All Chapters of 犬猿の仲……いいえ、犬猫の仲です: Chapter 71 - Chapter 80

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第六十九話:猫柳家の真実

「じいちゃん!」思わず声を上げて駆け寄ると、じいちゃんは小さく微笑んだ。「春馬、元気にしとったか?」そう言って、優しく僕の頭を撫でる。「彼は?」病院を見上げながら呟いたじいちゃんに、僕は静かに首を横に振った。「そうか……」じいちゃんは一瞬だけ目を伏せると、すぐにいつもの穏やかな表情に戻った。「春馬、来人君。あぁ……咲月と亮二も一緒だったんだな。四人とも、一緒に来なさい」そう言って車に乗り込む。僕と来人は顔を見合わせ、少し後ろにいた母さんたちと頷き合うと、それぞれの車で猫柳邸へ向かった。***久しぶりに帰った猫柳邸は、当主が変わっただけで、こんなにも空気が変わるのかと思うほど様変わりしていた。那月おばさんが当主になってから、使用人たちはどこかピリついている。張り詰めた空気が、屋敷全体を覆っているようだった。母さんの時は、良い意味でも悪い意味でも大らかで、屋敷にはいつものんびりとした空気が流れていた。……まぁ、本来はこれが普通なんだろうけど。僕は小さく苦笑した。そんな中、いつもじいちゃんの側にいるはずのばあちゃんの姿がないことに気付いた。僕の視線に気付いたじいちゃんは、くすりと笑う。「ばあさんはな、久しぶりに力を使って、ちいと床に伏せっとるだけじゃ。心配なら後で見舞ってやるといい。春馬の顔を見たら喜ぶじゃろう」そう言われて、あの日からばあちゃんに会っていないことを思い出した。じいちゃんは深く息を吐くと、静かに口を開いた。「さて……どこから話すかな」ゆっくりと僕を見つめる。「これから話す内容は、春馬にとって衝撃的なものになると思う。覚悟して聞いてほしい」そして、一拍の間を置いて——「この猫柳家は、神の血筋なんじゃ……」
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第七十話:僕が生まれた意味

「まぁ、ワシとばあさんが結婚して咲月が生まれた年に——」じいちゃんは、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。「狗飼家に嫁いでいた猫柳家の人間が亡くなり、咲月と亮二の縁談が決まった。しかしその夜、ばあさんは神様からお告げを受けたんじゃ」空気が、わずかに張り詰める。「亮二と咲月は能力が強い。もし二人が結婚すれば——神に近い人間が生まれてしまう、とな……」その言葉に、僕と来人は顔を見合わせた。「だが、婚約は十三家紋によって認められてしまった。覆すことは出来なかった。そこで神は、運命軸を少しだけ操作した。亮二が他の女性に恋をするように仕向けたんじゃ。そして——来人君が生まれた」僕は息を呑む。「それでも、類い稀な能力を持って生まれたと聞いた時……もし咲月と亮二の子供だったら、と思うと恐ろしかった」じいちゃんは、ゆっくりと僕を見つめた。「そして咲月も結婚し、春馬——お前が生まれた。お前はな、神の力を持って生まれてきたんじゃ」言葉の意味が、すぐには理解できない。「だが、その力は赤子のお前には強すぎた。器が持たず、何度も死にかけた。だから神と契約したんじゃ」じいちゃんは静かに告げる。「春馬を女として育てること。そして、女性と子を成さぬ代わりに、その命を助けてほしい、と——」思考が止まる。「……もし、僕が女性と結婚していたら?」かすれた声で問う。「春馬の神気に当てられ、女性は長くは生きられん。だが——相手が来人君だから、大丈夫なんじゃよ」その瞬間、全てが繋がった。来人の瘴気を浄化できていた理由。それは——僕の中に、神の力が宿っていたから。
last updateLast Updated : 2026-03-21
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第七十一話:祐巳家の真実

「この世界から、瘴気が無くなることはない」じいちゃんは、厳しい表情のまま言った。「人間に欲や嫉妬という感情がある限り……そこから生まれる悪しき感情が、瘴気を生み出す。だからこそ、我々——神の眷属である十三家紋が、それを祓い続けなければならない」重い言葉が、静かに落ちる。「……それを、逆手に取ろうとしたのが神蛇家なんじゃ」じいちゃんの目が、わずかに細くなる。「命懸けで祓うのだから、それ相応の金品を受け取るべきだ——そう言い出してな」 僕たち、いわゆる十三家紋と呼ばれる一族は、国の要請で瘴気を祓っている。報奨金は支払われているし、それは免税のはずだ。それに加えて、一般からも金を徴収するなんて——どう考えても、おかしい。そう思った、その時だった。「元々、蛇一族のトップは祐巳一族だったんじゃ」じいちゃんの言葉に、息を呑む。「だが彼らは、生粋の研究一族でな。我々十三家紋の能力や、その謎の解明にばかり没頭しておった」少しだけ、苦々しい表情になる。「気付いた時には、神蛇一族に立場を乗っ取られておったんじゃ」「そもそも、“神蛇”という名は存在しなかった」その一言に、空気が変わる。「我々十三家紋は、神の眷属。“神”を名乗ることは禁じられておるのじゃ」じいちゃんの言葉に、息を呑んだ。——やっぱり。これから語られるのは、きっと。十三家紋の“闇”だ。無意識に、膝の上で拳を握り締める。すると——そっと、来人がその手を包み込んだ。隣を見ると、来人は険しい表情をしていた。
last updateLast Updated : 2026-03-22
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第七十二話:祐巳一族

「でも……なんで分かってて、何もしなかったの?」思わず問いかけると、じいちゃんはわずかに目を細めた。「わし等もな……知ったのは、つい最近のことじゃ。実はな、春馬。那月の旦那の名前は……祐里じゃ」一拍置いて、じいちゃんは続ける。「そう……祐巳一族の生き残りの一人だったんじゃよ」「それって……僕と竜ヶ峰は、血の繋がりはないけど……親戚ってこと?」「まぁ……そうじゃな。かなり遠いが」じいちゃんは静かに頷いた。 僕が首を傾げると、じいちゃんは続ける。「竜ヶ峰祐希の母親と、那月の旦那は……異母兄妹じゃからな。言ったじゃろう?祐巳一族は、神蛇家にバレぬように子孫を残してきたと」……え?(それって……そういうこと!?)「まぁ……祐巳一族はな、男女問わず容姿が美しい。だからこそ、良くも悪くも人を惹きつけてしまうんじゃろうな……」その言葉に、竜ヶ峰の顔が浮かぶ。……うん、妙に納得した。「そういえば、那月おばさんの旦那さんって何してる人?」興味本位で尋ねると、じいちゃんは苦笑した。「病理の医師じゃな」それを聞いて、思わず来人を見上げる。「ねぇ、来人。竜ヶ峰の職業って?」「祐希か? 確か……大学で何か研究していたなぁ」……なんだよ。美形で天才とか、ずるくない?「祐巳一族は、根っからの研究者の血じゃからな……血は争えん」じいちゃんがぽつりと呟く。「それで今回、那月が当主になったことで、ようやく事実が明るみに出たというわけじゃ。那月は祐里を守るために生きてきた。今回、猫柳家を継いだのもそのためじゃしな」少しだけ間を置いて──「猫柳家本家を敵に回す阿呆はおらんからな」その言葉に、祐希の姿が浮かぶ。来人と一緒にいた時の、あの幸せそうな顔。あれは、ただ愛されていたからじゃない。守られていたからでもある。そう思うと、胸の奥が少しだけ重くなった。祐巳一族は、ずっと神蛇家に怯えて生きてきたのだろう。「それで、僕たちを呼び寄せたのは——」僕の言葉に、じいちゃんはゆっくりと頷いた。
last updateLast Updated : 2026-03-23
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第七十二話:茨の眠り姫

あれから一ヶ月が経過したが、未だに竜ヶ峰の意識は戻らない。眠り続ける竜ヶ峰は、まるで童話に出てくる眠り姫のようだった。「なぁ……竜ヶ峰、目を開けてくれよ」ポツリと呟く。あの日以来、来人は自分を責め続けている。僕に気付かれないように、夜中に一人で泣いている姿を、何度か見てしまった。約十年近く。二人は恋人として過ごしてきた。そんな相手が、目の前で眠り続けている。それがどれほど辛いことか、想像するまでもない。ベッドに横たわる竜ヶ峰の顔を見つめ、僕は小さく溜め息をついた。──その時だった。「見ぃつけた」背後から、ぞわりとする声が響く。慌てて振り向いた瞬間、ドアの前に立つ神蛇の姿が目に飛び込んできた。「なんでここに?」咄嗟に、竜ヶ峰を庇うように立ち塞がる。「あぁ……祐希は、眠る姿も美しいね……」クスクスと笑う神蛇の背後で、黒い蛇がうねうねと蠢いている。僕はすぐに結界を張る。「さすが猫柳家の嫡男。その力、実に素晴らしい」神蛇は手を叩き、余裕の笑みを浮かべた。「ねぇ、来人なんかと一緒にいないで、僕のところへおいでよ」差し出されたその手を、鋭く睨みつける。──その瞬間。「我が眷属よ、穢れしものを祓え!」低く響く声と共に、銀色の狐が光の矢のように駆け抜ける。神蛇の背後にいた蛇の妖が、一瞬で消し去られていく。「ちっ……邪魔が入ったか」神蛇は舌打ちすると、「居場所は分かったからな。また来るよ」そう言い残し、姿を消した。「春馬君、祐希様は!?」神蛇が消えた直後、神官の装いをした小林さんが駆け寄ってきた。「小林さん……十三家紋じゃないのに、凄いですね」驚いて言うと、小林さんは小さく微笑む。「かなり修業をしましたから。でないと──祐希様を守れません」その言葉に、僕は思わず口を開きかける。(小林さんは……竜ヶ峰のことが好きなんじゃないのか?)──けれど、その言葉は飲み込んだ。
last updateLast Updated : 2026-03-25
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第七十二話:静かなる守りて

「あの……小林さんと竜ヶ峰は?」なんとか絞り出した言葉に、小林さんは静かに僕を見つめた。「私は祐希様の兄である隆盛と幼馴染みであり、竜ヶ峰神社で仕える者です」そう言って頭を下げた小林さんは、一ミリの乱れもない。まるで凪いだ海のような人だと思った。どれほど修業を積めば、ここまで研ぎ澄まされた人間になれるのだろう。ただ立っているだけなのに、その場の空気が静かに澄んでいく。まるで神気に包まれているかのようだった。彼はきっと、想像もつかないほどの修行を重ねてきたのだろう。一糸乱れぬ佇まいに、こちらの背筋まで自然と伸びてしまう。そんな彼が感情を揺らすとすれば、それはきっと竜ヶ峰だけなのだろう。「そうなんですね」曖昧に頷く僕に、小林さんはわずかに目を伏せてから口を開いた。「さすが猫柳家ですね。あなたから、神の力を感じます。……あ、すみません。先程は祐希様を守って下さり、ありがとうございました」そう言って、再び頭を下げる。「そんな……頭を上げてください」僕が慌てて言うと、「どうして私は、いつも間に合わないのでしょうか……。いくら修行を積んでも、間に合わなければ意味がないのに……」そう呟いた彼の言葉に、聞いている僕まで胸が締め付けられるようだった。
last updateLast Updated : 2026-03-26
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第七十三話:祐巳一族の美貌……恐るべし

「それでも……守ろうと、そこまでご自身を鍛えたのは素晴らしいと思います」ようやく絞り出した言葉に、自分でも気の利かなさを感じてしまう。すると、小林さんは小さく微笑んだ。「ありがとうございます。気を遣わせてしまいましたね」その、ふわりとした微笑みに——思わずドキリとする。(……この人、無自覚に人をたらしこむタイプだ)そう思いながら見ていると、小林さんは眠る竜ヶ峰の頬にそっと触れた。「無事で良かったです……祐希様」その横顔は、竜ヶ峰が愛しいと語っていた。正直に言ってしまえば——なぜこの人がいて、竜ヶ峰が来人に惚れたのか分からない。確かに、見た目や家柄なら来人が上かもしれない。だが、絶対的な信頼感はこの人の方が上だし——何より、人間としての器も来人より遥かに上だ。しかも、この人は竜ヶ峰のためなら、自分の命さえ厭わないだろう。それでも、竜ヶ峰が惹かれたのは——来人なんだよな。……恋愛感情って、本当に難しい。そう考えていると、部屋がノックされた。「入っても良いかな?」声の方へ視線を向けると、白衣を着た美形の男性が立っていた。ネームプレートには『猫柳』の文字。僕は思わず目を見開く。……もしかして、那月おばさんが惚れて惚れて惚れ込んで結婚した人?竜ヶ峰も十分すぎるほど美形だけど——祐巳一族の美しさは、どこか次元が違う。そりゃあ……血を残すために、あちこちに子供ができるわけだ。思わず感心していると、「きみが春馬くん?」男は僕を見て、こてんと小首を傾げた。……40代のはずなのに、やけに可愛い。「はい。もしかして……祐里おじさんですか?」そう答えると、男は柔らかく笑った。「うん、はじめまして。結界、ありがとうね。でも——きみの結界だと、神蛇は気配で気付いてしまう」そう言って視線を横に流し、「ねぇ、そこのきみ」竜ヶ峰の傍にいる小林さんへと声をかけた。
last updateLast Updated : 2026-03-28
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第七十四話:結界

すると小林さんは、驚いたように自分を指さした。「え……私ですか!?」その声に、祐里おじさんは落ち着いた様子で頷く。「そう、きみだよ。きみくらいの弱い力の方が、見つからないんだ」穏やかに微笑む。「弱い方が……見つからない?」僕と小林さんは、同時に首を傾げた。それを見て、祐里おじさんは小さく笑う。「普通はね、力が強ければ強いほど良いと思うよね? でも──隠れるには、その強さが邪魔になる」「……どういうことですか?」「強い力ほど、神力の痕跡が残るんだ。つまり、強い妖ほど見つけやすい」少し間を置いて、続ける。「ほら、擬態する虫っているだろう? ああいうのは、余計な気配を残さない。だから──きみくらいの、“あるかないか分からない程度の力”が、一番ちょうどいいんだよ」さらっと言われたその言葉に、小林さんは一瞬ぽかんとした顔をした。「では……私の力で、祐希様を護れるのですか?」「うん。むしろ──きみの力じゃないと護れない」その言葉に、小林さんの目がわずかに揺れた。「部屋を移したら、きみが保護結界を結ぶといい」そう言って、祐里おじさんは僕たちに背を向ける。「あの!」思わず呼び止めると、彼は軽く振り返った。「なに?」「それだけを伝えに来たわけじゃ、ないですよね?」僕の問いに、祐里おじさんは肩をすくめる。「さぁ? どうだろうね」少しだけ口元を緩めて、「僕は、気まぐれだからさ」そう言って、ひらひらと手を振りながら去っていった。
last updateLast Updated : 2026-03-30
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第七十五話:来人の弱さと脆さ

竜ヶ峰の部屋が移され、小林さんが結界を施していると、「そんなに弱い結界で、祐希が護れると思っているのか?」来人が小林さんの肩を強く掴んだ。「退け!俺が結界を張る!」その腕を、僕は咄嗟に掴む。「来人、これで良いんだ」「良いって……こんな弱い結界じゃ、祐希は護れない!」来人の目が、僕を睨む。「春馬……お前、あんなふうになった祐希に復讐するつもりか?」「来人、何言ってるんだよ!違う!」そう叫んだ、その時だった。「来人……?」かすれた声が、部屋に響く。来人が振り返り、竜ヶ峰の元へ駆け寄った。「来人が助けてくれたの?」差し出された手を、来人が強く握る。「祐希……目が覚めたのか?」白い手が、来人の頬に触れる。「悪夢から覚めたら、来人がいてくれた。来人、戻って来てくれたんだよね?」その声に、小林さんの手が震えているのが見えた。「来人!ちゃんと真実を伝えなくちゃダメだ!」「春馬!今は祐希が目覚めたばかりなんだ。その話は後で」「ダメだ!」思わず叫ぶ。「竜ヶ峰!きみを命懸けで救い出したのは、小林さんだ!」「病室で何を騒いでいるんですか!」看護師が駆け込んできた。「患者さんが目を覚ましたなら、ナースコールで呼んでください!今、医師を呼びます」慌ただしく去っていく。「私もお二人を呼んできます」小林さんも病室を出ていった。僕が竜ヶ峰を見ると、「来人、抱き締めて」竜ヶ峰が手を広げ、来人がその体を抱き寄せる。「祐希……良かった……本当に良かった……」涙を流す来人。その腕の中で、竜ヶ峰は幸せそうに微笑んでいた。僕は背を向け、病室を出る
last updateLast Updated : 2026-03-31
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第七十六話:静かな距離と崩れる均衡

腹立ち紛れに病院を後にしていると、背後から声がした。「春馬さん!」振り向くと、小林さんがこちらへ駆けてくる。「小林さん?」「すみません。私を気遣って下さったことで、喧嘩をさせてしまって……」申し訳なさそうに言われ、思わず視線を逸らした。「別に……小林さんを気遣ったわけじゃないですよ。それより、竜ヶ峰の傍にいなくて良いんですか?」「祐希様には今、ご当主様と綾人がいらっしゃいますから」そう言って、小林さんは自然に僕の隣に並んだ。「良いんですか?」「何がですか?」「来人さんです」そう言われて、思わず小林さんを見上げる。「僕たちの心配より、自分の心配をした方が良いんじゃないですか?」口をついて出た嫌味に、ハッとした。「ふふ……」小林さんが静かに笑う。「あ、すみません。嫌味を言って、すぐに反省する人を初めて見たもので」そう言って微笑まれ、なんだか居心地が悪くなる。この人は……どうしてこんなにも落ち着いているんだろう。じっと見ていると、「どうしました?」首を傾げられる。「小林さん、人たらしって言われません?」少し睨むようにして言うと、「あははは」声を上げて笑った。「直接言われたのは初めてかな。綾人にはよく、『お前のそういう所だぞ』って言われますね」そう言って軽く肩をすくめる。「ふふっ」思わず笑ってしまった、その瞬間。小林さんの手が、僕の頭に触れた。くしゃりと撫でられる。驚いて顔を上げた、その時。来人が、小林さんの腕を強く捻り上げた。「おい、人のパートナーに気安く触んな!」「来人、お前……何してるんだよ!」慌てて叫ぶ。小林さんは静かに来人の手を払いのけた。「触らないで下さい」低く、はっきりとした声だった。「祐希様を傷付けた人間に、気安く触られたくありません」そう言って、来人に冷たい視線を向けた。
last updateLast Updated : 2026-04-01
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