でも、少しは痛みがあるほうがいい。凛はまたうつむいて、黙々と食事を続けた。海斗は智也を追い詰めるように、彼が三杯目を飲み干したタイミングで尋ねた。「失礼ですが、谷口社長はご結婚されていると伺いましたが?」グラスを置く智也の手が止まり、無意識に凛の方を見た。凛が話したのか?結婚相手のことは誰にも言わないと、約束したはずなのに。「竹内社長、どちらからそんな噂をお聞きになったんですか?谷口社長は独身ですよ。もし結婚してたら、俺たちが知らないわけないじゃないですか」「そうですよ、谷口社長はずっと想い人を……いてっ!」隣の席の男が言い終わる前に、テーブルの下で智也に足を踏まれ、何事かと彼の方を見た。智也はにこやかに、それ以上話すなと目で合図した。海斗は、いつも智也の側にいる彼らが、自分よりも情報を知らないことに内心驚いていた。このことから、智也が結婚の事実を全く公にしておらず、周りの誰も凛に会ったことがないと確信した。面白い。一体、何のための結婚なんだ?「お気遣いどうも。ですが、お忙しい竹内社長に私の私生活でご心配をおかけするわけにはいきません」智也は笑顔で話をそらすと、再びグラスを掲げた。「竹内グループが主催する技術展覧会の成功を祈っています」海斗は形だけグラスを合わせると言った。「技術展覧会の後には業界の交流パーティーも開きます。皆さんもぜひ、パートナーの方とご一緒にお越しください」彼直々の誘いに、皆は、「ぜひ、ぜひ」と口々に答えた。皆が乾杯する中、凛も一人だけ浮くわけにはいかず、グラスに手を伸ばした。その瞬間、智也の表情がこわばった。智也は周りの目も気にせず、口を開いた。「彼女はお酒が飲めないんです」お酒を口に運ぼうとしていた凛は、ぴたりと動きを止め、彼を見上げた。智也は続けて、「女性は飲まない方が体にいいです。代わりにお茶でも頼んであげてください」と説明した。酒の席に来て、酒を飲まないなんてことがあるだろうか。皆は不思議に思ったが、智也の顔を立てて、店員に凛のグラスを下げさせ、代わりにお茶を運ばせた。凛は、目の前に置かれたお茶をぼんやりと見つめていた。智也は、自分のことを全部忘れてしまったわけではなかったのだ。でも……今さら、何の意味があるの?彼女は目の前のお茶
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