まあ、それもそうだろう。谷口家の人は皆、世間体を気にするのだから。それに、あまり気の長くない杏に、智也も昨夜の話なんてできなかったのだ。「今、佐野先生の奥さんが貸してくれた家を片付けてたので、智也の電話に出られなかったんです」「智也のことは追い返しといたし、管理人にも二度とあの人の車は入れないでって、言っておいたから。でも、なんだか必死になって探していたみたいだけど、何かあったのかい?」「分かりません。でもなんだか、最近の智也は少し変なんです」とにかく、知り合って4年、今のような智也を凛は一度も見たことがなかった。「そうかい。でも、まあいいわ。ほっておきなさい。それより、忙しくて何も食べてないんじゃないの?藤田に、出前の手配をさせるよ」「ありがとうございます」凛は杏の気遣いが嬉しかった。電話を切った直後、インターホンが鳴る。「こんなに早く?」凛はスリッパを履いて階段を下り、ドアを開けた。すると、なんとそこには海斗がいたのだった。先ほどとは違うスーツだから、着替えたのは間違い無いのだろうが、彼は相変わらずスーツ姿で、ネクタイもしっかりと締めている。背筋を真っ直ぐ伸ばして立ち、片手をポケットに突っ込んだまま、少し伏し目がちに凛を見つめる海斗。深く鋭いその瞳には、まるで天下を見下ろすかのような圧倒的な威厳が宿っていた。「竹内社長、これから深夜会議か何かですか?」海斗は無言で凛を見つめ続けたまま、何も答えない。「社長。私……今夜は残業できませんので」すると、海斗が少し呆れたように、口をひらいた。「君の残業など必要ない」海斗はそのまま家の中に入り、室内を見渡す。家具は整っていたが、生活感が一切ない。海斗の眉間に皺がよった。「ここには誰の紹介で?」「先生です」凛は玄関を開けたまま、海斗から少し離れた場所に立った。「あの、何か仕事の話ですか?」「君がそんなに仕事熱心だとは思ってない」そうでなければ、退職なんて選ぶだろうか。凛は唇をきゅっと結び、何も答えなかった。「君は口がきけないのか?」こんな言葉を自分が人に言う日が来るとは、海斗も思ってもみなかった。これまで家族からそう罵られたことはあっても、自分が誰かに言う側になるとは。「いいえ」「ここにはどれくらい住むんだ?」「2週間ほどです」淡々と答え
閱讀更多