All Chapters of 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか: Chapter 81 - Chapter 90

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第81話

「……くだらない内容ならすぐに帰るわ」「お前のそういうとこ、昔から変わらないな」近くの個室レストランに移動した二人は、テーブルを挟んで座った。不貞腐れた様子の萌子に、海星は笑った。かつて恋人同士だったとは思えないほどピリピリした空気だった。萌子にとって海星は多くいる元カレの一人にすぎなかった。海星の父親は警察の上層部で、実家が裕福だった。そして海星もそんな彼女の美しさに惹かれたから付き合っていただけのこと。美しい女を横に連れて歩きたいと思う男は多いのだ。萌子は交際していた当時から、何かと乱暴な海星に呆れていた。ただ地位があって見た目がそこそこよかったから関係を続けていたのだ。「お前、どうやらまだ城田家の御曹司を諦めていないようだな」「……」萌子はそっぽを向いたまま答えなかった。図星だったからだ。「驚いたよ、お前がそこまで一人の男を熱烈に愛することができるなんてな」「何が言いたいの?宗助への負け惜しみ?」「……」宗助は海星が絶対に勝てない相手だった。萌子はそのことを知っていて彼を煽っているのだろう。「あんな仕打ちを受けてなお、城田家の御曹司を諦められないだなんて……俺はむしろ感動したよ」「どういう意味よ」「――面白い噂を聞いたんだ、萌子」海星は眉をひそめる萌子に、ニヤリと笑った。「城田家の御曹司と永山家の令嬢が恋仲だって噂……」「……」机の上に置かれていた萌子の拳に力が入る。「まぁ、たしかに永山家の令嬢なら城田財閥の御曹司とも釣り合ってるし、何よりお似合いだよな」海星は美里を知っていた。大学時代、萌子と同じくらい彼女は有名人だったから。そして萌子が美里を快く思っていないことも、よく知っていた。海星は彼女のそういうところが自分にそっくりだと思った。自分が宗助を気に入らないように、萌子もまた、美里のことが気に入らなかった。宗助と美里、萌子、そして海星。同じ暁星大学に通っていたこの四人は何とも複雑な鎖で結ばれていた。海星は萌子が宗助に乗り換えたあとも、たびたび彼女と会っていた。そのため、萌子が恋人の傍をうろつく美里を警戒していることを知っていた。だからきっと、今回の彼の企みにも喜んで協力すると思ったのだ。「宗助と美里を引き離したいと思わないか?」「私たちに何ができるっていうのよ。相手は城田家と永山家よ」萌子は海星の
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第82話

「――もう少し、シンプルなものはありますか?」 数日後、美里は田島区にあるデパートへ訪れていた。 彼女が真っ先に入ったのは、施設内にあるレディースのお店だ。この日、美里は新しい洋服を買いに出かけていた。 「とってもお似合いですよ、お客様」 「ありがとうございます」 彼女は仕事帰りにもかかわらず、わざわざ職場から遠いこのデパートまで来ていた。週末の宗助との外出に着て行く服を新調したかったからだ。 「髪飾りや香水も買っておかないと……せっかく彼が私のために休みを取ってくれたんだから」 その呟きを聞いた販売員が美里に尋ねた。 「お客様、もしかしてこのあとデートでもあるんですか?」 「え、ど、どうして……!」 「声に出てましたよ」 美里は恥ずかしくなって顔を真っ赤にした。赤の他人の前で何ということを。穴があったら入りたいとはまさにこういうことだ。 「そんなに恥ずかしがらないでください。恋人とのデートで着て行く服を買いに来た若い女性のお客様はこれまでたくさん見てきましたから」 「そ、そうですか……」 美里は持っていたワンピースで顔を隠した。そんな彼女を温かい目で見つめていた販売員が口を開いた。 「――恋をすると、本当に人って変わりますよね」 「………………え?」 恋?私が宗助に恋をしているというの?美里は思わず聞き返しそうになった。 「お客様、服を選んでいるときの目がキラキラしていました。彼氏さんのことを考えていたんですよね?」 「そ、それは……」 彼女の言う通りだった。美里は服を見ている間、ずっと宗助と出かける日のことを考えていた。 「私は……そんな顔をしていたんですか……?」 「ええ」 販売員はニッコリと笑って頷いた。 「このあと髪飾りや香水を買いにいく予定なんでしょう?」 「は、はい……」 「好きな人の前で可愛くいたいっていう気持ちが表れている証拠ですよ!」 「好きな人……」 たしかに回帰する前まで宗助は美里の好きな人だった。しかし、今は違う。ずっとそう思っていた美里は、予想外の言葉に固まった。 いつの間にか宗助への気持ちが戻っていたというのか。 結局、美里は薦められたワンピースを二着とヒールの高めな靴を一足購入した。レジで販売員から紙袋を受け取ろうとすると、彼女が満面の笑みで美里に言った。 「お客様にとっ
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第83話

「こんなところでまた会うなんて!偶然ですね!」 「俺も驚きました」 恩人とのまさかの再会に、美里は嬉しそうに笑った。修人はそんな彼女の美しい笑みに、思わず頬を染めた。 美里は誰から見ても美人だった。彼女の笑顔の前で平然といられる男はこの世にいないだろう。 「もしかして、田島区に住んでいるんですか?」 美里はもしやと思い、尋ねた。前彼と会ったデパートも田島区にあったことを思い出したのだ。 「ええ、今日はたまたま仕事が早く終わったのでここにきていたんです。家には居づらいし……」 「そうだったんですね」 修人は萌子がいると思うと、何故か家に帰る気になれなかった。姉の萌子は昔から気が強く、一緒にいると疲れる。 そのような理由から彼は、たまたま職場から家までの道にあるこのデパートへ来ていたのだ。 「今野さんに会えるなんて今日は運が良いですね」 美里は修人が萌子の弟であることにはまったく気付かなかった。無理もない、修人は姉である萌子には顔があまり似ていないうえに、今野という苗字は白羽区ではさほど珍しいものでもなかったからだ。 宗助と宗真ほどそっくりなら誰しも気付くだろうが、今回ばかりはわけが違った。 「今日は何をしにこちらへ?えーっと……」 「あら、私ったら。名前をまだ言ってませんでしたね」 永山――と言いかけた美里は慌てて口を噤んだ。ここで自身が永山家の令嬢だということを知られたら、きっと彼は恐縮してしまうに違いない。 「……美里です」 「美里さんっていうんですね」 修人が顔を輝かせた。名前まで美しい人だ、と彼は思った。 「今日は……服を買いに来たんです」 「一人でですか?そういえばこの間も一人でいましたよね」 「あ、いえこの間は……彼と……」 「……」 ”彼”というワードに修人はあからさまにショックを受けた。 彼氏がいたのか、修人はガックリと肩を落とした。 「そうだよな……こんな綺麗な人にいないわけがないよな……俺は何を一人で妄想していたんだ……」 「……今野さん?」 美里が不思議そうに首をかしげた。 「いえ、何でもありません」 修人はすぐに立ち直った。俺にもワンチャンあるかも……なんて思っていたことを知られたら終わりだ。 「この間はありがとうございました、今野さん」 「大したことしてませんよ」 「いえ、あの
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第84話

「宗真様、大丈夫ですか!?」「……何だか最近体の具合が良くないんだ」「お医者様に診てもらったほうがよろしいのでは……?」城田家にて。宗真は近頃続く体調不良に頭を悩ませていた。こんなのは初めてだった。「……いや、平気だ。そこまでじゃないから」「本当ですか?」「ああ」宗真の自室は足の踏み場もないほどに散らかっていた。あれほど没頭していた研究も、今ではまるで手につかなくなっていた。「変だな……こんなこと今までに一度も……」宗真は体調不良の原因を突き止めるために、必死で記憶をたどった。彼の身体が異変を感じたのは、里奈と喫茶店で会ったあの日からだった。宗真がそのことに気付いたとき、スマホの着信が鳴った。「誰だ……?」いつものように美里からのメールだと思って開くと、相手は里奈だった。彼はあの日、里奈に念のためとせがまれて彼女と連絡先を交換していたのだ。しかし、実際にメールが届いたのは今日が初めてだった。「何の用だ……?」「どなたからでしょうか?」「ああ、ちょっとした知り合いだよ」宗真は頭痛を我慢しながらメールを開いた。『今から、この間の喫茶店で会えませんか?』メールにはその一言だけが書かれていた。”この間の喫茶店”その単語に、彼の顔色が変わった。「宗真様、体調が優れないのですからお誘いは断ったほうが……」「いや、行くよ」「え!?」宗真はすぐに外出の準備を始めた。執事が慌てて止めようとするものの、彼は言うことを聞かなかった。「お前はついてくるな」「そ、宗真様!?」そして財布とスマホだけ手に持つと、彼はさっさと部屋から出て行った。一人残された執事は、宗真が出て行った扉を見つめながらポツリと呟いた。「一体どうしてしまったというんだ……?いつもはあんなに頑固な人じゃないのに……」***宗真は城田家を出ると、すぐにこの間の喫茶店へと向かった。今は何故だか、一刻も早くそこへ行かなければならないような気がした。「俺はどうかしてしまったようだな……」心の中でわかっているものの、何かに突き動かされるように体が勝手に動いた。自分が自分じゃなくなったようだった。しばらくして、喫茶店へ到着した。「――あら、いらっしゃい。宗真くん」中に入ると、里奈が前と同じ位置にあるテーブルの椅子に座っていた。「……」彼女は虚ろな目をして
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第85話

『美里!!!』真っ暗な地下牢の中。血に染まった美里が倒れていた。宗助は慌てて彼女に駆け寄り、抱き起こすが既に息をしていなかった。『な……何故だ……』彼の妻・美里が突如姿を消したのは三日前のことだった。夜になっても家に帰らない彼女を心配した宗助は、城田家の人間総出で彼女の行方を追った。目撃情報などを頼りに、彼はここまでやってきた。『冗談だろう……?だってここは……』美里が監禁されていたのは、彼の弟である宗真の邸宅だった。宗助と美里の結婚を機に、彼は実家を出て両親から与えられた別邸に住んでいた。元々兄弟仲はそれほど良くなかったため、二人は顔を合わせることも減って行った。だから宗助は宗真が今どこで何をしているか、まったく知らなかったのだ。『宗真はどこにいるんだ……すぐに俺の前に連れて来い……!』宗助の命令で、今度は宗真の捜索が始まった。彼は既に邸宅の中におらず、忽然と姿を消していた。数時間後、搬送先の病院で美里は死亡が確認された。彼女の死を聞いた宗助は人目を憚らずに泣き喚いた。――そしてそれから数日後、近所にある川から宗真の着ていた服や時計が発見された。「……ッ!!!」そこで彼は目覚めた。額からは汗が流れ、シーツを濡らしていた。彼は裾で汗を拭うと、水を飲んだ。「……何だったんだ」今日の夢はいつもより鮮明だった。「美里……」彼女の死体を抱く生々しい感触が、彼の手に残っていた。口から血を流す彼女の身体は冷たかった。ふと隣を見ると、美里がすやすやと寝ていた。彼は慌てて眠っている彼女を抱きしめた。体中に広がっていく温もりに、彼はようやく落ち着きを取り戻した。彼女の身体に触れるのは初めてではないのに、何故こんなにドキドキするのか。本当に彼女が彼の目の前からいなくなってしまうようなそんな気がして、宗助は美里を抱きしめる腕に力をこめた。「……宗助?」「美里」そのとき、彼に抱きしめられていた美里が目を開けた。起こしてしまったようだ。「どうかしたの?」美里は眠たそうに目をこすりながら尋ねた。悪夢を見ていた彼と違って、彼女はぐっすり寝ていた。「……夢を見たんだ。お前が宗真の家で亡くなっている夢を……」「……何ですって?」美里は思わず目を見開いた。それは彼女が前世で経験したことそのものだったからだ。これまで宗助の夢は美里の前世
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第86話

「前世の……………記憶……………?」 宗助は時が止まったかのように固まった。信じられないのも無理はない。彼は記憶を全て取り戻したわけではなく、ただ夢で見ているだけなのだ。 「宗助、私とあなたは前世で予定通り結婚したわ。でもね、私たちの結婚生活はうまくいかなかった」 「……俺たちが?」 美里は今世の宗助に、前世の宗助のことを話した。多忙で顔を合わせることがほとんどなかったということ、すれ違いが続き、夫婦仲が破綻していたということも。 「俺たちがそんな風になっていたのか……」 「ええ、前世での私たちはすれ違っていたわ」 「そういえば、ちょっと前にそんな夢を見たような……」 宗助は記憶を辿り、美里が悲しそうな顔でこちらを見つめていた夢を思い出した。あの夢は前世の結婚生活の一部分だったのか。彼の中でようやく合点がいった。 「それでね、結婚から一年後……今野萌子さんが白羽区に帰ってきたのよ」 「萌子が?」 宗助は驚いた。萌子が白羽区に帰ってくるのはありえないことだったからだ。彼女は宗助の両親と二度と彼と関わらないということを約束した。そのため、彼がいる白羽区に戻るなんてことはあってはならないのだ。 「社長夫妻はそのとき不慮の事故で亡くなっていたの。二人が亡くなったことで萌子さんは帰ってきたんだけど……宗助、あなたが呼び戻したって宗真くんが言っていたわ」 「…………俺が萌子を白羽区に呼び戻しただと?」 宗助は耳を疑った。前世の記憶は未だにすべて取り戻せているわけではないが、とても信じられなかった。 「美里、何かの間違いじゃないのか?」 「いいえ、たしかに宗真くんはそうやって言っていたわ。実際、私もあなたと萌子さんが二人で会っているところを前世見たし」 「……」 前世の自分が何を考えてそのような行動を取ったのか。まったく理解ができなかった。 「美里、聞いてくれ」 「宗助?」 宗助は真剣な顔で美里をじっと見つめた。 「萌子は俺の両親に追い出されたんじゃない。自らの意思で白羽区から出て行ったんだ」 「…………どういうこと?」 戸惑う美里に、宗助は説明した。 「五年前のあの日、萌子の父親は自動車で事故を起こした。莫大な損害賠償に困り果てた一家に、俺の父親が手を差し伸べたんだ」 宗助の父・和寿はたしかに萌子をあまり好いてはいなかった。
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第87話

一通り話を終えたあと、宗助と美里は抱き合ったまま再び横になった。時刻はまだ四時だった。起きるには早すぎる。こんな風に寝るのは前世含めて初めてだった。しかし、疲れていた美里はすぐに吐息を立てて眠り始めた。一方の宗助も、すぐに睡魔が襲ってきた。美里を抱きしめているからだろうか、宗助は今度は夢を見ずに済みそうだった。彼女の温もりが、彼の身体に伝わってくる。(……このままずっと寝ていたいくらいだ)できることなら永遠に朝が来ないでほしい。そう思ったまま、彼は深い眠りについた。***「……眠れない」その頃、城田邸の別の部屋で寝ていた宗真は一人暗闇の中で呟いた。彼はここ最近ずっと体調がおかしかった。夜になると頭がぼーっとして、色々なことを考えてしまうのだ。大好きだった研究もまったく手に付かない。こんなのは初めてだった。もう三時間以上も目を閉じている。結局宗真は寝るのを諦め、身体を起こした。「最近ずっと眠れない日々が続いてるな……俺は一体どうしたというんだ……」部屋にあった鏡の前に立つと、疲れ果てた顔の自分が映った。目の下に大きなクマがあるのは寝れていないからだろう。一度眠りについても、三時間後には目が覚めてしまい、そこからずっと眠れない。そんな日々の繰り返しだった。「俺は……こんなにも老けていたのか……」何だか自分が自分ではないようだった。鏡に映っているお前は誰なんだ、と思わず聞きたくなった。「早くあの喫茶店へ行きたい……」彼の頭の中を独占していたのは、大好きな研究でもなければ、密かに片思い中の美里でもない。以前、里奈と会ったあの喫茶店だった。「早くあそこのコーヒーが飲みたい……」彼はあの喫茶店のコーヒーの虜になっていた。特別味が美味しいというわけではないのだが、何故だか今すぐにでも飲みたくなった。長い間飲まなければ手が震え、業務に支障をきたすほどだった。今すぐにでも喫茶店へ行きたかったが、こんな時間にお店が開いてるはずがない。彼は夜の間は我慢するほかなかった。「早く明日にならないかな……」彼はそんなことを考えながら夜を過ごした。***朝になり、美里と宗助が目を覚ました。「おはよう、宗助」「ああ、何だかよく眠れた気がする。お前のおかげだな」「そう?それはよかった」気持ちの良い朝だった。二人で迎える朝がこんなにも穏やかなのは久々
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第88話

家族たちがそろって朝食をとっている頃、宗真はあの喫茶店へ足を運んでいた。「コーヒーを一杯」「はい、かしこまりました」開店してすぐ、店内に入った宗真はいつもの席でコーヒーを頼んだ。宗真が行きつけになるほどのコーヒーがあるというのに、いつ行っても店内はガラガラだった。しかし、宗真はむしろ都合がよかった。(あのコーヒーは俺だけのものだ……他の誰にも渡しやしない……)しばらくして、宗真のもとにコーヒーが運ばれてきた。宗真が頼んだのはいつものブラックコーヒーだった。彼は虚ろな目でカップを手に取り、コーヒーを一口飲んだ。「……」それを飲むと、高揚感が彼を襲った。何だかとても気分が良くなった。ここ最近ずっと眠れていないのに、眠気が一瞬にして吹き飛んだ。このお店のコーヒーはもはや彼にとって回復薬のような存在になっていた。ボーッとしながらコーヒーを飲んでいた彼に、店の奥からやってきたある人物が声をかけた。「あら、宗真くん。来ていたのね」「……神城」宗真の元へ近付いてきたのは里奈だった。彼女はまるで再びここへ来ることを予想していたかのように、店の奥で待ち構えていた。「宗真くんはすっかりこのお店のコーヒーが好きになったみたいね」「……」彼女は宗真の肩に手を触れた。不愉快極まりないはずなのに、今の彼にはその手を振り払う気力すらなかった。自分でも不思議だった。「ねぇ、宗真くん」里奈は手を触れたまま、宗真の耳元に赤い唇を近付けた。「本当のことを言ってみなさい。あなた、本当は優秀なお兄さんのことが気に入らないのではなくって?」「……そんなことは」無い、と言いかけて宗真は思わず口を噤んだ。(俺は本当は兄貴のことをどう思っているんだ?)彼はもはや自分の気持ちがわからなくなっていた。宗真にとって宗助は憧れで、自分がどれだけ努力しても絶対に追いつけない人だった。「これまで出来の良いお兄さんと比べられてばかりで辛かったんじゃない?」「……」里奈の言葉に、宗真は黙り込んだ。宗助と比べられることは今に始まったことではなかった。実際、周囲の人間はみんな宗真と宗助を比べては、宗助を褒め称えたのだ。そのとき、彼がどれほど惨めな思いをすることになったか。当時の感情が今になって蘇ったようだった。「宗真くん、本当はお兄さんのことが憎いんでしょう?気に入らないでしょう
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第89話

その頃、美里は城田邸で社長夫妻とお茶をしていた。「こういう穏やかな時間もたまにはいいわね、この人はいつも馬鹿みたいに仕事ばかりだから」「それは宗助もですよ」真奈美の隣に座っていた和寿が、気まずそうに目を逸らした。「……たまにくらい休みを取るようにするさ」「あら、約束よ?あなたが家にいないと寂しいんだから」真奈美は和寿の腕に手を添えた。二人の正面に座る美里は、そんな夫妻を微笑ましそうに見ていた。(本当に仲良いなぁ……)結婚三十年目だというのに、まるで新婚夫婦のようだ。最初こそすれ違っていたが、今ではお互い必要不可欠なパートナーとなっている。美里は社長夫妻の関係性に憧れを抱いた。(私も……宗助とこういう関係になれるんだろうか……)宗助は若い頃の和寿にそっくりだった。彼も昔はとても冷たい人だったのだということを、美里は秘書から聞いた。「美里さんと宗助が結婚したら、いつか家族五人で海外旅行にでも行きたいわね」「そうだな」何気なく放たれた真奈美の一言に、美里はドキリとした。(このセリフ……前世でも聞き覚えがある……)そう、たしか社長夫妻が不慮の事故で亡くなる数ヵ月前に放った言葉だった。(私ったら、どうして忘れていたのかしら……)前世では、真奈美と和寿は宗助と美里の結婚から半年後に亡くなってしまうのだ。「美里さん、どうかしたの?」「い、いえ……何でもありません……」社長夫妻は当然、あと半年で自分たちが亡くなることなど知らない。美里は前世では、社長夫妻が苦手だったから彼らの死を本気で悲しんではいなかった。しかし、今回は違う。二人と打ち解けることができた今、彼らが亡くなったら彼女は深い悲しみに襲われることとなるだろう。(どうにかできないかな……)宗助と美里の関係が変化しつつある今、もしかすると他の運命も変えられるかもしれない。***「……半年後に父上と母上が亡くなるだと?」夜になり、帰宅した宗助に美里はすべてを打ち明けた。「ええ、不慮の事故で亡くなってしまうのよ……二人同時にね」「父上と母上が……そんな……」宗助は両親の死にショックを受けているようだった。前世では両親の棺を前にしても冷静だった彼だが、やはり見えないところでは涙を流していたのだろう。「宗助、私はあの人たちにこんなに早く死んでほしくない。何とかして阻止できな
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第90話

「山村が萌子の高校の同級生だと……?それは本当か?」「は、はい……今野さんは白羽北高校に通っていたのですが、その頃の同級生のようです」白羽北高校は、都内でも有名な公立の進学校で、偏差値は六十を超えている。萌子は美しいと同時に、頭がいいことでも有名だった。「同級生とは言っても、同じクラスになったことは一度もないようです。部活も違ったようですし……白羽北高校は一学年十クラス以上あるので、山村さんと今野さんはお互いを知らないという可能性も十分ありえます」「……そうだな」青山はそう言ったが、宗助は何かが引っかかった。「山村さんは非常に大人しい性格だったそうです。勉強は出来るようですが、特に目立つことのない生徒だったとか」「そうか……」宗助はしばらく考え込んだあと、口を開いた。「萌子は高校ではどんな様子だったんだ?」「今野さんですか……?」青山は宗助が萌子に興味を示したことに驚いた。最近の彼の関心はずっと美里にのみ注がれていたからだ。しかし、その表情を見るに、彼女を想う気持ちが戻ったというわけではないようだった。「今野さんは高校在学中も美しさで話題になっていたそうです。学内にファンクラブが存在するほどで……学年のマドンナのような扱いだったとか」「……なら、山村のほうは萌子を知っていてもおかしくはないな」「そうですね……ですが、少なくとも山村さんと今野さんに接点はなかったようです」山村浩二と今野萌子。そして両親が亡くなった事故。宗助は何らかの繋がりがあるように思えてならなかった。(根拠はないが……ただの偶然とは思えないな)額を手で押さえた宗助に、青山が遠慮がちに声をかけた。「それと……宗助様に言うべきかとても悩んだのですが……」「何だ?言ってみろ」「今野さん、中学時代から恋人が途切れたことがないそうです」「……」宗助にとって、萌子は初めて愛し、交際した女性だった。当然、萌子も初めてなのだと心のどこかで思っていた自分がとても情けなく感じた。「……まぁ、俺は付き合う女の過去の男性遍歴はあまり気にしないんだ」「美里さんに元カレがいたとしてもですか?」「……」宗助は黙り込み、机の上に置かれていた手に力が入った。彼は普段、人前で感情を露わにするような人ではない。その姿を見た青山は宗助の美里への愛の深さを知り、心の中で笑った。「今野
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