門をくぐった瞬間、ふわりと甘い香りがした。「バラの匂い……」思わず立ち止まる。外から見たときよりも、中はずっと広かった。左右に伸びる小道の脇には、たくさんのバラが植えられている。けれど、やっぱり手入れはされていない。伸びた枝同士が絡み合っていたり、花が重たそうに下を向いていたり。足元には雑草も生い茂っている。それでも、ところどころに咲く花は驚くほど鮮やかだった。「こんなにたくさんあるんだ……」赤。白。淡いピンク。黄色。よく見ると、花の大きさも形も少しずつ違う。「ずいぶん種類がありますね」華弥子さんも興味深そうに辺りを見回している。少し進んだところでしゃがみ込み、枝を確かめ始めた。「かなり古い株もありそうです」「古い?」「ええ。長く大切に育てられていた庭園なんだと思いますよ」私は改めて周囲を見渡した。今はこんなに荒れているけれど、昔はどんな場所だったんだろう。たくさんのバラが咲いて。誰かがここを歩いて。ベンチに座って花を眺めたりしたのだろうか。「全部、残せますか?」気づけば、そんなことを尋ねていた。華弥子さんが私を振り返る。「バラを?」「はい。せっかく今までここで育ってきたのに、私の庭にするからって全部なくしちゃうのは……なんだか、かわいそうで」華弥子さんは少し驚いたように目を瞬いた。それから、嬉しそうに笑った。「もちろんです。状態を確認しないと断言はできませんけど、残せるものはできるだけ残しましょう」「よかった」ほっとしていると、隣から小さな笑い声が聞こえた。俊くんだ。「何?」「い
Read more