All Chapters of 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Chapter 131 - Chapter 140

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第131話

「冷水で抑えることはできるけど、彼女はあまりにも細すぎるし、それに女性だ。そんなことをすれば、体にかなりの負担がかかってしまうから、あまり勧められないな」と、策は首を振った。「薬を使わないんだったら、残る方法はただひとつ。鍼治療だ」そう言いながら、策はもうすでに携帯を取り出していた。「鍼は俺のばあちゃんが専門だ。でも、ばあちゃんは足が悪いから、俺らがばあちゃんの千石鍼灸院へいく必要がある」海斗は即座に命じた。「千石鍼灸院へ向かえ」掛け布団で凛を包み込み、頭だけを出した状態にすると、海斗は軽々と横抱きにした。「案内しろ」その姿を見ていた策は呆気にとられた。こいつは、女嫌いじゃなかったのか?小声で理央に聞く。「この女性は一体誰なんだ?」「凛さんです」理央は後を追いながら、拓海にメッセージを送った。【森田さん、社長と策先生が凛さんを千石鍼灸院へ連れて行きました】策はしつこく詮索する。「名前じゃなくて、社長との関係を聞いてるんだよ」「今は社長と秘書の関係です」理央が溜め息をついた。「いいから早く案内してくれませんか?」「気になるんだから、しょうがないだろ?ただの秘書に、社長がそこまでするなんてさ」理央はもう相手にしなかった。一行が専用エレベーターに乗り込んだ時、ちょうど智也たちも入れ違いで上へ上がっていった。凛は蚕の幼虫のように、布団の中で身をよじり、甘い吐息を漏らし続けている。海斗は思わず彼女の口を覆ったが、手のひらが凛の唇に触れた瞬間、抗いがたい情動が彼の中を駆け抜けた。まるで火傷をしたかのように、慌てて手を離し、代わりにハンカチでそっと彼女の口元を押さえた。これで少しはましになっただろう。そうしているうちに、凛の目隠しが外れた。潤んだ瞳と再び目が合い、海斗の心臓がどきりと跳ね、無意識のうちに唾を飲み込んだ。慌てて手を伸ばし、再び彼女の視界を塞ぐ。凛が瞬きをするたびに長い睫毛に手のひらをくすぐられ、何だか心が落ち着かない。隣に座っていた理央は、社長のただならぬ気配を察し、息を潜めていた。助手席に座っていた策は、ミラー越しにいつも冷静な海斗が、凛を落とすまいと必死に身を硬くしている様子に呆れて見ていた。海斗の表情は、見たこともないほど張り詰めている。策はにやりと意味あり
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第132話

部屋を出る前、理央が尋ねた。「ホテルにいる森田さんですが、どうしますか?谷口社長がすでにホテルのほうまで来ているみたいで」海斗は眉をひそめる。「今回の件、谷口社長の妹が関わっていないはずがない。監視カメラを分析して、確実な証拠を押さえろ。そして『タケウチ・ホテル』の名義で、ホテルに不利益をもたらしたとしてあの妹を訴える」「分かりました」理央は頷き、ドアを閉め、その場から離れた。紗枝が海斗に言う。「今からこの子の服を脱がせるか、切るかしてくれるかい?それが終わったら、体をしっかり押さえておいて。暴れると鍼で体を傷つけてしまうかもしれないからね」「分かりました」海斗は、木桶の中で汗をかき始めていた凛を見つめ、聞いた。「君の服をハサミで切らなくてはいけないんだ。同意してくれるなら、頷いてほしい」全身を蟻に食い荒らされるような不快感が駆け巡り、凛の意識は今にも途切れそうだった。それでも、かろうじて焦点を合わせると、海斗に向かってそっと頷く。「君の体に触れることになるだろう」凛は力なく頷き、そっと瞳を閉じた。目尻から涙が一筋伝う。……タケウチ・ホテル。胡桃の後ろを追いかけ、目的のフロアに着くと、廊下が水浸しになっていた。浸水元は胡桃が予約した客室で、直也が部下と共に清掃をしている。胡桃と柚葉は呆気に取られた。「どういうこと?」「私だってわからない……」智也が大股で部屋の前まで歩み寄ると、浸水した室内で掃除をするホテルの従業員と、破壊されたドアが目に入った。直也は智也に気づくと、近づいて尋ねる。「谷口社長、何か御用でしょうか?」「この部屋にいた人間はどこだ?」「凛様のことでしょうか?」智也は眉を寄せ、背後の妹を振り返る。胡桃は少し動揺した。ホテル側が勝手に客の情報を漏らすなんて!「どういうことだ?」智也が胡桃を問い詰める。「部屋を予約したのはお前か?」柚葉は呆れて物も言えなかった。全てを胡桃に任せた自分が悪いのだ。この馬鹿は、得をすることしか考えていないらしい。凛すらいなくなった今、何が浮気現場を押さえるだ。柚葉は黙って成り行きを見守ることに決めた。「うん、私が予約した部屋だよ。凛さんが酔っ払っちゃったから、私が連れてきたの……」その後何を言っていいのか分からなくなった胡桃は
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第133話

あいつが触れていいわけがない!智也は直也をまっすぐ見つめて言った。「竹内社長に電話してくれ」智也自身も携帯を取り出し、凛へと電話をかける。呼び出し音が響く。出ない。もう一度。誰も出ない。3度目。じれったさが限界に達したその時だった。電話がつながった。「凛?」「うん」受話器の向こうから、弱々しい声が返ってきた。智也の顔からは険しさが消え、すぐに焦りの色が浮かぶ。「どこにいるんだ?」向こうから別の話し声も聞こえてきた。「先生、ここは何ていう名前なんですか?」「千石鍼灸院だよ」それは、老婦人の声だった。「智也、千石鍼灸院にいるの。地図アプリを使って来て」通話はそこで切れた。智也はすぐに振り返る。しかし、柚葉がその腕をつかんだ。「智也、どこへ行くの?凛さんが見つかったの?」「千石鍼灸院だ」柚葉と胡桃は顔を見合わせた。どうして鍼灸院なのか、不思議でならない。海斗が凛を鍼灸院に連れて行ったとでもいうのか?信じられない。せっかく目の前にいたのに、何も手を出さなかったなんて。三人が一階に下りると、拓海が立ちはだかった。「胡桃さん、あなたはここに残ってください」「なんでですか?」胡桃は先を急ぐ智也と柚葉を見て、焦ってあとを追おうとしたが、その声を聞いた智也が、足を止める。「お兄ちゃん!この人が行かせてくれないの!」胡桃は声を荒らげて訴えた。智也は仕方なく引き返す。拓海が簡潔に状況を説明した。「ラウンジで確認されたお酒に異常がありました。そして、そのグラスに触れたのは胡桃さんだけ。なので、状況がわかるまで、こちらから離れないでいただきたいのです」胡桃の瞳が揺れる。防犯カメラの死角でやったはずなのに、どうして見つかったの?「何言ってるんですか?」胡桃は認めない。「名誉毀損で訴えますからね!」「そちらのお手は煩わせませんので。事実が分かり次第、こちらで通報します。もしご協力いただけないなら、すぐに通報したっていいんですよ?」柚葉は間に入って智也の腕を引き寄せた。「ただの勘違いよ。ホテル側が調べてくれるって言ってるんだから、今は凛さんを助けに行かないと」凛が一人で鍼灸院なんて行けるはずがない。間違いなく海斗が連れて行ったのだろう。智也に凛が他の男
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第134話

策が立ち上がる。「こちらの方々は?」「ホシゾラ・テクノロジーの谷口社長と、小林さんです」と紹介した理央は、笑みを浮かべる。「小林さんも谷口社長のことがよほど心配なんですね。こんな夜遅いのに、付き添っていらっしゃるなんて」策は緊張感を感じた。「智也とはもう付き合いが長いので」柚葉は辺りを見渡したが、海斗と凛の姿は見当たらない。「それにしても凛さんと竹内社長は……こんなに部下から慕われていて、幸せですね」理央は笑みを崩さずに返す。「小林さんのような帰国子女の方は、そうしたお付き合いにも慣れていらっしゃるでしょうに」もうこんなやりとりをしていられなくなった柚葉は、直接聞いた。「凛さんは?それに竹内社長のお姿も見えないのですが」いてもたってもいられなかった智也は、すでに辺りを探し回っていた。室内にいた凛は外の物音に気づき、静かに言った。「ここにいる」しかし、喉が渇き切っていて、声が掠れてうまく言葉にならない。紗枝が扉を開けて言う。「ここだよ」そこでは、椅子にもたれるように座っていた凛に、海斗が温かいお茶を手渡していた。凛が受け取った時に、二人の指がわずかに触れ合ったのだが、全身がけだるく、力が入らない凛は、そんなかすかな感触は感じられなかった。だが、海斗の指はわずかに震えた。敷居をまたいだ智也は、ちょうどその瞬間を目の当たりにしていた。ゆったりとした麻の半袖と長ズボン姿で、弱々しく椅子に寄りかかっていた凛。髪は濡れて肩に流れ落ち、細い指先で湯呑みを握りしめている。爽やかな風が凛の濡れた髪を揺らし、少し潤んだ瞳や、その透き通るような佇まいは、まるで雨上がりの雫輝くモクレンの花のようだった。海斗は白いシャツにスラックス。片手をポケットに入れ、もう片方の手で湯呑みを差し出したばかりなのだろう。その手はまだ宙に残されたままだった。高貴な雰囲気をまといながらも、眼差しはひどく冷たかった。二人が同時に顔を上げて智也を見た姿は、まさに絵に描いたような美男美女。その光景があまりにも鋭く智也に刺さり、智也は大股で歩み寄ると、凛を背に庇うようにして海斗と睨み合った。海斗の口元に、冷ややかな嘲りが浮かぶ。「谷口社長。凛さんがホテルのバスタブで溺死するのを待っていらしたんですか?」「溺死?」智也はすぐに言葉に反
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第135話

海斗もその後に続く。「タケウチ・ホテルとしても、谷口社長の妹さんを危険物の持ち込みによって周囲に危険を及ぼしたってことで訴えさせてもらうから」そして、冷ややかな視線を智也に向けた。「谷口社長、次会う時は法廷で」海斗は、そう言い残し出口に向かって歩き始めた。状況を見守っていた策は、すぐに海斗の後を追って尋ねる。「竹内社長、あの谷口社長と凛さんってどんな関係なんだよ?」「元旦那」と、海斗は低く答えた。驚きに目を見開いた策。え?まさかそういう趣味だったの?海斗は振り返り、部屋の中をちらりと確認すると、策に念を押した。「谷口社長に彼女を連れて行かせるなよ」それと同時に、凛の携帯を策に預ける。「なんで?」そう聞いた策に、海斗が冷たい視線を向けると、彼はすぐさま頷いた。「分かったよ」海斗は理央を連れて立ち去ったが、車に乗る時、彼女があることに気がついた。「社長、凛さんの荷物がまだ車のトランクに積んであります。少し水に濡れてしまってはいますが」「分かった。俺にくれ」千石鍼灸院にて。策が戻ると、智也が懸命に言い訳をしていた。「何かの間違いじゃないか?」柚葉もそれに乗じる。「胡桃ちゃんにそんな度胸なんてあるわけないじゃないですか。凛さん、きっと何か誤解してるんですよ。それに、彼女は智也の妹なんですから」「違う」凛は柚葉を真っすぐ見据えた。「胡桃にはこんなことをしでかすだけの度胸があるし、それ以上のことも平気でやる。ただ、私に薬入りの酒を飲ませるという頭が、胡桃にあるかどうかは別の話だけど。胡桃の性格からすれば、私を見た瞬間に早く酒を飲めと急かしたはず。なのに、今日の胡桃は自分の自慢から入り、次に食べ残しを食べさせ、最後に本当の目的である酒を勧めてきた」この手順こそ、凛の警戒心を緩めた。なぜなら胡桃は、日頃から偉そうに指図ばかりしている人間だったから。だから、ただ単にいつものように屈辱を与えて楽しみたいのだとしか思わず、裏があるとは微塵も思わなかった。柚葉の目が揺らぎ、彼女が不意にふっと笑う。「なんでそんな目で私を見るんですか?もしかして、胡桃ちゃんを陥れるだけじゃ足りなくて、私まで罠に嵌めるつもりとか?凛さん、こういうことには証拠が必要なんですよ?」「どうして証拠がないと言い切れるの?」凛
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第136話

智也に肩を掴まれ、凛は痛みで顔を歪めた。「何してるんだい!」薬を持ってきた紗枝が杖を振り上げ、智也の腕を叩く。「この子の夫だろうと、私の患者にそんな態度は許さないよ!この子が弱りきっているのが分からないのか。妻の体調も心配せず、痛めつけるなんて。そんな夫、聞いたことも見たこともないよ。さっきの男の子のほうが、よっぽど気が利いていたね。水を飲ませたりタオルを持ってきたり、一生懸命だった。あちこちに針を打ったんだから、まだ痛むんだよ。すぐに放しなさい!」紗枝が厳しい視線で智也を睨んだ。智也は慌てて手を離した。「鍼治療をしたのか?」「鍼治療と薬湯をしたって言ったでしょう」智也は自分のことに無関心なくせに、いざとなるとすぐに嫉妬めいた態度をとる。それは純粋な嫉妬というよりも、所有物に対する執着に近いものなのだろう。智也の中で、最初から自分は人間扱いされていなかったようだ。「さあ、薬を飲んで」紗枝は薬を机に置いたことを忘れ、もう一度あちこち探している。「ばあちゃん、ここだよ」策が入ってきて凛に薬を手渡すと、智也と柚葉の間に割って入った。「あまり囲みすぎないでください。治療の妨げになりますから」「ありがとうございます」「いいんだよ。早く飲みな。もし時間があったら、固めてゼリーみたいにしてあげられたんだけど。ほら、そうすれば苦くなくなるから。それに、最近の若者はそういうのが好きなんだろう?」「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」凛は精一杯の微笑みを浮かべたが、疲労の色が濃く、どこか痛々しかった。その顔を見て、紗枝はより一層不憫に思った。鍼治療の最中、凛はタオルを噛み締め、桶の縁を指が白くなるまで強く掴んでいたにもかかわらず、悲鳴一つ上げなかった。薬を飲み終えるのを見てから、智也が口を開いた。「先生方、お世話になりました。では、凛を家に連れて帰っても大丈夫ですか?」紗枝が答えようとしたが、策がその袖を軽く引く。「まだ無理だよね?」紗枝はそんな孫を見て事情を察した。この旦那は、妻の体調をこれっぽっちも考えていない。なら帰すわけにはいかないだろう。「あと一晩は様子を見ないとね」策が智也に向き直った。「谷口社長、柚葉さん。申し訳ありません。ここは小さな鍼灸院ですので、大きな病院のような付き添い設
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第137話

柚葉はふてぶてしく笑っていた。その時、智也の携帯が鳴った。「胡桃ちゃんからだよ、智也」柚葉が智也に電話に出るように急かす。智也は携帯を手に取ると、急いで外へと向かっていった。「凛、明日は迎えにくるから、勝手にどっか行くなよ。柚葉、行こう」「うん、帰ろう」二人は出ていった。策が千石鍼灸院の戸を閉め、凛に携帯を返した。「竹内社長があんたにって」凛は自分の携帯を見つめ、小さく呟いた。「だから竹内社長は私を見つけられたのね」「凛さん、谷口社長はまだあんたの夫なんだろ?」先ほど、智也が言っていたことを策は全部聞いていた。だが、凛は首を振る。「じゃあ、隣の女はあいつの秘書かなにか?いつも一緒にいて、妙に馴れ馴れしいけど」「秘書じゃないです」凛は視線を落とした。「彼の心の中にいる人」予感通りだったので、策は特におどろきはしなかった。「策先生、ここに残してくれて、ありがとうございます」「竹内社長に言われたんだよ」策は凛を値踏みするように見た。竹内社長はこういう儚げな女が好みだったのか。「もう夜中の2時だ。早く寝た方がいい」策はそう言いながら海斗にメッセージを送る。【もう大丈夫だ。凛さんはここにいる】報せを受けた海斗は安堵し、特に返信はしなかった。すると、凛からもメッセージが届く。【竹内社長、今夜はありがとうございました。また時間がある時には、お礼にご飯でもご馳走させてください】【ああ】【では、夜も遅いので失礼します。社長も、早くお休みになってくださいね】【君の荷物はこっちで預かっている】【お手数おかけします。大事なものなので、そのまま少しだけ預かってていただけますか?】今回、海斗からの返信は来なかった。なぜなら、彼の携帯の充電が切れてしまったから。しばらく待った凛だったが、最後には力尽きて眠りに落ちていった。……タケウチ・ホテル。智也が到着すると、地面にへたり込んで騒ぎ立てている妹と、取り囲む警官の姿があった。「何もしてないって言ってるでしょ!私は関係ない!勝手に連れて行こうとしないでくれる?!」「我々は通報を受けて確認に来ただけです。警察で話を聞くだけで、特に問題がなければ帰れますから。ここで駄々をこねるほうが時間の無駄ですよ」胡桃は時間を稼
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第138話

その夜、智也はずっと動き回っていた。妹を救い出すために。そして両親に気づかれないように。だが、結局は両親にばれてしまった。両親はすぐさま警察署へと向かい、目を真っ赤に腫らして泣きじゃくる娘と面会した。今回の騒動の原因が凛だと知った二人は、罵詈雑言を並べ立てる。「お父さん、お母さん、どうしてここに?」「智也は隠そうとしてたんだけど、柚葉ちゃんが内緒で連絡してくれたのよ」「やっぱり、お父さんとお母さんと柚葉さんは私の味方なんだね」柚葉さんは、お兄ちゃんに内緒で両親に連絡を入れ、自分を助けようとしてくれたらしい。だから何があっても、この件に柚葉さんが関わっていたことだけは絶対に口にしない!胡桃は、自分が凛に嵌められたという設定を貫かず、柚葉の件以外、全てを白状した。そうしなければ、両親は動いてくれないと悟ったから。梨花は苛立ち混じりに娘の額を突いて言った。「なんて無茶をしたの!それに、場所がよりによって竹内グループのホテルだなんて。他の場所なら、まだ相手も兄さんの顔を立ててくれたかもしれないけど、竹内家は他人への容赦なんて一切しないんだから」エデンの園で、瑶子から受けた屈辱を思い出すと、梨花は今でも腹が立った。生まれが良くて、良縁に恵まれたからって、いい気になって!健吾が尋ねる。「例の薬の購入履歴は残っているのか?」胡桃は首を振った。「裏ルートで買ったから、記録はないよ」「じゃあ、凛を誘惑するはずだった男はどこに行ったんだ?」父がさらに問い詰める。「そいつは部屋にいなかったのか?」「いなかった。理由はわからないけど、部屋に入ってすぐに出てきたみたいで。あとから私たちが中に入ったら、部屋中水浸しになってたの」梨花の腕にすがりつきながら、胡桃は真面目に答えた。健吾が考えを巡らせる。「つまり、そいつは部屋を間違えて入っただけで、すぐに出て行った。だから、お前の唯一の落ち度は、鍵をちゃんと閉めなかったことだ。分かったな?」「え、でも鍵はちゃんと閉めたよ?」すぐには理解できなかった胡桃。そんな胡桃を梨花が睨みつける。「まったく、この子は。お父さんの言う通りにしておきなさい。鍵が閉まっていなかったと言えばいいの」「わかった」ようやく、胡桃は事情を理解した。健吾がなだめる。「安心しろ。これからその男を見つけ出し
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第139話

梨花は怒って電話を切った。母親ではなく、嫁の味方をするとは!自分の言うことすら聞かなくなっている!毎日毎日、凛を庇って。凛が離婚を切り出そうとしているなんて、露ほども思っていないのだろう。梨花は次に柚葉へと電話をかけた。柚葉は言った。「梨花さん、智也が言っちゃ駄目だって……」「柚葉ちゃん、お願い。智也には内緒にするから」「分かりました」柚葉はため息まじりに口を開いたが、その口元にはどこか意地の悪い笑みが浮かんでいた。「凛さんは、千石鍼灸院にいます」場所を聞き出した梨花は、すぐに向かった。一晩中駆けずり回り、空はもう白んでいる。規則正しい生活のおかげで、凛は相変わらず朝早くに目が覚めた。そして紗枝も、とっくに起きて活動を始めているようだった。窓を開け放つ。しっかり眠ったおかげか、清々しい気分だ。昨日は気力を振り絞ってバスルームに鍵をかけたおかげで助かったし、たまたま海斗も駆けつけてくれた。そうでなければ、自分は溺死していただろう。海斗には感謝してもしきれない。もう一度お礼を言おうと携帯を取り出したが、充電が切れていた上に、充電器も持っていなかった。まあ、面倒だし、そのままでもいいか。「おはよう、凛さん」策だ。「おはようございます、策先生。紗枝先生は?」「裏庭で薬草を干してるよ」策は近づいてくると尋ねた。「体の調子はどう?」「とてもいいです」凛は短く答えた。策が頷く。「ならよかった。竹内社長にも報告しておくよ」「どうしてですか?」凛は怪訝な顔をした。「俺は竹内社長の専属医だからね。昨晩は彼に呼び出されたんだよ。それに、あんたの状況を必ず報告しろって言われてるからさ」策はそう言って、立ち去っていった。凛が裏庭にいる紗枝を探しに行こうと足を向けたとき、玄関の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。「凛はどこなの?」怒ったような口調。文句を言いに来たに決まっている。策が振り返った。凛も振り返った。凛を見つけると、ずかずかと中に入ってきた梨花だったが、他にも人がいることに気づいたらしい。「凛、ちょっと出てきなさい。話があるの」「胡桃のことですか?」凛は冷ややかに返した。「断ります」「まだ何も話してないじゃない。なのに、どうして断るの?」「今回胡桃がし
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第140話

離婚届で私を脅すのか?凛は鼻で笑った。「お義母さんたちが一番、私と智也が別れるのを望んでいるんじゃないんですか?でも、あなたたちがそうするっていうなら、このまま婚姻関係を続けても構わないですよ?まあ、胡桃の海外留学費用は出せませんけど。義妹の面倒を見る義務は、私にはないので。あと、あなたたちの生活については、住むところはもうありますし、医療保険もこちらが毎年払っているから、そこはそのまま続けるとしましょう。でも、もう智也の家族カードは使わせませんので。その代わり、月6万円支給しますね。それに、智也は大好きな小林さんにかなり貢いでいますよね?あれだって夫婦の共有財産になりますから。もし私が訴えれば、智也が小林さんに貢いだお金も、一銭残らず小林さんに返してもらうことになります。そうなったら、智也と小林さんに未来なんてないんじゃないですか?小林家のお嬢様が、一生『愛人』なんて、ね?まあ、小林さん本人がいいとしても、小林家が許すでしょうか?だって、これからの『谷口グループ』の代表として出席する公の場では、智也の隣には私がいるんですもの」谷口家の人間は、もともと凛を見下していたし、彼女の生まれや仕事では表に出しても見栄えがしないと考えていたのだ。だから、そんな凛を連れて息子と一緒に公の場へ出れば、自分たちも周囲の笑いものになる、本気でそう思っていた。凛の一言一句が、谷口家の逆鱗に触れた。特に、見栄っ張りの梨花には、効果覿面だ。梨花は怒りのあまり、過呼吸気味になり、凛の鼻先を指さす手が、細かく震えている。「な、なんて恐ろしい……!」「そうかもしれませんね。だって、小林さんを美しくて優しいと思うぐらいですから」そして、凛は聞き返した。「本当に離婚届を渡してくれないんですか?」絶対に用意する!絶対に智也が記入した離婚届を用意してやる!梨花は今すぐにでも離婚届を凛の顔面に投げつけてやりたかった。だが、まだ智也に離婚届を記入させることができていない。まあ、あと半月もあれば、いつかチャンスがあるだろう。悔しすぎて、梨花はどうにかなりそうだった。「凛。どうすれば胡桃を許してくれるの?胡桃にやましいところなんてないし、証拠だってないの。それに、どうせ智也がいずれ何とかするんだから、今ここであなたが頑なになってても意味
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