実家とは違う、広い平屋の和風建築。「奥様! 奥様!」屋敷内では、使用人たちがバタバタと走り回っている。行き交う人をすり抜けながら、自由人な狗飼咲月は屋敷を抜け出そうとしていた。「咲月さん? どこに行くんです?」そんな咲月の首根っこを捕まえ、背後からバリトンボイスが呼び止める。「あ……亮二さん?」えへへ、と笑いながら「ちょっと……買い物?」と答えた。亮二と呼ばれた狗飼家の当主は、威厳のある雰囲気のまま咲月を見下ろす。「でしたら、護衛を連れて行ってください」そう言われると、咲月は唇を尖らせた。「私、自由にしたいの」「咲月さん。あなたはもう猫柳家の人間ではなく、狗飼家の人間なんです。そこをきちんと踏まえて……」「もういいです! 実家に帰らせて頂きます!」咲月はそう叫ぶと、最初からそのつもりだったのだろう。旅行用バッグを片手に、そのまま家を飛び出してしまった。ぷんぷんと怒る咲月の背中を見送りながら、亮二は深いため息をついた。⸻***「で、なんでうちなわけ?」呆れた顔でお茶を出す愛しい息子の春馬に、咲月は唇を尖らせた。「春馬のいるところが、私の実家なの!」「はいはい。で、今日は何したの?」苦笑いする春馬に、咲月は春馬の隣で借りてきた猫のようになっている来人を見る。「来人くん、この態度……酷いと思わない?」ぷんぷん怒る咲月に、来人も苦笑いするしかない。元々女性が苦手な来人にとって、義母である咲月はどう接したらいいのか分からないようだった。春馬が怒涛のピンポン連打に対応している間、来人は父親に咲月の到着連絡を入れていた。ほんの三十分前、父親から『咲月さんがそちらに向かった。仕事が終わり次第、迎えに行く』と連絡が入っていたのだ。「だって、新婚なのよ! 春馬と来人くんだってラブラブしてるのに、亮二さんは私より仕事なのよ!」テーブルを叩き、クレームを言う母親に、春馬は正直(知らんがな!)と言いたかった。咲月の長い長い片想いが実ったのだと、母親からは聞かされてはいた。春馬の父親のことは、家族としての愛情はあったし、あれも愛だったと言っているが……。どう見ても、狗飼家ご当主にかまってほしくて駄々をこねているとしか思えない。そもそも猫柳家も、きちんと春馬には鈴本を付けていたし、咲月にも護衛を付けていた。もっと
Read more