千暁は咲夜に答えた。「いや、いい。しばらく一人にしてやろう」そう言うと、千暁はしゃがみ込み、両手で咲夜の手を握った。「自分で受け止めなきゃならないことだから」掠れた声には、かすかな震えが滲んでいた。母親が亡くなったのだ。悲しくないはずがない。ただ、ここまで来てしまった以上、どれほど悲しくても、彼は一刻も早く気持ちを立て直すしかなかった。このあとには、絢子の葬儀の手配もしなければならない。何しろ今日、天志は絢子の救命措置を盾にして千暁を脅したのだ。そんな男が今さらまともな人間らしい振る舞いをするなど、千暁は端から期待していなかった。葬儀に顔を出し、絢子を一目見に来るだけでも奇跡に近いだろう。だが……千暁は自嘲するように唇を歪めた。むしろ母親のほうが、何十年ものあいだ自分を恐怖で縛りつけてきた夫の顔など、もう二度と見たくないのではないか。せめて最期くらい、あんな男に邪魔されたくはないだろう。千暁にそこまで言われてしまえば、咲夜もそれ以上何も言えなかった。ただ黙って彼のそばに寄り添いながら、ときおり霊安室のほうへ視線を向ける。中からは、途切れ途切れに瞳の泣き声が聞こえてきた。その泣き声が咲夜の耳に届くたび、彼女の眉間には深い皺が刻まれていった。心配でないと言えば嘘になる。だが、どう慰めればいいのか、本当に分からなかった。結局、最後には千暁が自ら中へ入り、瞳の腕を取って、半ば強引に霊安室から連れ出した。そこでようやく、瞳もあることに気づいた。泣き腫らした目を見開き、信じられないものを見るように千暁を見つめる。「お、お兄ちゃん……その脚……」動かなくなったんじゃなかったの?脊椎をひどく損傷し、もう一生立てないと聞いていた。それなのに今、千暁は何事もなかったかのように自分の目の前に立っている。瞳は、もはや今の自分の気持ちをどう表現すればいいのかさえ分からなかった。半分は悲しみ、もう半分は衝撃。頭の中は真っ白で、泣けばいいのか、それとも……自分でも分からなくなっていた。千暁は彼女の肩を軽く叩いた。「俺の脚は大丈夫だ。心配しなくていい」そう言われて初めて、瞳の視線が咲夜へ向けられた。無表情な顔とは裏腹に、その眼差しには明らかな非難が込められていた。「じゃあ、このこと……咲夜も知っ
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