まさか、あのときのひと跳びが、そのまま絃葉の心へと飛び込むことになるとは思ってもみなかった。それから二人は恋に落ち、大学卒業後は一緒に起業し、初めて稼いだ資金で、この決して広くはない、2LDKの小さなマンションを購入した。彼女は彼の実家が破産して借金を抱えていたことを、一度たりとも嫌がったことはない。苦しい生活を送っても、不満を口にしたことも一度もなかった。彼は何度も、自分のような人間が、こんなにも穏やかで思いやりがあり、心優しい女性を妻に迎えられたことを幸運に思っていた。彼女を手放したくない。一生を共に歩みたい。彼女こそ、自分にとって最高の妻なのだと、誰よりもよく分かっていた。「絃葉......会いたいよ......」凪杜は無意識につぶやき、寝返りを打ちながら絃葉の手をつかもうとした。だが手は空を切り、そのまま勢いよく冷たい床へ転げ落ち、意識は完全に闇へと沈んでいった。――翌朝。悠は絃葉をマンションの前まで送り届けた。「付き添おうか?本当に一人で大丈夫?」絃葉は気にも留めず笑った。「本当に大丈夫なんだから、信じて」悠は笑って彼女の肩を軽く叩く。「了解。私はショーの引率があるから、何かあったら電話して」そう言い残し、車で走り去っていった。絃葉は振り返り、薄暗い廊下へと足を踏み入れる。今日は相乗りで多磨城へ帰る約束だったが、出発直前になって、母が遺した日記帳が、このマンションの部屋の引き出しに眠ったままだったことを思い出した。それだけは、絶対に置いていけない。エレベーターが13階に到着し、絃葉は鍵でドアを開けた。カーテンは固く閉ざされ、部屋は風も通らない。扉を開けた瞬間、濃い酒の臭いが鼻をついた。中へ一歩踏み出したそのとき、不意に何かにつまずき、体が前へ投げ出される。「きゃっ!」床へ激しく倒れ込む鈍い音と悲鳴で、床に丸くなって眠っていた凪杜が目を覚ました。彼は勢いよく起き上がり、すぐに照明をつける。倒れていたのが絃葉だと分かった瞬間、一直線に駆け寄り、彼女を強く抱き締めた。「絃葉!やっぱりここにいたんだ!俺から離れないって信じてたよ!」絃葉は眉をひそめ、力いっぱい彼を突き放した。「......いったいどれだけ飲んだの?」凪杜の目はまだ虚ろ
続きを読む