เข้าสู่ระบบ――気付いた頃には、家族が全員いなくなっていた。美里は宗真の拉致拷問により亡くなった。そしてその宗真は薬物の過剰摂取により死んだ。一体誰がこんなことをしたのか。宗真は捻くれているが、元々穏やかでそのような残酷なことをするような性格ではない。誰か彼を操った者がいるということは明白だった。美里を失った宗助は死に物狂いで犯人を捜し出した。宗真が死んでしまった今、全てを明らかにすることは難しいかもしれない。しかし、彼は美里をあんな目に遭わせたその結果、中学時代の同級生の里奈とかいう女が関わっていることが判明した。宗助は彼女を捕らえ、一連の事態の顛末を問い質した。「そ、宗助君!?急に何なのよ!」宗助は里奈の胸倉を乱暴に掴んだ。女性に対してあまりにも無礼な行動だったが、そうでもしないと彼の気が収まりそうになかった。「宗真に薬を与え続けたのはお前だろう?」「な、何のことだか……」しらばっくれる里奈の首に、宗助は手をかけた。「そっ、そうよ!ただ私は彼を好きに操ることができればそれでよかったのよ!」「なら何故美里をあのような目に遭わせた?」「そ、それは――萌子って女がそうすれば宗助君を手に入れられるって言うから!」「……何だと?」何故、ここで萌子の名前が出てくるんだ。宗助はあ然とした。里奈は彼が動揺しているその隙を狙い、矢継ぎ早に話した。「薬を飲ませたのは私だけど、宗真君を唆したのは間違いなく萌子よ!その証拠にあの女とのやり取りのデータもちゃんと手元に残ってるんだから!」「……」宗助は呆然としながら、里奈の首から手を離した。***里奈から真実を全て聞いた宗助は、家に帰り、真っ暗な部屋の中から外を眺めていた。「あぁ、美里……」お前はこの広い邸宅で一人、どれだけ辛い思いをして過ごしていたんだ。愚かにも、自分はそのことに全く気付かなかった。俺も今、ここから飛び降りればお前の元へ行けるのか。いや、俺が死んだところでどうせ行くのは地獄だ。お前のように天国へは行けないだろう。なら、せめてもの贖罪としてアイツらを道連れにしないといけないな。その瞬間、彼の虚ろな目が狂気に染まった。部屋に飾られていた写真立てには、愛する女性の映る写真が入れられていた。彼はその写真を胸に抱きしめて呟いた。「俺が、必ずお前を傷付けた者たちを地獄に落としてやるからな」
萌子の何気ない一言は、その後ずっと彼の頭から離れなかった。あの一件は事故として処理され、すでに終わったことだった。しかし、聡明な宗助は何かがあるような気がしてならなかった。両親の死には彼女が関係しているのか。だとしたら、彼女を野放しにしておくわけにはいかない。「萌子……」宗助は最後に見た彼女の顔を思い浮かべた。社長夫妻の死を悼んでいるに見えたが、その口元は僅かに笑みを浮かべているようにも感じた。萌子は宗助を変わったと言ったが、彼にとっては変わったのはむしろ彼女のほうだった。お前はいつからそんな表情をするようになったんだ。まるで宗助を嘲笑っているようだった。そしてその日から、宗助は事故について独自に調査を進めた。***調査を始めてから一週間後。「犯人の男ですが……今野萌子さんの高校の同級生でした」「……何だと?」彼は部屋で秘書からの報告を受けていた。「萌子と深い仲にあったということか?」「いえ、そこまでは……しかし、萌子さんと同じ高校に通っていたことはたしかなようです」彼の予想は的中していた。やはりあの事故には萌子が関わっている。彼女が実行犯の男を唆したのか、どのような手を使ったのかはわからないが、間違いなく萌子が黒幕だろう。宗助の勘は昔からよく当たるほうだ。握られた彼の拳に力が入った。もし、萌子が今回の一件に関与していたとしたら……彼の目が氷のように凍てついた。両親の死が萌子によるものならば、彼は絶対に彼女を逃がさないだろう。「……萌子のことを調べろ。今何をしているのか、俺と出会う前の彼女のことまで、全て。余す所なく」「はい、宗助様」***萌子に関する調査を始めてからというもの、宗助の彼女に対する疑いは日に日に強くなっていった。初めて知った萌子の過去。彼女はかつて、宗助に男性との交際経験があまりないと言っていた。しかし、秘書からの報告によると、萌子は学生時代から恋人が途切れたことがなかったのだという。(全て嘘だったのか……俺に言っていた家庭の事情も……)そうやって平然と嘘をつくことのできる人間だ。宗助は彼女の本当の姿を垣間見たような気がした。「……萌子と、連絡を取ることはできるか?」「……宗助様、何をなさるおつもりですか?」秘書は宗助がどれだけ心の中で美里を想っているかをよく知っていた。不倫でもするつもり
その日、白羽区の自宅付近を歩いていた宗助は、たまたま萌子と出会った。六年前と変わっているところが何もなさそうだった。彼が最後に見た、美しい姿のまま。しかし、そんな彼女を見ても彼の胸がときめくことはなかった。――彼はもう、萌子を過去の女性として捉えていた。「……どうしてお前がここに」「たまたま近くへ来てね……懐かしくなっちゃって、ここへ寄ったのよ!」萌子は宗助を見上げながら、嬉しそうに顔を輝かせた。彼女は再会を喜んでいるようだったが、彼は全くそのような気持ちにはなれなかった。「……萌子、二度と白羽区に入らないと両親と約束したんじゃなかったのか?」「……宗助?」彼の冷たい口調に、萌子は一瞬にして真顔になった。どうしてそんなことを言うのか、困惑しているようだった。萌子は縋りつくように彼の胸に手を触れた。「宗助、どうしてあなたは私にそんな目を――」彼は冷たくその手を避けた。「萌子、俺たちはもう赤の他人なんだ。そういうのはよしてくれ」「……何ですって?」以前とすっかり変わってしまった彼の様子に、萌子はショックを受けたようだった。「お前も知っているはずだ。俺にはもう妻がいる」「……!」宗助は泣きそうな顔で俯く萌子をじっと見つめていた。付き合っていたあの頃のように抱きしめもしなかった。萌子はすでに彼の心に自分はいないのだということを、嫌でも思い知らされた。「……宗助、あなたはずいぶん変わってしまったのね」「……どういうことだ?」その言葉に宗助は眉を上げた。「私は六年前のあの日から、あなたを忘れた日は一日たりともなかったわ。そしてずっと、あなたも同じ気持ちでいてくれてるんだって、そう思ってた」「……」「だけど、過去にいつまでもしがみついていたのは私だけだったようね」そこで萌子は顔を上げ、彼と目を合わせた。返ってくるのは、やっぱり冷たい目。萌子は諦めたように、宗助から背を向けた。その姿を確認した彼も、来た道を戻ろうとした。「そういえば、あなたのご両親が事故で亡くなったって聞いたわ」「……」宗助は萌子のほうを振り返った。「薬物中毒者の運転した暴走車に轢かれて亡くなってしまうだなんて……何て酷い話……」萌子は手で口元を覆い、悲しそうに目を伏せた。その言葉が本心から出たものかどうか、彼には判断できなかった。「あんなにも偉大な
城田家の御曹司宗助と、永山家の令嬢美里の結婚は、政略的なものだった。宗助には元々相思相愛の恋人がおり、彼女がいなくなったことで美里が後釜に据えられた。――宗助は美里を愛してなどいない、彼女はただ萌子の代わりに過ぎないのだ。美里は愛し合う二人の間に割って入る邪魔者であり、宗助が愛するのは萌子ただ一人。二人の結婚は、世間からそのような印象を抱かれていた。しかし、少なくとも宗助は彼女を妻とすることを望んでいた。「――宗助、お前の婚約者っていつ見ても綺麗だよな」「……何を急に」ある日の昼休み、友人が彼にそう漏らした。美里が綺麗なのは当たり前だ。実際に彼は、彼女よりも綺麗な人を今までほとんど見たことがなかった。当然のことすぎて、いちいち言うまでもない。「あんなに美しい人はそうそういない。お前、あの子のこと別に愛してるってわけじゃないんだろ?なら今からでも俺に譲って――」「……お前、死にたいのか?」宗助の鋭い目に、彼は真っ青になった顔で両手を横に振った。「じょ、冗談だよ!」「……どうだかな」美里がどれだけ異性から人気があるかを宗助はよく知っていた。街を歩けば通りすがりの男たちが彼女に見惚れている。そんな男たちを見るたびに、彼らの目をえぐり取ってやりたかった。それからしばらくして、宗助は婚約していた美里と結婚した。二人の結婚式は両家の繋がりを誇示するために盛大に行われた。ウエディングドレス姿の美里は誰から見ても美しく、彼も目が離せないほどだった。美里と結婚したとき、宗助は世界を手に入れた気分になった。こんなにも美しく愛らしい彼女と結婚できるということがとても嬉しかったのだ。彼女と二人なら、きっと温かい家庭を築いていける。そう信じて疑わなかった。しかし、そんな彼の思いとは裏腹に二人の結婚生活はすれ違いの連続だった。ちょうどその頃、宗助の仕事が多忙を極め、美里は家に一人取り残されることが多くなった。彼は早く彼女を安心させてやりたいという思いから、仕事に精を出した。朝早くに家を出て、夜遅い時間に帰る。そんな生活を続けていたせいか、美里と顔を合わせる機会は減っていった。今思えば、あのときにしっかりと彼女と向き合っていればよかったのだろう。そしてその最中、両親が事故によって亡くなった。いつも厳しかった両親だったが、死ぬにはあまりにも早すぎた。彼
――何も、できなかった。別に彼女のことを嫌いだったわけではない。むしろ、とても大切に思っていた。愛する人を失って疲弊しきっていた彼を支えてくれた唯一の人。昔から、いつも彼の傍に寄り添ってくれた女性。何故、彼女の大切さに気付けなかったのだろうか。彼女がいなくなったあと、彼はとてつもない後悔の念に苛まれた。しかし、後悔したところで既に遅すぎた。***白羽区――都の北部に位置する特別区。富裕層が多いと言われる区内でもひときわ目を引く大きな邸宅。そこには少し前まで、一組の夫婦とその両親が住んでいた。しかし、今は何故かどの部屋も明かりがついていなかった。真っ暗な夜の闇の中で、静かに佇んでいた。「……」邸宅の一室で、彼は一人微動だにせず座っていた。時刻は深夜の一時。人々はとっくに眠りに就いている頃だったが、彼は真っ暗な部屋で目を開けたままある一点を見つめていた。机の上にはさっき開けたばかりの酒瓶が置かれていた。彼は元々そこまで酒が好きではない。こんな夜中に一人で飲むことなど初めてだった。現実逃避をするかのように、彼は浴びるように酒を飲んだ。とても眠れるような気分ではなかった。そういえば、昨日もこんな感じだった。彼女がいなくなってからというもの、仕事も何も手に付かなかった。重くなった瞼をそっと閉じれば、脳裏にその姿が浮かび上がる。『宗助、とっても綺麗なお花でしょう?あなたのために買ってきたのよ』いつだったか、彼女が彼のために白羽区の花屋で花束を買ってきたことがあった。満面の笑みで花を差し出す彼女に、自分は何て言ったんだったか。『あなたが最近寂しそうだったから……綺麗な花を見ると元気が出るかと思って』彼の記憶の中の彼女が切なげに微笑んだ。何故、そんな顔をするんだ?彼は泣きそうな彼女を前に、ただその場に立ち尽くしていることしかできなかった。どうすればいいかわからなかった。いつも笑顔だった彼女が、そのような顔をすると胸が締め付けられるように痛かった。お前にいつまでも笑顔でいてほしいから、ここ最近は仕事に専念していたというのに。『宗助……』彼女は彼の名前を呟き、一筋の涙を流した。涙を拭ってやりたくて手を伸ばそうとするが、何故か体は動かなかった。――彼女はそのまま彼に背を向けて、暗い闇の中へと消えて行った。「……」彼女がいなくなったあと
五年後、城田家の本邸では。大きなお腹を抱えた女性が、急ぎ足で邸宅内を歩いていた。「宗助、宗真くんからハガキが届いたわよ!」「……美里、お前は身重なんだ。そうやってあまり動くものではない」書斎に座っていた宗助は、突然部屋へ入ってきた美里の膨らんだお腹をそっと撫でた。彼女が第一子を妊娠してからもう六か月だ。美里は不安そうに顔を歪ませる宗助を見て笑みを零した。「あら、ちょっとくらいは平気よ?」「俺がどれだけ心配していると思っているんだ」萌子が捕まり、宗真が海外へ旅立ったあの日から五年の年月が流れた。その間に宗助は父親の跡を継いで社長に就任し、美里と結婚した。先代の社長夫妻は田舎にある別邸へと住まいを移し、今や城田家の本邸は美里と宗助のものとなっている。二人は彼の書斎にあるソファに、横並びで座った。彼から届いたはがきを二人で眺めた。「宗真くん、今は海外で楽しく過ごしているようね。私たちの出産祝いのものまで贈ってきたわ」「ずいぶん気が早いけどな」宗真は一年間の留学を終え、今は海外で生活をしている。美里は最初そのことを心配していたが、上手くやっているようだ。「海外生活を謳歌しているようね。楽しそうでよかった」「……そうだな」宗助ははがきを見つめながら軽く頷いた。彼も弟のことはもう心配していないようだ。たびたび帰ってきてはつまらない冗談を言い合うくらいの仲にはなっているようだし。「そういえば、流星と瑠璃子の結婚式がもうすぐ行われるでしょう?招待されたから行きたいんだけど……」「絶対に行かなければならないのか?」流星の名前に、宗助がピクリと眉を上げた。宗助は今でも流星のことが気に入らないようだ。「宗助ったら、流星はもう瑠璃子のことが好きなのよ?そんな風に心配しなくても……」「俺はどれだけアイツがお前に惚れ込んでいたかを知っている」「それは過去の話よ」美里は不快そうに顔をしかめる彼の頭を撫でた。そんな嫉妬深いところも、彼女にとっては愛おしかった。「このあと、お義父さんとお義母さんが久々に来るそうよ」「そうか……楽しみだな」「……今、楽しみって言った?」「言ってない」宗助はそれだけ言うと、美里からぷいっと顔を背けた。いやいや、絶対言ってたと思うんだけど!?「宗助ったら、いい加減素直になりなさいよ」「俺は昔から素直だ」「どこ







