บททั้งหมดของ 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: บทที่ 111 - บทที่ 120

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第111話

「佐野先生、智也の家まで送ってもらえますか?院長先生や子どもたちが送ってくれた荷物を受け取りたくて」そう言いながら凛は、頭の中で家を購入することを考えていた。「佐野先生、どこかおすすめのマンションはありませんか?すぐに入居できるところが良くて」「もう少し待てるか?」と、克哉は言った。「今回も特に変わっていなければ、報奨金や表彰とは別に、仕事も住居も手配されると思うんだ。だから、今ある手持ちの金はとっておきなよ。君自身のため、あとは施設のためにね」確かに、克哉の言うことにも一理ある。だが、気がかりなこともあるのだ。「いつまでも杏さんの家に住むってわけにもいきませんし……それに、智也がまた押しかけて、杏さんに迷惑をかけるんじゃないかって心配なんです。前なんか、夜中にやって来て、藤田さんまで起こしてしまって。高齢のお二人にそんなことは……」凛は考えを巡らせ、「とりあえず、部屋をどこかに借りることにします」と言った。克哉はうなずいた。「妻が所有している物件が空いているんだ。そこなら、竹内グループのオフィスからもそれほど遠くないから、どうかな?あ、それとね。僕たちのプロジェクトの入札の案内が、竹内グループにも送られたそうなんだけど、君は関わってないよね?もし関わっているなら、竹内グループは選考対象から外される」「はい、大丈夫です」凛は首を振った。「社長から参加を求められましたが、断りました」「竹内社長は相当君を信頼しているんだね」克哉は彼女を一瞥した。「あの交流会で竹内社長が君と踊ったことで、周囲も君の正体をあれこれ勘ぐっているよ」凛はきょとんとした。「社長の女性秘書がダンスのパートナーになるなんて、よくあることじゃないんですか?」「いや、竹内社長は違う。これまで彼がパートナーを連れてああいう場所に参加したことはなかったし、秘書はあくまで秘書として扱う人だから」凛は眉をひそめた。「そうですか。でも、大丈夫です。私はもうすぐ退職しますから」智也の両親が上手くやってくれれば、あともう少しで離婚が成立する。竹内グループを辞めたら、そのまま入札会へ向かおう。全て順調に進んでいるはずなのに、なぜか凛は胸にぽっかりと穴が開いているような気がしていた。車が家の前に着いた。車を降りて克哉に礼を言う。「佐野先生
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第112話

智也がまだ何かを言おうとしていたが、凛は荷物のことで頭がいっぱいで「またあとにして。私は胡桃に聞いてみるから」と言った。「そんなに心配しなくていいよ。きっと、どこかで見落としてるだけだから。胡桃は勝手に触ったりなんてしないよ」胡桃だからこそ、勝手に触るのだ。凛は長年のこのやり取りにうんざりしていたし、智也の言葉も聞き飽きていたので、そのまま電話を切った。突然電話を切られた智也は戸惑い、眉をひそめる。凛が自分の電話をいきなり切るなんて。智也は立ち上がって上着を羽織ると、会社を出た。帰り道、今夜食べたい献立を凛にラインするのも忘れずに。最近外食ばかりだった智也は、何を食べても味気ないと感じていて、数口食べるだけでやめてしまっていた。今夜はようやく美味しい食事にありつけそうだ。しかし、凛は智也からのメッセージに既読をつけただけで返信はせず、そのまま胡桃に電話をかけた。1回目。切られた。2回目。また切られた。3回目になって、ようやく相手が面倒臭そうに電話に出た。「あれ、凛さん?わざわざ私に電話なんて珍しいね?」完全に挑発するような口調だった。凛は即座に確信する。「私の荷物取ったよね?」「取ったけど、それが何?あなたの施設から毎年届くやつ、私たちに押し付けてくるけど、不味くて食べられたもんじゃないんだから。あんな綺麗かどうかも分からないもの、今年はもう持ってこないでくれる?毎回こっそり捨ててるんだから、本当に迷惑なの」凛は息を呑んだ。「全部捨ててたの?」「そうだけど?」「いらないなら返して」凛は奥歯を噛みしめた。今ここで何を言っても無駄なことは分かっている。もう過ぎてしまった話なのだから。一度息を深く吸い込んで、続けた。「私の荷物返して」「返してほしいなら、自分で取りに来れば?私、今日は忙しいから、暇になったら連絡してあげる。あ、お兄ちゃんに言おうなんて考えないでね。もしそんなことしたら、あのチビたちが描いた絵も手紙も全部びりびりにして捨てるから」どうやら胡桃は、もう中身を全て見たらしい。凛は問い詰めた。「一体、何が目的なの?私と智也を離婚させたいなら、直接本人に言えばいいでしょ。私を脅してどうするつもり?」「お兄ちゃんが本気で離婚したいならとっくにあなたたちなんか離婚してるのに!もう!お
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第113話

凛もただ足を少し止めただけで、智也を呼ぼうとはしなかった。結婚して4年、何度となく自分と顔を合わせていたはずなのに、すれ違った妻に気づかないとは。なんとも皮肉な話だろう。自分たちの結婚と同じだ。最初から最後まで、すべてがとんだ茶番劇。エレベーターに乗り込んだ智也が閉まるボタンを押そうとしたその時、ふと、先ほどすれ違った人物の面影にどこかで見覚えがあるように感じた。凛。だが、確証はなかった。普段の凛はシンプルな装いだったが、あんな服を着るはずがない。それに、着ていた上着はどう見ても男性のもので、しかも中年男性が着るようなものだったから。それでも、本当に似ていた。エレベーターが閉まるその時、智也は慌てて飛び出すと、大股でその人物を追いかけた。「凛?」凛は思わず足を止めた。そして、その瞬間の動揺を見た智也の中で、彼女が凛だという確信が強まる。智也はそのまま近づき、彼女が被っていた帽子をひったくり、マスクを剥ぎ取った。「おい、どうしてそんな格好をしているんだよ?」凛が羽織っているサイズの合わないジャケットを凝視した智也。次の瞬間、追及するように言葉を浴びせる。「その服、誰のなんだ?」「お世話になっている方のやつ」「二宮先生と藤田さん以外、お前の世話をしてくれる奴なんているのか?」智也の疑いが深まる。「藤田さんのか?いや、それはないはずだ」「あなたが会ったことのない恩師よ」荷物をずっと持っていたため、ビニール袋の持ち手が凛の手のひらに食い込み、赤く充血していた。智也はしばらくの間、凛の目をじっと見つめていたが、不自然なところは見当たらない。次に、凛が持っている荷物へと視線を移すと、口調は先ほどより幾分か柔らかくなった。「お前が何日か帰ってこないだけで、家の中にそんなゴミが溜まってたのか?」自分を育ててくれた院長先生が送ってくれたものを、さっき胡桃によって馬鹿にされたばかりだ。なのに、智也にまで「ゴミ」と言われたため、凛は智也を無視して通り過ぎようとした。そんな凛を見た智也は、自分が荷物を持とうとしないからだと勘違いし、袋に手を伸ばす。「俺が捨ててくるよ。夕飯の買い物は済んだのか?」凛はその手をよけ、淡々と言い放った。「これはゴミじゃない。院長先生が送ってくれたものなの。今年はあなたたちにわ
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第114話

智也は、今夜絶対に凛と食事をするつもりでいた。だが、凛がどれだけ抵抗しようとも、成人男性の力にはやはり敵わなかった。このまま抵抗しても仕方がないと悟った凛は、冷静になって言った。「わかった。料理はする。だから、まずはその手を放して」やっと智也が手を放す。「でも冷蔵庫には何もないから、食材を買いに行かないといけない。この時間じゃ新鮮な食材なんて残ってるか分からないけど」足元の荷物を横目で見ながら、凛は続けた。それは施設のみんなからの贈り物だったから、ここに置いておくわけにはいかない。「この荷物を上に運んでおいてくれる?私は食材を買ってくるから」しかし、智也は無言で凛を見つめたまま。まるで、凛がそのままどこかへ逃げてしまうのを恐れるかのように。凛は溜息をついて、荷物を持ち上げた。「一度荷物を置いてから、買い物に行くよ」それを聞いて安心したのか、智也は彼女の手から荷物を受け取った。「一緒に行く」「え?」自分の耳を疑った凛。「一緒に?」「一緒に買い物に行こう」そう言った智也は荷物を持つとエレベーターに乗り込み、凛に続くよう視線を送る。凛は唖然として智也を見つめた。何かの間違いでは?4年間、この男が買い物についてくるなんてことは一度もなかった。智也にとって、こんなことは妻の務めであったはずだから。「どうしてそんな目で俺を見ているんだ?」智也は怪訝そうに言った。凛は小さく首を横に振る。「別に」部屋に荷物を置くと、智也は本当に凛と一緒に家を出て、卸市場へと向かった。日はとっくに暮れていた。卸市場の熱気や色々なものが入り混じった独特の匂いは、智也には馴染みのないものだった。特に地面に落ちている野菜屑や、肉屋の店先の血が混じった水には眉をひそめる。さらに、潰れたトマトを踏んでしまい、手入れの行き届いた革靴が一瞬で汚れた。智也が不機嫌そうに言った。「なんでスーパーに行かないんだよ。スーパーならもっと清潔で、全部袋詰めされてるのに」「卸市場の方が安いし、値段交渉もできるから」凛は淡々と野菜を袋に詰めていく。渋い顔をした智也。「そんな節約しなくても……」「あなたは毎月6万円しか生活費を渡してくれないわよね」と凛は冷静な目差しを智也に向ける。「家の出費は食材だけじゃない。あなたの好物や日用品、掃除用品
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第115話

たぶん、友達だ。凛は頷く。「はい、違います」「何が違うんだ?」近づいてきた智也は、店主が手際よく捌いた魚を差し出したので、凛が手を伸ばす前にそれを受け取った。凛は言った。「別になんでもない」二人はそのまま歩き続け、精肉店へと向かう。その時、凛の携帯が鳴った。「ちょっと電話に出てくる」凛は背を向け、少し離れた場所に移動した。智也は凛のほっそりとした背中を見つめ、眉間にしわを寄せた。いつから凛は、自分に隠れて電話をするようになったのか?以前は、自分の目の前で堂々と電話に出ていたはずなのに。電話の相手は日和で、今夜夕食を一緒にどうかという誘いだった。手元の買い出し袋を見た凛の目に、一瞬光が走る。「日和さん。今夜、私が料理を作るから、家に来ない?」「本当ですか!?」日和の声が弾んだ。「行きます!絶対に行きますから!住所を送ってくれたら、今すぐ向かいます!」「でも、一つだけお願いがあるんだけど」「もちろんです。任せてください!」日和にあっさりと承諾され、凛は驚いた。「何をお願いするか、まだ言っていないんだけど」「凛さんが変なことお願いしないって知ってますから」日和は凛を心から信頼していた。その信頼に胸が温かくなった凛は、思わず微笑む。突然笑い出した凛を見て、智也は近づき疑いの目を向けた。「誰と電話してるんだ?」凛は隠すこともなく、携帯の画面を見せる。「友達」「日和」という名を見た瞬間、智也はことあるごとに自分を追い詰めてくる海斗の姿を連想した。また掛け直すと言って電話を切ると、凛は智也を見上げた。「今夜、友達を食事に招きたいの」「竹内グループのご令嬢?」と、少し躊躇う智也。「いいかな?」凛はもう一度聞いた。「お前が友達を家に呼ぶなんて、初めてだもんな」智也はぶつぶつ言いながらも、頷いた。凛は重ねて言った。「あなたも、友達を呼んでいいからね」凛の言う「友達」とは柚葉のこと。しかし、智也には伝わっていないようで、彼は携帯を取り出すと正人にメッセージを送った。「正人を呼んだ」「小林さんは?」柚葉のことが出るたび、智也の心はざわつき、無意識のうちに緊張が走る。「なんで柚葉?」「小林さんはあなたの友達じゃないの?正人も彼女とは顔見知りだし」「友達だけど、今
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第116話

買い物を済ませた後、凛は日和にメッセージを送った。【日和さん。悪いんだけど今夜どんな手を使ってでも、私を家から連れ出してほしいの。智也と同じ屋根の下で過ごすなんて耐えられないから】【任せてください!】日和からの返信を確認すると、凛は携帯をポケットにしまい、背後の智也に向かって声をかけた。「戻ろう」家に帰るなり、凛はキッチンに立った。キッチンに並ぶ鍋も食器も、彼女が一つひとつ選んだものだった。すべて智也の好みに合わせて揃えたものなのに、彼はそれに気づくことすらない。智也はいつも通りソファに腰を下ろし、流れるニュースを眺めていた。時折キッチンで働く凛の姿に目を向け、次第にその顔をほころばせる。智也はこういう平穏な時間が好きだった。心から安心できる。しばらくすると、玄関のインターホンが鳴った。正人が到着したようだ。彼は手土産を提げながら、「智也、どうしたんだよ急に呼び出すなんて。凛さんは今夜何を作ってくれるんだ?」と笑いかけた。「凛さん?馴れ馴れしく名前で呼ぶな」智也は正人の呼び方に対し不快感を示す。一瞬呆気に取られた正人だったが、すぐに状況を察して言った。「ごめんごめん。俺が悪かったよ」え?本当に、智也は凛さんと離婚する気なんてないのか?じゃあ、柚葉はどうなるんだ?まあ、自分が気にすることではない。智也が別の呼び方をご所望なら、呼び方を変えるだけだ。凛が物音のした方を見ると、正人が来ていた。二人はソファに並んで座り、一人はきちんと姿勢を正し、もう一人は気楽そうにもたれている。その話しぶりも立ち居振る舞いも、凛が偶然あの真実を耳にした日の光景を思い起こさせた。凛は視線をそらす。すると、コンロの脇に置いた携帯が点灯した。携帯を手にした凛がキッチンから顔を出すと、ソファに座っていた智也と正人が同時に凛の方を見た。「日和が来たみたいだから」凛が玄関へ向かうと、ちょうどチャイムがもう一度鳴った。扉を開けると、日和は持ってきたワインを凛の目の前に差し出した。「見てください!お兄ちゃんのコレクションから、盗ん……じゃなくて、もらってきました!」凛は下を向き、「これ履いて」と新しいスリッパを差し出した。日和は目を丸くして、「もしかして買ってきてくれたんですか?」と尋ねた。「うん、ついでにね。
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第117話

それで以前、『料理もできないのに、どうしてわざわざ隣にいるの?』って母に聞いたことがあって。すると母は、『最初から誰か一人がやるのが当たり前なんてことはないでしょう。できないなら、せめてそばにいてあげればいいのよ』と言いました。私は、その考え方は何にでも当てはまると思うんです。家族でも、恋人でも、友人でも」凛は美しく穏やかな瑶子のことを思い浮かべ、微笑んだ。「素敵なお母さんね」「凛さんにも、母親の代わりをしてくれた素敵な人がいたんですよね?」「ん?」凛は食材を切りながら尋ねた。「どうして?」「凛さんがとってもいい人に決まってるじゃないですか!」日和は、凛が切り終えた食材を見て、盛り付け用の皿を差し出した。どの皿がいいのかは分からなかったが、そうしたかったのだ。凛が笑みを浮かべる。「院長先生も、杏さんも、みんな素敵な人なの」この日、料理を作り始めてから、凛は終始とても楽しかった。食卓では、日和がひと口食べるたびに目を輝かせて、「おいしい!」と声を上げる。すると正人が笑いながら言った。「日和さんみたいな人は、今まで美味しいものなんて散々食べてきたんじゃないんですか?さすがに大げさすぎますよ」その言葉に、日和はたちまち表情を曇らせた。そして顔を横に向け、隣にいる二人の男性を見ながら言う。「人に作ってもらうのが当たり前になっている方は、ありがたみが分からないものなんですね。私たちだって外で食事をすればお金を払いますし、家で料理をしてくださる家政婦さんにも毎月お給料をお支払いします。それなのに、誰かがわざわざあなたのために食事を作ってくれて、しかもこんなに美味しいのに、感謝するどころか『大げさだ』なんて。本当に恩知らずですね」軽い気持ちで言ったのに「恩知らず」と言われた正人は呆気にとられ、智也を見て尋ねた。「そんなにひどいこと言ったか?」智也もまた、自分までもが批判されたような気分になった。「料理なんて、彼女がやって当たり前のことだろ」「そんな風に言うなら、後片付けはあなたがやるべきですよね」日和は食事を続けながら反論した。「谷口社長、ご自身の白くて綺麗な手をご覧になったらどうですか?絶対、お皿なんて洗ったことないですよね。今まで全部凛さんが一人でやってきたんじゃないんですか?」智也は言い返せず、凛の方に顔を向ける。
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第118話

「そんなことないよ」凛は携帯を裏返して置いた。「秘書になってまだ日が浅いから、至らないところを竹内社長が指摘してくれてるだけ」海斗といえば、無慈悲なことで有名だから、智也は、なんだか凛が海斗をかばっているように感じた。「お前はそもそも働くのなんて向いてないし、家にいるほうが合ってる」と智也は言った。「日和さんも、お前が作る料理はおいしいって言ってたじゃないか」日和が勢いよく顔を上げ、智也を見た。「谷口社長、何をおっしゃってるんですか?私は『凛さんが作るご飯はおいしい』って言っただけなのに、それを『家にいて料理をさせておきたい』と解釈するなんて。そんな理解力じゃ、ホシゾラ・テクノロジーが潰れても不思議じゃないですね」兄妹そろって容赦がなく、皮肉までそっくりだ。しかも彼にとっては、そのどちらも到底敵に回せる相手ではない。「日和さん、誤解ですよ」「先に私の言った意味を誤解したのは谷口社長の方ですよね?」そう言って、日和は凛に向き直る。「本当に辞めちゃうんですか?」智也も凛を見た。頷く凛。「うん、あと2週間ぐらいかな」智也は笑顔で、魚の一番美味しい身をほぐし、凛の取り皿によそった。凛は俯いてその魚を凝視する。最悪。それから日和のグラスに注がれた赤ワインを見やり、日和が酒に弱いことを知っていたので注意を促した。「飲みすぎないでね」日和がにっこりと笑った。「平気です」そしてこう続けた。「ところで、どうして今日は凛さんの好きなものが一つもないんですか?」凛は驚いた。「どうして私の好きなものを知ってるの?」「唐揚げですよね?」日和が凛の耳元でこっそりと言う。「お兄ちゃんから聞きました」智也と正人には、唐揚げが好き、と言うことしか聞こえていなかった。正人が口を挟む。「胃があまり良くない智也のために、いつもあっさりとしたものを作ってくれてるんです」智也も頷いた。「そうなんですよ」「『そうなんです』って?」と、鼻で笑った日和。「凛さんがあなたのために、自分の好みを我慢して合わせてるっていうのに、そんな当たり前みたいな顔して……本当に、何様なんですか?」怒りに任せて、日和は残りの赤ワインを勢いよく流し込んだ。すぐに顔が赤らみ、瞳がとろんとしてくる。正人は驚いた。「日和さんってこんなにお酒に弱いんですか?
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第119話

凛は驚いて、正人の方を見た。え?智也は友達を置いていくのか?すると、正人が「俺は大丈夫です。そこまで酔ってないので、運転代行を呼びますから」と答えた。「谷口社長になんか、送ってもらいたくないんですけど」日和は智也を睨みつけた。「男に送られるなんて誤解を招きますから。それに、小林さんが何か言いがかりをつけてきたらどうするんですか?たとえ、直接何かしてくるわけじゃなくても、私たちが誤解されるようなことを言いふらすかも」ずっと穏やかだった智也の顔から、ふっと笑みが消えた。「日和さん、凛は私の妻です。私たちに関係があるのは当然のことですから」「あら、そうですか」そんなの、自分の知ったことではないといった態度の日和。もうこの場で、日和を説得できる者などいなかった。凛は日和を抱えて立ち上がると、智也に向かって言った。「送ってくるから、ゆっくり食べてて」「早く戻ってこいよ。待ってるから」智也が席を立ち、ドアを開けてくれたが、凛は聞こえなかったふりをしてそのまま出て行った。この男が本当に自分を待つはずがないのだから。同じく智也の言葉を信じていなかった正人は、ドアが閉まるなり智也に話しかける。「智也、まさか奥さんに本気なのか?」智也が、静かに目線を上げた。「奥さんと上司のことを聞いて不機嫌になったり、妻として認めたり、さらに帰りを待つなんてさ」正人が先ほどのことをあげていった。「柚葉さんが戻ってきて長いし、彼女にかなり貢いできただろ?でも、絶対に奥さんとの離婚は考えなかった。本当にただ、奥さんが家事全般を完璧にこなしてくれるからなのか?」テーブルに置かれた智也の指先が、わずかに震えた。「結婚した以上、俺には彼女を守る責任がある」「責任だけか?」少し酒の入った正人は思わず鼻で笑い、続けた。「じゃあさ、智也。今夜は本当に待つのか?」「あいつ、あまり食べていなかったから」智也が凛の茶碗に視線を向ける。半分ほど残ったごはんと、自分が取ってあげた、手付かずの焼き魚。普段なら、自分がとってあげた料理は、すぐさま美味しそうに食べてくれるのに。それに、今回は日和が自分ばかり食事をし、凛にはろくに食事すらさせなかった。車の中。外に出た時、運転手はすでに待っていてくれた。「日和様、凛様」日和は凛を車に乗せると、慌てて
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第120話

日和はすぐに凛の腕へとしがみつき、同情を誘うように言う。「凛さんは私の味方ですよね?お兄ちゃんにもうまく言ってくれますよね?」「今回の件は私のためにやってくれたことだから、竹内社長には私が反省文を書いて提出しておくから」「私が言ってるのは今回のことじゃなくて、これからずっと、ってことですよ」「もちろん」と凛は頷いた。「だってあなたは私の友達だから」「じゃあ、お兄ちゃんはどうなんですか?」「上司だよ」「え……」と日和は言葉を詰まらせたが、すぐに毒づく。「うちのお兄ちゃん、本当にもう……まあ、あんな男のことは忘れて、揚げ物と炭酸で乾杯しましょう!」日和のマンションについた二人は、カーペットに座り、ダイニングテーブルの上にデリバリーで届いた食べ物を並べ、脇に炭酸を置いた。二人は食べては、飲んだ。凛は唐揚げとフライドポテトを頼んだのだが、日和には物足りないようで、次はオードブルを注文しようと彼女は言った。「そんなに脂っこいもの食べて、平気なの?」「余裕ですよ!」凛は院長先生から届いた差し入れを思い出す。友達がいない凛は、いつも谷口家の人々や二宮教授くらいにしか、分けていなかった。「院長先生がむこうの名産品を送ってくれたから、明日少し持ってくるね」「本当ですか!?」日和は目を細めて喜んだ。その時、智也からメッセージが届き、テーブルの上の携帯が光ったが、凛は画面を下にして見なかったことにし、何事もなかったかのように会話を続けた。大半は日和が一方的に喋っているが、凛はそれに真剣に耳を傾け、時折日和の大げさな表情やユーモアに笑わせられた。恩師たちから、友人をもっと作りなさいと言われてきた理由が今ならわかる。友達と過ごす時間は生活を色鮮やかにしてくれる。智也との最悪な関係のことさえ、ほんの少しだけ忘れられる気がした。時を同じくして。智也はまだ凛の帰りを待っていた。30分おきに携帯をチェックしては、凛からの返事がないか確認する。二人のメッセージのやりとりは極端に少なかった。日中は仕事で忙しく、夜は家に帰れば凛がいたので、ラインを使う必要がなかったのだ。ずっと帰ってこない凛から、やっとメッセージが送られてきた。それは【戻れない】の一言だけ。ソファに座っていた智也は、ダイニングテーブルに残された
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