峻が鋭く叱りつけた。「動くな。その腕、使い物にならなくなってもいいのか」夕凪はもがいた拍子に傷口をえぐってしまい、激痛で意識が遠のきかけた。峻は夕凪を横抱きにしたまま、駐車場へ向かって大股で歩き出した。刑務所に入ってから今日に至るまで、夕凪が峻とここまで密着するのは初めてのことだった。夕凪はできるだけ峻の体から離れようとした。けれど、腕の中に抱え込まれている以上、逃げようがない。薄いシャツ越しに、峻の高い体温が伝わってくる。その熱が肌に押し当てられ、じわりと内部まで染み込んでくるようだった。耳元では、峻の心音がいやに速く、大きく響いていた。あの氷のように冷酷な男とは思えないほど、乱れている。峻は、焦っているのだろうか。それとも、恐れているのだろうか。いったい何を恐れるというのだ。自分が死ぬことか?それとも腕が駄目になることか?そんなはずがない。自分がどうなろうと、峻には痛くも痒くもないはずだ。峻が心底大切にしているのは清音だけで、彼を焦らせ、怯えさせるのは清音に関することだけだったはずではないか。峻は助手席のドアを開け、腕の中の夕凪を慎重にシートへ座らせた。だがその時、峻はふと後部座席に目を向けた。司が、我が物顔ですでにそこへ乗り込んでいた。峻の顔が一気に険しくなった。振り返り、苛立ちを隠すように金縁の眼鏡を押し上げる。「言ったはずだぞ。夕凪は俺の妻だ。病院へは俺が連れて行く。お前がついてくる必要はどこにもない」司は悪びれもせずに口元を歪めた。「夕凪はあんたの妻かもしれないが、うちの従業員でもある。従業員が怪我をしたんだ。雇い主が病院まで付き添うのは当然だろう。うちは従業員向けの傷害保険にも入っている。俺が手続きしないと、後々治療費やら入院費の処理が面倒になるんだよ」峻の顔色がさらにどす黒くなった。「必要ない。治療費くらい俺が全額払う」司は即座に言い返した。「あんたが払えることくらい知ってるさ。だが、本来払わなくていい金を払う必要はないだろう。使える保険があるのに、わざわざ損を被る意味が分からないな」夕凪は呆れて言葉を失った。出血のせいで頭がくらくらする。傷が痛くてたまらないというのに、この二人の男はこんな状況でまだくだらないマウントを取り合っている。もう峻の車に乗せ
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