視線を逸らし、頑なに自分と向き合おうとしない実花の態度に、湊は苛立ちを隠しきれぬ様子で低い声を落とした。「お前はそんなに、あんな男に未練があるっていうのか?」「実花、中にいるのか?」その時、唐突にドアの向こうから和真の声が響いた。山崎との立ち話を終えた彼は、会場に実花の姿が見当たらないことに気づき、スタッフに尋ねてこのゲスト用更衣室までやって来たのだ。現在、ドアの前に立つ和真は、極度の興奮と高揚感に包まれていた。先ほどテラスのラウンジで、山崎が何気ない風を装って口にした、西区の海上貿易港に関する極秘プロジェクト。行政があのエリアの大規模再開発を計画していることまでは彼もうすうす感づいていたが、何しろ規模が大きすぎる。海浜市内のどんな企業であっても、単独で呑み込めるような代物ではない。だから和真は、いくつかのサブプロジェクトに分割されて発注されるのだろうと予測していた。しかし、予想は完全に裏切られた。あの巨大プロジェクトを、篠宮グループが丸ごと手中に収めたというのだ。山崎からその事実をほのめかされた瞬間、和真の呼吸は荒くなった。もしこの巨大な船に乗ることができれば、瀬戸家の資産は少なくとも三倍には跳ね上がる。だが、山崎は含みを持たせてこうも言った。共同参画するには天文学的な額の出資が必要であり、今の瀬戸家にはスタートラインに立つ資格すらない、と。とはいえ、瀬戸家は現在進めている買収劇の重要な局面に立たされている。この買収を成功させ、さらに瀬戸家の全財産をテーブルに積めば、なんとか一枚噛むことができるかもしれない。あるいは――高城家と手を組むか。和真の瞳に一瞬だけ微かな懸念が過ったが、それはすぐに狂気じみた野心に塗り潰された。ドアの向こうから、カサリ、と微かな衣擦れの音が漏れ聞こえてくる。その着替えの音を聞きながら、和真の胸中にはある種の全能感が膨れ上がっていた。あのプロジェクトさえ手に入れれば、実花は今よりもっと、僕から離れられなくなるはずだ。和真の声が響いた瞬間、室内にいた二人はぴたりと息を潜めた。実花はビクッと肩を震わせ、無意識のうちに呼吸を止める。ガチャリ、とドアノブが回される音がした。和真の声が、ドアを隔てたすぐそこから聞こえる。「実花、着替えに随分時間がかかっているね?中に入って手伝おうか?
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