一方、ノヴァ・テクノロジーズでは――。重厚な扉に守られた社長室の中で、レオン・クロフォードは自分のデスクの前にゆったりと腰を下ろしていた。室内は洗練された高級感に満ちており、壁一面のガラス窓からは都市の景色が一望できる。だがその贅沢な空間の中心にいる男の雰囲気は、どこか冷え切っていた。レオンは腕を組み、無言のまま時を待っていた。エージェントからの報告が入るはずの時間は、もうすぐそこまで迫っている。今回のロケット打ち上げプロジェクトの入札状況――その中間報告が届くことになっていた。先日、一条竜星が競合他社へ売ろうとした情報など、レオン・クロフォードにとっては取るに足らないものだった。あの程度の情報で揺らぐほど、自分の企業は脆弱ではない。だが――。一条竜星が、自分に楯突いた。その事実だけは、決して見過ごせなかった。だからこそ、レオンはあの時、「一億ドルを払え」と言い放ったのだ。もっとも、その金額自体に意味などない。レオン・クロフォードにとって、一億ドルなどという金額は、気まぐれな夜の遊びでさえ使い切れる程度のものに過ぎない。ふと、その時の一条竜星の表情が脳裏に蘇る。青ざめ、今にも泣き出しそうな顔。追い詰められ、必死に言葉を絞り出そうとする様子。それを思い出し、レオンは口の端をわずかに上げた。今のあの男にとって、一億ドルなど到底払える額ではない。だが同時に、それは命を絶つほど絶望的な金額でもない。だからこそ面白い。追い詰められながらも足掻き、どうにかしようとするだろう。その過程で、どんな醜態を晒すのか――。レオンにとっては、その“過程”こそが最大の娯楽だった。そしてもう一つ、興味を引く存在がある。一条竜星の娘、櫻羅。レオンは無意識に指で机を軽く叩きながら、その名を頭の中で反芻する。あの少女の姿を思い浮かべると、自然と薄い笑みが浮かんだ。日本人は英国人よりも小柄で華奢だ。壊れそうなほど繊細で、そのくせどこか芯がある。「しばらく自分の元に飼っておいて、飽きたら売ってしまおうか……」そんな考えが、何の躊躇もなく浮かぶ。そして、自分自身でその発想を楽しむように、低く呟いた。「それも面白い」レオン・クロフォードはゆっくりと立ち上がると、窓辺へと歩み寄った。眼下には、無数の人間たちが行き交っている。このビルのはるか下で、金も権力も持
最終更新日 : 2026-04-30 続きを読む