ついさっきまで、吸い込む空気さえ自由の味がすると喜んでいたのに。その余韻は、早くも司によって吹き飛ばされてしまった。配達員をいつまでも待たせるわけにもいかず、夕凪は仕方なく花束を受け取り、伝票に署名した。そばにいた女性社員が、面白くなさそうに唇を尖らせる。「なによ、普通のバラじゃない。品種だって珍しくないし。送り主、ずいぶんけちなのね。これで気持ちが伝わると思ってるのかしら」夕凪は心の中で苦笑した。負け惜しみに言い返しても仕方がない。花束に挟まれていたカードを何気なく取り出す。司のことだから、目を覆いたくなるような甘い言葉でも書いてあるのだろう。あの悪びれない笑顔を思い浮かべながらカードを開くと、そこにあったのは短い一文だけだった。【夕凪、窓の外を見て】夕凪が目を見張る。カードをのぞき込んでいた同僚たちも一斉に窓へ顔を向けた。次の瞬間、オフィス中に悲鳴に似た歓声が響いた。「嘘……なに、あれ!」空には、すでに数えきれないほどのドローンが浮かんでいた。一万機を超える機体が少しずつ位置を変え、やがて巨大な一輪のバラを描き出す。「前に一万機のショーを見たことがあるけど、絶対にあれより多い!すごい……本当にきれい!こんなの、いくらかかるの?桁が違いすぎるでしょ。とんでもないお金持ちじゃない!」真昼の空でありながら、輪郭は驚くほど鮮明だった。機体に取り付けられた色彩パネルが陽光を反射し、夜のショーよりも鮮やかで、目を射るほどまばゆく輝いている。バラはほどけるように形を変え、次々と新しい模様を作った。窓辺へ駆け寄った同僚が、また声を上げる。向かいのビルでは、どの階の窓にも人影が集まり、通りでも店先でも、大勢の人が飛び出して空を見上げていた。まるで街中の人々が、この突然のショーに沸き立っているようだった。最後に機体が大きく広がり、空に文字を浮かび上がらせた。【瀬戸夕凪、俺と結婚してくれ】夕凪は声を失った。目の前がくらみ、そのまま気を失いそうになった。誰の仕業かなど、考えるまでもない。司は、どうして何をするにもここまで派手なのだろう。それに、求婚するにしても早すぎる。私は昨日離婚したばかりだ。結婚という檻からようやく出られたのだから、せめてしばらくは一人でいる自由を味わわせ
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