しばらく車を走らせると、稲田町に到着した。湊斗は近くに車を停め、瀬奈が里亜を車から降ろした。降りた瞬間に広がる、懐かしい香りと景色。黒川区とは全く違う、人の少ない田舎町。辺り一面に田んぼが広がり、遠くの方には川が、そしてその奥には山が見える。ここへ来ると、色々と思い出してしまって余計に切ない気持ちになった。(色んなことがあったわね……もうここへはあまり来られなくなると思うと、何だか寂しいわ……)里亜も同じようなことを考えていたのだろうか、何も言わずに町を見下ろしていた。「……瀬奈」そんな彼女の気持ちに気付いたのか、湊斗が後ろから瀬奈を抱きしめた。彼の逞しい腕が前に回り、体が密着した。「湊斗……」彼は何も言わずに彼女を抱きしめていた。すぐに里亜もやって来て、瀬奈を抱きしめる湊斗の下半身にしがみついた。瀬奈は泣きそうになるのを何とか抑えた。この悲しみも、全て乗り越えて生きていかなければならない。――私が選んだのは、彼の傍にいることだから。***瀬奈は湊斗、そして里亜と三人で町を歩き始めた。小さな町であるため、ほとんど全員が顔見知りだった。瀬奈は近隣住民一人一人に軽く挨拶をした。「それで……お引越しすることになったんです」「まぁ……そうだったのね……」突然いなくなったかと思いきや、急に戻ってきて引っ越すことを告げる瀬奈に、住民たちは驚きを隠しきれなかった。しかもその横には、彼女の夫を名乗る男までいる。「誠也君があの子の父親だと思っていたけれど……」「ええ、違ったようね……」稲田町では里亜の父親は誠也ということで定着していた。瀬奈がわざわざ言わずとも、雰囲気から見てそのように推測した者が大半だった。浮かない顔で歩き続ける瀬奈の肩を、横にいた湊斗がそっと抱いた。「――寂しいなら、またいつでもここへ来ればいい」「湊斗…………いいの?」ここへ挨拶に来ることすら、あまり乗り気ではなかったのに。瀬奈が彼を受け入れたことで、どうやら彼は変わったようだった。「別に……お前の行動を制限するような真似はしたくないからな」「……ありがとう、湊斗」彼は瀬奈に我慢を強いるようなことはしたくなかった。せっかく自分を選んでくれたのだから、窮屈な思いをさせるわけにはいかない。彼のその気遣いで、瀬奈の心はほんの少し軽くなったようだった。「次は……誠也
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-25 อ่านเพิ่มเติม