「佐野先生、智也の家まで送ってもらえますか?院長先生や子どもたちが送ってくれた荷物を受け取りたくて」そう言いながら凛は、頭の中で家を購入することを考えていた。「佐野先生、どこかおすすめのマンションはありませんか?すぐに入居できるところが良くて」「もう少し待てるか?」と、克哉は言った。「今回も特に変わっていなければ、報奨金や表彰とは別に、仕事も住居も手配されると思うんだ。だから、今ある手持ちの金はとっておきなよ。君自身のため、あとは施設のためにね」確かに、克哉の言うことにも一理ある。だが、気がかりなこともあるのだ。「いつまでも杏さんの家に住むってわけにもいきませんし……それに、智也がまた押しかけて、杏さんに迷惑をかけるんじゃないかって心配なんです。前なんか、夜中にやって来て、藤田さんまで起こしてしまって。高齢のお二人にそんなことは……」凛は考えを巡らせ、「とりあえず、部屋をどこかに借りることにします」と言った。克哉はうなずいた。「妻が所有している物件が空いているんだ。そこなら、竹内グループのオフィスからもそれほど遠くないから、どうかな?あ、それとね。僕たちのプロジェクトの入札の案内が、竹内グループにも送られたそうなんだけど、君は関わってないよね?もし関わっているなら、竹内グループは選考対象から外される」「はい、大丈夫です」凛は首を振った。「社長から参加を求められましたが、断りました」「竹内社長は相当君を信頼しているんだね」克哉は彼女を一瞥した。「あの交流会で竹内社長が君と踊ったことで、周囲も君の正体をあれこれ勘ぐっているよ」凛はきょとんとした。「社長の女性秘書がダンスのパートナーになるなんて、よくあることじゃないんですか?」「いや、竹内社長は違う。これまで彼がパートナーを連れてああいう場所に参加したことはなかったし、秘書はあくまで秘書として扱う人だから」凛は眉をひそめた。「そうですか。でも、大丈夫です。私はもうすぐ退職しますから」智也の両親が上手くやってくれれば、あともう少しで離婚が成立する。竹内グループを辞めたら、そのまま入札会へ向かおう。全て順調に進んでいるはずなのに、なぜか凛は胸にぽっかりと穴が開いているような気がしていた。車が家の前に着いた。車を降りて克哉に礼を言う。「佐野先生
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