เข้าสู่ระบบ一方、美雪は部屋に入った途端、それまで足をかばっていたのが嘘のように普通に歩き始めた。柚葉が驚く。「美雪ちゃん、足……」「柚葉さん」美雪は表情を曇らせた。「正直に答えて。あなた、感染症にかかってるの?」柚葉の顔から一気に血の気が引いた。驚愕のあとに、隠しきれない動揺が浮かぶ。「み、美雪ちゃん、一体どこでそんなデタラメを聞いたの?」「望月さん」美雪は柚葉から目をそらさなかった。「望月さんが言ってるってことが、どういう意味かわかるよね?谷口さんもあなたから感染したんでしょ?だから1円も助けてくれなかった。それに、あなたは谷口さんの子供まで妊娠して、その子を失ってる。しかも、そのせいで今後妊娠できる可能性まで低くなった。そこまであなたの体を傷つけたなら、普通は罪悪感から少しくらい補償するはずなのに、それすらしなかったのは、理由があるからでしょ?」美雪が一歩近づく。柚葉は後ずさるしかなかった。この小柄な美雪は、普段見せているような、ただ優しくて付き合いやすい女の子ではない。それ以上に衝撃だったのは、智也が正人に病気のことを話し、正人がそれを周囲にまで広めていたことだった。美雪がそこで足を止める。「あなたが昔、誰とどう付き合ってたかなんて私はどうでもいいし、あなたとお兄ちゃんが付き合うのを後押ししたのだって、私なりの事情があったから。それでも一番は、お兄ちゃんが幸せならいいと思ってたからなの。でも、病気をうつす可能性があるなら話は別」声が一段と低くなった。「お兄ちゃんの体を傷つけることだけは、絶対に許さない」柚葉は慌てて止めた。「何をしようというの?利明に話す気?付き合い始めたばかりなのよ。私たち、付き合い始めたばかりなのよ。それだって利明から付き合おうって言われて、私は試してみようって答えただけ。今そんなことを言ったら、利明がどう思うか考えた?それに、私たちは何もしてない。手をつないだだけ。手を繋いだくらいで感染したりしないし、ちゃんと治療もしてる。薬を飲めば治るの」ただ、抗体検査はずっと陽性のままだった。美雪の表情がわずかに緩んだのを見て、柚葉はさらに畳みかける。「忘れたの?私たちには共通の敵がいる。私とあなたは仲間でしょ?」「治るまでは、本当にお兄ちゃんと手をつなぐだけ?」美雪は柚葉の思惑など見抜いてい
美雪は軽く肩をすくめた。「私には無理」陸は、さっきから美雪の態度がどこか引っかかっていたが、何がおかしいのかまではわからない。しかし、少し迷った末、もう利明に気を遣っている場合ではないと腹をくくり、美雪にはっきり告げた。「利明を止めたほうがいい。柚葉さんはやめとけって。あの女、病気持ちだって噂だからな」美雪の胸がざわついた。本当に病気だったの?まさか?美雪は顔を上げ、眉をひそめた。「陸、それ誰から聞いたの?噂なんて当てにならないでしょ?」「ほかの奴が言ってるだけなら、俺だって信じない。でも、谷口の友達の望月がそう言ってたんだよ。あの女ともずっと付き合いがあった。望月がグループチャットでこのことを言って、その翌日には自分で検査まで受けて、結果もグループに上げてたんだから」美雪の眉間のしわが深くなる。柚葉は、智也だけでなく正人まで完全に敵に回したらしい。しかも正人自身がわざわざ検査を受けたということは、身近にいる智也がすでに感染している可能性が高いだろう。「美雪ちゃん、これは放っておけないだろ?利明は昔から一番に美雪ちゃんを可愛がってきたんだから」「分かってる」と美雪は声を張り上げた。「お兄ちゃん!」利明と柚葉がこちらを見た。呼び止めたはいいものの、美雪はとっさに言い訳が思いつかなかった。すると陸がすかさず声を上げる。「利明!美雪ちゃんが足首をひねったみたい!」利明は柚葉と一緒にゆっくり滑り降り、美雪のそばで止まると、心配そうに足元を見た。「大丈夫か?」美雪は小さく頷いた。利明がグローブを外し、スキー板から降りる。「今日はもう切り上げよう。また今度来ればいいからな」真っ先に賛成したのは柚葉だった。柚葉にとっては、美雪は味方。結局、4人はスキー場に着いて30分もしないうちに引き上げることになった。車の中で、美雪は「もう痛くないみたいだから病院はいい」と言い、そのままホテルへ戻ることにした。ホテルに着くと、美雪は柚葉だけに部屋まで付き添ってもらい、男二人は連れていかなかった。陸は内心ほっとする。さすが美雪ちゃん。うまく利明と二人にしてくれた。利明のホテルの部屋に入ってドアが閉まるなり、陸は早速口を開く。「利明。あの女は性病を持ってる。あんなのと関わるとロクなことにならないから
「陸、お兄ちゃんと何をこそこそ話してるの?」美雪が近づいてきて、話を遮った。陸は美雪を一瞥した。美雪の目の前では、ある程度の顔は立ててやらなければならない。「何でもないよ」そう答えながら、陸は前方の柚葉をじっと見つめた。その目には、怒りに近いほどの軽蔑が浮かんでいる。「美雪ちゃんは柚葉さんと先に行ってて。俺は利明と少し話があるから」陸の「柚葉さん」という呼び方に妙な棘があり、利明は眉を寄せた。美雪は笑った。「一緒に行こうよ。柚葉さんはお兄ちゃんを待ってるし、今日の私たち二人は完全にお邪魔虫なんだから」そこまで言われれば、陸も強くは言えないため、仕方なく一緒に歩き出した。陸の足取りは重い。目の前で友人が騙されているのを見ているしかないこの状況では、自分が正人と同じ立場になったような気がする。だが自分は、正人ではない。そして利明も智也などではない。神谷家の御曹司である利明は、法学に関心がなくとも自らの実力で司法試験を突破し、大手事務所のパートナー弁護士まで上り詰めた男だ。それでも、嘘ばかりつく金目当ての女に、ここまで簡単に振り回されているのか?利明、お前の脳みそはどこにやった?相手の過去がどれほど酷くても、それでも受け入れて初めて「本当の愛」と呼ぶのだろうか。だとしたら、自分には一生そんなくだらない愛なんて理解できそうにない。スキーボードに足を固定した陸は、利明と柚葉が親密そうに寄り添っているのを見て、頭から煙が出そうになるほど腹を立てたまま、そのまま一気に滑り降りていった。美雪は、その苛立ちに満ちた背中を見つめた――やっぱり、陸は何かを知っているらしい。手袋をしっかりはめ、自分も滑り出す。柚葉はスキーがあまり得意ではないと言い、利明が手取り足取り教えていた。屋外スキー場はいつも人が多く、腕前もまちまちだ。初心者が「危ない!」「どいて!」と叫びながら突っ込んでくることも珍しくない。一人の初心者が柚葉たちの方へ滑り込んできたため、利明は咄嗟に柚葉を胸元へ引き寄せ、急停止する。その反動でバランスを崩し、冷たい雪の上へ尻もちをついた。体勢を崩した柚葉も、利明の胸に完全に倒れ込む。利明の鼻先に、やや強めの香水の匂いが漂った。以前の淡い薔薇の香りではない。柔らかな身体を胸に抱くと、利明の心臓が激し
茂はほっとしたように息をついた。「ご迷惑をおかけしていないなら何よりです。施設の院長をなさっているんですね。お名前を伺ってもよろしいですか?」そう言って手を差し出す。柑奈も手を伸ばし、軽く握手を交わした。「唐沢と申します」柑奈は母親のことには触れなかった。茂が20年以上も前にG県で出会った人間を、いちいち覚えているはずがない。わざわざ話せば、かえって相手を困らせてしまうだろう。茂は、柑奈を「唐沢院長」と呼び、連絡先を交換した。その一連のやり取りを、海斗はすべて見ていた。どこか引っかかるものを感じながら、考え込む。その頃には紗枝が薬を用意し終えていたので、剛がそれを受け取り、茂へ目を向ける。茂もそれ以上長居せず、そのまま鍼灸院を後にした。車へ乗り込むと、茂の表情は次第に険しくなった。「美雪の行動を、もう一度徹底的に調べてくれるか?景山グループにも確認を取って、関係する情報は一つも漏らすなよ」剛も頷く。茂は携帯を取り出し、溜め息を一つ吐くと、美雪に電話をかけた。「美雪、今は何をしてる?」美雪は答えた。「お兄ちゃんとか陸たちとスキーしてるよ」「景山グループの撮影は、いつ終わるんだ?」神谷家と景山家には付き合いがあるため、この件で美雪が嘘をつけばすぐに分かる。だから、美雪は正直に答えた。「もう撮り終えたよ」「そうか」茂は笑って言った。「なら明日の飛行機のチケットをとっておくよ。今日はスキーを楽しんで、明日は家へ帰って母さんのそばにいてやりなさい。そうしないと、この連休中、お母さんが一人になってしまうだろう?」父親が意図的に自分をA市から遠ざけようとしていることに気づいた美雪の胸の内に、不安が広がる。だが父親の言葉をあからさまに拒むわけにもいかない。「お父さんは明日帰らないの?」「俺はあと数日かかるかもしれない。隆さんと瑶子が戻ってきたら、一度食事をしてから帰るつもりだからね」「じゃあ、私もお父さんと一緒に帰りたい」「お前は先に帰って、母さんについていてやりなさい」それで話は決まった。電話を切った美雪は睫毛を伏せた。何か、大きなことが起きそうな気がする。スキーウェアに着替えた柚葉が近づいてきた。「どうしたの?そんなに暗い顔して」美雪は携帯の画面を消し、利明のいる方に視線を向けた。利明はちょ
だが、柑奈は長くは立ち止まらなかった。電話をかけてきたのは、施設を出た子の一人で、今はA市で働いていて、職場がこの近くだから、少しだけ顔を見に来たいという連絡だったのだ。柑奈が道路脇まで出ると、その子は原付バイクに乗ってやってきた。手にパンの袋を提げているその女性は、嬉しそうでありながら、どこか遠慮がちに言った。「先生、これ、私が働いてるお店のパンです。よかったら食べてくださいね。でも忙しくて……ちゃんと食事に誘う時間が取れなくてごめんなさい」「気にしなくていいの。私も用事で来てるだけだし、終わったらすぐ帰らないと。施設でもやることが山ほどあるから」柑奈は目の前の女性を抱きしめた。相手は途端に目を潤ませる。「ごめんなさい、先生。私、立派になれていなくて……」柑奈は涙を拭ってやった。「ちゃんと部屋は借りてる?」「はい」「毎日ご飯食べてる?」「はい」「寒くてつらい思いはしてない?」女性はやはり頷いた。「だったら十分立派よ」柑奈は再び彼女を抱きしめた。「自分の力で生きているだけで、十分すごいことなの。この世界のほとんどの人は、ごく普通の人なんだから」女性は納得がいかない様子でつぶやいた。「でも私、普通になるだけでも、すごく苦労したんです」柑奈はその背中を優しく叩く。「なら、これからは平凡で、幸せな普通の人になればいい」少し話したところで、女性の携帯に店から電話がかかってきたため、彼女は慌てて戻っていった。走り出したばかりの原付バイクは少しふらついていたが、やがて安定して進んでいく。柑奈は目頭を熱くして、その背中が角を曲がって見えなくなるのを見送った。忙しい中、わざわざ届けてくれたパンを手に、鍼灸院へ戻る。茂たちはまだいた。柑奈が茂をもう一度見ると、茂も礼儀正しく軽く会釈をした。柑奈はとうとう好奇心を抑えきれず、海斗に尋ねた。「海斗さん、こちらの方は?」海斗が茂を紹介する。「家族ぐるみでよくしてもらっている、神谷家の方です」「神谷?」柑奈は記憶の糸を手繰り寄せ、はっとした。「神谷副市長?」柑奈は思い出した。20年以上前、K市の副市長だった人物だ。母親と一緒に、施設の手続きで役所へ行った際、一度だけ顔を合わせたことがある。柑奈の印象に残っていたのは、母親が茂をとても高く評価していたから
凛は、それを負担だとは思わなかった。康平の頭を優しく撫でながら尋ねる。「ここに残って、紗枝先生のところで勉強してみない?」医学を学ぶと言っても、康平にはまだよく分からないかもしれないから、「勉強する」という言葉を使う。康平が柑奈を見ると、柑奈はやってみたいなら頷くようにと教えた。紗枝が口を開いた。「安心してください。この子にここで肩身の狭い思いなんてさせませんから。康平くんは私が孫だと思って、食べるものも寝るところもきちんと面倒を見ます。ただ、医学を学ぶのは根気が必要ですがね」すると、柑奈が答える。「うちの施設の子達は苦労することに慣れていますから。紗枝先生、康平に道を与えてくださって、本当にありがとうございます」紗枝は笑って首を振った。「これもご縁ですので。もしこの子が一人前になれなくても、ここで働いて自分の力で食べていくくらいはできるようになりますから」凛は真剣な眼差しで言った。「紗枝先生、また数日後、正式に挨拶に来ますね」紗枝は微笑んだ。今さらそんな堅苦しいことはいらないと思ったが、凛の心遣いはやはり嬉しかった。ちょうどその時、千石鍼灸院の従業員が入ってきて告げた。「千石先生、外にお客様がお見えです」千石鍼灸院で、「千石先生」というのは紗枝を指した。現代では、結婚してからも職場では旧姓を名乗る女性も多いが、紗枝が嫁いできた頃には、そのような習慣が無かったため、「千石先生」と呼ばれている。また、策や霞、裕二も皆医者だったが、紗枝が「千石先生」と呼ばれるのは、周囲に浸透しているため、今更変える必要もなく、彼女は皆にそう呼ばせていた。策は紗枝を支えながら外へ出た。そこにいたのは、茂と剛。策は思わず立ち止まる。しかし、茂は策のことを知らないため、彼は年老いてなお黒髪を保つ紗枝に視線を向け、丁重に声をかけた。「こんにちは」紗枝は二人を見つめた。「どちら様でしょうか?」茂は軽く会釈する。「神谷茂と申します。最近どうも眠りが浅いため、一度診ていただこうと思いまして」ちょうど手が空いていた紗枝は、診察台の方へ歩き、腰を下ろした。「では、こちらへ」茂も腰掛ける。剛は辺りをきょろきょろと見回したが、凛の姿は見当たらない。策は神谷一族の妙な雰囲気に気づき、裏庭へと回った。剛がその背中を目で追う。
「凛さん、何を見ていらっしゃるんですか?」「今、あっちから誰かに見られていた気がします」「え?」と理恵がそちらを見たが、人影はなかった。「もうエレベーターに乗ったみたいです」と凛は言った。「エレベーターって、あっちの?」理恵が指差すと、凛は頷いた。それを見た理恵は、緊張した面持ちでゴクリと喉を鳴らした。あそこは社長専用のエレベーターなのだ。理恵のオフィスのドアの前に来ると、凛はドアプレートに、「人事部ヴァイスプレジデント」と書かれているのを目にした。昇進したんだ。凛はにっこり笑って言った。「中村さん、御昇進おめでとうございます」「ありがとうございます」
「それで?彼に、私と離婚するように言ったの?」凛の問い返しは、柚葉の痛いところを正確に突いていた。この2週間、柚葉は何度もそれとなく話を振っていた。でも、智也は離婚するそぶりを見せない。それどころか、今まで通り、いえ、今まで以上に優しくしてくる。まるで自分が不倫相手みたいじゃない。愛されていない方が、邪魔者。よく言ったものだ。もともとは、凛の方が、自分と智也の間に割り込んできたのだ。大学の頃、智也はあんなに自分を愛してくれていた。それは誰の目にも明らかだったのに。それが、留学のことで喧嘩したのがきっかけで、智也がどこの馬の骨とも分からないような女と結婚するなんて、思って
「先生、どうしてか聞かないんですか?」凛は涙を拭うと、杏をソファに座らせ、お水を取りに行った。杏が言った。「智也から聞いたわ。子供のことで喧嘩して、昨夜は帰ってこなかったって。彼はまだ子供を欲しがらないの?」凛は首を振った。「今回は、私が欲しくないんです。彼は私に仕事を辞めて妊活に専念して、家で専業主婦をしろって言うんです」「私より考えが古いわね!」杏は腹が立って仕方がなかった。「あの男は出世して偉くなったから、あなたを見下してるの?よくもまあそんな態度がとれるわね。プロジェクトが発表されたら、どれだけの人があなたに会いたがると思ってるの。私の夫が手塩にかけた愛弟子を、使用
智也は、凛が綺麗でスタイルも良いことを知っていた。たまにじゃれあうだけでも、抑えがきかなくなるほどだった。しかし凛と肌を重ねようとすると、心の底で初恋の人を裏切っているような罪悪感が芽生える。だから、この何年もずっと我慢してきた。でも……凛は法律上の妻だ。それに、今夜の彼女はあまりにも魅力的すぎた。凛は、智也に見つめられていることに気づいていた。だけど、初恋の人としか子供を作りたくない男が、自分に欲情するはずがないことも分かっていた。彼女は平然と智也の前を行ったり来たりして、ドライヤーを手に取った。智也は突っ立ったまま、目で凛の動きを追っていた。凛は智也に背を向ける







