「面白かったね、宗助」「ああ、そうだな」観劇を終えた美里と宗助は、大劇場を出る途中だった。二人が観た舞台は恋愛ものだった。社長令嬢の恋を描いた話で、一目惚れした庶民の男が実は大企業の御曹司だったという物語だ。社長令嬢と大企業の御曹司の恋。何だか誰かに似ている。もしかすると、宗助は内容を知っていて選んだのだろうか。大劇場から出る列の中で、美里たちに声をかけたのは五十代くらいの女性二人組だった。「あら、お二人は夫婦ですか?いいですね、夫婦そろって観劇に来られるなんて」「あ、いえ夫婦ではなくて……」美里が否定しようと口を開くも、連れの女性が彼女の言葉を遮った。「ほんとほんと!ウチの旦那なんて誘ったところで絶対に来ないわ」「ウチもよ。あの人は観劇に興味がないのよ。特に恋愛物にね」大劇場を訪れた客はほとんどが女性だった。そんな中で、珍しい男性客である宗助は周囲の視線を集めていた。若い女性たちは宗助を見て、舞台に出てくる王子様みたいだと歓声を上げた。「この公演は人気だから……チケット取るの大変だったでしょう?」「私は何も……チケットは彼が取ってくれたんです」「あら、なんて素敵!あなたの夫は本当に優しい人なのね」「夫ではないのですが……」美里と宗助は説明するのも難しいくらい複雑な関係だった。一応婚約者ではあるが、普通の婚約関係ではなかったからだ。「なら彼氏さん?」「いえ、ただの友人ですよ」結局美里は、宗助をただの友人として通すことにした。「あら、そうだったのね。彼みたいに優しい男性はそうそういないのに、もったいない」「……そうでしょうか」宗助を優しいと言った人を、美里は初めて見た。彼は元々冷たい人間で、優しさとはかけ離れていたからだ。しかし、たしかに最近の宗助は以前の彼とはずいぶんと違った。美里の前でのみ、萌子と接していたときのような優しさを見せるようになったのだ。言われて初めてそのことに気が付いた彼女は顔を真っ赤にした。「――あらあなた、彼さんが女の子に話しかけられているわよ」「え……?」女性が指差す先に視線を向けると、宗助が若い女性五人組に絡まれていた。彼女たちは頬を赤らめながら宗助に話しかけている。遠くからその姿を見ていると、何だか彼の後ろ姿ばかり見つめていた大学時代に戻ったようだった。「あんなにカッコいいんだ
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