All Chapters of 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか: Chapter 121 - Chapter 130

135 Chapters

第121話

それから萌子は城田家の御曹司である宗助からの猛アタックにより、彼と付き合うことになった。その間もずっと美里のことを意識していた。彼女は萌子にとって、唯一ライバルと呼べる女性だったからだ。自分と同じくらい美しい容姿に加え、自分には持ち合わせていない家柄まで。悔しかった。自分よりも勝っている女がすぐ近くにいるのは。しかし、そんな日々もすぐに終わりを迎えた。宗助と付き合い、彼の隣に立つようになってからというもの、美里の視線をよく感じるようになった。彼女は最初そのことを不思議に思っていたが、すぐに理解した。――あぁ、あの女は彼のことが好きなんだ。そういえば、城田家の御曹司と永山家のお嬢様は幼馴染だったっけ。萌子はだいぶ前にチラッと聞いた話を思い出した。美里は宗助と一緒にいる萌子に羨望の視線を向け、いつも彼らの後ろ姿ばかりを見つめていた。萌子はそんな彼女を見て優越感に浸った。――私、あの女に勝ったんだわ。あの女がどう頑張っても手に入れられなかったものを、私は手に入れた。その事実だけで心が満たされるような思いになった。それからというもの、萌子は行き過ぎた行動を取るようになった。『ねぇ宗助、美里さんっているでしょう?あなたの幼馴染の』『美里がどうかしたか?』『あの人を私に紹介してほしいわ』萌子の言葉に、宗助は眉をひそめた。『何故お前が美里に会う必要がある?』『宗助の大切な人なら、私も会いたいのよ!私はあなたの恋人だから』彼女は何とか彼を説得し、宗助は渋々萌子に美里を紹介した。『よろしくお願いします、美里さん』萌子は目の前にいる美里に完璧な笑顔を向けた。宗助の隣にいるのは私であって、あなたではないんだ。そのような思いも込めて。美里は悲しそうに目を伏せて挨拶を返した。『今野さん、よろしくお願いします』あぁ、その顔が見たかったのよ。たまらないわ。萌子は内側からゾクゾクするような感覚に襲われた。もっと悲しめばいい。もっと苦しめばいい。ほら、私と宗助をよく見なさい。あなたをより一層惨めにさせてあげるから。それから萌子の行動はエスカレートしていった。美里の前でわざと宗助の腕に手を絡めたり、三人でどこか行かないかと彼女を誘ったりもした。全てが順調だった。宗助は海星と違って頭も良いし、地位と財力もある。萌子にとってはこれまでにないくらい完璧な男だっ
last updateLast Updated : 2026-05-03
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第122話

「アイツ……アイツのせいで全て壊れてしまったんだわ……!」萌子の父親が自動車事故を起こし、宗助との関係が終わったとき、彼女は家族を憎んだ。やっとあの人たちから離れて完璧な幸せを手に入れられると思っていたのに。そして、憎しみの対象は城田夫妻や、関係のない美里、宗助にまで及んだ。今自分がこんなにも惨めな暮らしを送っているのは全てアイツらのせいだ。そうに違いない。「アイツらだけが最後に笑うだなんて絶対に許さないわ……どうせ地獄に落ちるなら……誰か一人でも道連れにしないとね……」萌子は森の中で一人不気味な笑みを浮かべた。まだ昼だというのに、白羽区にあるこの森は暗く影を落としていた。まるで萌子の今の心境を表しているかのようだった。彼は木の葉の隙間から見える青い空を見上げた。「思えば、最初からこんなドブみたいな人生だったわね……」萌子は森の中で幼少期の記憶に思いを馳せた。両親がいて、弟がいて、祖父母がいた。あの頃は何も考えていなかった。もしかすると、幸せだったのかもしれない。今ではあまりよく思い出すこともできないが。母親はたしかにキツい性格だったが、萌子に勉強を教えてくれたりもした。料理が得意で、彼女の好きなものをよく作ってくれた。父親は気が弱くいつもオドオドしていたが、休みの日は必ず萌子たちをどこかへ連れて行ってくれた。叱られたことなんて一回も無いのではないだろうかと思うほど、穏やかな人だった。弟の修人は父に似た、優しい性格だった。いつも姉である萌子のことを心配し、家族内で最も彼女を気遣っていた。「……」萌子の手が止まった。家族のことを思い浮かべると、何だか複雑な気持ちになった。萌子は捕まって惨めな女として生きるくらいなら、ここで全てを終わらせようと思っていた。しかし、今になって生への未練が出てくるのか。ちょうどスマホを開くと、海星が捕まったというニュースが報道された。警察のトップが長い間ずっと隠蔽してきた身内の不祥事に、人々は注目した。容疑者として連行される海星の写真が掲載されていた。こんな風になるくらいなら萌子は死んだほうがマシだ、と彼を嘲笑った。「……そうよ、全部終わらせるべきだわ」萌子は何かを決意したかのように、懐から買っておいたロープを取り出した。修人には遺書を残しておいた。我儘で傲慢でどうしようもない姉だったが、彼のことは大
last updateLast Updated : 2026-05-05
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第123話

修人はロープを木の枝にかけようとしている萌子に駆け寄ると、彼女の体を抱きしめた。弟の体が小刻みに震えていることに気付いた彼女は、驚きを隠せなかった。「修人……?」「姉さん、馬鹿なことはやめてくれよ!」「どうしてあなたが……」修人は萌子から体を離すと、涙を流して彼女を見つめた。萌子は二度目の衝撃を受けた。修人とは姉弟とはいえ、性格が正反対のせいかそりが合わず、昔から喧嘩ばかりしていた。そんな彼のことだから、私が死んだところで何とも思わないと思っていたのに。「……遺書を読まなかったの?」「やっぱり遺書だったんだな……姉さん、死ぬつもりだったのか」修人は責めるような目で萌子を見た。「市原から全部聞いたんだよ……姉さんがアイツに何を頼んだのか」「市原君が……」萌子が最後に願いを託した相手は、彼女の計画には乗らなかったようだ。このとき初めて知ったことだったが、実は彼は既に萌子のことを過去だと割り切っており、新しく好きな女性ができていたのだ。そんな彼が、彼女の馬鹿げた頼みなど聞き入れるはずがない。萌子は全て失敗したことを悟った。「そのときに最後のお願いって言ったんだろ?市原がお前の様子が変だって俺に電話してきたんだ」「……」修人は何とか萌子を捜し出し、ここまでやって来た。彼は萌子の肩を掴んで揺さぶった。「姉さん、頼むから馬鹿なことはやめてくれよ」「あなた、私が何をしたのか知らないの?――私は殺人者よ。海星が捕まった今、私の罪もすぐに明らかになるわ」「……」修人は黙ったまま萌子の話を聞いていた。弟である彼にとっては、かなりキツい内容だろう。しかし、修人は動じることなく意外な反応を示した。「……知っていたよ、姉さん。姉さんが寝言であの事故のことをブツブツ喋ってたからさ……」「な……う、嘘でしょう……?」萌子と海星が墓場まで持って行くつもりだったことは、弟の修人には隠せていなかったようだ。「姉さん、姉さんは昔から大きくなったらお金持ちと結婚するだの何だの言ってただろ?覚えてるか?」「……」萌子は一般家庭に生まれ、周囲のお金持ちを羨んできた。そのせいか、幼い頃からかなり金に執着していたのを修人はよく知っている。「裕福じゃなくてもさ、家族で幸せに暮らせていければそれでいいんじゃないのか?」「修人……」「お金があるからって幸せだとは
last updateLast Updated : 2026-05-06
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第124話

ちょうどその頃、永山家では宗助が電話で誰かと話をしていた。美里はそんな彼の姿をベッドに座りながらじっと見つめていた。電話の相手はおそらく秘書だろう。萌子捜索の件で何か進展があったのかもしれない。萌子が行方不明になったと聞いてから、美里は落ち着かなかった。彼女がまた何か仕掛けてくるのではないかという不安はいつまでも美里の胸に残ったままだった。「……そうか、わかった」宗助は通話を終え、美里のほうを向いた。「美里、萌子が見つかったそうだ」「萌子が見つかった!?一体どこにいたというの?」美里は驚いて彼に尋ねた。どれだけ探しても消息を掴めなかった萌子が突然姿を現したのだから、驚くのも当然だ。「……警察署だ」「……警察署?」美里は口をあんぐりと開けたまま、聞き返した。「自分から警察に出頭したそうだ」「どうして急に……」「さぁ……逃げ切れないと思ったんじゃないか?」数日前、警視総監の不祥事が明らかになり、ついさっき海星が捕まったところだった。自分に捜査の手が及ぶのも時間の問題だと考え、自首したのかもしれない。(でも変だわ……萌子の性格上、そんなことをするとは思えない……)彼女ならどんな手を使ってでも逃げ切ると思っていた美里にとって、それは想定外のことだった。「それと、自首する間ずっと弟が付き添っていたそうだ」「弟……?」萌子に弟なんていたのか。美里はそのことを今初めて知った。少なくとも萌子と一年近く交際していた宗助は知っていたようだった。「今野修人って言うんだが……」「修人……?」聞き覚えのある名前に、美里はピクッと眉を動かした。「美里、知っているのか?」前にデパートで会ったあの青年。今野という白羽区ではありがちな苗字のせいで気が付かなかった。萌子と血縁関係にあったのか。「えぇ……前にたまたま外で会ったことがあったの。大切なものを落としたときに拾ってくれてね……特別仲良くしているわけではないけれど……」「そうだったのか……」あのときの人当たりのよさそうな好青年が萌子の弟だったのか。外見含め、彼女とは全く似ていなかったため美里は少し驚いた。「萌子は今警察署にいるのね?」「あぁ、あのようなことをしたんだ。彼女もただでは済まないだろう」「そうね……」美里は大学時代に見た萌子の姿を思い浮かべた。周囲にいる誰よりも美しく、誰より
last updateLast Updated : 2026-05-07
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第125話

数日後、萌子が勾留されたとの知らせを受けた。彼女の勾留から数日経ったあと、美里は彼女に会いに行った。美里にとって萌子は仇も同然の女だった。そんな女に最後に会うことを決めたのは、自分の手で全てを終わらせたかったからだろうか。美里自身、よくわからなかった。自分が彼女に何を望んでいるのか。萌子はまさに物語に出てくるような悪女だった。自らの美貌を利用し、他者を貶める。そんな悪女の末路としてはピッタリだ。宗助を外で待たせ、部屋に入ると、俯いて座る萌子が視界に入った。髪はボサボサで、眠れていないのか目の下にクマがあった。しかし、彼女はそれでも一般女性よりずっと美しかった。悔しいが、美里はそのことを認めた。「……」面会室に現れた美里の姿を見て、萌子は一瞬だけ目を見開いたあと、すぐに視線を下に落とした。気まずいのか、美里と一切目を合わせなかった。美里は彼女の正面に用意された椅子に座った。透明な仕切りを挟んで、彼女と向かい合った。こうやって彼女と向かい合うのは、萌子が白羽区に来たあの日以来かもしれない。(あのときは随分馬鹿な計画を立てていたわね……今では懐かしさすら感じるわ……)あの日、萌子と楽しくお茶をしたときの記憶が美里の脳裏によぎった。少なくとも、あのときの彼女の楽しそうな笑顔に嘘は無いように思えた。何があなたをここまで壊してしまったのか。宗助への未練?富や名誉に対する執着心?美里は俯く萌子を正面から見据えて口を開いた。「久しぶりね、萌子……」その一言に、彼女は頭を上げて美里を見た。焦点の合わない虚ろな目が、彼女を捉えた。「自分から警察に行ったって聞いたわ」「……」萌子は顔を上げたまま何も言わなかった。どうして急にそのような行動を取ったのか。聞いたところで彼女は何も言わないだろう。美里は萌子を嘲笑うように口角を上げた。「驚いたわ。あなたにそんな良心が残っていたのね」「……ええ、自分でも驚いているわ」「……何ですって?」萌子は美里とじっと目を合わせた。「ちょっと前までは、こんな風に惨めな暮らしをするくらいなら死んだ方がマシだと思ってた……」「……」「でもね……今は違う……何故かわからないけれど、今は死にたくないの……」萌子は視線を宙に彷徨わせながら言葉を続けた。「この状況になっても……死にたいとは思わない……自分がこんな感情を抱く
last updateLast Updated : 2026-05-08
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第126話

死ぬことが贖罪になるわけではない。彼女が死んだところで、亡くなった被害者が帰ってくることは無いのだから。少なくとも、美里はそう思っていた。「……そうね、あなたはこれから一生自らの行いを後悔して生きていくべきだわ」「あなたからそんなことを言われるだなんてね」萌子は表情を変えずに美里をじっと見つめた。不思議と、そこには以前感じていた憎悪や妙な違和感のようなものは見えなかった。萌子は本当に変わったというのか。誰よりもプライドの高いあの萌子が?美里はすぐには信じられなかった。今目の前にいる彼女は全て演技であり、本当は全く別のことを頭の中で考えているのかも……と探るような目で彼女を見た。そんな視線の意味を萌子も感じたのだろう、不快そうに眉を上げた。「私、あなたのことがとっても嫌いだったわ」萌子が美里の目を見つめて言った。彼女が自分を毛嫌いしていることは以前から感じていたため、美里は特に何とも思わなかった。「私と違って全てを持ち合わせているあなたがすごく羨ましかったの。だからあなたが彼と笑い合っている姿を見て耐えられなかった。地に落ちてほしい……とずっと思っていたわ」「……」初めて語られる萌子の本心。一体いつからそのような気持ちを抱いて美里に接していたのか。美里は気になったが、それ以上は聞かなかった。その代わりに、お返しとでもいうかのように、彼女もまた本音をさらけ出した。「私もあなたのことが嫌いだったわよ。ポッと出のあなたが宗助の傍にいるということが不愉快だったわ、とってもね」「ふふ、お互い様ね」萌子は嬉しそうに笑った。いつものような貼り付けた笑みではなく、心からの笑顔だった。ここまでどん底に落ちてもなお、そのような笑顔を見せるとは。やはり、本当に彼女は変わったようだ。「最後にあなたの本当の気持ちを知れたことだし……私はそろそろ帰るわ」「私も最後にあなたと話せてよかったわ」美里は席から立ち上がり、座ったままの萌子に背を向けた。彼女が部屋から出ようとしたそのとき、背後から萌子のか細い声が耳に入った。「……たくさん迷惑かけてごめんなさい」「……萌子」美里はその言葉に反応することも振り返ることもなく、部屋から出て行った。最後に余計な情を残したくなかったのだ。ただ、彼女がこの先自らの行いを悔いてくれることを願うだけだ。面会室から出た美里は、あ
last updateLast Updated : 2026-05-09
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第127話

萌子の弟の修人とは、前に二度会ったことがある。約束して会ったわけではなく、偶然のことだった。そのため、二人は特別仲が良いというわけではない。少なくとも二人の間には、友人のような気軽さはなかった。「お久しぶりです、美里さん」「ええ、今野さん」美里は目の前にいる修人の顔をじっと見つめた。やっぱり、いくら見ても萌子と似ているところが全くない。言われなければ誰も姉弟だとは気付かないだろう。実際、美里も彼らに血の繋がりがあるとは思ってもみなかった。「美里さん……姉が迷惑をおかけしました」「……気にしないでください、今野さん……いえ、修人さんがそのように思う必要はありません」美里は修人に優しく声をかけた。今回の一件に修人は無関係だ。彼は萌子の企みなんて何も知らなかったに違いない。その点で言えば、彼もまた被害者だった。萌子が捕まったことにより、犯罪者の家族という汚名は永遠について回ることとなる。彼女の犯した罪の責任を取らなければならない日も、もしかすると来るかもしれない。修人はどのような判断を下すのだろうか。自分の将来のことを考えれば、彼女とはキッパリ縁を切ってしまったほうがいいはずだ。しかし、彼の口から出てきたのは予想外の言葉だった。「僕は……姉さんを見捨てる気はありません」「……本気で言っているのですか?」理解できないというような美里に、修人は頷いた。「美里さんには本当に悪いことをしてしまったと思います……ですが、姉さんは僕にとってたった一人の姉で……家族に変わりはありませんから」「修人さん……」修人は自身の過去についてを語り始めた。「僕たちの母は……気が強く、過干渉な人でした。それが他人を傷つけていい理由にならないことはわかっています。ですが、そのような母の教育方針が姉さんを変えてしまったのだと思います」「……そうだったんですね」愛に溢れた家庭で育った美里には、萌子の辛さなんて理解できない。ただ、彼女も苦しんでいたのだろう。「――今日は美里さんに、そのことに対して許しを得るためにここへ来たんです」「……どういうことですか?」目の前で膝をついて彼女を見上げた修人に、美里は目を見張った。「前に、一つだけ願いを叶えてほしいと言いましたよね?僕があなたに危害を加えようとした姉さんを見捨てないこと、時々は面会に来ることを……どうか許してくだ
last updateLast Updated : 2026-05-10
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第128話

月日はあっという間に流れ、美里と宗助の結婚まであと一週間となった。美里は彼と結婚する前、最後になるであろう宗真と話をしていた。「美里さん、結婚おめでとう」「まだしていませんよ。宗真くんったら、気が早いですね」「そんなことないさ……どうせ結婚式には出席できないだろうし」宗真は正面に座る美里からぷいっと顔を背けた。宗真は数日後には留学のために海外へ行くことが決まっている。そのため、美里と宗助の結婚式には出席できなかった。「いつ帰ってくるんですか?」「さぁな、一年は向こうにいるつもりだから……」「あら、寂しくなりますね」美里のその言葉に、宗真は動きを止めた。何か思うところがあるような顔で美里をじっと見つめた。焦がれるようなその視線に、彼女は首を傾げた。「宗真くんは家族と離れ離れになって寂しくないですか?」「そうだな……まぁ、定期的に手紙を送るから、寂しくはならないさ。海外で暮らすのは俺の夢だったし」宗真の夢は世界一周を成し遂げることだった。両親も宗助も、そして美里も彼の夢を応援している。彼が辛い過去を乗り越え、前を向いて歩いていることに、美里は小さな喜びを感じた。「明後日、空港まで宗助と見送りに行きますから」「……あぁ、ありがとう」宗真は礼を言い、美里は最後に彼との会話に花を咲かせた。この先一年間は会えなくなる。そのことを思うと寂しいけれど、一年後の宗真は立派になってここへ帰ってくるだろう。「宗真くん、自分を信じて前に進んでください。そうすれば……また会えますから」「……そうだな。美里さん、最後に君と話せて嬉しかったよ」二人は顔を見合わせて笑い合った。宗真の淡い初恋が終わった瞬間だった。***宗真との最後の話を終えた美里は、外である人物と会っていた。「――あら、瑠璃子」「久しぶりね、美里。元気にしてた?」「ええ、もちろんよ!」二人は手を取り合い、再会を喜んだ。「あなたが拉致されたことを聞いたときは卒倒するかと思ったわ」「心配かけてごめんなさい、もう平気よ」二人は近くにあるカフェで向き合って座った。「最近は比較的平和に過ごせているわ……萌子もいなくなったし……」「そうね、あの女がいなくなるだけでここまで平穏になるとはね」瑠璃子の言葉に、美里は苦笑いを浮かべた。「宗助君とは変わりない?」「ええ、穏やかな関係を築け
last updateLast Updated : 2026-05-11
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第129話

数日後、宗真が海外へ旅立つ日となった。美里は宗助と共に彼を空港まで見送りに行った。事前に行くと伝えていたのに、彼は美里と宗助を見るなり驚いたように目を見開いた。「……美里さん、兄貴も。来てくれたのか」「行くって言いましたよね?私は約束は守ります」美里はスーツケースを持って立っていた宗真にニッコリと笑いかけた。「……いや、あんなことをしでかした後だからな。美里さんはともかく……兄貴は来ないって思ってた」「……」宗真の目が後ろにいた宗助に向けられた。二人の兄弟仲はあまり良いものではなかった。つい最近ちょっとだけ改善されたところだったが、美里自身も正直宗助が来るという保証はなかった。宗助は腕を組んだまま宗真からぷいっと顔を背けた。「……これまで同じ家で暮らしていた家族と離れ離れになるのだから、見送りに行くのは当然だ」「兄貴……」宗助のその言葉に、宗真は嬉しそうに頬を染めた。やっぱり宗助はたった一人の弟を嫌ってなんていない。今までただお互いに素直になれなかっただけだろう。宗助は一歩弟に近付くと、肩を叩いた。「……向こうでも、元気でやれよ」「ああ、兄貴もな。美里さんを悲しませるなよ」「余計なお世話だ」宗真はアハハッと声を上げて笑った。彼にとっては、旅立つ前最後の良い思い出になったのではないだろうか。あんな風に冗談を言い合えるのなら、もう二人の仲は心配しなくてもいい。美里は仲の良い二人の姿に、笑みを零した。「宗真くん、ありがとうございました。元気でね」「ああ、美里さんも。迷惑かけちゃってごめんな」「いえ、気にしないでください」明るく笑いながら手を振る美里を、宗真は複雑な目で見つめた。いくら初恋が終わったとはいえ、彼女への全く未練が無いというわけではなかった。しかし、あまりにも完璧な二人の間に自分が入る隙なんてとても無かった。「……終わりなんだな」「?何か言いました?」「いや、何でもない」宗真は聞き返した美里に対し、首を横に振った。「ただ俺も……美里さんみたいな素敵な女性と出会えたらいいなって、そう思ってただけだよ」「素敵な女性だなんて……宗真くんならきっと巡り会えますよ」あぁ、やっぱり彼女は俺への恋心なんて微塵も無かったんだな。宗真は美里のその反応に何だか悲しくなった。「……そろそろ出発の時間だ。またね、二人とも」「
last updateLast Updated : 2026-05-12
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第130話

五年後、城田家の本邸では。大きなお腹を抱えた女性が、急ぎ足で邸宅内を歩いていた。「宗助、宗真くんからハガキが届いたわよ!」「……美里、お前は身重なんだ。そうやってあまり動くものではない」書斎に座っていた宗助は、突然部屋へ入ってきた美里の膨らんだお腹をそっと撫でた。彼女が第一子を妊娠してからもう六か月だ。美里は不安そうに顔を歪ませる宗助を見て笑みを零した。「あら、ちょっとくらいは平気よ?」「俺がどれだけ心配していると思っているんだ」萌子が捕まり、宗真が海外へ旅立ったあの日から五年の年月が流れた。その間に宗助は父親の跡を継いで社長に就任し、美里と結婚した。先代の社長夫妻は田舎にある別邸へと住まいを移し、今や城田家の本邸は美里と宗助のものとなっている。二人は彼の書斎にあるソファに、横並びで座った。彼から届いたはがきを二人で眺めた。「宗真くん、今は海外で楽しく過ごしているようね。私たちの出産祝いのものまで贈ってきたわ」「ずいぶん気が早いけどな」宗真は一年間の留学を終え、今は海外で生活をしている。美里は最初そのことを心配していたが、上手くやっているようだ。「海外生活を謳歌しているようね。楽しそうでよかった」「……そうだな」宗助ははがきを見つめながら軽く頷いた。彼も弟のことはもう心配していないようだ。たびたび帰ってきてはつまらない冗談を言い合うくらいの仲にはなっているようだし。「そういえば、流星と瑠璃子の結婚式がもうすぐ行われるでしょう?招待されたから行きたいんだけど……」「絶対に行かなければならないのか?」流星の名前に、宗助がピクリと眉を上げた。宗助は今でも流星のことが気に入らないようだ。「宗助ったら、流星はもう瑠璃子のことが好きなのよ?そんな風に心配しなくても……」「俺はどれだけアイツがお前に惚れ込んでいたかを知っている」「それは過去の話よ」美里は不快そうに顔をしかめる彼の頭を撫でた。そんな嫉妬深いところも、彼女にとっては愛おしかった。「このあと、お義父さんとお義母さんが久々に来るそうよ」「そうか……楽しみだな」「……今、楽しみって言った?」「言ってない」宗助はそれだけ言うと、美里からぷいっと顔を背けた。いやいや、絶対言ってたと思うんだけど!?「宗助ったら、いい加減素直になりなさいよ」「俺は昔から素直だ」「どこ
last updateLast Updated : 2026-05-13
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