夕凪は、胸の奥で張り詰めていた息をそっと吐き出した。誰よりも自分を可愛がってくれた静江の声を、聞き間違えるはずがない。ただ、峻の番号から静江の声が聞こえてきたせいで、一瞬だけ状況が飲み込めなかったのだ。「おばあさま、どうしてその番号で……」夕凪の声は、そこで途切れた。すぐに思い当たった。峻は今、静江のすぐそばにいるのだ。案の定、静江は待ちきれない様子でまくし立てた。「もう、峻があんたを見つけたって言うじゃないか。私がどれだけ心配していたか、あんたには分からないだろうね。だからつい、峻のスマホを借りてかけてしまったんだよ。どうしても声が聞きたくてね」夕凪はすぐに返事ができなかった。静江にどう向き合えばいいのか、まだ心の準備ができていなかった。この二ヶ月間、なぜ姿を消していたのか。峻との離婚の手続きを進めていることを、どう話せばいいのか。頭の中が千々に乱れ、言葉がまとまらない。その時、電話の向こうで、男の低い声が割り込んだ。「おばあさま、電話では話しきれません。来週、会った時にゆっくり話せばいいでしょう」来週、会う?いったい何の話だというのか。夕凪の胸が、嫌な予感に大きく跳ねた。静江の声が、すぐに明るくなる。「そうだね。来週会ってから、ゆっくり話せばいい。夕凪や、来週の火曜日は私の誕生日だよ。帰ってきてくれるね?」夕凪は、スマホを握る指先にぎゅっと力を込めた。毎年、静江の誕生日には御堂家で盛大なパーティーが開かれる。涼崎市の上流階級や財界で名の通った者たちが、こぞって家族連れで顔を出す。静江の誕生日を祝う席であると同時に、御堂グループが各方面とのつながりを保つための、重要な社交の場でもあった。三年前、夕凪が刑務所に入る前は、毎年峻に付き添ってそのパーティーに出ていた。峻はいつも彼女に冷たかった。夕凪が彼の腕に手を添え、円満な夫婦を装って会場へ入る。だが、その役目が終われば、峻はすぐに彼女を置き去りにして、来客への挨拶に向かってしまうのだ。今でも覚えている。うっかり彼の手に触れてしまったときの、骨の髄まで凍りつくような冷たい温度を。「夕凪、どうしたの。聞いているの?」静江の声に引き戻され、夕凪はハッと息を呑んだ。気づけば、自分の体まですっかり冷え切っていた。「ゴホッ……おば
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