All Chapters of 私を投獄した後、クズ夫は後悔に狂った: Chapter 191 - Chapter 200

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第191話

峻は振り返り、壇下の柊吾に目配せをした。柊吾も険しい顔で唇を引き結んでいたが、峻の意図を悟ると、すぐさま傍らに控える大柄なボディーガードに耳打ちした。ボディーガードは力強くうなずき、足早に会場を後にした。柊吾は内心でせせら笑った。警察が何だというんだ。相手はあの御堂峻だぞ。御堂家に喧嘩を売るとは、自ら破滅を招いているようなものだ。その動きを見逃さなかった若い刑事は眉をきりりとつり上げ、緊張した面持ちで圭吾に歩み寄り、その耳元に何かを伝えようとした。「警部……」しかし圭吾は片手を上げて彼を制した。そして小さく息を吐くと、一歩前へ出た。「御堂社長。あなたは隣の女性を無条件に信じ、たとえ彼女が何をしたとしても庇い立てするおつもりのようですね。ですが、我々はすでに確固たる証拠を掴んでいるんです。彼女が涼風清音本人であり、今回の二つの事件を裏で操った首謀者であると証明できるだけのものをね。だからこそ、私は今、ここに立っているんです」峻は目から火を噴きそうな勢いで圭吾を睨みつけた。もう我慢の限界が近づいていた。「夏目刑事!忘れたのか?四年前、清音は車にはねられたんだ。俺が駆けつけた時には全身血まみれで……最後は、この俺の腕の中で息を引き取ったんだ!清音はもう死んだ!それなのに、あんたたちはまだ死んだ彼女を追い詰めるつもりか!」峻は歯を食いしばり、叩きつけるように責め立てた。激しい興奮と怒りのあまり、その声はわずかに震えていた。傍らで聞いていた憲一と沙代も堪えきれず、涙ながらに圭吾へ詰め寄った。「この人でなし!なぜ娘をそっとしておいてやれないんだ!」「清音はあんなに惨たらしく、あまりにも哀れな死に方をしたのよ!全部、瀬戸夕凪、あの卑しい女のせいじゃない!あの冷酷非道な女こそ人殺しよ!捕まえるならあの女を捕まえなさい!どうして狂犬みたいに見境なく人に噛みつくのよ……!」二人は口々に罵声を浴びせ、圭吾を八つ裂きにせんばかりの凄まじい形相で飛びかかろうとしたが、圭吾に届く前に、若い警察官たちに取り押さえられた。圭吾は二人には取り合わず、峻を真っ直ぐに見据えたまま言葉を継いだ。「御堂社長。あなたは一度でも疑わなかったんですか?確かに、清音はあなたの目の前で息を引き取った。その後、悲しみのあまり倒れた憲一さんと沙代さんの処
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第192話

その頃、知らせを受けた憲一と沙代も病院へ駆けつけていた。白い布をかけられた清音の姿を見るなり、二人はショックのあまりその場で意識を失って倒れ込んだ。二人は清音の実の両親だ。清音が亡くなった今、自分が二人の面倒を見なければならない――そう固く心に誓った峻は、清音の遺体のそばを離れ、二人の救急処置に付き添ったのだ。医師たちの手当てにより、二人がようやく意識を取り戻した時、峻はやっと胸をなで下ろした。だが、目を覚ました二人は激しく取り乱し、病室の窓から身を投げて娘の後を追おうとまでした。峻は必死になって二人を引き止め、言葉を尽くして慰めた。そうしてようやく二人が落ち着きを取り戻したところで、彼は急いで遺体安置所へと戻った。だが、そこで峻を待っていたのは、到底受け入れがたい説明だった。同じ頃、その病院では清音と同年代の女性がもう一人亡くなっていた。清音を担当した医師は、二人の遺体識別タグと搬送書類が取り違えられ、清音の遺体はもう一方の遺族の手配によってすでに火葬場へ運び出されてしまったのだと釈明したのだ。峻は激怒した。すぐさま車を飛ばして火葬場へ急行したが、到着した時にはすべてが終わっていた。峻に手渡されたのは、これが清音の遺骨だと告げられた、ただの冷たい骨壷だけだった。四年間、峻はその一連の経緯に微塵も疑いを持ったことがなかった。だが、圭吾に指摘された今になって、あの日の不自然な出来事が次々と脳裏に浮かび上がり、一本の線として繋がり始めた。峻の顔色は険しく強張ったかと思えば、また血の気を失う。その瞳は次第に墨を流したように暗く沈み、全身も固くこわばっていった。「たとえ……清音が火葬されるところを俺が直接見ていなかったとしても……救命処置の間、俺はずっとそばにいたんだ。あの医者は本当に必死で助けようとしていた。それでも……」助からなかったのだ。「御堂社長。その時の担当医は、中島規久(なかじま のりひさ)。現在は涼崎市第一総合病院の外科部長を務めています。四年前のあの日、彼は救命救急センターの当直に入っていました。そして――中島医師こそが、涼風清音の共犯なんです」峻はハッと目を見開いたが、次の瞬間、その口元に冷ややかな嘲笑を浮かべた。「夏目刑事、涼風家はごく普通の会社員家庭だぞ。清音に、涼崎一の総合病院で外科
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第193話

圭吾はひと呼吸置いてから、冷え切った声で続けた。「あなたにとって、清音は汚れのない、純真で特別な存在だったのでしょう。ですが、実際の彼女は中島医師と十年来の関係を持つ愛人だった。あなたは彼女を愛していると言い続けていたそうですが、それでも清音は、あなたのような雲の上の人間が、自分のような一般家庭の女を本気で妻にするはずがないと考えていた。だから、あなたと中島医師の両方を手放さなかったんです。いざという時は、あなたではなく中島医師に頼るために……これもすべて、昨夜中島医師が自供したことです」警察官にとって、個人的な感情を交えることは禁物である。それでも圭吾は、言葉の端々に滲み出る怒りを抑えきれなかった。無実の夕凪が、目の前のこの冷酷で身勝手な男のせいで刑務所へ送られ、三年間も地獄のような苦しみを味わわされたのだ。そう思うたび、圭吾の胸に激しい義憤がこみ上げてきた。峻の体は大きく揺れ、よろめきながら二歩後ずさった。まるで雷に打たれたかのように、まっすぐ立っていることすらできなかった。完全に血の気を失ったその顔に、呆然とした色が広がっていく。峻の傍らで事態の急変を察知した、詩乃を名乗る清音は慌てて彼の腕にすがりつき、涙で潤んだ瞳で必死に訴えかけた。「しゅんちゃん、信じないで!私は白石詩乃よ、涼風清音じゃない!ねえ、お願い、私を信じて……!」峻は焦点の定まらない虚ろな目を彼女へ向け、うわごとのように呟いた。「だが……君は時々、清音と同じ言葉を口にした。同じ仕草もした。清音の魂が、君の体に憑依したと言って……」「そうよ、本当にそうなの!嘘じゃないわ!しゅんちゃん、お願い、信じて……!」清音は涙をこぼしながら、何度も必死にうなずいた。その茶番劇を見届けた圭吾は、峻へ冷ややかな視線を突き刺した。「御堂社長。御堂グループの次期総裁ともあろうお方が、魂の憑依だの異世界転移だの生まれ変わりだの、そんな三文芝居の作り話を本気で信じているんですか?」峻は落雷にでも打たれたように全身をこわばらせた。顔は死人のように青ざめ、見開かれた漆黒の瞳は虚ろで、ただ茫然とした色だけが浮かんでいた。清音は依然として峻の腕にすがりつき、泣きじゃくりながら助けを求め続けていた。その見え透いた芝居に、圭吾はついに耐えきれず、鋭い声で彼女の言
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第194話

ここに至り、会場にいた誰もがようやく事件の全貌を理解した。点と点がつながり、四年間隠されていた真実が、一つの線となって目の前に現れたのだ。峻はゆっくりと顔を横に向け、清音を見た。その顔には、今まで一度も見せたことのないほどの衝撃が浮かんでいた。目から光が消え、その長身がわずかに震え始める。瞳がきゅっと縮まった。血の気が引き、氷水を浴びせられたように全身が冷え切った。「君が……まさか……」低くかすれた声は、途切れ途切れになった。御堂グループのトップとして、峻はこれまで、たとえ空が落ちてくるような事態に直面しても顔色一つ変えず、内心にも波一つ立てない男だった。その峻が、今は初めて思考能力すら奪われ、ただ呆然と立ち尽くしていた。「なぜだ……どうして、こんなことに……」焦点の合わない目で清音を見つめ、まるで悪夢でも見ているかのようにつぶやいた。その一方で、憲一と沙代は、死んだはずの娘が生きていたと知って歓喜に打ち震えた。二人は清音のもとへ駆け寄り、泣きながら彼女を力強く抱きしめた。「清音……私たちの娘!生きていたんだな。よかった……本当によかった……」しかし、清音の顔はさらに青ざめた。激しい動揺を隠せないまま、すがりつく両親を必死に押し返す。「違う!私は涼風清音じゃない。白石詩乃よ!お願いだから、私を陥れないで!」そのやり取りを見ていた詩乃の両親が、ハッとしたように目を見開いた。「待ってください……その人が涼風清音なら、私たちの詩乃は、本当の娘はどこにいるんですか?」その問いに、会場の誰もが息をのんだ。そうだ。今ここにいる女が清音だというのなら、本物の白石詩乃は一体どこへ消えたのか。圭吾の表情がさらに険しくなった。強い意志を宿す瞳に激しい怒りを燃やし、歯を食いしばった。「本物の白石詩乃さんは……四年前、彼女の身代わりにされ、車にはねられて亡くなった……あの無実の被害者です」「いやああっ!」詩乃の母は悲鳴を上げ、そのまま棒のように倒れて意識を失った。詩乃の父は慌てて妻の体を抱きとめた。彼自身も足から力が抜け、今にも倒れそうになっていたが、それでも必死に歯を食いしばり、震える声を振り絞って叫んだ。「詩乃に……一体何があったんですか!これは……どういうことなんです!真相を、
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第195話

そういうことだったのか。あまりにも周到で、すべてが緻密に計算し尽くされた計画だった。それを仕組んだのが、一見するとか弱く、虫も殺せなさそうな女だったという事実に、誰もが底知れぬ恐ろしさを感じて震え上がった。峻は、真っ直ぐに清音を見据えたまま目を逸らさなかった。やがて、その顔から衝撃と動揺の色がスーッと引いていく。代わりに戻ってきたのは、彼本来の、あの背筋が凍るような冷徹な平静さだった。風一つない不気味な海面のように、そこには何の感情も浮かんでいない。その不気味な静けさを見た途端、清音の顔はさらに青ざめた。峻という男を誰よりも知り尽くしているつもりの彼女には、痛いほどわかっていた。一見静まり返った海ほど、その深淵にはすべてを飲み込む荒狂う渦が潜んでいるのだと。「……これをすべて、お前がやったのか?」氷のように冷えきった声だった。「違う……!」清音は反射的に首を振った。だが峻は、彼女の言い訳を最後まで聞こうとはしなかった。「お前が本当に清音なら、俺という人間をよくわかっているはずだ。俺が真実を突き止めようとした時、それを止められる人間などこの世にいない」低く穏やかな声で、噛み含めるように言い放った。その静かな威圧感に、場にいた誰もが息をのんだ。人混みの陰に身を潜めていた夕凪でさえ、無意識のうちに背筋に寒気が走るのを感じていた。清音は顔を真っ青にし、虚ろな目で峻を見つめたまま、たまらずその腕を放して、よろけるように一歩後ずさった。「私……私は……っ」それでも、峻の視線はどこまでも冷酷に、獲物を追いつめるように彼女を縛り付けた。ついに、清音の心は恐怖に耐えきれずに折れた。「そうよ……私がやったわ。全部、私がやったの!でも、しゅんちゃんを愛しすぎていたから……!私、しゅんちゃんを絶対に失いたくなかったの!」大粒の涙をぼろぼろとこぼし、清音は体を激しく震わせながら泣き叫んだ。その告白を耳にした瞬間。峻の漆黒の瞳の奥で、何かが完全に砕け散った。すでに圭吾から真相を聞かされていた。それでも、清音本人の口からその罪を認める言葉を聞かされた衝撃は、また全くの別物だった。全身から力が抜け落ち、峻の長身がその場で崩れ落ちそうに大きく揺らいだ。「……お前は、ずっと俺を騙していた
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第196話

突然真実を突きつけられ、退路を断たれた清音は、すでにすっかり理性を失っていた。圭吾を激しく睨みつけ、鼻で笑う。「あなたなんかに何がわかるっていうの?私の夫は御堂峻よ。御堂グループの次期総裁なのよ!しゅんちゃんにしてみれば、私を刑務所から出すことなんて造作もないことだわ。見ていなさい。私は一日たりとも刑務所なんかに入らない。だって、あの人は私を深く愛しているもの。私が少しでも苦しむようなこと、絶対に許すはずがないわ」その顔には、いつしか狂気じみた得意げな色が浮かび、その目には圭吾へのあからさまな軽蔑が宿っていた。「私が瀬戸夕凪みたいな卑しい女と同じだと思ってるの?あの女があんなに惨めで苦しい人生を送るのは、生まれながらにして卑しく、不幸な運命の女だからよ!だからしゅんちゃんは私を愛して、あの女を愛さなかった。しゅんちゃんがどれほどあの女を憎んでいたか、あなたにわかる?だからこそ、彼女を刑務所に送って、私の無念を晴らしてくれたのよ……」「黙れっ!!」突然響き渡った怒声に、清音はビクッと肩を跳ねさせた。振り返ると、峻の顔は夜叉のように恐ろしく歪み、充血した目が彼女を鋭く射抜いていた。両手は白くなるほど強く握りしめられ、今にも爆発しそうな感情を辛うじて抑え込んでいる。「よくも……よくもいけしゃあしゃあと、夕凪の名を口にできたな。お前は……」しかし、その名を呼んだ途端、峻の声は喉の奥で詰まり、途切れた。呼吸ができなくなり、胸が引き裂かれるように締めつけられる。夕凪……俺は、夕凪に濡れ衣を着せていたのだ。間違っていた。最初から最後まで、すべて間違い続けていたのだ。ろくに事情も調べず、夕凪を犯人だと決めつけ、この自分の手で、彼女を三年間も地獄のような刑務所へ送り込んだ。そのうえ、こんな女のために、夕凪と離婚までしてしまった。俺は……俺は夕凪に、なんて残酷なことをしてしまったんだ。なぜ、こんな取り返しのつかないことに……俺は……死んで詫びても足りない。峻の視線は虚ろに宙をさまよい、その長身が大きくぐらついた。足元から崩れ落ちていたのは、清音だけではなかったのだ。胸が痛い。全身が痛い。血肉の隅々から毛穴の一つ一つにまで、耐え難い痛みが走るようだった。息をするのもつらいほど、痛くてたまらなかった。俺
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第197話

四年前、御堂峻が自らの妻を刑務所へ送った事件は、涼崎中を騒然とさせた。当時、SNS上の世論は二分されていた。身内であっても法を重んじ、私情を挟まない姿勢を称賛する声がある一方で、妻に対するあまりの冷酷さを非難する声も多かった。だが今、ようやくすべての真相が白日の下にさらされた。清音は夕凪を罠にはめただけでなく、峻をも騙し、彼自身の手で最も残酷な決断を下させたのだ。峻は悟っていた。清音の言う当時の「証拠」とやらも、間違いなく彼女が意図的に自分の目に留まるよう仕組んだ罠だったのだと。清音が望んだのは、夕凪が最も愛する男の手によって刑務所へ送られるという、その無惨な光景を見届けることだったのだ。なんという計算高く、底知れぬ悪意に満ちた計画か。結局のところ、自分は清音が夕凪を社会的に葬るために使った、ただの「凶器」にすぎなかったのだ。「立て」圭吾は冷たく言い放ち、峻にしがみつく清音を強引に引き剥がした。ガチャッという冷たい金属音とともに、彼女の手首に手錠がかけられる。圭吾は容赦なく告げた。「話の続きは署で聞く」圭吾が清音を連行しようとした、まさにその時だった。「待て」峻の低く沈んだ声が、その背中を止めた。絶望のどん底に突き落とされていた清音の目に、再び一筋の希望が宿った。彼女は歓喜の涙を流しながら、峻へとすがりつくように身を乗り出した。「しゅんちゃん!私のこと、見捨てないって信じてたわ。あんなに私を愛してくれているんだもの。絶対に助けてくれるわよね……?」圭吾は不快げに眉をひそめた。ここまでおぞましい真相が明らかになっても、峻はまだこの女を庇うつもりなのか。しかし峻は、清音の前へゆっくりと歩み出ると、漆黒の暗い瞳で彼女をじっと見据えた。「昔、俺はお前に約束したはずだ。いつか夕凪と離婚する日が来れば、お前を妻に迎えると……それなのに、なぜお前はあんな残酷な手段で夕凪を傷つけた?」かつて御堂グループが深刻な窮地に立たされた時、峻はやむなく瀬戸グループの令嬢との政略結婚を受け入れた。その結婚に愛情など欠片もない。夕凪を愛したことなど一度もない。峻はずっと、そう固く信じてきた。幼い頃から夕凪は彼の後ろをついて回った。しつこくまとわりつかれるたびにうんざりし、心の底から彼女を忌み嫌っているのだと思い込
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第198話

清音は取り憑かれたように峻を見つめ、口元にはどこまでも苦い笑みを浮かべた。「あなたはいつも言っていたわね。夕凪のことが嫌いだって。子供の頃から一日中金魚のフンのように後ろをついて回るあの女が、煩わしくてたまらないって。でも、私と一緒にいる時でさえ、あなたは無意識のうちに、いつも私とあの女を比べていたのよ。一緒に食事に行けば、夕凪は辛いものが大好きだと言い出す。あんな刺激の強いものばかり食べるなんて、自分から命を縮めているようなものだと馬鹿にする。買い物に行って私が服を試着すれば、夕凪は赤い服が好きだと言い出す。本人は可愛いつもりだろうが、実際は野暮ったくて俗っぽく、センスの欠片もないとあざ笑うのよ」清音は言葉を切り、その苦笑いを冷笑へと変えた。「あなたは口を開けば、いつもいつも夕凪のことばかり話していた。たとえそれが悪口だったとしても、結局はあの女のことをずっと考えていたからでしょう?良いことでも悪いことでも、あなたの頭の中はあの女でいっぱいだった。それでもまだ言えるの?あなたが本当に愛していたのは、私?それとも夕凪だったの?」最後はほとんど絶叫に近かった。長年抑え込んできた苦痛と嫉妬、そして深い憎悪が、清音の美しい顔を醜く歪めていた。峻はまたも雷に打たれたかのように衝撃を受け、足元をふらつかせながら二歩後ずさった。顔は血の気を失って青ざめ、清音を見つめるその漆黒の目からは、いっさいの感情が抜け落ちている。やがて鋭く息を吸い込み、ようやく我に返ったように目を見開いた。茫然としていたその瞳に、今度は取り乱したような怒りが広がる。「でたらめを言うな!俺が……俺があいつを愛しているなど……そんなこと、あるはずがない……!」俺が、夕凪を愛しているなど、絶対にあり得るはずがない。幼い頃から、あれほど鬱陶しく、煩わしく思っていたのだ。二度と顔も見たくないほど心底嫌っていたはずなのに、どうして愛していたなどと言える。しかしそう否定しても、峻の体は激しく震え、吐き出す声までが不安定に揺れていた。懸命に言葉を続けようとしても、喉の奥が詰まって声にならない。清音は、もはや取り繕うのは無駄だと悟ったように、ゆっくりと目を閉じた。再び開いたその目には、隠しようのないどす黒い憎しみが宿っていた。「ずっとそばで見てきた私に
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第199話

「そこまでだ。残りの話は署で聞かせてもらう!」圭吾はもうこれ以上、この茶番に付き合うつもりはなかった。傍らの若い刑事に合図を送り、清音を連行してホテルの入り口に待機させてある警察車両へと向かった。「いやよ!娘から手を離しなさい!」「この悪党ども!勝手な真似をするな!娘を返せ!」憲一と沙代が半狂乱で叫びながら飛び出し、圭吾たちの行く手を立ち塞いだ。圭吾は不快げに眉をひそめ、冷静に警告した。「涼風清音には、金を払って殺人を依頼した疑いがかかっています。我々は捜査のため、彼女を涼崎署へ連行し、取り調べを行わなければならない。これ以上、公務執行を妨害しないでください」しかし二人は全く聞き入れず、あろうことかその場にへたり込んでわめき散らし始めた。「警察が人殺しをするわ!誰か見て!この腹黒い警察が、私たち老夫婦を殺そうとしているわ!」「清音が人殺しなわけがないだろう!どうせ瀬戸夕凪、あの卑しい女に金で買われたんだろうが!お前たちはあの女の飼い犬だ!それでも良心があるのか、人間の心が残っているのか!」圭吾の顔から、完全に温度が消え失せた。「涼風清音が殺人を依頼したという確固たる証拠はすでに揃っています。共犯の中島医師は、万が一に備えて清音との会話をすべて録音していた。事件に関する映像も複数残っているんです。どちらも、清音が主導して事件を起こしたことを裏付ける、揺るぎない証拠です!」それでも憲一は、到底信じられないような暴言を口走った。「たとえ娘が人を殺したとして、それがどうしたって言うんだ!清音が殺したいと思った相手なら、殺されて当然なんだ!そういう運命だったんだよ!あんな女が、うちの娘と比べられるものか!死んで当然だ!」目をひんむき、身勝手な憎しみで肉づきのよい顔を歪め、口元をひくつかせながらわめく憲一を前に、圭吾は怒りを通り越して言葉を失った。その瞬間、圭吾はようやく理解した。外から見れば優しく善良で、およそ汚れとは無縁に思えた清音が、なぜここまで残酷で冷血な人間になったのかを。まさに、この親にしてこの子あり、ということか。傍らに立つ峻も、圭吾と同じ結論に至ったようだった。その目はますます冷たく険しくなり、清音と憲一を氷のように見据えていた。一歩前へ出た峻が、重く響く声で言った。「そこまでおっしゃるのな
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第200話

夕凪は逃げ惑う人波に紛れ、ひっそりとホテルを後にした。帰り道、頭の中はひどくぼんやりとしたままで、歩く足取りもどこかおぼつかない。自分が今、喜んでいるのか、それとも悲しんでいるのか……自分自身でもわからなかった。ようやく無実が証明されたのだ。これからは、他の普通の人たちと同じように、潔白な人間として堂々と胸を張って生き、働き、暮らしていくことができる。それは本来なら、心から歓喜すべきことのはずだった。だが、人殺しの汚名を着せられてからのこの四年という歳月。夕凪はずっと、暗がりで息を潜める鼠のように、世間の冷たい目に怯え、光の当たる場所へ出ることさえ怖れて生きてきた。その長く暗い日々は、まるで永遠に覚めることのない悪夢のようだった。今、ようやくその悪夢から解放されたというのに、想像していたような晴れやかな喜びは湧いてこない。ただ胸の奥に、やりきれない深い痛みと疲労感だけが淀んでいた。夜の大通りを歩きながら、こらえきれなくなった涙が次々と溢れ出し、ポロポロと服の上に落ちていった。直人に借りたマンションの部屋に戻った頃には、すっかり夜も更けていた。広くはないが、まだ新しい2LDKの部屋だ。十五階の窓からは、星のようにまたたく涼崎の街の灯りが見渡せた。その夜、夕凪はなかなか寝つけなかった。深夜を過ぎてようやく浅い眠りに落ちても、忌まわしい悪夢が繰り返し押し寄せてくる。四年前のあの凄惨な事故現場で、路面に広がるおびただしい血を前にただ立ち尽くす自分。次の瞬間には、清音が悪魔の仮面をつけて目の前へ飛び出してきて、夕凪は魂が抜けるほどの恐怖に襲われる……結局、その日は一晩中まともに休むことはできなかった。翌日、夕凪が会社へ出社すると、オフィスの話題は昨夜のセンセーショナルな事件で持ちきりになっていた。あの御堂グループの次期総裁・御堂峻の華やかな婚約式が、あろうことか婚約者本人が警察に連行されるという前代未聞の結末を迎えたのだ。涼崎中が騒がないわけがない。四年前の交通事故の真相も再び大々的に取り上げられ、瀬戸グループの社長令嬢であった瀬戸夕凪が罠にはめられ、無実の罪で三年間も服役させられていたという残酷な事実を、今や世間の誰もが知ることとなった。ただ、マスコミも夕凪の現在の写真までは手に入れられなかったようで、ニュ
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