穣は、自分に注がれる視線を私に流すように、横目を向けて、「空に一番精通してるのは、管制官でもディスパッチャーでもなく、パイロットだから。操縦の判断は任せて、地上で待ってよう……って、コイツに言われた」「っ! ブホッ」あの時、熱くなって彼を諭した言葉を、前触れもなく持ち出され、私は思わず吹き出した。 水無瀬君が、「へえ」と目を瞠る。「『航空事故』だからこそ、パイロットに、フライトマニュアルに沿った操縦をさせないと……って。俺はあの時、頭ガチガチにして、久遠さんとバトった。許可した管制はあくまでも外部の人間だから、同じ社員の俺が、なんとか社内規定に従わせないとって。……八巻さんに、一人じゃなくて、みんなで分担しようって言われて、目が覚めた気分だった」私は口元をハンカチで押さえながら、静かにポツリと口にする穣の横顔を、涙目で見つめた。「人の手を借りるより、自分一人の方がペースが乱れない。確かに俺、ずっとそうやって仕事してた。……周りを、信用しようとしてなかったから」「……そっか」水無瀬君が、なにか訳知り顔で目を細める。 ようやく箸を持ち上げると、味噌汁で濡らした。「氷室もやっと、運命の女と巡り会えたかー」自分の言葉に納得したように、何度も首を縦に振る彼に、私は「えっ!?」と声をひっくり返らせた。「なっ……水無瀬」今度は、穣が「ゴホッ」と噎せ返るのを聞いて、「じょ……氷室君、大丈夫?」慌てて声をかけ、彼の背中を軽く叩く。 水無瀬君は、なにやらニヤニヤと私たちを眺めている。 穣は、私に「ああ」と頷いてから、コップの水をゴクゴクと呷り、「なんちゅう意味深な言い方するんだ、お前」向かい側の彼を、ギロッと睨む。 なかなかの眼力なのに、水無瀬君は怯む様子もない。「意味深に聞こえるのは、氷室が意識しすぎてるからだよ」むしろ強気に、ふふんとほくそ笑む。「俺が、なにを」「パイロットの間でも、滅茶苦茶キレるけど一匹狼の石頭って言われるお前が、八巻さんの言葉で改心した。お前の仕事人生を変えたに等しい出会い。運命だって、俺は思うよ?」いつもは爽やかな笑みに、そこはかとないブラックさを滲ませ……。「ね? 八巻さん」あろうことか、私に同意を求めてくる。「えっ!? ええと……」私は素っ頓狂な声をあげて、穣の判断を求め、チラッと視線を投げた。
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