「でも、それでは社会的な正解ではないことくらいは分かります。心情として理解できずとも、『こうするべきだ』という規範は存在すると知っていますから。だから脳内を検索したんです。僕の世界で唯一の正解である、琴葉さんならどうするかを」 検索の結果表示されたのが、『外へ連れ出す』。だから実行した。それだけのこと。 優しさというOSをインストールしていないパソコンが、画面上に「優しさ」に見えるアイコンを表示したに過ぎない。 伊吹としてはただ琴葉の真似をして、正解の態度を取っただけだ。 詩織がどう感じるかなど、最初から考えの外だった。(空っぽだ) 琴葉の背筋に薄ら寒いものが走った。 詩織が恋をした「王子様」の中身は、完全な空洞だった。 彼女は伊吹を通して、間接的に「6歳の琴葉」に恋をしていたことになる。 なんてバカバカしくて――悲しいすれ違いだろう。 車が減速し、タワーマンションの地下駐車場へと滑り込んだ。◇ 専用エレベーターを降りると、そこは地上200メートルの密室だ。 玄関のオートロックが解除される電子音が響く。 生活感のないモデルルームのようなリビングが広がっている。 ここが伊吹の城であり、琴葉の鳥かごだ。「琴葉さん」 伊吹が背後から手を伸ばしてくる。琴葉が冷ややかな視線で牽制すると、その指先は空中で行き場を失い、力なく下ろされた。 琴葉はドレッサーの前で立ち止まり、首元のネックレスを乱暴に外した。 トレイに放り投げる。カシャン、という硬質な音が、2人の間の断絶を強調した。「疲れた。シャワー浴びて寝るわ」「……待ってください」 寝室へ向かおうとする背中に、すがるような声が掛けられた。「僕には琴葉さんしかいないんです」 振り返ると、伊吹は捨てられた子犬のような目をしていた。 先ほどの冷徹な分析官の顔はどこにもない。「貴女というOSがないと
Terakhir Diperbarui : 2026-02-23 Baca selengkapnya