「俊!」 駆け寄ってきた女の人に、俊くんは露骨に嫌そうな顔をした。「今日はどうしたの?」「ちょっとおやじに用事がありましてね」「パパに?」 ことん、と首をかしげる仕草が可愛らしい。 こんな美人に嫌な顔をするなんて、俊くんってばどうしたんだろう。 今だって普通の会話しかしていないように見えるのに。「新しいシノギの話? 昨日、下のやつらをボコボコにしたって聞いたけど」「まあ、ちょっとオイタが過ぎましたからね」「勝手に色々やってたみたいだものね? でも悪気があったわけじゃないんでしょう」「だとしても、まずは俺に断りを入れてもらわないと。メンツってもんがありますから」「そういう古い話、好きよね!」 女の人は明るく笑った。 なんだか、その笑顔を見ていると、じっとりとした感情が湧いてくる。 別に、何か悪いことを言っているわけでも……、ああでも、シノギってことは、何か悪いことなのかも? そこまで考えて、彼女が話しているのが、昨日のことだということに気がついた。 気がつくと、思わず体が震えてしまう。「大丈夫か?」 途端に俊くんが声をかけてきた。「う、うん」 うなずくけれど、すぐに震えが止まるわけもない。 ワンボックスカーに押し込まれて、雑居ビルに連れていかれて……。 俊くんが助けに来てくれなかったら、私、どうなっていたんだろう。 あれがやくざのシノギってことは、ああいうことがたくさんあるってこと?「その子は?」 色々な思いを飲み込んでいる私を、女の子がのぞき込んできた。 ――怖い。 とっさに、私は後ずさった。 笑顔なんだけど、なんだか、どうしようもなく怖かった。 底知れない、っていうのかな。 俊くんに向けているのと同じ笑顔なのに、明らかにニュアンスが違う顔をしている。「ねえ俊、紹介してよ」 可愛らしくおねだりしている調子なのに、可愛いおねだりというよりは、命令みたいに聞こえた。「俺のオンナです」 俊くんは短く答える。 それを聞いた瞬間、女の子の顔が歪んだのが分かった。 般若みたいな顔になった。 でもそれはほんの一瞬のことで、また元通りの笑顔に戻る。「俊の? どこかのお店の子?」「違いますよ」「じゃあ素人ってこと?」「ええ」「どうして、急に素人を連れてきたの? 俊には私がいるじゃない」 女の人は
最終更新日 : 2026-03-27 続きを読む