目を真っ赤にした絃葉が包丁を手に凪杜へ突進した瞬間、景の頭の中で大きな音が鳴り、思考が真っ白になった。彼女が感情を制御できなくなっていると即座に察し、駆け寄って強く抱き締めると、手から包丁をもぎ取った。そのまま絃葉を抱き上げて部屋の中へ連れ戻し、激しい音を立ててドアを閉める。外に残された凪杜も、明らかに呆然としていた。少しずつ理性を取り戻すと、自分が先ほど口にした言葉が、どれほどひどく最低なものだったのかをようやく理解した。かつて心のすべてを捧げてくれた女性を、どうしてあれほど侮辱できたのだろう。あんなことを口にするなど、人間のすることではなかった。顔中を腫らし、足を引きずる凪杜は、閉ざされた玄関までどうにか移動すると、強くドアを叩きながら必死に叫んだ。「すまなかった、絃葉!さっきの言葉は取り消す!さっきは感情的になってたんだ......あんなことを言うべきじゃなかった!ドアを開けてくれ、きちんと謝らせてくれ!」――景は絃葉をソファへ座らせ、すぐに包丁を見えない場所へしまった。念のため室内をひととおり確認し、ほかの刃物もすべて片づける。絃葉は真っ青な顔でソファに座り、一言も発さず、ただ声もなく涙を流し続けていた。そんな彼女の姿に胸を切り裂かれるような痛みを覚え、景が慰めようと口を開きかけた、そのときだった。ドアの外では、凪杜がしつこい蝿のように、なおも狂ったように叫び続けている。景は険しい顔でドアを開けた。「そこまで死にたいのなら、望みどおりにしてやるよ!」凪杜は腫れ上がった顔を押さえながら、みじめな姿で顔を上げた。胸元も血でひどく汚れている。「絃葉は......俺の女だ......!」景は即座に脚を振り上げ、凪杜を蹴り飛ばした。「今すぐ失せろ!」凪杜も今度ばかりは逆らわず、よろめきながらエレベーターの前まで後退すると、逃げるように立ち去った。景は、その姿が見えなくなるまで見つめ続けた。瞳には、さらに暗く険しい光が宿っている。拳を強く握り締め、しばらくかけてどうにか怒りを鎮めてから、家へ戻った。絃葉はまだソファの上で体を丸めていた。その表情は、魂を一瞬にして抜き取られたかのように虚ろだった。景の胸が、強く締めつけられる。バスルームからぬるま湯を持ってくると
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