All Chapters of 再会した幼馴染は狂犬極道若頭になっていた上、なぜか私を飼い主と呼んで逃がさないのですが?~契約結婚から始まる極上溺愛~: Chapter 61 - Chapter 70

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何も知らない

門をくぐった瞬間、ふわりと甘い香りがした。「バラの匂い……」思わず立ち止まる。外から見たときよりも、中はずっと広かった。左右に伸びる小道の脇には、たくさんのバラが植えられている。けれど、やっぱり手入れはされていない。伸びた枝同士が絡み合っていたり、花が重たそうに下を向いていたり。足元には雑草も生い茂っている。それでも、ところどころに咲く花は驚くほど鮮やかだった。「こんなにたくさんあるんだ……」赤。白。淡いピンク。黄色。よく見ると、花の大きさも形も少しずつ違う。「ずいぶん種類がありますね」華弥子さんも興味深そうに辺りを見回している。少し進んだところでしゃがみ込み、枝を確かめ始めた。「かなり古い株もありそうです」「古い?」「ええ。長く大切に育てられていた庭園なんだと思いますよ」私は改めて周囲を見渡した。今はこんなに荒れているけれど、昔はどんな場所だったんだろう。たくさんのバラが咲いて。誰かがここを歩いて。ベンチに座って花を眺めたりしたのだろうか。「全部、残せますか?」気づけば、そんなことを尋ねていた。華弥子さんが私を振り返る。「バラを?」「はい。せっかく今までここで育ってきたのに、私の庭にするからって全部なくしちゃうのは……なんだか、かわいそうで」華弥子さんは少し驚いたように目を瞬いた。それから、嬉しそうに笑った。「もちろんです。状態を確認しないと断言はできませんけど、残せるものはできるだけ残しましょう」「よかった」ほっとしていると、隣から小さな笑い声が聞こえた。俊くんだ。「何?」「い
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来年も、再来年も

「俊くん」呼び止めようとして、やめた。今ここで聞いても、きっと答えてくれない。そんな気がしたからだ。「幸子さん?」華弥子さんに呼ばれて、私は慌てて振り返った。「あ、はい」「もう少し奥も見てみましょうか。日当たりや風の通り方も確認しておきたいので」「お願いします」先を歩いていた俊くんも、私たちを待つように足を止める。私はその隣まで小走りで追いついた。「転ぶぞ」「転ばないよ」「足元、結構ひどいから気をつけろ」言われて下を見ると、確かに伸びた草に隠れて小さな段差がある。「ほんとだ」「ほら」当たり前のように手を差し出された。ほんの少し迷って、その手を握る。「ありがとう」「ん」俊くんはそれ以上何も言わず、私の歩調に合わせてゆっくり歩き始めた。さっき一瞬だけ見えた寂しそうな表情は、もうどこにもない。でも、握った手は離さなかった。庭園の奥へ進むにつれて、バラはさらに自由に枝を伸ばしていた。アーチだったらしい場所は、つるにすっかり覆われている。「これ、すごいですね」私は思わず見上げた。「ちゃんと手を入れれば、かなり綺麗になりますよ」華弥子さんが枝の状態を確かめながら答える。「ここはバラのアーチとして残しましょうか」「残したいです」「では、そうしましょう」華弥子さんがスケッチブックに書き込んでいく。その様子を眺めているうちに、少しずつ実感が湧いてきた。ここが本当に、私の庭になる。今あるバラを残して。チューリップを植えて。木陰にはベンチを置いて。何年もかけて、少しずつ変わっていく。「楽しみだなあ……」「そんな
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約束

庭園を一通り見て回る頃には、ずいぶん時間が経っていた。「今日はこれくらいにしましょうか」華弥子さんがスケッチブックを閉じる。「詳しい状態は改めて調べます。バラも一本ずつ確認して、残せるものと手を入れた方がいいものを整理しますね」「お願いします」「チューリップを植える場所も、次回までにいくつか候補を考えておきます」「楽しみです」来たときよりも、この庭園がずっと身近なものに感じられる。門へ戻ろうとしたところで、私はふと足を止めた。「俊くん」「ん?」「ちょっとだけ待ってて」園路の脇に咲いていた一輪のバラが目に入った。淡い黄色の、小さなバラ。他の枝に押されるようにして咲いている。私はその前にしゃがみ込んだ。「これも、残せるかな」「どれです?」華弥子さんも隣にしゃがむ。枝や葉を確かめたあと、にっこり笑った。「大丈夫だと思いますよ」「よかった」思わず笑う。「これ、好きです」「では、この株は幸子さんのお気に入り第一号ですね」「お気に入り第一号……」なんだか嬉しい響きだ。「名前、分かりますか?」「品種ですか? 少し待ってくださいね」華弥子さんが葉や花を確認している間、俊くんも私の後ろから覗き込んだ。「黄色が好きだったっけ?」「特別好きってわけじゃないけど……なんとなく、この子が気になったの」「ふうん」俊くんは少しだけ目を細めた。「じゃあ、絶対残してもらわねえとな」「絶対って」思わず笑ってしまう。「もし病気だったりしたら仕方ないでしょ?」「治せないんですか?」真顔で華弥子さんに聞いている。「俊く
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想いでの花

庭園を出る頃には、空が少しずつ夕方の色に変わり始めていた。華弥子さんを送り届けたあと、車の中には私と俊くんだけになる。窓の外を流れていく景色を眺めながら、私は今日見た庭園のことを思い返していた。絡み合ったバラ。大きな木の下にできた木陰。いつか置かれるベンチ。そして、春になったら咲くチューリップ。まだ何も始まっていないのに、考えるだけでわくわくする。「ねえ、俊くん」「ん?」「今日はありがとう」「何が?」「庭園。一緒に来てくれて」俊くんは前を向いたまま、小さく笑った。「俺が買ったんだから、そりゃ行くだろ」「それだけじゃなくて」「ん?」「俊くんが一緒だったから、楽しかった」そう言うと、俊くんは一瞬だけ黙った。「……そういうこと急に言うなよ」「どうして?」「運転中だから」意味が分からなくて首を傾げる。信号が赤になり、車が止まった。そのとき横を向いた俊くんの耳が、ほんの少し赤いことに気づいた。「あ」「見るな」「俊くん、照れてる?」「照れてねえ」「照れてる」「うるせえな」俊くんは困ったように笑った。その顔を見ていると、やっぱり思う。こうして私の隣にいる俊くんは、小学生の頃に知っていた俊くんとそんなに変わらない。なのに。「ねえ」「今度はなんだよ」「絵、本当に描いてくれる?」俊くんの表情が少しだけ変わった。「庭園の絵」「ああ……」「約束したでしょ?」「いつか、な」「忘れないからね」「分かったよ」俊くんは苦笑する。
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アルバムのあいだに

翌日。俊くんの車が停まったのは、静かな住宅街にあるマンションの前だった。「ここ?」「ああ」窓から建物を見上げる。特別豪華というわけではないけれど、綺麗で落ち着いた雰囲気のマンションだった。「お母さん、本当にここに住んでるんだ……」「何度も住所教えただろ」「聞くのと見るのは違うよ」俊くんが笑う。「まあ、気に入ってるみたいだぞ」「俊くん、お母さんと連絡取ってるの?」「何か困ったことがないかくらいは聞いてる」そんなことまでしてくれていたんだ。「ありがとう」「別に」俊くんは照れたように視線を逸らした。車を降りて、二人でエントランスへ向かう。「俊くんも来る?」「いや」俊くんは首を振った。「親子で話したいこともあるだろ。俺はその辺で時間潰してる」「でも……」「帰るとき連絡しろ。迎えに来るから」そう言って、私の頭をぽんと撫でる。「分かった」「じゃあ、あとでな」「うん」私は俊くんと別れ、教えてもらった部屋へ向かった。インターホンを押すと、すぐに聞き慣れた声が返ってくる。『はい』「お母さん、私」『幸子?』すぐに玄関の扉が開いた。「いらっしゃい!」「お母さん」久しぶりに見る母の顔は、以前よりずっと明るく見えた。「元気そうだね」「ええ。おかげさまで」母は笑って私を部屋へ招き入れる。「本当にいいところを用意してもらっちゃって。静かだし、買い物にも困らないし」「よかった」部屋の中も綺麗に片付いていた。小さな観葉植物や、昔から使っている置き時計。
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子供時代の思い出

「他にもあるかしら」お母さんが別のアルバムを手に取った。「チューリップの写真?」「ええ。せっかく庭園を作るなら、昔どんな花を植えていたか分かった方がいいでしょう?」「確かに」さっきの紙はテーブルの端へ置いたまま、二冊目のアルバムを開く。そこには、小学生になってからの写真がたくさん収められていた。入学式。遠足。運動会。一枚ずつ眺めていると、懐かしい顔を見つけた。「あ、俊くん」校庭で撮られた写真の端に、小学生の俊くんが写っている。今よりずっと幼い。当たり前なのに、なんだかおかしくて笑ってしまった。「懐かしいわねえ」お母さんも写真を覗き込む。「俊くん、昔から絵が好きだったわね」「うん」それはよく覚えている。休み時間になると、俊くんはよく絵を描いていた。ノートの隅だったり、余った紙だったり。私が横から覗き込んで、何を描いているのか聞くと、いつも少し恥ずかしそうに見せてくれた。「画家になりたいって言ってたよね」「そうそう」お母さんが懐かしそうに頷く。「本当に上手だったもの」「うん」だから昨日、庭園で俊くんが景色を見る目に驚いたのだ。昔と変わっていなかった。木の枝の向こうに空を見つけて、一枚の絵みたいだと言った俊くん。あの頃からずっと、俊くんには私とは少し違う景色が見えていたのだろう。ページをめくる。何枚か先に、教室で撮られた写真があった。「あ……これ」壁には、子供たちが描いた絵が並んでいる。その前に、私と俊くんが立っていた。俊くんは一枚の画用紙を持っている。花の絵だった。「覚えてる」思わず笑みがこぼれた。「俊くん、これで賞を取ったんだよ」「あら、よく覚えてるじゃない」「だって、すごく喜んでたもん」いつも少しおとなしかった俊くんが、その日は珍しく何度も賞状を見ていた。将来は画家になる。そう言ったときの顔まで、なんとなく覚えている。なのに――。再会した俊くんは、極道になっていた。『描いてる場合じゃなくなったんだよ』昨日の言葉が蘇る。何があったんだろう。俊くんが大好きだったものを手放さなければならないほどの、何かが。「幸子?」「え?」「どうしたの? 急に黙って」「ううん。なんでもない」私はもう一度写真を見る。「この写真、借りてもいい?」「いいけど、どうするの?」
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知らない時間

アルバムを片づけ終えた頃、インターホンが鳴った。モニターを見ると、俊くんが立っている。「もう来たの?」思ったよりずっと早い。玄関を開けると、俊くんは私を見るなり言った。「遅くなかったか?」「全然。お母さんと写真見てたから」「写真?」「昔のアルバム」そう答えると、俊くんがわずかに嫌そうな顔をした。「……俺、写ってた?」「いっぱいじゃないけど、いたよ」「見るんじゃなかったな」「どうして?」「ガキの頃の写真なんか見られたくねえだろ」「私、実物も見てたじゃない」「それとこれとは違う」おかしくなって笑っていると、奥からお母さんが出てきた。「俊くん、せっかくだから上がっていかない?」「いや、今日は――」「お母さん、俊くんに見せたい写真があるの」「おい」俊くんが止めるより早く、私はさっき借りた写真を持ってきた。「ほら」「……うわ」俊くんが露骨に顔をしかめる。写真の中には、小学生の私と俊くん。そして、賞を取った花の絵。「懐かしいでしょ?」「よく残ってたな、こんなの」「俊くん、これで賞取ったんだよね」「……よく覚えてんな」「覚えてるよ」私が答えると、俊くんが写真から私へ視線を移した。「私、俊くんが画家になると思ってたもん」ほんの一瞬。俊くんの表情が止まった。「あの頃、ずっと言ってたでしょ。大きくなったら画家になるって」「……言ってたな」声が少しだけ低くなる。しまった。また、触れない方がいいところに触れてしまったのかもしれない
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新しい日常

マンションを出ると、外はもう薄暗くなっていた。俊くんの車に乗り込み、シートベルトを締める。「お母さん、元気そうでよかった」「ああ」俊くんがエンジンをかける。「最初は心配だったんだよ。急に引っ越すことになったし」「何かあったら連絡するように言ってある」「それも聞いた。俊くん、時々連絡してくれてるんだって?」「ああ」「私、知らなかった」「わざわざ言うことでもねえだろ」俊くんにとっては、本当にそれだけらしい。でも、私にとっては違う。お母さんが安心して暮らせる場所を用意してくれたことも、その後まで気にかけてくれていることも。「ありがとう」「またそれか」「だって、ありがとうって思ったから」「……分かったよ」俊くんが少し困ったように笑った。車がゆっくりと住宅街を抜けていく。「そういえば」「ん?」「庭園の話、お母さんも喜んでたよ」「そうか」「チューリップ、昔は毎年植えてたんだって」「毎年?」「うん。私、そこまで覚えてなかったけど」父と一緒に球根を植えたことは覚えている。春になって花が咲いたことも。けれど、それが毎年のことだったのは忘れていた。「写真もあったし、今度、山崎さんにも見せてみようかな」「いいんじゃねえか」「同じ色のチューリップ、探せるかな」「写真があるなら分かるだろ」「そっか」来年の春。庭園に、昔と同じ花が咲く。そう考えるだけで嬉しくなる。「バラも残したいし、チューリップも植えたいし、本を読むところも作りたいし……」「増えてきたな」「だって、考えてたらやりたいことがいっぱい出てきた
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もう一枚の紙

――片づけていたら、同じようなものがもう一枚出てきたの。お母さんから届いたメッセージを見つめる。同じようなもの。今日、アルバムから出てきた紙のことだろう。――どこにあったの?そう返信すると、すぐに返事が来た。――別のアルバムの間。お父さん、仕事の紙をしおり代わりにしてたのかしらね。思わず笑ってしまった。お父さんなら、やりそうな気もする。――今度行ったとき見るね。それだけ返して、スマートフォンを置いた。「どうした?」声に振り返る。俊くんが部屋に入ってきたところだった。「お母さん。今日見てたアルバムから、またお父さんの仕事の紙みたいなのが出てきたんだって」「仕事の紙?」「うん」私は今日のことを思い出しながら説明した。「チューリップの写真の後ろに、数字とか会社の名前が書いてある紙が挟まってたの。それと似たようなのが、もう一枚あったみたい」「ふうん」俊くんはそれ以上、特に気にした様子もなかった。当然だ。父は会社員だったのだから、仕事関係の紙が残っていてもおかしくない。「お父さん、アルバムをメモ帳入れにしてたのかな」「それは嫌だな」「なんで?」「大事な紙だったらどうすんだよ」「確かに」二人で笑う。「今度、お母さんのところに行ったとき見てみる」「ああ」俊くんはそう答えると、テーブルの上に小さな紙袋を置いた。「それより、これ」「なに?」「お前に」「また何か買ったの?」「俺じゃねえよ」中を覗く。入っていたのは、小さな箱だった。開けてみると、焼き菓子が綺麗に並んでいる。「今日、事務所に来た奴が持ってきた。お前にって」「私に?」
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繰り返す名前

拡大した画面には、一人の名前があった。――黒崎隆一。「くろさき……りゅういち?」声に出してみても、まったく聞き覚えがない。一枚目にも、二枚目にも同じ名前。会社名は違うのに、どうして人の名前だけ同じなんだろう。でも、それだけだった。お父さんの仕事関係の人なら、複数の会社と取引していたって不思議じゃない。私はお母さんに『ありがとう。今度行ったとき見せてね』と返し、スマートフォンを置いた。今日は華弥子さんが来る。そのことを思い出した途端、頭の中は庭園のことでいっぱいになった。◇「思ったより状態は悪くありませんでした」事務所で華弥子さんが広げたのは、庭園の簡単な見取り図だった。バラの位置や大きな木、傷んでいる場所などが細かく書き込まれている。「本当ですか?」「ええ。長い間きちんと手入れされていなかったのは確かですが、植物そのものは強いですから」華弥子さんが、いくつかの印を指差した。「特に古いバラは、かなり残せそうです」「よかった……」あの淡い黄色のバラも残るだろうか。聞いてみると、華弥子さんは笑顔で頷いた。「もちろん。あれは最優先で手を入れます」「ありがとうございます」「俊さんからも念を押されましたから」「俊くんが?」「『あれは絶対残してくれ』って」思わず俊くんを見る。少し離れたところで書類を読んでいた俊くんが顔を上げた。「何だよ」「黄色いバラ」「ああ」「山崎さんに頼んでくれたんだね」「お前が気に入ってただろ」それだけ言って、また書類へ視線を戻してしまう。でも、嬉しい。私が何気なく言ったことを、ちゃんと覚えていてくれた。「それから、
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