絃葉は少し驚いたが、すぐに返信した。【いないよ。たぶん他人の空似でしょ】2階の一番奥にある個室では、景が食卓についていた。しかしどこか上の空で、何度もスマホへ視線を落としている。絃葉からの返信を見た彼は、胸をなで下ろした。やはり2階で一瞬見かけたあの後ろ姿は、彼女ではなかったのだ。優奈は頬杖をつきながら、ずっと彼の様子を眺めていた。やがてくすりと笑う。「景、ずっとスマホばかり見てる......お料理がお口に合わない?それとも......私じゃ足りないかしら?」景は我に返り、淡々と答えた。「いや。どっちも悪くありません」同じ個室にいた静代は、その言葉を聞いて意味ありげに微笑み、優奈へ視線を向ける。「ねえ、聞いた?うちの景が人を褒めるなんて、珍しいことなのよ」優奈の頬はたちまち赤く染まった。「母さん」だが景は容赦なく遮る。その口調はどこまでも平坦だった。「ただの社交辞令だ。変な勘違いはしないでくれ」静代の笑顔が一瞬固まる。すぐに苦笑しながら場を取り繕った。「この子ったら、本当に仕事一筋で、冗談の一つも言えないのよ」優奈も慌てて話を合わせる。「お気になさらないでください、静代さん。私も普段は仕事ばかりですから。景のお気持ちは分かります」景は優奈を一瞥し、静かに切り出した。「楠原さん、京城のあの土地は――」しかし言い終わる前に、静代が慌てて口を挟む。「景。せっかく優奈ちゃんと食事をしているのに、仕事の話なんてやめなさい。その件はまた今度でいいでしょう」景は静代を見て、小さくため息をついた。土地の話もできないのなら、この食事会で話すことなど何一つなかった。彼は箸を置いて立ち上がる。「ごちそうさまでした。まだ用事がありますので、お先に失礼します」そう言い残し、そのまま部屋を出て行った。「景!」静代は慌てて立ち上がる。「まだほとんど食べてないじゃない。せっかく優奈と一緒なのに......ねえ、景!」廊下まで追いかけた時には、そこにはもう誰の姿もなかった。静代は落胆したように視線を落とし、小さくため息をつくと、そのまま化粧室へ向かった。ちょうどその時、絃葉が中から出てくる。二人は思いがけず鉢合わせになり、同時に足を止めた。絃葉は
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