All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 241 - Chapter 250

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241話

◇ もみじが起きる、数時間前。誠司の家。 「なっ、何よこれぇ!?」 寝室に、胡桃の悲鳴が響き渡った。 胡桃はいつものように起きると、日課となっているSNSチェックをしていた。 すると、自分の投稿に沢山の通知が来ていたのだ。 胡桃はまた何かバズったの?と嬉しそうに確認したのだが、それは心無い誹謗中傷のコメントの数々だった。 あれだけ胡桃を褒め讃え、媚びをうっていた人達が皆、手のひらを返したかのように胡桃を口汚く攻撃している。 「な、何なのよっ、何で……っ、何で私が不倫ってバレて……っ」 胡桃の顔は真っ青になる。 自分のアカウントから移動し、ネットニュースを確認する。 「──あっ、あ……」 すると、そこには。 昨夜潜り込んだパーティーでの出来事が写真付きで取り上げられていたのだ。 不倫、略奪、愛人──。 好き勝手に色々と書かれ、しまいには妊娠の事まで書かれている。 「せっ、誠司……っ、誠司ぃ……っ」 胡桃は大慌てで誠司の寝室に走る。 ドタバタと足音を立てて誠司の寝室に到着すると、ノックもせずに扉を開けた。 「せっ、誠司ぃっ!昨日のパーティーの事が……っ」 「──ああ、そうだ。記事の削除を……。すぐに会社に向かう。頼んだ、中野」 誠司は既に起きていたらしく、中野秘書と電話中だった。 部屋に入ってきた胡桃をちら、と見るがすぐに視線を外し、電話を切る。 そして身支度の続きを始めた。 胡桃は、自分が部屋にやってきたと言うのに誠司が何も声をかけてくれない事に憤りを覚えた。 どうして無視をするのか──。 胡桃はドスドスと足音荒く誠司に詰め寄り、ワイシャツを掴んだ。 「誠司っ!どうして無視するのよ!ちゃんと返事をしてよ……っ!」 「──〜っ、うるさい!俺は忙しいんだ!これから会社に行ってこの騒動を収めなくちゃならない!お前に構っている暇はないんだよ!」 「ひっ、酷いわ誠司ぃっ、そんな言い方ってないわ……っ。私のせいじゃないのに……っ」 ぐすぐす、と泣き出す胡桃に誠司はぐっと眉根を寄せる。 「……そもそも、胡桃が妊娠した事をSNSに書かなければこんな事にはならなかった……!もみじにだって離婚届を出される事はなかったんだ!中絶すると言っていたくせに……っ!あの時、俺に何を──」 額に手をあて、誠司は叫ぶ。 だが、言葉を
last updateLast Updated : 2026-05-29
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242話

胡桃の話を聞いた誠司は、ぐらりと目の前が真っ暗になった。 そして、よろりとよろけると自分にべったりと付き纏う胡桃が煩わしく感じた。 今まではとても可愛らしく感じていた顔も、今は醜く歪み、可愛らしい声だと思っていた声は、自分の名前を呼ばれる度に背筋に悪寒が走る。 誠司は今まで胡桃に向けた事の無いくらい冷たい視線を向けると、吐き捨てるように告げた。 「──このっ、ろくでもない醜悪な女め……!」 「はっ!その醜悪な女に騙されて散々可愛がってくれたのはどこの誰よ!馬鹿みたい!ぜーんぶ私の言う事を鵜呑みにして、お姉ちゃんを裏切ったのは誠司、あんたでしょう!?自分がやった事を棚に上げて私を責めるなんてお門違いよ!誠司、あんたが私を妊娠させたのよ!お姉ちゃんとは離婚が成立しているんだから、私を妊娠させた責任を取りなさいよ!」 「──っ、ちくしょうっ!」 妊娠させた責任──。 確かに、胡桃の言う通りだ。 (どうして……っ、毎回避妊をしていたのに……!それなのに、どうして妊娠なんて……!) そこまで考えた誠司は、ある考えが頭に過ぎり、はっとして胡桃に顔を向ける。 「その子供が俺の子だと言う証拠は無い……!今は胎児のDNA検査も出来る!俺の子供だと言うなら、責任は取る。だが、俺の子供じゃないと分かったら覚悟をしろ!詐欺罪で訴えてやるからな!」 まさか誠司から他の男との子供を示唆されるなんて。 胡桃は一瞬呆気に取られたが、すぐににたりと笑った。 「……良いわよ。ただし、DNA検査をするにあたり、私からも条件を出すわ。この子供が本当に誠司の子供だと分かったら、その場で私と入籍するのよ」 「──はっ!?」 「だってそうじゃない?私は誠司しか知らないわ。それなのに、他の男と体の関係があったと疑われているのよ?逆にこっちが訴えたいくらいだけど、そこまではしないであげる。ただし、子供の親が誰か分かったら、誠司。あなたは永遠に私の物よ」 「──〜っ、分かった、婚姻届の1枚2枚、すぐに書いてやるよ!だが、違ったらどうなるか分かっているな!?」 「ええ、勿論よ」 胡桃は絶対的な自信を持って誠司の言葉に頷いた。 確実に誠司の子供を妊娠するために避妊具に穴まで開けたのだ。 そんな工作をしている大事な期間に、他の男と関係を持つはずがない。 (馬鹿な誠司。これから
last updateLast Updated : 2026-05-30
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243話

◇ 一方、もみじ。 もみじの自宅。 「とうとうあの馬鹿2人の不倫が世間に知られたわね!おめでとうもみじ!」 「ちょ、ちょっと蘭……!こんな昼間からお酒なんて……!」 「祝杯よ、祝杯!カンパーイ!!」 少し前。 突然、家のインターホンが鳴りもみじが来訪者を確認すると、驚く事にモニターにはもみじの親友、蘭が映っていた。 もみじが慌てて出迎えると、蘭はドアが開くなりもみじを抱きしめ、その場で踊り出そうな程上機嫌で「おめでとう!」と叫んだのだ。 そして、蘭は買ってきたお酒を掲げ、戸惑うもみじをリビングに連れて来て一緒に酒盛りを始めたのだ。 「昨日のパーティーでの騒動、かなり出回ってるわよ」 「ええ、そうみたいね。ネット上にかなり出回っているのを見たわ。……蘭がメールで教えてくれて助かった、ありがとう」 「気にしないで。あれだけ大騒ぎになってるんだもん。もみじも今後周囲に気を付けてよ?変な人に狙われるかもしれないから」 「ええ?私が?」 「当たり前よ!もみじはこんなに綺麗で可愛いんだから!それがネット上に動画を上げられちゃったから世間にバレちゃったじゃない!今はストーカー犯罪とか多いんだから、本当に気を付けてよ!?」 それに、ストーカーだけじゃないわ!と蘭は続ける。 「ストーカーも怖いけど、もみじがデザインで賞を取ったのを、元夫だって知ったでしょう?だから、もみじを取り戻そうとするかもしれないわ。……今、新島 誠司の会社は凄く大変みたいだから」 誠司の会社──。 それを聞いたもみじは「そうね……」とぽつりと呟いた。 「どうしたの……?何でそんなにもみじが申し訳なさそうな顔を……」 誠司が不倫していたのが悪いのだ。 それが公になれば、会社のイメージダウンだって当たり前。 経営者のくせに、そんな危険性を理解せず、堂々と不倫をして更に不倫相手と子供も設けた誠司が全体的に悪い。 「もみじが心を痛めるような事じゃないわ……。悪いのは新島 誠司と、胡桃でしょう?」 蘭の言葉に、もみじは答えた。 「ええ。悪いのは誠司よ。それは間違いないわ。だけど……誠司のせいで、何の罪もない真面目に働いていた社員が大変な思いをするのは……」 少し可哀想だと思って。 そう言葉を続けるもみじに、蘭は自分の額を押さえた。 (もみじは……もう!誠司の会社
last updateLast Updated : 2026-05-30
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244話

◇ それから、あっという間に時間は過ぎ、もみじが髙野辺の会社、TK株式会社に初出勤する日になった。 あの、受賞記念のパーティーから3日時間が経った。 その間も、ネット上で誠司と胡桃の不倫スキャンダルは収まる事はなく、日に日に勢いを増しているように思うが、不思議ともみじに対する話題は殆ど上がらなかった。 時折、もみじの事が話題に登っても、それは「不倫されてしまった可哀想な奥さん」と話をされるだけ。 そして、その妻がデザインコンテストの受賞者だと知ると、皆がもみじの事を賞賛した。 しまいには、不倫するような不誠実な男から離れて自分の人生を生きて行こうとするもみじを応援するような人もいる。 もみじに対しては、殆どが好意的なコメントばかりだ。 それに、誠司や胡桃の顔写真はネット上に拡散されていくのに比べ、もみじの写真は不思議なほどネットに上がらない。 あの日、報道陣も多数会場に居たはずなのだが、報道陣が出す写真と言えば、もみじの顔がはっきりと映っていないような後ろ姿の写真だったり、横顔だったりだ。 そのお陰で、もみじはこうして1人で街を歩けるし、恐らく電車にだって乗れる。 誠司と胡桃は、暫くの間は無理だろうが──。 TK株式会社のビル前。 目の前にやって来たもみじは、大きなビルを見上げた。 「以前来た時も思ったけど、やっぱり凄い大きな会社……。私、本当にここで専属デザイナーになれるの?」 受賞した時、髙野辺から告げられたのだ。 もみじを含む、今回の受賞者はTK株式会社の専属デザイナーとして雇用契約を結ぶ事が出来る。 こんなに大きなデザイン会社、コンテストに応募していなかったら、専属デザイナーになるなんて到底無理な話だっただろう。 「……頑張らなくちゃ」 もみじが今後に向けて気合いを入れるようにぽつり、と呟く。 すると、ビルの正面玄関から見知った人物が出て来た。 その人物は、真っ直ぐもみじのもとへ歩いてくる。 「──玖渡川さん、お待ちしておりました」 「田島さん!」 「髙野辺社長がお待ちです。社長室にご案内いたしますね」 やって来たのは、田島秘書だ。 以前、もみじが髙野辺に軽く彼を紹介した。 とても真面目な人で、そんな真面目な人があんな不正を働くはずがない。 その事を髙野辺に伝えたもみじだったが、まさか髙野辺がすぐに
last updateLast Updated : 2026-05-31
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245話

コンコン、とノックの音が廊下に響く。 次いでもみじは口を開いた。 「──玖渡川です」 もみじが言葉を発すると、目の前のドアが開き、ひょこりと髙野辺が顔を覗かせた。 「もみじさん、お待ちしておりました。どうぞ、入ってください」 「わっ、わ……!失礼、します!」 まさか、社長自ら扉を開け、出迎えてくれるなんて。 呆気に取られているもみじを、髙野辺は笑顔で促す。 「わざわざ御足労いただいてすみません、もみじさん。出来れば俺がそちらに出向きたかったのですが……」 「そんな、とんでもないです!髙野辺さんお忙しいのですから!」 「いえいえ、もみじさんとお会い出来るのなら、いくらでも時間を作りますよ」 にこにこ、と本当に嬉しそうに笑顔を浮かべている髙野辺にもみじは苦笑いを浮かべてしまう。 こんな大手のデザイン会社の社長を、今までは知らなかったとは言え、自分はよく気軽に話せたものだ、ともみじは萎縮してしまう。 これからは雇用主だ、態度を改めないと!ともみじが考えている様子を、髙野辺は困ったように眉を下げて見つめていた。 「どうぞ、座ってください。今日は、契約書の確認をお願いしたくて……」 「分かりました……!」 ソファに座るよう促され、もみじは腰を下ろす。 髙野辺自らお茶を出してくれて、お礼を言いつつ受け取った。 「これが、契約書です。……内容を確認する前に、1つだけいいですか?」 真剣な表情と声の髙野辺に、もみじは背筋を伸ばす。 これから、何か重要な事が話されるのだろうか──。 緊張してしまいガチガチになっているもみじを見て、髙野辺はその緊張を解すように柔らかく微笑んだ。 「これだけは、先に伝えておきたくて……。我が社と、もみじさんの関係は対等です。専属デザイナーとして契約を結んだからと言って、もみじさんがこの会社のために全ての事柄を優先しなければならない、なんて事はないです」 「──えっ?」 「もみじさんのデザイン全てを、うちが独占的に得る、なんて事はないですから。……デザイナーの活動の幅を狭めたくはないんです。……ただ、もみじさんには、うちとの仕事を他よりちょっとだけ多く受けてもらいたい……そんな風に思っています」 髙野辺の説明に、もみじは驚き目を見開く。 TK株式会社と専属デザイナー契約を結んだら。 今後、新規の仕事
last updateLast Updated : 2026-05-31
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246話

「髙野辺さん……いえ、髙野辺社長、何から何まですみません……」 「いえ、いいんですよ。それより、もみじさんに社長、と呼ばれるのは何だか……俺ともみじさんの関係は、対等です。対等なビジネスパートナーなので、呼び方も今まで通りでお願いしたいです」 何だか「社長」と呼ばれると、他人行儀な気がして。 そう、困ったように眉を下げて話す髙野辺に、もみじは頷いた。 「ありがとうございます、それでは今後も髙野辺さん、と呼ばせていただきますね」 「ええ、お願いします」 それから、2人は時折雑談を交えながら契約書の確認をし終えた。 もみじが契約書にサインをすると、髙野辺が受け取る。 「午後は社内を案内させてもらいますね。そろそろ昼時だ、もみじさんお昼ご飯を一緒にいかがですか?」 「わっ、本当にもうこんな時間なんですね!?ぜひご一緒してください!」 「じゃあ行きましょうか。お勧めの和定食を出すお店があるんです。そこでも大丈夫ですか?」 「和食大好きです!」 「良かった、行きましょうか」 髙野辺の誘いに頷き、社長室を出る。 まだお昼には少し早い時間帯のため、社内廊下に人は少なかった。 時折社員と廊下ですれ違う程度で、皆髙野辺ともみじに礼儀正しく頭を下げ、挨拶をしてくれた。 「社内を見てもらった後、少し相談したい事があるんですが、いいですか?」 「私にちゃんとお答え出来ますかね……?」 髙野辺の相談に、自分なんかが役に立てるだろうか──。 一抹の不安を覚え、自信無さそうに答えるもみじに髙野辺は笑顔で頷いた。 「もみじさん以上の適任者はいませんよ。デザイン部では上手く解決できなくて……それで、もみじさんの意見を聞きたいんです」 「わ、分かりました……!頑張ります!」 「ははっ、気負わないでくださいね」 2人が乗ったエレベーターが軽快な音を立て、開く。 エレベーターから降りた所で、髙野辺のスマホが着信音を響かせた。 「──とっ、すみませんもみじさん。急ぎの連絡みたいです。少しだけ待っていてもらってもいいですか?」 「もちろんです。端っこにいるので、電話してきてください!」 「ありがとうございます!すぐに戻りますね」 申し訳なさそうに頭を下げ、少し離れた場所に向かう髙野辺を見送りつつ、もみじは邪魔にならない場所に移動しようと足を踏み出した
last updateLast Updated : 2026-06-01
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247話

目の前にいる男を見て、もみじの目は驚きに見開かれて行く。 どうして、この場にいるのか──。 「誠司……?どうして、ここに……」 「──はっ。この間、パーティーに出ていただろう?この会社が協賛しているのは知ってる。それに、お前の横には常にあいつがべったりだったからな。……それより、もみじ。どうして俺に黙ってコンテストなんかに応募した?お前が手伝うべきは、夫である俺の仕事だろう!?」 「──元夫、よ。間違わないで。もう私と誠司の離婚は成立しているの。私と誠司はもう他人なのよ。それに、髙野辺さんの会社に来ないで。迷惑よ」 もみじがキッパリと言い返すと、誠司は「生意気な!」と声を荒らげ、もみじに一歩近付いた。 「俺は離婚なんて了承していない!勝手に出されたものは無効だ!今家に戻ってくるなら許してやる。お前は俺の事が好きだろう!?」 そう叫びながらもみじの腕を掴もうとした誠司。 もみじは慌ててその腕から逃れると、誠司と距離を取った。 「勘違いも程々にして。離婚届は正式に受理されているし、私はもう誠司の事なんて好きじゃないわ。誠司には胡桃がいるでしょう。胡桃と子供まで作っておいて、ふざけた事を言うのはやめて」 「──〜っ、あれはっ、俺の子供じゃないはずだ……!それに、俺は胡桃に騙されていた被害者だ!」 「誠司が胡桃に騙されていようが関係ないわ。誠司が胡桃に騙されたのが、私に関係あるの?不倫したのは事実じゃない。……ネット上であんなに拡散されて……恥ずかしいと思わないの?飛行機なんか、沢山の人の目があるのに、あんなに堂々と胡桃とキスしているなんて……不潔だわ」 「──なっ、お前っ」 不潔だ、と冷たく告げられた事に誠司は羞恥でカッと顔を赤くした。 「黙って聞いていれば、調子こきやがって……!お前は俺の物だ!だから、もみじ!お前のデザインも俺の物だ!今すぐ家に戻ってこい!」 「──きゃあっ!」 激高した誠司がもみじを捕まえようと素早く詰め寄ってくる。 そんな誠司から逃げようと、もみじは駆け出そうとしたが、普段履きなれないヒールを履いていたからか。 バランスを崩し、転倒してしまいそうになった。 また、転んでしまう──。 そう思い、もみじがぎゅっと目を閉じた瞬間、硬い床に叩き付けられる衝撃を覚悟していたが、もみじを包んだのはがっしりとした逞しい
last updateLast Updated : 2026-06-01
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248話

「髙野辺さん……!」 「すみません、もみじさん。大丈夫ですか?離れてしまってすみません」 「いえ、大丈夫です……。助けてくれてありがとうございます」 「俺に掴まっていてください。足を捻っているかも……」 離れようとするもみじを、優しく抱き寄せる髙野辺。 もみじは髙野辺の腕に抱かれ、恥ずかしさに頬を赤らめた。 恥ずかしさは感じるが、髙野辺に抱きしめられてもちっとも嫌だと感じない。 髙野辺の腕の中で可愛らしく頬を染め、大人しく腕に収まるもみじを見て、誠司の頭に血が登った。 「お前っ、俺の妻から手を離せ……!」 「新島さん。もみじさんとは離婚が成立しています。それは覆す事の出来ない事実です。……それに、我が社の大事なデザイナーに無理強いをするならば、こちらもそれ相応の対応を取らせていただきます」 「……っ、お前っ、お前には関係ないだろうっ!これは夫婦間の問題で──」 「あなたも分からない人だな。新島さんともみじさんの夫婦関係は終わっている。新島さん、あなたが自ら終わらせたんだ。これ以上もみじさんを苦しめるなと言っている」 誠司は髙野辺の言葉に言い返そうとしたが、先程昼休憩の音楽が鳴った。 そのため、社内からは続々と社員が出て来ている。 昼休憩に食事をしに行く人達が、じろじろと誠司を不審な目で見る。 その視線の多さと、誰かが誠司の事を指し、話している声が聞こえてくる。 「──おい、あそこ……髙野辺社長の目の前にいる男って……」 「ああ、この間うちの会社のパーティーに不正入場した男だ」 「確か、不倫した男でしょう?私もネットの動画を見たわ。ひっどいわよねぇ」 など、好き勝手に話す声が聞こえ、誠司はチッと舌打ちをすると未練がましく、もみじに顔を向けた。 「──もみじ、俺はお前との離婚を絶対に認めないからな。お前はずっと前から、そしてこれからも俺の物だ」 誠司は言いたい事だけを言うと、逃げるようにその場を後にした。 その場に残った髙野辺と、髙野辺に抱きしめられているもみじ。 2人は、誠司の自分勝手な言い分に呆気に取られていた。 「し、信じられない……まだ諦めていないの……?」 「……もみじさんの受賞を知り、もみじさんの能力が惜しくなったのかもしれませんね」 抱き合っている
last updateLast Updated : 2026-06-02
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249話

「──あ!す、すみませんもみじさん!」 「ご、ごめんなさい!」 2人から声をかけられたもみじと髙野辺は、顔を見合わせて互いの距離の近さを再確認した。 そして、あまりの近さに慌てて離れる。 「それでは社長、我々は昼休憩に行ってまいります」 「玖渡川さん、改めてよろしくお願いします」 蒔田と田島が2人に軽く頭を下げ、わたわたとしているもみじと髙野辺を気にする事なくその場を離れてしまった。 「──昼休憩……、そうか、だからうちの社員がもうこんなに……」 「えっ、あ!本当ですね。さっきの騒ぎのせいでこんな時間になってしまい、すみません髙野辺さん」 「いえ、気にしないでください。気を取り直してご飯に行きましょうか?」 お互い、少し気恥しさはあるものの、気を取り直して昼ご飯を食べに行く事にした。 髙野辺が連れて行ってくれたのは、オフィス街にあるこじんまりとした定食屋さんだった。 髙野辺にしては意外なチョイスに、もみじが驚いていると髙野辺が悪戯っぽく笑いながら口を開く。 「ここ、こじんまりとしていて、隠れ家的な定食屋さんなんです。良くここでご飯を食べているんですけど、うちの社員と会った事はないので周囲に気にする事なく美味しいご飯を食べられますよ」 「お店の雰囲気も落ち着いていて、いいですね!」 「ええ、そうでしょう?お店のお母さんも、明るくてハキハキしていて凄く心地いい場所なんです。店主はちょっと怖い顔をしているんですけど、凄く優しい人なんですよ」 「ふふっ、髙野辺さんがこのお店が大好きなのが良く分かります」 「本当ですか?」 談笑しつつ店の扉を開けて中に入る。 すると、年配の女性が元気良く出迎えてくれた。 「いらっしゃ──あら!聖(ひじり)ちゃんじゃない!今日は偉い美人さんを連れてきて!恋人かい?」 「お、お母さん!やめてください、友人ですよ!」 「はははっ!どうだかねぇ!さあ、入って入って!そちらのお嬢さんも!」 もみじは「お邪魔します」と口にしながらお店に入る。 店内はこじんまりとしていて、4人が座れるテーブルが3つ、2人が座れるテーブルが3つ。 あとはカウンター席が4つほど。 既にカウンター席は2つ埋まっていて、お店のお母さんは2人用のテーブルを案内してくれた。 「オフィス街で、オシャレなお店はいっぱいあるでしょう
last updateLast Updated : 2026-06-02
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250話

◇ 「──ご馳走様でした!すっごく美味しかった!」 「それは良かったです」 もみじが食べ終わるのを待っていた髙野辺が嬉しそうに笑う。 「すみません髙野辺さん、待たせちゃいましたね」 髙野辺はとっくに食べ終わっていたが、もみじが急いで食事をしないよう告げ、ゆったりと食後の時間を楽しんでいたのだ。 いつも、食後はすぐに店を出ず食休みをしてから出ているから気にしないで、と言ってくれた。 その気遣いが有難く、もみじは焦る事なく食事を楽しめた。 「もみじさんも食後の飲み物を頼みますよね?ここ、アイスティーが絶品なんです」 「時間に余裕があれば……!」 「もちろん大丈夫ですよ。──すみません!」 髙野辺が先程のお店のお母さんを呼び、もみじのアイスティーを注文してくれる。 先程まで店内は入れ替わり立ち代りお客さんで賑わっていたが、今はもう落ち着いてきている。 店内には女性1人客もちらほらと見受けられ、その女性客もゆったりと食事を楽しんでいるように見えた。 その様子を見たもみじは急いでお店を出ないでも大丈夫そう、と安心する。 「午後は社内の案内をさせていただきますね。興味のある部署があればその都度言ってください」 「ありがとうございます、髙野辺さん」 お待ちどうさま、アイスティーだよ。 そう言ってお店のお母さんが飲み物を持ってきてくれる。 もみじと髙野辺は午後の仕事について暫く話し、アイスティーを飲み終わると席を立った。 「もみじさん、時間が合う時はまたお昼をご一緒しませんか?」 「──はい、ぜひ!」 すっ、と伝票を取ろうとする髙野辺の行動を察したもみじは、髙野辺より早く伝票を取った。 あっ、と小さく声を上げる髙野辺に、もみじは自分のお財布を見せて笑う。 「以前、次は私がお支払いします、って言いましたからね。今日のご飯代だけだとお返しにならないですが……」 「そんな、気にしないでください……!」 「髙野辺さんはまた次の機会に出してください」 もみじはそう言うと、お会計に向かってしまう。 支払いを譲ってはくれなさそうだ、と髙野辺は困ったように笑い、もみじの後ろに着いて行こうとした。 「──あ、あの!すみません……!」 足を踏み出した所で、後ろから話しかけられ、髙野辺は振り向いた。 「俺ですか?」 「あっ、は、はい!」
last updateLast Updated : 2026-06-03
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