Lahat ng Kabanata ng 夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした: Kabanata 11 - Kabanata 20

94 Kabanata

11話

昼間、女性とそんな話をした音羽は夜。 布団に入りながら考えていた。 (あの人に言われた通り、本来なら公用文書等毀棄罪はそんなに重い罪にはならないはず……。それなのに、私は懲役1年6ヶ月を言い渡されたわ……。この年数は、かなり重い過料なはず……。それだけ、紛失した書類が重要書類だったの……?) 取引先から訴えられた、と樹は言っていた。 その時の事を音羽は思い出す。 あの時も、樹は心配いらない、と音羽に言っていた。 訴えを取り下げさせる、と言っていたのだ。 だが、結局その訴えを取引先は取り下げる事はなく、そのまま刑事事件に進み、実刑判決を受けた。 (……あの時の火事に巻き込まれて、樹の会社の役員が無くなってしまった……それはとても痛ましい事。だけど、その火事を引き起こした原因は何だったの……?) 火事の原因は不明だったのだ。 そして、その火事すらも音羽が引き起こしたせいになってしまった。 書類を紛失した事を隠すために、音羽が火事を引き起こし、全てを灰にした。 そんな事実は無かったため、音羽は必死に否定したが、結局無実という証拠もなく、原因不明の火事も音羽のせいになってしまったのだ。 (樹は……必ず出してやるって……すぐに出してやるって病院でそう言ってくれたけど……あれから何の連絡も無いわ) 音羽はそっと自分の腹に手を当て、撫でる。 (この子のためにも、無実を証明したいのに……だけど私に出来る事が殆ど無いわ……) このまま、腹の子が刑務所で育って行くのを待つ訳にはいかない。 まだ刑期は1年以上残っているのだ。 このままでは、刑務所で出産せざるを得なくなってしまう。 だが、そんなのはごめんだ。 刑務所なんかで出産する訳にはいかない。 (明日、樹に連絡をして……この間言っていた事はどうなっているか……それを聞いてみよう……) そう決めた音羽は、目を閉じて眠る事にした──。 ◇ 翌日。 音羽は朝目覚めると、早速樹に連絡をするために電話をかけにいった。 だが、音羽が樹のスマホにいくら電話をしても、コール音が鳴り続けるだけで一向に樹が出る気配が無い。 「──出ない。なら、他の人に電話をするしかないわね……」 普通だったら、樹の秘書に連絡をするだろう。 だけど、樹の秘書は裕衣だ。 音羽には裕衣に電話をする気にはどうしても
last updateHuling Na-update : 2026-02-06
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12話

呼出音が途切れ、訝しげな男の声が音羽の耳に届く。 〈──はい、どちら様ですか?〉 「あっ!すみません、以前樹の秘書をされていた方、ですよね……!?」 〈──は、えっと……?〉 明らかに戸惑う秘書の声が聞こえる。 音羽は自分が名乗っていなかった事に気付き、すぐに言葉を続けた。 「私、玉櫛 音羽と申します。夫──玉櫛 樹に電話をしているのですが、夫が電話に出ず……今は会議中か何か、ですか?」 〈──!失礼しました、奥様だったのですね。社長は社長室で仕事中のはずです。今社長室に向かっている途中でしたので、少々お待ちください〉 「ありがとうございます、よろしくお願いします!」 樹は、社長室で仕事中──。 その回答を得た音羽は、ほっと胸を撫で下ろした。 樹は仕事に集中していたのだろう。 それで自分の着信に気が付かなかったのかもしれない。 そう、音羽は判断した。 電話の向こうでは、硬い革靴が廊下を歩く音が聞こえていて。 数秒後に、その足音が止まった。 〈奥様、社長室に到着しました〉 「ありがとうございます。主人に私から電話だと、伝えてください」 〈かしこまりました。──社長、失礼いたします〉 スマホの向こうで、社長室の扉をノックする音と、元秘書の男性が樹を呼ぶ声が聞こえた。 そして、扉を開ける音が次いで聞こえて──。 〈──あっん♡〉 〈……ぅっ、ぐ……っ。──はっ、佐伯。勝手に入ってくるな!〉 〈も、申し訳ございません社長……っ〉 スマホの向こうから、女性の甘い喘ぎ声──十中八九、裕衣の喘ぎ声だろう。 それと、息の上がった樹の怒声が聞こえてきて、音羽は頭の中が真っ白になった。 秘書の佐伯が謝罪を口にした後、樹は彼が入室した理由も聞かず、再び裕衣を抱く事に決めたのだろう。 聞きたくもないのに、スマホの向こうからは水音と、肌を打つ、高い音。そして裕衣の喘ぎ声が大きく響き始めた。 「──っ」 音羽はこれ以上聞いていたくなくて、電話を切ってしまった。 「何でっ、何でこんな事が出来るの、樹!」 音羽は怒りで涙が滲んで来るのを感じた。 力任せに電話の受話器を置き、鋭く叫ぶ。 聞きたくもない、裕衣の喘ぎ声が耳にこびり付いているようで、不快だ。 気持ち悪さすら感じて、音羽はその場に蹲った。 「信じられない……っ、信じら
last updateHuling Na-update : 2026-02-07
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13話

あれから、数時間。 音羽の意識が戻る。 すると、そこは刑務所の医務室のようだった。 「──私、」 「ああ、目が覚めたのね?無理をしては駄目よ。あなたは妊娠しているんだから、興奮したら胎児に悪いわ」 医務室の医務官が、音羽に振り向く。 そしてカルテだろうか──。 それを確認しながら、言葉を続ける。 「まだ安定期に入っていないのね。今はもっとも流産しやすい時期だから、気をつけて。今回はお腹の子も無事だったけど、できるだけ安静にしていてね」 「──分かり、ました。ありがとうございます」 「どういたしまして。もう大丈夫だから戻っていいわ」 医務官に促され、ベッドから起き上がった音羽は、ゆっくり自分の留置所に戻る。 冷たく暗い廊下を歩きながら、音羽はこれからの事を考える。 (樹が動いてくれなければ、刑期が短縮されるのはほぼ無理だわ……。そうなったら、この子は刑務所で産む事になる……。でも、産まれた後は……?私が育てられるの……?) もし、まだ乳幼児の時に引き離されてしまったら。 (樹の元に、子供が行ってしまうの……?それだけは、嫌よ……!樹の傍には、あの裕衣が居る……!) 裕衣が自分の子供を愛情深く育ててくれるはずがない。 もし、樹に子供を取られてしまったら。 自分の子供は、幸せになれない。 音羽はそう考え、必死に頭を働かせる。 (刑務所では、どのように定められているのかしら……刑務官に確認してみよう……) そんな事を考えつつ、音羽は自分の留置所に戻って行った。 ◇ 「あっ、お帰り。あんた、具合は大丈夫だったのかい?腹の子は?」 音羽が戻ってくるなり、同じ留置所の女性が慌てたように駆け寄って来た。 「あんたが倒れたって看守に聞いて、びっくりしたよ」 「ご心配をおかけして、すみません。気分が悪くなる出来事があって……。でも、お腹の子も大丈夫でした。ありがとうございます」 「それなら良かったよ……。だけど、あんた顔が真っ青だ……。少し横になってたらどうだい?」 甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれる女性に、音羽は「ありがとうございます」と伝える。 だが、横にはならずにふと音羽は女性に子供が産まれた後の事を聞いてみよう、という気持ちになった。 「──あの、もし知ってたら教えて頂きたいのですが……」 「ん?何だい、私で知っ
last updateHuling Na-update : 2026-02-07
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14話

「私もそこまで詳しくは知らないんだけどねぇ……」 女性は、虚空を見上げつつ、思い出すように音羽に説明してくれた。 「確か、出産後数ヶ月は母親と一緒に居る事が可能だよ。ただ……何ヶ月かしたら、母親から引き離される」 「──数ヶ月は一緒に居られるんですね!」 「ああ。出産後、半年かそこらだったと思うよ」 「ありがとうございます……!それだったら、先に刑期が終わると思います!」 明るい表情で喜ぶ音羽に、女性は目を細め「良かったねぇ」と頷く。 「引き離された時は……あんたの場合はそのどうしようもない旦那の所に子供が引き取られるか……乳児院に出されちまうからね……母親のあんたの刑期が先に終わるなら安心だ」 「──ええ、本当に良かったです。不倫相手の元に、この子を行かせたくありませんから……」 音羽は安心したように微笑み、自分のお腹を優しく撫でる。 慈愛の満ちた音羽の視線に、女性も嬉しそうに笑った──。 だが、音羽が喜んだのも束の間──。 数日後、音羽の元に信じられない知らせが舞い込んだ。 「──どうして……っ!どうして私の刑期が伸びるんですか!?」 「落ち着きなさい……!落ち着きなさい568番!興奮したら体に悪い!」 「じゃあっ、じゃあ私にも納得出来るように説明してください!どうして私の刑期が3年に伸びるんですか!?それじゃあ、この子は……!この子はどうなるんですか!!」 音羽は、涙を零し、髪の毛を振り乱し取り乱す。 納得がいかない。 1年6ヶ月の実刑判決ではなかったのか。 それなのに、どうして今になって3年に覆されるのか──。 そんな重要な事を、突然言われても音羽には納得出来ないし、到底頷けるはずが無かった。 取り乱す音羽と、音羽を抑える看守。 同じ留置所になった女性──465番と呼ばれた女性は、信じられない思いで唖然と音羽を見つめた。 「覆されるなんて、有り得ない……。これは……誰かが手を打ったね……」 女性の呟きは、騒がしい留置所内では誰にも聞かれる事なくぽつりと落ちて消えてしまった。 ◇ 音羽が服役している刑務所から、遠く離れた都内某所。 音羽と樹の家の寝室。 寝室内は、淫猥な空気が流れていた。 湿っぽく、荒い息が木霊する室内で、女──裕衣は男の裸の胸に擦り寄った。 「樹……例の件って……もう済んだの……
last updateHuling Na-update : 2026-02-08
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15話

玉櫛 樹と言う男は、凄まじくプライドが高い人間だ。 財閥の御曹司として生まれ、将来は大企業の社長を約束された、とても恵まれた男。 そんな男が、突然結婚を発表した時。 当時の裕衣はとても驚いた。 そして、その理由を知った裕衣は益々驚いたのだ。 大企業の御曹司ともあろう者が、一般の女性に一目惚れをした。 そして、その女性へのアプローチが続き、等々女性──音羽が頷いた。 全てを手にして来た男が選んだのは、一般人の普通の女だった。 それを美談にして、マスコミは連日連夜流していた事を裕衣は良く覚えていた。 そして、樹は一般人の女に一目惚れしたと言っていたが、それもどうせ一時の気持ちに過ぎないだろうと言う事も分かっていた。 昔から樹にまつわる女性関係の派手な噂は耳にしていたのだ。 仕事は出来るが、女好きで生活にだらしのない御曹司。 だから裕衣は、インターンで樹の会社に来る事を決めた。 一般の女を妻にした事は、きっと一時の気の迷いだろう。 いつも高級フレンチばかりを食べていたら、たまには変わり種で和食を食べたくなる時だってある。 今回の結婚も、ただそれだけに違いない。 樹の女癖の悪さは直らない。 そう読んで、樹の会社にインターンでやってきた裕衣は、秘書として樹の傍に控える事が多くなり、そして立った数日で自分の考えが当たっていたのだ、とほくそ笑んだものだ。 裕衣が秘書課に配属されて、たった数日だ。 たった数日しか経っていないのに、樹はすぐに裕衣に手を出した。 インターンで会社にやってきた裕衣は、初心で男に慣れていない風を装った。 きっと、樹の傍に居る女達とは違うだろう。 遊び慣れていない、男に免疫のない女。 そんな女を装い、樹にはまり込む振りをして、樹本人を自分にはまり込ませるのだ。 そして、それは本当に上手く行った。 上手く行きすぎて怖い程に、だ。 哀れで愚かな女を演じれば、馬鹿な樹はすぐにそれに引っかかったのだ。 弱さを見せるのも、時には大事なのだ。 樹のような男は自尊心が高い。 頼りすぎては駄目だが、程よく頼ってやれば簡単に手を差し伸べてくれる。 差し伸べた手が、とんでもない罠にかかっているとも知らず。 そして、それを隠すためにどんどん嘘を重ね、最後には取り返しのつかなくなる事になるまで一緒に堕ちてくれるのだ。
last updateHuling Na-update : 2026-02-08
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16話

◇ 音羽の刑期が伸びた、と知らせを受けた日から数日。 音羽と同じ留置所の女性は、面会に来た人間と顔を合わせていた。 面会にやって来たのは年若い男性。 だが、その男性が放つ雰囲気はとても鋭く相対する者に畏怖を抱かせる。 男性の黒い黒曜石のような瞳は、暗く翳り目の前にいる自分を呼び出した女性を緩慢な動作で足を組み、見つめていた。 男性が足を組んだ時に彼の黒髪がさらり、と動いた。 「──若」 女性は、背中にじっとりと汗をかきつつ、目の前の男性を呼ぶ。 緊張感に口の中はカラカラに乾いていて「若」と呼んだ声は酷く掠れていた。 自分を呼ぶ緊張した声を聞いた男性は、それに面白そうにくつり、と笑うと女性を見返す。 「どうした?俺を呼んだのは、何か理由があったから、だろう?」 低く、怠そうに紡がれた声。 だがその声はとても艶やかで、女性と同じ部屋にいた刑務官の喉がごくり、と鳴るのが女性の耳に届いた。 「は、はい。気になる事があって……若にお聞きしたい事が……」 「お前が気になる?それは面白いな。ここに入るのは慣れたものだろう?それなのにまだ気になる事でもあるのか?」 面会室のテーブル。 そこに、肘を着き顔を乗せた男が愉しそうに笑う。 男の言う通り、女性にとって刑務所はもう慣れ親しんだ場所だ。 何度刑務所に入ったか、最早両手の指で数え切れなくなってからは数えるのが馬鹿馬鹿しくなり、数えるのを止めた。 「今回も……組のためにお前が自らぶち込まれてくれた事は感謝しているよ。……だが、俺に聞きたいこと?それだけの理由で……わざわざ俺をこんな場所に呼び出したのか?」 「──っ、申し訳、ございません」 微かに感じる苛立ち。 男が、怒りを覚えている。 それを瞬時に感じ取った女性は、すぐに頭を下げた。 だが、わざわざここまでやって来た、と言う事は多少は男の興味を引いたのだろう。 興味を引く事に成功したならば、もう自分の勝ちのようなものだ。 だけど女性はそんな気持ちをおくびも出さず、殊勝な態度を続けつつ、言葉を続けた。 「同じ留置所に入っている女の刑期が、伸びたのです。実刑を受けた時の……約倍に近い程の刑期に変わりました。こんな事……今まで聞いた事も、見た事もありません」 一息で言い切った女性。 女性の言葉に、それまで苛立ちを顕にしていた
last updateHuling Na-update : 2026-02-09
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17話

「恩を売っておけ」と男が言った。 それは、女性の頼みを男が聞き入れたと言う事だ。 (きっと若は、あの子の事を調べてくれるだろう。……それに、自分達にとって有益な人間なら、上手く利用しようとするはず) 利用。 それは良くない言葉ではあるが、利用価値がある限り、酷い事にはならない。 (あの子も……あの子の子供も……どうにか助けてやれればいいんだが……) 女性は、短い間しか音羽とは関わっていない。 だが、それだけの間柄とは言え、音羽の境遇はあまりにも可哀想だ。 音羽が、自分達と同じような人間なら、そこまで気にならなかっただろう。 だが、音羽はどこからどう見ても善良な一般人だ。 長年、裏の世界に身を置いて来た女性だからこそ分かる。 様々な人間を、腐る程見てきたのだ。 平気で人を裏切り、命を奪う奴らだっている。 そんな奴らは、目を見れば一目で分かる。 だが、音羽の瞳は、純粋で真っ直ぐ。濁りのない綺麗な目だ。 そんな人間が、ろくでもない人間に騙され、身を滅ぼそうとしている。 それを知っていながら、見て見ぬふりは女性には出来なかった。 「──私も、ヤキが回ったのかねぇ……」 ぽりぽり、と後頭部をかきつつ、女性も面会室を後にした。 ◇ あれから。 音羽はすっかり元気を無くし、日がな一日中ぼんやりと過ごす事が多くなった。 「おい、あんた。ちゃんと食べないと腹の子が成長しないよ」 「──あ、465番、さん……?」 「数字で呼ぶんじゃないよ。私は律子だ。律子姉さんと呼びな」 465番──もとい、律子は元気のない音羽を気にして、食事を側に寄せてやった。 「律子、さん……?」 「ああ。あんたの名前は何だい?ああ、安心しな。看守がいる所では呼ばないよ」 ほら、食べな。 そう言ってスプーンを握らせてくる律子に、音羽はきょとり、と目を瞬いた。 だが、律子が心配してくれているのだ、と気づき、その優しさに音羽はふわり、と笑った。 「ありがとうございます、律子さん。私は……音羽、です。玉櫛、音羽……」 「玉櫛……?」 「はい。音羽って呼んでください」 にこり、と弱々しく笑う音羽に、律子は内心驚いていたが、それを表には出さずに笑って「分かったよ、音羽」と言葉を返した。 ゆっくりとだが、確かに食事を始める音羽を見て、律子は心の中で溜息
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18話

◇ 「1日に体を思いっきり動かせるこの時間だけがこん中では一番の救いだよ」 刑務所の運動場で、律子はぐぅーっと伸びをする。 律子は自分の後ろをゆっくりと歩いて着いてくる音羽に気遣うような視線を向けた。 あれから、数週間。 音羽が夫にいくら連絡をしても、彼女の夫がこの刑務所にやって来る事は無かった。 それに、音羽の刑期が本来の刑期に戻る事も、今のところ──無い。 (どうしたもんかね……。このままじゃ、音羽はこの刑務所で出産する事になるし、しかも赤ん坊は半年程で取り上げられて乳児院に入れられる……) 音羽を助けるつもりが無いのだろうか。 それならば、赤子はきっと夫の元には引き取られない。 あんな企業の御曹司が「犯罪者の子供」を自分の手元には置きたがらないだろう、と律子は考える。 (赤子は乳児院か……。このままだと、音羽よりも私の方が先に刑期を終えて先に出所する事になるから……私が赤子を乳児院に迎えに行くか?子育てなんてした事はないが、どうにかなるだろうか。組の皆の手を借りる、か……?だが、それを若が許してくれるだろうか……) 律子は考え込む。 あの日、自分の組の若頭と面会してから数週間が経った。 その間、1度も若頭から連絡は無い。 こりゃ、若の目には止まらなかったか。 そう律子が肩を落とし、音羽の方へ振り向いた。 すると、律子の視界の端に見知った男の姿が映った気がして、律子は動きをぴたりと止めた。 「──律子、さん?」 「……っ、いや、何でも……ないよ……」 律子は、自分の背中に汗が伝うのを感じた──。 律子が見たのは、つい数週間前、面会室で会ったばかりの若頭だった。 スーツを着て、長身の男が刑務所の運動場を長い足で優雅に歩いている。 そして、ふと若頭が律子と音羽の方に顔を向けた。 無表情の若頭は、容姿が整っているからだろうか。 人形めいた美しさと冷たさを宿している。 だが、律子が「見ている」事に気付いた男の口角が上がるのがはっきりと見えた。 「──っ」 「……?律子さん?どうしたんですか……?」 律子の背筋に、ぞっと悪寒が走る。 そんな律子の様子を訝しんだ音羽が、律子が視線を向ける方向へ自らも顔を向けようとした。 だが、律子は何故だか今の若頭を音羽に見せてはいけない。 そんな本能めいた危機を察知し、音
last updateHuling Na-update : 2026-02-10
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19話

「──っ?──!?」 音羽が混乱しているのが、男からも良く分かった。 彼を案内していた刑務官が、足を止めた男に向かって不思議そうに振り返る。 「伏見さん?どうしました?」 「──ああ、いや。何でもない……」 うっそりと、艶やかに笑う男──伏見に、刑務官の女性はごくり、と喉を鳴らした。 ただ立っているだけで、絵になる男だ。 そして、気怠そうに立っているだけなのに男からは壮絶な色香が醸し出されている。 刑務官は、男の低く腹の底に響くような声にぞわりと背筋を震わせた。 無意識の内に男に触れようと伸びていた自分の手にはっとして、慌てて手を引き戻す。 「──失礼しました。……刑務所へのご支援まことにありがとうございます。見学には私共が必ず同行いたしますので、お1人での行動は出来るだけ控えてください。彼女達は女性ではありますが、中には殺人や強盗の罪を犯した凶悪犯もおりますので……」 「……ああ、分かった。必ず君たちに同行してもらうよ」 くつり、と笑みを浮かべる伏見に、刑務官は見惚れるように数秒ほどぼうっとしていたが、すぐに気を取り直し、刑務所内の案内を再開する。 刑務官の後ろを着いて歩いていた伏見は、運動場の方へ再び顔を向ける。 そこには、律子に手を引かれ、まるで伏見から逃れるように遠ざかる音羽の背中が見えた。 遠くなってしまった背中に、伏見は口角を上げると説明しながら前を歩く刑務官の背中に声をかけた。 「今は、何の時間だ?」 「──ああ、彼女達にも運動の時間がございます。太陽に当たる事は大事ですので、毎日1時間程、ああして自由に外を歩き回れる時間を設けているのです」 「──そうか。要は、受刑者の自由時間のようなものか?」 「そうですね……。そのように捉えて頂ければ……」 「自由時間と言うなら、彼女達と外部の者──例えば、私のような支援者が話をする事は可能なのか?」 「それ、は……申し訳ございません、すぐに確認してまいりますので、こちらでお待ちください」 伏見の質問に、刑務官は迷うように瞳を揺らし、すぐに謝罪を口にする。 そして頷いた伏見を廊下に残し、刑務官はすぐに無線で誰かに連絡を取り始めた。 近くにあった空き部屋に入った刑務官を視線で追った後、伏見は廊下の壁に背を預け、音羽をじっと見つめる。 「──似てる、な……」 ふ
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20話

◇ 1時間程の自由時間が終わり、自分の留置所に戻って来た音羽を呼んだのは、看守だった。 「568番。こちらへ」 「──?はい、何でしょう……?」 不思議そうに立ち上がり、看守の元へ向かった音羽は、扉の鍵を開けて外に出るよう促す看守に首を傾げる。 看守は、廊下を歩きながら音羽に説明した。 「この刑務所を支援して下さる方が、568番と話をしたいと仰っている」 「私と、ですか……?」 支援者が、どうして自分を選んだのか。 その理由が分からず、音羽は首を傾げた。 「何かの間違い、では……?私はここの支援者の方を知りません」 音羽は、財閥の妻と言えど、慈善活動はしていなかった。 その為、普段から慈善活動を行っているような人達との人脈などは持ち合わせていない。 どうして自分がその支援者に呼ばれたのか、全く分からなかった。 もしかしたら、どこかで自分の顔を見た可能性はあるが、音羽は今まで殆どマスコミに写真を撮られた事は無い。 樹が音羽は一般人だから、とマスコミへ音羽の盗撮は辞めるように、と手を回していたのだ。 だから唯一、結婚式の写真だけが世の中に出回っている。 その写真を知っている人だろうか──。 音羽は、様々な可能性を頭の中で巡らせる。 だが、看守はあっさりと首を振って答えた。 「いや、支援者の方は今日決まったばかりだ。それに、普段は支援活動を行っていない方らしい」 「──そんな方がどうして私を?」 途端、音羽が警戒心を抱く。 だが、またもやそれは簡単に解決した。 「運動場で散歩をする姿をたまたま見られていたようだ。いいか、粗相の無いようにな」 「わ、分かりました……」 支援者が居る部屋に到着したのだろう。 看守は扉の前で立ち止まると、音羽の体を一通り確認する。 外部の者と接触する際は、危険な物を隠し持っていないか、簡単にチェックされるのだ。 チェックが済み、看守が扉をノックした。 「──伏見さん、失礼します。568番こちらへ」 「し、失礼します」 看守が中に居る人物の名前を呼ぶ。 だが、音羽の記憶の中ではやはり「伏見」と言う苗字の知り合いはいない。 本当に、たまたま運動場で目に止まっただけなのだろう。 そう考えていた音羽だったが──。 (待って……。そう言えば、さっき運動場を歩いている時に……男の人
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