凛がいつまで経っても腕を組もうとしないので、海斗は「ん?」と一声かけた。凛は手を伸ばし、手のひらを彼の腕にそっと添える。岩のように硬い筋肉。どうやら鍛えているみたいだ。「か、海斗。行こう」「ああ」足の長い海斗は歩幅が大きいため、凛は小走りにならないとついていけなかった。そんな凛の様子に気づいた海斗は、歩調を緩めると、静かに言った。「凛、どうやって自分自身の要求を伝えるか、知ってるか?」凛は怪訝な顔で彼を見上げた。なぜこんなことを急に聞いてきたのだろう?それでも、彼女は答えた。「知ってるよ」「なら、俺をゆっくり歩かせればいいだろ?」海斗の視線と口調は相変わらず冷たく、威圧的だったが、不思議と凛に恐怖心はなかった。むしろ、何かを教えてくれているように感じた。凛の瞳に穏やかな色が浮かぶ。「海斗、もう少しゆっくり歩いて」「口がついているんだ。ちゃんと使え」海斗はそう言いながら、歩く速度を落とした。海斗が歩調を緩めてくれたことで、凛は小走りをする必要がなくなった。腕を組んだ二人が竹内家の本邸に現れると、瑶子と日和は意味ありげに視線を交わす。忙しそうに仕事をする使用人たちも、その視線は凛と海斗に集中していた。食器を準備している使用人が視線を向けたと思えば、次はテーブルを拭いている使用人が彼ら二人を見つめる。しかし、じろじろ見たり、見つめすぎたりしては駄目。なぜなら、奥様や日和様から、凛様に不快な思いをさせてはいけない、と言われているから。もし凛様に何か失礼があってしまっては、海斗様が一生独身のままかもしれないのだ。そんな中、ソファーに座った隆だけが冷静だった。そして、「来たか」と一言声をかける。「お邪魔します」と、凛も丁寧に挨拶をした。隆が立ち上がり、凛に言った。「今日はよく来てくれたね」「お招きいただき、ありがとうございます」「いや、礼を言わなければいけないのは、こっちだよ。こんなやつを引き取ってくれて、本当にありがとう。もう返さなくていいからな」そんな父親を海斗は黙ってじっと見つめる。瑶子も何も言わない。しかし、日和だけは大爆笑だった。凛はぎゅっと唇を引き結び、ちらりと隣の海斗を盗み見た。なぜだか分からないが、少し笑えてくる。「笑いたければ笑えばいい。好き
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