凪杜が野々花に向ける、際限のない優しさを、絃葉はすべて見ていた。彼という人間を骨の髄まで知り尽くしているからこそ、その優しさの裏には、どうしても拭いきれない不穏なものが潜んでいるように思えてならなかった。受けた仕打ちは必ずやり返す凪杜が、自分を裏切った野々花を、そう簡単に許すはずがない。ただ、彼が今どんな思惑で動いているのか、絃葉にはまだ見抜けなかった。とはいえ、二人はもう、誰よりもよく知る他人にすぎない。今さら彼が踏みとどまろうが、このまま奈落へ落ちようが、自分には関係のないことだ。二度と彼の人生に関わるつもりもなかった。絃葉と景は家に戻って荷物を置き、しばらくポコとペコをかまったあと、一緒に夕食を食べに出かけた。海城の寒さは日に日に厳しさを増していたが、街には年末らしい華やいだ空気が満ちていた。絃葉が身体の温まるお鍋を提案すると、景も異論はなく、二人は彼女が薦める、最近話題になったばかりの店へ車を走らせた。野々花のせいで感じていた不快感も、景が現れた瞬間、すっかり消え去っていた。絃葉は楽しそうに店の説明を始めた。「ここ、最近すごく人気なの。SNSでも布教してる人が多くて。この前、悠と来たんだけど、本当においしかった。特に牛もつとエビ団子が新鮮で、食感も最高だったの!」景がわずかに眉を寄せた。「布教?この店で何かの宗教活動でもしているのか?」絃葉は箸を宙に止め、呆れたように笑った。「......築山社長ともあろう人が、『布教する』の意味も知らないの?」自分が流行に乗り遅れているらしいと察した景は、さりげなくスマホを取り出し、すぐに意味を調べた。「悪かった。ネットで使われる新しい言葉には、あまり詳しくないんだ」それから真顔で付け加える。「これからはきちんと勉強して、時代に取り残されないようにする」「だね!」絃葉は笑顔でうなずき、牛もつを煮立ったスープへ入れた。「さっきはちょうどいいところに来てくれて助かった。あの三人にあれ以上嫌な思いをさせられていたら、夕食なんて喉を通らなかったと思う」景の目に笑みが浮かぶ。「何を言われた?」絃葉は頬杖をつき、先ほど野々花が口にした言葉を、身振りや声色までそっくりにまねてみせた。そのあまりに見事な物まねに景は笑い、思わず彼女の頭を
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