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作者: 北川とも
last update 公開日: 2026-05-25 07:19:32

「……切ったのか。あのうっとうしい髪に、慣れてきたところだったのに」

「ひどいなあ」

 そう言って裕貴はちらりと笑うが、どこかぎこちない。啓太郎の腕を取ってイスに座るよう促すと、ダッフルコートを片付けてからキッチンに向かった。

「ちょっと待ってね。準備するから」

 食器を手に戻ってきた裕貴が、オードブルのいくつかの料理を皿に取り分けてレンジで温め始め、その傍らでスープも鍋に入れて火にかける。キッチンでよく動くほっそりとした後ろ姿を眺めながら、沈黙で間がもたなくなった啓太郎は再び口を開く。

「メシ、みんなで食ったのか?」

「みんなと言っても、おれと父さんと……兄さんの三人だよ」

 まっさきに啓太郎が疑問に思ったのは、博人は千沙子を伴ってこなかったのかということだった。ただ、裕貴が千沙子を嫌っていることを思い出し、遠慮してもらったのだと勝手に解釈した。イブは肉親と過ごして、クリスマス当日を夫婦で過ごすのだと考えれば、不思議ではない。

「そういえば、親父さんが帰ってくるって、博人さんがこの間言ってたな」

「あの人はいつも突然なんだ。事前に連絡してくるなんて、珍しいんだよ。そして息子二
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  • SWEET×SWEET   -132-

     まずは自分の泡をシャワーで洗い流してから、啓太郎は丁寧に裕貴の髪に湯を当てていく。指で髪を濯いでやるたびに、くすぐったそうに裕貴は首をすくめ、口元を綻ばせた。「啓太郎って、実は子持ちじゃない? 妙に洗い方が上手いよ」 「いるわけないだろ」 「だったら、彼女と一緒にお風呂入って、よく洗ってあげてたとか」 「こういう酔狂につき合ってくれる恋人はいなかった」 「ほんと?」 パッと目を開いた裕貴の眼差しが強烈で、湯当たりしたわけでもないのに、啓太郎は軽いめまいを覚えていた。 髪の泡を流し、体に残っている泡もてのひらを使って洗ってやる。素直にされるがままになっている裕貴を眺めながら、啓太郎は思わずこんな質問をしていた。「――……お前は妙に、王子様っぷりが板についてるよな。洗われ慣れてるっていうか」 裕貴は一瞬、無表情となったが、次の瞬間には屈託ない笑顔を見せた。「おれ、心臓が悪かった頃は、兄さんと一緒に風呂に入ってたんだ。一人で平気だったんだけど、風呂で発作を起こしたらどうする、って言われたら逆らえなくてさ」 「お前の王子様っぷりを作ったのは、博人さんということか。まあ、なんとなく予測はついてたけどな」 「甘やかされても、こんなに素直ないい子に育つっていう、見本みたいだろ?」 啓太郎がわざと返事をしないでいると、裕貴にシャワーヘッドを奪い取られ、顔に湯をかけられる。奪い返すと、わざとらしく声を上げた裕貴はバスタブに勢いよく逃げ込み、溜まった湯が一気に溢れ出した。 シャワーの湯を止め、啓太郎もあとに続く。バスタブは、一人で入る分にはそれなりに余裕があるのだが、さすがに成人した男二人が入るには少々窮屈だ。こうなると、座り方を工夫するしかない。  湯に浸かった啓太郎は、すかさず裕貴の体を片腕に捉えて引き寄せる。大きく湯が揺れ、またバスタブから溢れた。「――温泉に行って、こんなふうに入ってる人なんていないよ」 背後からしっかり裕貴を抱き締めると、腕の中で笑い声を洩らしながら裕貴が言う。それでも嫌がる素振りは見せず、素直に啓太郎の胸にもたれかかって体を預けてくれた。  裕貴の濡れた髪を撫でてから、啓太郎は唇を押し当てる。「結局お前、大浴場には入らなかったのか? 夜中とかだと、そう人も入ってないだろ」 「……夜中、一度だけ入ったよ」 「一人で

  • SWEET×SWEET   -131-

    「手抜きだ、不調だと言っても、美味いぞ、このお好み焼き」 事実、お好み焼きは美味いのだが、気をつかって啓太郎が言うと、裕貴は実に憎たらしい返答をした。「啓太郎って、なんでも美味そうに食うから、楽でいいよ。食わせるほうとしては」 「……可愛くない」 ぼそりと啓太郎が洩らすと、ふふ、と声を洩らして裕貴は笑う。「冗談だよ。おれがいままでメシを作って食わせたのは、父さんと兄さんと、啓太郎だけだけど、啓太郎が一番美味そうに食ってくれる」 そんなふうに言われると、急に食べにくくなる。が、嬉しそうに見つめてくる裕貴の眼差しに応えないわけにはいかない。  啓太郎はガツガツとお好み焼きを掻き込み、マリネにも手を伸ばす。いつの間にか置かれていたお茶を飲み干し終えたところで、裕貴が土産の日本酒の瓶を取り上げた。「飲む?」 「お前は日本酒飲めるのか」 「少しだけなら……」 「なら、先に風呂だ」 もらった入浴剤の一つを取り上げて啓太郎が言うと、意味をわかりかねたように裕貴は首を傾げる。「えっと……、おれの部屋の風呂に入るわけ?」 「俺の部屋の風呂でもいいぞ。どうせ広さは一緒だし、手間も一緒だ。俺の部屋に来るなら、お前、パジャマも持ってこいよ」 ここでやっと、裕貴は驚いたように目を丸くした。「もしかして、おれも一緒に入るわけっ?」 「俺に温泉気分を味わってほしいんだろ」 「一人でいいじゃん」 「温泉は、誰かと一緒に入ると楽しいもんだぞ」 激しく拒絶するかと思った裕貴だが、理由にもなっていない啓太郎の言葉を聞くと、数回まばたきを繰り返してから、立ち上がって食器を片付け始める。「裕貴?」 「おれが片付けている間に、啓太郎は風呂に湯を張って、自分の部屋から着替え持ってきなよ。あっ、おれ、お湯は温めね」 はい、と反射的に返事をした啓太郎は、キッチンに立って洗い物を始めた裕貴の後ろ姿をちらりと見て、唇を綻ばせる。 啓太郎はすぐに裕貴の部屋のバスルームに行くと、バスタブに湯を溜め始める。その間に自分の部屋に戻ると、スーツからスウェットの上下に着替え、また裕貴の部屋へと戻る。  すでに洗い物を終えたらしい裕貴は、バスタブの縁に腕をかけ、湯を掻き混ぜているところだった。すでに入浴剤を入れたらしく、湯は白く濁っている。「あー、さすがに温泉らしい匂いがするな」

  • SWEET×SWEET   -130-

    「とにかく自分勝手。気まぐれにおれを猫可愛がりしていたと思ったら、次の瞬間にはあっという間に家を飛び出して、何か月も帰ってこないなんてザラだったんだ。その間、こちらから連絡取るのに苦労してたんだから」 「でも、お前を猫可愛がりはしてたんだな」 「……一緒にいるときは、本当に、おれにべったり。だったら、普段から可愛がれって言うんだ」 博人という過保護な兄までいるのだから、旅行中の裕貴はさぞかし大変だっただろうと思いつつも、父親と兄に可愛がられる裕貴の姿を想像して、つい啓太郎はニヤニヤしてしまう。途端に、何かを感じたように裕貴が振り返ったので、慌てて表情を取り繕う。「そうだ、啓太郎、一応、買ってきたよ」 「何をだ」 「お・み・や・げ」 妙な節をつけて言った裕貴が、テーブルの上を指さす。確かにそこには、紙袋が置いてあった。「もらっていいのか?」 「大したものじゃないけどね」 「いやいや、買ってきてくれたというお前の気持ちが嬉しい――」 「選んだの、兄さんだよ」 紙袋を覗こうとした啓太郎は動きを止めるが、それを見て裕貴は満足げに笑う。「ウソ」 「……お前なあ……」 紙袋に入っていたのは、日本酒に温泉饅頭、それに何かの包みだ。包装紙が白いため、何が入っているのか見当もつかない。「開けていいか?」 こちらに背を向けたまま裕貴が頷いたので、さっそく啓太郎は包装紙を開ける。出てきたのは、小さな包みの詰め合わせだった。「なあ、これ――」 「泊まった旅館がオリジナルで作った入浴剤だって。宿泊客にはサービスでくれるんだけど、土産として旅館の中のお店でも売ってたから、買ってきた。啓太郎に、せめて温泉気分だけでも味わわせてあげようかと思って」 「……涙が出そうな気づかいだな」 裕貴がメシを作っている間、することがない啓太郎は、隣の部屋のテレビをつけて漫然と眺める。テレビの中の光景は、すでに新年の騒ぎを忘れたように平常に戻っている。改めて、正月休みは終わったのだと実感できた。 少しの間ぼんやりしていた啓太郎だが、ふと、さきほどまで聞こえていたキッチンからの物音が途絶えたことに気づく。視線を向けると、こちらに背を向けている裕貴が、菜箸を手にしたまま立ち尽くしていた。  何をしているのだろうかと思った啓太郎は立ち上がると、そっと裕貴の背後へと歩み寄る

  • SWEET×SWEET   -129-

    ****「――ピンチだったな、俺……」 マンションのエレベーターの中で、啓太郎はぐったりしながら洩らす。冗談ではなく、本当にピンチだった。 裕貴が旅行先から戻ってくる前に、わずかな正月休みを終えて仕事に戻ったのだが、いきなりハードだった。  単体試験のあとの結合試験に入ったのはいいが、あちこちで悲鳴が上がる惨状で、そこから修正を加え、クライアントプログラムを起動させたのだ。そこに至るまで、およそ三日間の時間を必要とした。  もちろん啓太郎は、いまさら珍しいことでもないが、ずっと会社に泊まり込んでいた。おかげで、正月の浮かれ気分など、すでに啓太郎には残っていない。 仕事の合間、裕貴が旅行から戻ってきたことは知っていた。裕貴から、戻ってきたとメッセージが来たのだ。できれば電話で声を聞きたかったが、仕事か、食うか、仮眠かという生活の中では、電話したところで満足な会話が成り立つとは思えず、結局、淡白な文字でのやり取りだけだった。 足を引きずるようにして通路を歩きながら、啓太郎はあることを思い出してふっと笑う。  裕貴が家族旅行に出かけるとき、自分が覚えた嫌な予感がいかにあてにならないものだったのか、いまさらながら実感したのだ。 裕貴は何事もなく無事に戻ってきたというのに――。 さっそく裕貴の部屋のインターホンを押すと、少し間を置いてからドアが開けられた。このとき、ドアの向こうから現れた裕貴の姿を見て、一瞬啓太郎は、わずかな違和感を覚えた。「おかえり」 そう言って裕貴に玄関に迎え入れられ、ドアを閉めて鍵をかけた啓太郎は、何より先に裕貴の顔を覗き込む。「何?」 裕貴が笑って首を傾げる。いつもと変わらない笑顔だと思うが、なぜかそこに、啓太郎は少しのぎこちなさを感じる。それが、違和感の正体だ。  もっとも、自分の直感があてにならないのは、啓太郎自身がよく知っている。「旅行、楽しめたか?」 啓太郎の問いかけに、裕貴は一度顔を伏せかけたが、すぐに意味ありげな流し目を寄越してきた。「……なんだよ、その目は」 「啓太郎が貧しい食生活を送りながら寂しがっているかと思ったら、とても楽しむ気になんてなれなかったよ」 「あー、そうですか」 裕貴に腕を引かれるまま部屋に上がると、さっそく啓太郎はアタッシェケースを置いてからコートを脱ぐ。すると裕貴の両

  • SWEET×SWEET   -128-

    『いいよ。最初から、大浴場に行くつもりなんてなかったし。部屋風呂でも、温泉は温泉だしね』 このまま電話を切るのが惜しくて、啓太郎は会話を続ける。「久しぶりに家族で過ごしてどうだ? 楽しいか?」 別に微笑ましくなるような答えを期待したわけではなかったが、裕貴の返答は素っ気なかった。『楽しいわけないだろ』 「そう、なのか……」 『普段親らしいことなんてしないから、ここぞとばかりに父親ぶるんだよ、父さん。おれのこと犬猫みたいに撫で回して、ほとんど小さな子供扱い。それに輪をかけて、兄さんもおれに甘いから――想像できるだろ?」 啓太郎はつい苦笑を洩らす。「お前も大変だな」 『何かと監視の目が厳しいから、こうして啓太郎に電話かけるのも一苦労だよ』 「どうせ二泊三日なんだから、その間ぐらい、俺のことを忘れてもいいぞ」 『そんなこと言って、実はもう寂しくなってるんじゃない?』 ドキリとした啓太郎は、咄嗟に言い返せなかった。一方の裕貴のほうも、啓太郎の反応に戸惑ったように、やや強引に話題を変えた。『……お土産買ってきてあげるよ。何がいい?』 「いいから気にするな」 『そんなこと言っても、日ごろお世話になっているわけだし』 啓太郎が短く噴き出すと、怒ったような口調で裕貴が言う。『何がおかしいんだよ』 「いや……、日ごろ世話になってるのは俺のほうだと思ったら、おかしくて」 『まあ、そうなんだけど――』 突然、不自然に裕貴が言葉を切ったので、啓太郎は眉をひそめる。「裕貴?」 『ごめんっ。父さんと兄さんが戻ってきたみたいだから、切るねっ』 ここで電話が一方的に切られ、啓太郎は少し呆然とする。スマホを置くと、大きくため息をついてテーブルに額を押し付けた。  裕貴に何事もなかったことにまず安堵して、旅行先で家族とそれなりに楽しんでいることに、わずかな嫉妬を覚える。そして一気に、寂しさが押し寄せてきた。  仕事中であれば、この寂しさは耐えられるのだ。なのに、こうして自分が自由な時間を持て余しているのに裕貴と会えないというのは、非常に堪える。「ハマってるなあ、俺……」 抱き締めた裕貴の感触を思い返しながら、啓太郎は洩らす。 初めて裕貴と接触したときは、まさか自分たちの関係がこうも濃密で甘いものになるとは、想像すらしていなかった。少し打ち解けた

  • SWEET×SWEET   -127-

    **** 自分が感じた『嫌な予感』が、頭から離れなかった。 せっかくの正月休みだというのに何もする気が起きず、コタツに入って横になったまま啓太郎は天井を見上げていた。  裕貴と別れたのは、ほんの数時間前だ。どこの温泉に出かけたのかは知らないが、もうすぐ日が暮れようとしているので、観光したにしても、そろそろ旅館かホテルに入る頃だろう。 もしかして事故にでも遭ったのではないか――。 普段、自分の直感など信じない啓太郎だが、裕貴が関わっているのかと思うと、最悪の事態ばかり想像してしまう。  つけっぱなしにしてあるテレビから、にぎやかな声が流れてきた。気を紛らわせるつもりでつけているのだが、かえって気が散る。 片手を伸ばしてテーブルの上に置いたリモコンを取ろうとしたとき、突然、スマホが鳴り始める。慌てて体を起こした啓太郎は、勢いよくスマホを取り上げた。表示を見ると、裕貴からだった。「裕貴かっ?」 必死の声で問いかけると、拍子抜けするような柔らかな笑い声が電話の向こうから聞こえてくる。『何、啓太郎、必死な声出して。あっ、おれがいなくなって寂しかったんだろ』 からかうような裕貴の言葉を聞き、一拍置いてから啓太郎は肩から力を抜いた。自分の心配が杞憂で済んだと確信できたのだ。  ほっとした次の瞬間には、笑みが洩れる。いくぶん抑え気味の声で裕貴に問いかけた。「宿泊先に着いたのか?」 『うん、とっくに。きれいな旅館だよ。父さんが知り合いに頼んで、無理やり取ってくれたところらしいけど。ご飯も美味しかった』 「……そりゃ、よかった」 気楽そうな裕貴の言葉を聞くと、この数時間の自分の心配はなんだったのだろうかと思えてくる。  俺の直感はあてにならないと、啓太郎は苦笑しながら髪に指を差し込む。「それで、お前の親父さんや、博人さんは?」 『二人とも、大浴場に行った』 「で、お前は?」 『嫌だよ。知らない人たちと一緒に風呂に入るなんて』 いかにも裕貴らしい意見で、妙に啓太郎は納得してしまう。引きこもりを旅行に連れ出したところで、過ごし方はあまり変わらないらしい。  しかし、裕貴がみんなと風呂に入らない事情は、そう単純ではなかった。『啓太郎、おれが引きこもりだから、大浴場に入れないと思っているかもしれないけど――それもあるけど』 「あるんじゃ

  • SWEET×SWEET   -24-

     街灯の明かりで浮かび上がる地上がやけに遠くに見える。五階といえば、やはりけっこうな高さなのだ。  いまさらながら、そんなことを実感した啓太郎はゴクリと喉を鳴らす。 フッと短く息を吐き出してから、手すりに両手をかけて力を込める。体を支えてバランスを取りながら、なんとか片足を手すりにかけることができる。  すかさず片手で手すりを、もう片方の手で仕切りを掴む。「……何こんなことで、命かけてるんだろうな、俺は……」 ぼやきつつも、もう片方の足も手すりにかけると、体がぐらつく。両手ですがりついた仕切りがガタッと大きな音を立てた。 手すりの上に立つだけなら、まだ楽だ。だが啓太郎の目的は、ベ

  • SWEET×SWEET   -21-

     行動を見透かされたことが恥ずかしかったわけではない。その行動に至るまでに、裕貴のことを考えてしまった事実に、後ろめたさを覚えてしまったのだ。 浅ましい欲情に、少なからず自分の存在も影響を与えていると裕貴が知ったらどんな顔をするか。そんなことを想像した啓太郎は、すかさずこう思った。 裕貴に知られたくない。 バカにされるとか、メシを食わせてもらえなくなるとか、そんな気持ちからではない。ただ、軽蔑されたくなった。「バカ、そんなんじゃない……」 「誤魔化さなくていいよ。いいじゃん、男同士なんだから、おれだって羽岡さんの切ない事情はわかってるよ」 裕貴がそんなことを言っても、まったく説得

  • SWEET×SWEET   -20-

    **** 珍しく休日出勤のない日曜日、昼前に起き出した啓太郎は部屋の掃除をしてから、特にやることもなくパソコンに向き合っていた。 これまでなら、面倒ながらも食料のまとめ買いに出かけるところだが、裕貴の部屋でメシを食うようになると、そこまでの切迫感もなくなった。 わざわざインスタント食品の世話になったり、弁当を買ってきたり、仕事帰りにどこかの店に立ち寄らなくても、定食代程度の金さえ出せば、温かくて美味いメシが出てくる。 それに、裕貴は生意気ではあるが、話し相手になってくれる。 これまで考えたことなどなかったが、部屋で一人でメシを食っていると寂しいのだ。そのことを自覚したのは、裕

  • SWEET×SWEET   -16-

    **** 珍しく目覚ましが鳴る前に目が覚めた啓太郎は、のろのろと出勤の準備をしながら、コーヒーを飲むため湯を沸かそうとする。しかし、コンロに手を伸ばしかけたところで動きを止めた。 普段はコーヒー一杯を飲むだけで朝は済ませるのだが、腹が減って仕方ないときは、常駐している会社の近くにあるコーヒーショップやファストフード店で朝食をとっている。  今日もそうしようかと思った啓太郎は、ここで大事な隣人のことを思い出した。 急いで身支度を整えると、アタッシェケースを抱えて部屋を出る。そして裕貴の部屋のインターホンを押した。 実は、朝から裕貴の部屋に寄るのは初めてだった。まだいまいち、裕貴

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