら自分に優しく接してくれたとしても、それはきっと彼が自分の利益を考えた上での行動だろう……しかし、彼の身分とその地位をもって、本当にそのような些細な利益など気にするだろうか?莉亜の頭の中は、さまざまな考えが入り混じり複雑化していたが、口から出る言葉をうまくコントロールすることはできなかった。「私も分かりません。本来は計画があったのですが、でも、まさか……」そこまで話しても、朔也からの反応はなかった。莉亜はこれ以上話しても意味はないと
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