海斗に誘うような視線を向けていた凛。そして、木桶の中で大粒の汗を流し、唇を噛みしめて涙をこらえる凛の姿。力いっぱい桶を掴む両手には、美しい筋肉の筋が浮かび上がっていた。彼女は、あんなに華奢に見えるのに。とりわけ、ゆったりとした白い服に身を包み、籐椅子に腰掛ける姿は印象的だった。今にも風にさらわれてしまいそうなほど華奢なのに、瞳の奥には強い意志の光が宿り、決して屈しない芯の強さを感じさせた。どんな凛の姿も、彼の頭の中から一晩中消えることはなかった。冷水のシャワーを何度も浴びても、体の火照りはずっと引かず、結局、一睡もできなかったのだ。だから今、あんな減らず口ばかり叩く智也なんかに会うのは、面倒臭い以外の何ものでもない。拓海はくるりと向きを変え、社長室を後にした。デスクでは、理央が昨夜の詳細を恵に語っていた。熱の入った口ぶりで、特に海斗がいかにして凛の窮地を救ったかという英雄的なエピソードを強調している。恵も凛の施設から送られてきた特産品を食べながら、その話を面白そうに聞いていた。そして、時折理央の手も伸びてきて、一緒につまんでいる。拓海が通りかかると、恵は彼にもその特産品を差し出した。「食べてみてよ。あ、でも全部食べちゃ駄目だからね。てか、凛さんはいつ帰ってくるの?」「午後からは出社するはずだよ」と拓海は答えた。すると恵が心配そうに「もう少しゆっくり休めばいいのにね」と呟く。「凛さんはあと2週間で退職するんだから、休みなんていくらでもとれるよ」と理央が言った。「それもそっか」と恵が頷く。そして、好奇心に目を輝かせながら小声で聞いた。「凛さんが辞めちゃったら、竹内社長はどうなっちゃうんだろうね?」理央は唇をきゅっと結ぶ。「分からない」社長室から海斗が立ち上がる気配を感じた拓海は、二人に警告した。「おしゃべりは終わりだ。昼食にしよう」会話を続けながら、二人は食堂へと移動していった。一方、拓海も社員食堂で海斗の横に座り、無言で食事を済ませた。食べ終える頃、海斗が不意に尋ねてきた。「凛さんは何時に着くんだ?」「午後の始業時間なので、2時半にはくると思いますよ」海斗は一瞬だけ眉を寄せたが、すぐに表情を緩めて「そうか」とだけ呟いた。真意は読み取れない。食事を終えてオフィスに戻る。拓
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