青年の言葉に、紗月の頭は一瞬真っ白になった。 思わず足を止めてしまい、気づけば二人の間には少し距離ができている。慌てて彼の後を追いかけながら、紗月は戸惑ったように問いかけた。「どうして……私をご存じなんですか?」 確かに。 目の前の青年には、どこか不思議な既視感があった。 会ったことがあるような気がする。 けれど、紗月の知る人の中にも、記憶のどこを探しても、こんな人はいない。 これほど整った容姿の人なら、一度会えば忘れるはずがなかった。 しばらく考え込んだあと、紗月は恐る恐る付け加える。「私たち……どこかでお会いしたことがありますか?」 もし本当に会ったことがあるのに、自分だけ忘れていたのだとしたら、それはあまりにも失礼だと思った。 そんな苦悩と不安が入り混じった表情を見て、青年は小さく笑う。 気を悪くした様子はまったくない。もともと落ち着いた声質なのか、その話し方にはどこか淡々とした穏やかさがあった。 それでいて、その穏やかな声音には紗月を安心させる優しさがあり、彼女の不安を少し和らげてくれた。「僕は覚えています。でも、君が覚えていなくても無理はない」 そう言って少し間を置くと、彼はある映画のタイトルを口にした。 その作品名を耳にした瞬間、紗月は再び足を止める。 目をわずかに見開いた。 数年前、緊張のあまり何日も眠れなくなった、あのオーディションの記憶が一気によみがえる。 そして同時に、目の前の青年の名前も鮮やかに記憶の底から浮かび上がった。「……立花監督?」「覚えていてくれたみたいですね」 立花は相変わらず薄く微笑んだまま、紗月を見つめていた。 彼もまた、数年前のあのオーディションを思い出しているのだろう。 その口調はどこか昔を懐かしむように穏やかで、世間が想像するような有名監督らしい気負いや威圧感はまるでない。「当時の君の演技は、まだ荒削りでした。でも、僕が思い描いていた役のイメージには、一番近かったんです。それだけに、出演を辞退された時は少し残念でした」 そう語る声音もどこまでも穏やかで、まるで昔話でもするかのようだった。 おそらく、それが彼本来の性格なのだろう。 大胆で斬新な作品を次々と生み出す作風とは対照的に、本人は感情の起伏をあまり表へ出さない。「すみません……あのときは……」「責めている
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